俺の彼女がアグレッシブすぎる


 今日12月22日は、俺のまあ何と言うか、彼女な遠野の誕生日だ。いったん出たこの町に戻ってきてから1年か2年くらいは経ってるんだろうか? その辺の記憶は非常に曖昧なんだが…。俺は旅から旅へと渡っていたいわゆる“風来坊” だったわけなのだが、それももう止めて今住んでいる町に定住することにした。これは俺の目標と言うか先祖代々からの探し人と言うか、そう言うやつがこの町に住んでいたからだと思う。まあそいつとは最初のうちこそ厄介になっていたのだが、あまり厄介になるのもどうかと思って家を出て彼女の遠野の周旋で今は廃駅舎に住んでいる。まあ最初の家の家主の娘で俺が探していた空の少女・観鈴とは今でも何かと厄介になりっ放しだし、霧島医院の姉妹、聖と佳乃にも何やらかやらで世話になっている俺ではあるのだが、一番世話になっているのはやっぱり遠野なのかも知れない。
 その遠野なのだが、最近(と言うか俺がこの町に戻って来たときからか?)妙に嫉妬深くなってきた。例えば俺が少しでも佳乃や観鈴と話をしているところを見つけると、走ってやって来て俺の服の裾を掴んでぷぅ〜っと俺にだけ分かるように膨れた顔をする。その後2人だけになったらいつもの癒し声でぶつぶつ文句を言ってくるわけで…。“誰に話しかけたっていいだろ?” と言うと、ふるふるふる! とどこぞのお嬢様のように激しく首を横に振って、“私から目を離しちゃイヤです…” と少々涙目になりながら言ってくるわけで…。まあ女の嫉妬ほど怖くもありまた可愛くもあるものはないんだが、遠野のそれは前者のほうなのか? と最近になって思い出した。まあ涙目になるって言うところまでは後者のほうに分類されるわけだが、そこからが以前の遠野とは一線を画したことになるわけで。と言うか癒し声のままで、“臓物をブチまけろっ!!” などと言ってフォークを手に追いかけてきたりは以前の俺の知ってる遠野にはなかった行動なわけだ。本人曰く、“いつまでも後ろを向いてたらダメだと思って…” と言うことらしい。まあ今まで物静かすぎるので、もう少し行動的になったほうがいいとは思っていた俺ではあるのだが、ここまで変わらんでも…とも思う。百歩譲ってアグレッシブなのはいいことなんだが、あまりに突拍子のないことをやると俺のほうが面喰ってしまうわけで…。と言うか今現在追いかけ回されている身には非常に痛切にそう言うことを感じてしまうわけだ。
 と、こうしているうちにも人影が近づいてくる。現在の俺の位置はさびれた神社の裏手だ。何で追い掛け回されているのかだが、深い意味があるわけで…。と言うのも今日の誕生日のことで観鈴と相談しているところを運悪く見つかってしまってこうやって逃げてきた。それももう終わりだろう。そう思いながら辺りの様子を窺う。観鈴や佳乃とは以前から話はしていて具体的な日程なんかも決めておまけのサプライズなんかも決まっていて後の大まかなことを決めていた最中だったので、まあ後は聖や晴子や遠野の母親がうまくやってくれることだろう。問題は俺の今現在における生存確率なわけだ。相手はあの遠野。何をしてくるか分からん。ここで俺の選択肢は2つに分かれる。1つはこのまま逃げ続けて時間が来るのを待つか、もう1つは少々危険だが、出て行って遠野を抱きしめてぽっとなったところで武装解除させるか…。俺の経験上、あれでいてなかなかに運動神経のいい遠野のことだから逃げ仰せることはまず不可能に近い。この間もちょっと佳乃と立ち話をしているところへ音もなげに近づいてきて、ギュッと手に自分の体を押し付けてきて、上目遣いに頬をちょっと膨らましつつ見つめてきていたっけか。その後で何回も佳乃との話を根掘り葉掘り訊ねてくるもんだから参ってしまったわけだ。そんなこんなで逃げても無駄だと言うことは分かるので今回はちょっと攻勢に出てみようと思い、バッと飛び出て相手の確認もせずに抱きしめる俺。“わぷっ!” と言う声も聞こえてきて…。ってちょっと待て? 遠野にしてはやけに体が小さいし、あの何で言うか出っ張ったところのボリューム感もない。それにこのぐぐぐぐ〜っと睨むような視線は?…。一気に顔が青ざめて寒いのに汗が滴る。そ〜っと抱きしめていた体を離し眼を開けて相手を見てみると…。凶悪そうに笑う空に帰って行った少女と同じような顔の少女がぐぐぐ〜っと俺の顔を睨んでこう叫ぶ。
「お姉ちゃーん!! 変態誘拐魔の国崎往人に犯されるぅ〜〜っ!!」
 と…。って、いいっ?! ち、近くにいるのか? と思って顔も真っ青になりつつ回らない首を動かない体とともにぎぎぎぎっと無理矢理後ろのほうに回すと…。いた!! いつもより数倍のジェラシーを目に集めてほとんど涙目になりながらこっちを睨みつけるが如く近づいてくるではないか? “国崎さん…、私では飽き足らず妹にまで手を出すのですね?” 唇をぷるぷるとどこぞの執事の孫娘のように言わせながら涙目の上目遣いで近づいてくる遠野の凄味に気圧されしてじりじりと後退する俺。ついには壁際まで追い詰められて、ぎゅ〜っと胴が千切れそうになるくらい抱きつかれる俺がいたのだった。


