キャンプに行きたいな
今日7月23日は俺の居候先の娘で、俺の彼女な神尾観鈴の誕生日だ。ついでを言うと俺が長年、それこそ先祖代々から探していた空の少女でもあるわけだが…。まあその辺の話は話せば2日3日とかかるので端折るが、要は観鈴は元通りの健康体になって、俺や晴子の世話に明け暮れていると言うわけだ。晴子は晴子で今までの酒に溺れた生活からは身を引いて今は保育士として働いている。ちなみに俺の職場もその保育所と言うわけだ。まあ何が悲しゅうてガキの面倒を見らにゃならんのだ? とは思っていたが、最近はその考えを改めさせてもらった。ぷにぷにした赤い頬が意外に可愛らしく、また生意気なことを言っていてもどどのつまりに俺や晴子のそばにやって来てはぶるぶる震えている姿を見るわけで。まあそんなこんなで夏休みに入って間無し…、彼女の誕生日を迎えた今年。観鈴は何やら計画を立てているようであれやこれや下調べと言うことで町の小川の上流部に半ば強制的に俺を伴なって連れて行ってたっけか? まあこんな寂れた田舎の川の上流部になんてそれこそ山しかないわけだ。
「ここ、気持ちがいいよね? 往人さん」
と小高い丘の清水の沸いている少し開けた場所であちこち見遣っていた観鈴が言う。俺は単簡に“ああ、そうだな?” と言った。そんな態度の俺にちょっと機嫌を損ねたのか、“往人さん!!” と少々怒気を含んだ声で俺の名前を呼ぶ。呼ばれたほうに振り向くと案の定ぷぅ〜っと頬を膨らませた観鈴がいる。途端に何だか怖くなって、謝る俺。前に観鈴を怒らせて1週間ばかり口を聞いてもらえなかったことがある。まあそれだけならまだしも食生活がもう観鈴に依存しているせいか、怒らせた日の夕食から梅干しの種1個と言う何て言う拷問だ? と言う拷問みたいなことをさせられていたので、変に逆らって痛い目を見るより謝るほうが賢明だろうと思ったので謝ることにした。ふふん♪ と言わんばかりな顔の観鈴には少々腹も立ったが、俺の命の次に大切な飯がかかっているんだ。飯のためなら土下座でも何でもしてやる。そう思った。
「で? 何で俺はお前とこんな山の中腹まで連れて来さされてるんだ?」
と当初の疑問点を聞いてみたところが、“キャンプがしたいなって思って…” と、上目遣いに俺を見つつこんなことを言う観鈴。一瞬アホな顔になる俺。“すまん、俺の聞き間違いだったかも知れんからもう一度復唱してくれ…” と言うところが、さっきと同じことを言いやがった。こんなところで?! と言うと、うんと至極当然のように頷いてくる。“往人さん、前に何でもしてくれるって…” と言ったような言わなかったような約束を盾に駄々をこね始める観鈴。当然言うことを聞かない場合は、今後の俺の食生活はかなり荒んだものになるのは分かってはいるんだが何もこんなところでキャンプを張らんでもいいだろうに…。もっと下のほうにキャンプに適した場所があったんだからそこに張るのも悪くはないだろう? と思ってふっと横を見ると何故か涙目の上目遣いでじ〜っとどこぞのお嬢様のように俺の顔を見つめていらっしゃる。“往人さんがわたしの相手をしてくれない〜ってお母さんや霧島先生やみちるちゃんに言う! 佳乃ちゃんや遠野さんにも言う!!” ぷぅ〜っと頬を膨らませながらそんなことをのたまう観鈴。当然顔を見ると涙でくしゃくしゃだ。そんな顔を見ているとなぜだか俺が悪いと言う錯覚に陥ってしまうわけで…。要は魔法にでもかけられたように謝ってしまう。今回もその観鈴の陽動にまんまと乗せられた形となってしまい、“だぁ〜っ! もう!! 俺が悪かった!” とぺこぺこ謝る俺。観鈴はと言うと、“観鈴ちん、勝った。ぶいっ。グスッ…” とまだ涙声だが、顔は元の笑顔に変わっていた。
