とある1月3日の女医の行動
忙しい。とにかく忙しい。三元日の3日目のなのだが私は忙しく働いている。まあそれは私が医者であるのだから仕方がないと言えば仕方がないのだが…。昨今の医療の現場を察するに、この私のような町医者は少なくなりつつあるのも現実の問題だがそれ以前に患者の質のほうも下がってきているのも現実問題言えることだと思うわけだ。この間も施設を宿泊所と勘違いしている男が一人のこのこやって来て、“泊めてくれ” などと言ってきたものだから困った。他にも犬や猫を持ち込んできて、“医者だから治してくれ” と言う無神経な輩もいる。もっともそんな患者と言うか“客”は通りがかりに立ち寄る場合が一般的であるので、丁重にお断りをしているわけだが…。
午前・午後とも患者が訪れるので、商売のほうは一応ではあるが儲かっているのだが、最愛の妹・佳乃の面倒を見て遣れんところが一番の厄介なところか…。まあ妹は幸い友達のほうも多いので医者の身である私としては助かっている。それに今年は…。
「はぁ〜、わしゃ耳が遠いんでの…。も少し大きな声で言って下されや…」
「だ〜か〜ら〜っ!! これが湿布薬で、こっちが飲み薬だっ!!」
併設している薬局から大きな声を張り上げて老爺に処方箋を渡している彼が居候としていてくれているため私も妹も非常に助かっていると言うかそう言う感じだ。彼は元旅芸人と言う少し変わった遍歴の持ち主で、最初は神尾さんの家に厄介になっていたのだが、どう言う因果か現在うちに居候している。これは私の推測でしかないのだが、神尾さんと一悶着あったのだろうな? 彼女の酒癖の悪さはこの町内で知らないものはいないのだから、きっと彼もその犠牲となったのだろう。いつぞやかどこかの会合で私もご一緒したことがあったのだが、彼女の酒癖の悪さの辟易しながら帰ってきたことがある。それくらいの悪さなのだがらアルコールはなるべく止めるようにと定期健診のときに何度も言っているわけだが、聞いてくれたのは今までに1、2度くらいが関の山だ。まあ肝臓はものすごく強いのか昨年6月の検診のときの血液検査でも全く異常は見られなかった。
ふと待合室の方向を見ると患者のほうも大分ばらけてきたみたいだ。今日はこれで終わりか…。時計を見ると午後6時前、もうそろそろ終わりだな? そう思いつつ、患者を診ていく。今日最後の患者を診て薬を処方し、今日の業務は終わりとなる。表では居候の彼と妹がポテトの散歩だろうか待ち合わせている様子が窓ガラスの向こう、映し出されていた。さてと、私は夕飯の準備でもしておくか…。そう思いまた見遣ると、こっちのほうを見て来い来いと言うような手つきをしている彼が見える。全く、家主に対してあの態度はどうしたものか…。そう思いながらため息を吐きつつ窓を開けて顔だけ出す私にこう言ってくる彼。
「散歩がてらちょっと付き合ってほしいところがあるんだけどな?」
「それはいいんだがこんな夜遅くにどこに連れて行く気だ?」
もしや人気のない場所に連れ込んでいかがわしい行為をする気ではあるまいな? 愛用で護身用のメスを取り出して怪しく微笑むと、“あんたにそんな行為を出来るやつがいたら逆に見てみたい” などと失礼なことを言う彼。私も女なのだぞ? とは思うが彼の言うことももっともだと思った。護身用にメスを持つ医者なんて私くらいなものだろう。そう思い、“で? どこへ連れて行く気だ?” 話を進めてみる。“とってもいいところだよぉ〜。だからお姉ちゃん、早く用意してきて〜?” とにこにこ顔の妹が言う。少々はてな顔になりながらいつもの白衣を脱ぎ、普段着の“通天閣Tシャツ”の長袖バージョンと上着を羽織りジーパンと言う格好で出てくる。“相変わらず色気のない格好だな?” 私が出てきた途端にこう言う彼。むぐぐぐっとは思ったが私自身ファッションセンスの欠片もないのは分かっているので、文句も言えずついて行くことにする。5、6分歩くとどうやら目的地が見えてきたようだ。ピンポーンと呼鈴を押すと…。
「お料理頑張っちゃいました。えっへん…。でも神尾さんやみちるに手伝ってもらっちゃったので、私は今回ちょっとです。がっくり…」
「でも遠野さん、てきぱきさん…。観鈴ちんも見習わなくっちゃ。にはは…」
「お姉ちゃんもかみやんもすごかったねぇ〜。でもあの豪華なお料理が国崎往人なんかに食べられるかと思うとお料理が可哀想に見えてくるよ〜」
“お前は黙れっ!!” そう言うと往人くんがみちるちゃんにいつものようにげんこつをしていた。わいわいと賑やかしいなぎーの家。そんな家の中を見渡してあたしのお姉ちゃんは、“何かのお祭りか何かか?” なんて言うなぎーみたいなボケをかましてくるわけ。“今日は何月何日?” ってあたしが言うと、しばらくう〜んって考えてたお姉ちゃんがハッと気付いたみたいに、“私の誕生日だった…” って言って失意前屈型みたいに手をついてた。まあここ最近は忙しかったもんねぇ〜? 覚えてないのも分かる気がするよ〜。そう思いながら、
「お姉ちゃん、お誕生日おめでとう」
って後ろ手に隠してたプレゼントを差し出して言うあたし。ちなみにこのプレゼントは先月の30日になぎーとみちるちゃんと観鈴ちんに付き合ってもらって買ったもの。ほんとは往人くんにもついてきてほしかったんだけど、お姉ちゃんのお手伝いしてる姿を見てると気が引けちゃった。でもでもせっかく買ってきたものにケチをつけてくる往人くんにちょっとぷぅ〜ってなっちゃって、いつものように観鈴ちんに怒られちゃう往人くんがいたんだけどね?
「ありがとう、佳乃。それに観鈴ちゃんに遠野さん。みちるちゃんもありがとう。おまけに国崎くんも…」
ちょっと涙目になりつつもにっこり微笑んでこう言うお姉ちゃん。って、最後のほうがちょっと聞こえなかったけどまあいいかなぁ〜? 奥のほうから観鈴ちんのお母さんとなぎーのお母さんの楽しそうな笑い声が聞こえている今日1月3日はあたしの大好きなお姉ちゃんのお誕生日だったんだよぉ〜。えへへっ。
END