「国崎さんは私なんかよりみちると遊ぶほうがよかったんですね? ○リーな体が好みだったんですね? 前から薄々は気づいていたのですけれど…。私とは全然そう言った遊びはしてくれないのに、みちるとはいつもそう言った遊びをして楽しそうにしてますし…」
 何か語弊が生まれてきそうでちょっと怖いわけだが、遠野は俺とみちるとの熾烈を極めたケンカを“遊び” だと思っていたらしい。休みになるとやって来ては俺の命の次に大切な飯のおかずをかっぱらう少女とのケンカをどこをどう見たらそう言うふうに見えるんだ? と声を大にして言いたい…。まあ百歩譲ってそう言うふうに見えたとしよう。でも俺を不倶戴天の敵のように認識してるようなヤツと、仲良く見えるって言うほうにも問題がある。それに俺は○リコンじゃない。つ○ぺたよりグラマーなほうがいいに決まってる。もっとも今日の騒動の発端となった少女は、“かみやんたちにも言いつけてやる〜!!” と言う捨て台詞を残してさっさと今日のパーティー会場である観鈴の家のほうに走って行ってしまった。まあ何と言うかやっぱり男としては出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいるほうが断然いい。そう思って遠野の顔を見るとまだ上目遣いにちょっと拗ねたような顔で俺の顔を見つめているわけで。俺としてはせっかくの誕生日にそんな顔をされるのは心苦しいし…。などと思っていると、
「国崎さん、私を怒らせた罰です…。神尾さんの家に行くまで私を負ぶってください。もちろん胸はびったり密着させて頂きます…。これで2人は仲良しさんです…。もし嫌だと仰られるのであれば今日のことを神尾さんのお母さんと霧島先生に言いつけますからね?」
 断われん。まあ断わることは簡単だがそうなったときの俺の命の保証はない。ぐぐぐぐ〜っと俺の顔を見つめる真剣な目に押されて否応なく首を縦に振らされた。よいしょっと負ぶると想像通りの柔らかい感触が背中越しに当たる。って言うかちょっと柔らかすぎやしないか? いくらブラジャーをしているからってこの柔らかさはないんじゃ…、と思いそれとなく訊ねてみるところが、“していますよ…って、あれれ? よ〜く考えたら今日してくるのを忘れていましたとさ…” とあっけらかんとした答えが返ってくる。思わず鼻血が垂れてきそうな感覚に陥る俺。とにかくいつからこんなアグレッシブな性格になってしまったんだ? と俺がいない間に何かあったんだろうかと妙な勘繰りを入れてしまう今日12月22日、俺の彼女・遠野美凪の誕生日だ。余談だが、観鈴の家に着くなり晴子と聖に危うく殺されかけたことは言うまでもない…。ぐふっ…。

END