「何や、居候。その顔は? ウチらがおったらそんなに嫌なんか? まさかあんた、ウチらをおかずにしようとか思うとるんとちゃうやろな? いややわ〜。不潔やわ〜っ! ヒック…」
「神尾さんの言うことは一時置いておいてだな。観鈴さんとも恋仲だと聞いている手前、その上佳乃をキミのような輩の手籠めになんてことはあってはならんことだからな? それに遠野さんのお母上からも遠野さん姉妹を任される身としては、もしもの場合があってはならん…」
とそんなこんなで今日、観鈴の誕生日を迎える。最後まであの涙目に勝てなかった俺は、テント張りやら今夜の食材であろう川魚なんかを釣らされているわけで。でかい鱒を2匹ぐらい釣ってどことなしか膨れている観鈴に手渡した。まあこれで晩飯はうまいもんが食えるだろう。まあ釣り自体は旅の途中で何回かやったことはあるし、竿を貸してくれた川釣りのじいさんから“あんた、なかなかいい腕じゃの?” と言われて一夜の宿を借りたこともあるのだがな?…。もっともこんなうるさい連中とくるようなところではなくもっと山深い里での話なんだが…。今はそれ、外野がうるさいわけだ。こんなところででかい鱒を2匹も釣れたこと自体奇跡に等しいんじゃないか? と思う。現にこうやって凶悪そうな女が2人、こっちをギロリと睨みつけながらそんなことをぶつぶつ言っているわけだしな? 晴子はもう出来上がっているのか1人で盛り上がっていた。果てに俺の普段の生活やら何やらを暴露して回り(実際ありもしない捏造もいいところなんだが…)、聖は聖で愛用のメスを持ってふふふふふっと不気味な笑みを浮かべている。いや晴子の中の俺のイメージはどんななんだ? と思った。“観鈴、何とか言ってやってくれ” と思い観鈴のほうに目配せする。が、まだ怒っているのかぷぅ〜っと頬を膨らませている。横では佳乃が観鈴と同じような顔で俺のほうを上目遣いに睨んでいた。唯一(と言っていいのかどうかは分からんが)遠野だけはいつも通りなボケボケした顔で俺とこの呑んだくれな母親と暴力町医者のコントじみたやり取りを見つめていたことは言う間でもない。そういやみちるはどうした? と遠野に聞くと、
「国崎さんを倒すために特訓中だそうです。がっかり…」
何だか聞いてはいけないことを聞いたような感じがする。と、今までぷぅ〜っと頬を膨らませていた観鈴が立ち上がりこっちへ来るではないか? 何気に俺の体を見ると晴子の柔らかい部分が当たっていた。これは不可抗力であってだな? とややも怯えている俺の横、いい気になってちょっかいかけている晴子に向かって…。“お母さん! 往人さんはわたしの彼氏!! わたしの彼氏にちょっかいかけるお母さんなんて嫌いっ!!” と言って俺の手を取って観鈴たちのほうへ歩き出す。佳乃も“そうだそうだ〜っ!!” と言いながらちょっと拗ねた表情で聖のほうを見つめていた。“ちょっと待ってぇ〜な?(待ってくれ〜?)” と言う2人の声がユニゾンして聞こえてくる。ふっと後ろを振り返ると今までの陽気な顔から一転、しくしく泣き出す晴子と聖が異様に怖かったことは言う間でもない。そんな今日7月23日は、俺の彼女で居候先の娘、神尾観鈴の誕生日だ。
END
おまけ
後、観鈴たちと夜遅くまで話していたんだが、あっちのほうは通夜か葬式のようになっていたことは言うまでもなく。キャンプから帰って来てから観鈴のいないところで小間遣いのように俺に無理難題を言う晴子と、人形劇をやっていた場所代を今頃になって請求する聖にちょっとばかり怒りが沸いたことも言う間でもない事実だ。しかしよくよく考えてみるとそもそもの原因は俺かと思うと、否応なく反省せざるを得ないわけで…。傍若無人な感じではあるが、にやついていた俺にも責任の一端はあるんだよな? と自分の不甲斐なさを痛感する今日この頃である。
TRUE END?