ハンバーグを作りましょう


「んに〜? お姉ちゃんハンバーグ作ってるの? みちるにも手伝わせて〜」
「じゃあ、お願いしようかな?…」
 春の麗らかな日、私の異母妹のみちるは今、ひき肉と格闘中だ。お母さんは嬉しそうに私とみちるを眺めながら、春色の洋服をたたんでいた。私の家族はいったんばらばらになった。お母さんが妹を身篭り出産予定も間近な頃に…。それからだ。私のことを“みちる”と呼ぶようになったのは…。お父さんとお母さんは私のことで言い争うようになって…、結局お父さんは家を出て行った。私はお母さんと残った。お父さんが家を出て行くときにくれた星の砂は、今私の隣で奮闘中の義妹のポケットの中。
「だいぶん捏ねたよ? お姉ちゃん」
「うん、じゃあ炒めたタマネギを入れちゃいましょう…。あとパン粉も一緒に…」
 さっき飴色になるまで炒めておいたタマネギをパン粉と一緒に入れてまた捏ねる。義妹の顔を見るとにこにこしながら捏ねている。私もその顔を見てにっこり微笑む。ここまでの時間30分。後は形を整えて焼くだけだ。空気を抜くように手のひらで軽くキャッチボールをするようにハンバーグを捏ねる。義妹もやってみたそうだったので、“こうするのよ?” と教えてあげた。ぎこちなく、でもしっかりとやっている義妹を見ていると何だか嬉しくなった。フライパンに油を敷き、油が十分熱したところでさっき捏ねて丸めておいたハンバーグを投入。じゅっといい音がする。
「もうすぐだね? みちる、お弁当箱持ってくる〜」
 言うが早いかみちるは向こうの棚のお弁当箱を取りに行ってしまった。そう言えば昔、私もお母さんのお手伝いをいっぱいしてたっけ…。義妹の姿を昔の自分に重ね合わせた。やがていい匂いがしてくる。片面をひっくり返すと焦げ目もいい具合だ。じゅうじゅうとお肉の焼ける音。義妹が三段重ねのお弁当箱を持ってくる。いつもお弁当はそれに詰めている。
「焼いてる間におむすびでも作ろっか?」
 私がそう言うと義妹はうんと頷いた。梅干し、おかか、塩昆布…。ご飯の中に入れて握る。義妹を見るとぎこちない手つきで、でも楽しそうに握っている。私はにっこり微笑んだ。時間を見る。もうそろそろいい頃居合いだろう。そう思い蒸し焼きにしておいたハンバーグの入ったフライパンのふたを開けると美味しそうな匂いが辺りに充満した。味見用に少し小さいものを作っておいたのでそれを二つに割って異母妹に、“味見しましょ?” と目の前に小さなハンバーグの乗った小さなお皿を持ってくる。
「んにゅ〜? どっちが大きいかなぁ〜?」
 真剣な眼差しでハンバーグとにらめっこしている異母妹に私はうふふと微笑んで、置いてあったお箸で私のハンバーグを半分に切って異母妹のほうに寄せてやった。びっくり顔の異母妹は“えっ? いいの? お姉ちゃん” と言う。うん、とにっこり笑顔で言うと嬉しそうな顔をもっと嬉しそうにして幸せそうに食べる異母妹。その顔は空に帰って行った一人の少女と同じ顔だった…。


「じゃあお母さん、行ってきます」
「はい、いってらっしゃい。美凪。みちるちゃんもね?」
「うん。行ってくるね? おばさん」
 お母さんはにっこり微笑んで私たちを見送ってくれた。暖かな春の道を歩く。途中で寄ったいつものお店でいつものしゃぼん玉セットを買う。小川もきらきら輝いてきれい…。夏になったら蛍でも見に行きましょう…。そう思いながら歩く。やがて目的地が見えてくる。廃駅舎…。うれしい記憶と悲しい記憶とが交じり合った場所…。ううん…と首を横に振る。ここは私とここにいる異母妹と同じ名前のもう一人の少女とであった思い出の場所…。そして……。
「と、遠野はまだか…。腹が減って動けん…」
 私の愛する人の待っている場所…。だから私はそ〜っと近づいてこう言うの…。
「今日も来ちゃった……」
 って……。

END