プレゼント・フォー・晴子


 今日11月3日は俺の居候先の家主の神尾晴子の誕生日だ。まあ、誕生日は誰しも嬉しい日なのだが、歳を取ってくると逆に鬱陶しくなってくるようだ。現に晴子は今、ため息をつきながら、観鈴の作った朝飯に茶をかけて食べていた。いわゆる“お茶漬け”というやつなんだが俺にはそう言うことは出来ない。元からひもじかった上に1杯の飯の仕事量を考えるとそう言う贅沢なことはとても出来ず…。と言うか、この町に来てそのことを十二分に味わったわけだがな? まあそれはいいんだ。問題なのは休日前の夜。どんちゃかどんちゃか宴会状態で夜中の2時くらいまで騒ぐ。しかも相手をしてやらんといろいろちょっかいをかけてくるんで、俺は次の日は寝不足気味なわけだ。現に昨日がそうだった。
「居候、酒に付き合え…」
 いつものようににかっと笑う晴子。その顔に何度となく騙されてきた俺ではあるのだが、まさか観鈴に酒を飲ませることは出来るわけもなく仕方なく付き合う。俺は一旦この街を出た人間だ。だがどうしてもこの町を忘れることなんて出来るわけもなく、再びこの町に戻ってきた。今は前に観鈴に紹介してもらったリサイクルショップの店員として働いている。観鈴の病気のほうもなぜかは知らんが治ったみたいで今は何事もなく学校へ通っている。というのも“往人さんが旅に出た日の夜に見た不思議な夢のせいなのかもしれないね?” とのことらしい。
 どういう夢なのかと言うと、カラスが俺に変わって空へと上がり空の少女を笑わせるって言うとんでもない奇妙な夢なんだそうだ。それから間もなく観鈴は体調も元通りに戻ったそうなんだが、実はその夢、俺も見ているわけだ。同床異夢とは聞いたことはあるか異床同夢は聞いたことがない。が見たものは見た。もう随分と前の話だから断片的にしか覚えていないがな? でも再びこの町へ戻って、観鈴が元通り動ける体になっていたことに俺自身嬉しかったことを覚えている。
 で、今だ。この間観鈴に連れられて晴子の誕生日プレゼントを買いに隣町のショッピングセンターに行った。俺はまあ別に祝う気もないのでぼ〜っとテレビでも見ていたわけなんだが、観鈴fが“付き合ってくれないと往人さんは明日から梅干1個!!” と涙混じりに脅迫じみたことを言うので仕方なく付き合う羽目になった。そう言えば晴子にもほんの少しばかりは世話になってるように思うので、文句もそこそこについていくことにする。もっとも“梅干1個”がとてつもなく嫌だったのが主な原因なんだが…。
 バスに乗って隣町へ向かう。夏の頃のカモメのやたらと多い騒がしい海とは違いとても静かな海を見ながらの移動となった。横の観鈴はいつものようににはは笑いをうかべながら前に乗ってたガキとじゃんけんなどをしながら過ごしていた。隣町のバスのターミナルに着く。俺たちはここで降りる。バスはもう少し先にある駅まで続いている。俺が前に乗った電車のある駅だ。あれからそうは経っていないはずなんだが懐かしく感じられる。見送るバスの後ろを目で追いながらそう思った。
「さて、ここまで来たわけだが…。何を買うのか決めたのか?」
 目新しい店が並ぶショッピングモール街の前、横にいた観鈴にそう聞く。まあこいつの買いそうなものぐらいは大体察しはつくのだが、一応聞いておくことにする。と観鈴はいつものにはは笑いを浮かべると、“がおがおTシャツ” と言った。まあ予想通りなわけだが、晴子がそんなものをもらったところで喜ぶとは到底思えないんだが…。とは思うものの、観鈴の嬉しそうな顔を見てると言う気も失せてくる。俺のほうも何かプレゼントを買わないといけない。ああ見えても一応は居候先の家主だ。世話になっているとは到底思いたくはないが、住まわせてもらっている義理はある。まあ毎晩の如く酒を飲まされるのには閉口するが…。さて、どんなものにするか…。観鈴に“ちょっと回ってくるが、迷子になるなよ?” そう言って離れた。後ろ目に観鈴を見ると“がお” と言う顔をしていた。病気のほうも治ったんだから大丈夫だろうとは思うんだが当の本人はまだまだ苦手なところがある。はぁ〜、やれやれ…。一旦戻って観鈴の手を引っ掴んで一緒に連れてくる。手にはもう買ったのか例の“がおがおTシャツ” があった。
「晴子の好きなものなぁ〜。酒と肴しか思いつかんぞ?」
「往人さん、さっきからそればっかり…」
 ボカチンッ! と一発叩いておく。頭を擦り擦り“どうしてそんなことするかなぁ〜” と上目遣いに非難の目を向ける観鈴。そんな観鈴をよそにあちこちと見て回る俺。バイク用品店が目に止まる…。が、バイクのユニフォームは高すぎて俺の持ってる金じゃあ到底無理な品だ。メットは今のがお気に入りらしい。機械類は俺の頭じゃてんで分からんのでパスだ。服はどうだろう…。観鈴に聞いてみる。が、“お母さん、服とか興味ないみたい。一年中あのままだしね? にはは…” と笑いながら頬をぽりぽりかいていた。まあ分かってたことなんだがこうもあっさり言われてしまうと腑に落ちんものがある。でもあのずぼらな晴子のことだ。きっと一、二回着てその辺に置いておかれることが目に見えて分かる。何かないものか…。と思いあちこち見遣るが目ぼしいものは見つからない。本格的に困った。ビールなんて買おうものなら、その日から俺が大変だしなぁ〜。かと言って何か買ってやらんと俺の居場所が狭くなる…。と、あるリサイクル用品置き場を覗くと…。


 今日11月3日はウチの誕生日や。でも歳のことは言いとうない…。今朝居候に危うく言われそうになったから落ちとったハリセンで頭思いっきりぶっ叩いてやった。それくらい過敏になるんや…。そやのに居候と来たら時々そないなことを言いよる。まあ気にしてへんけど。でも気にしてへんっちゅうたらウソになるかいな? そう思て今日も愛車に跨るウチ…。ブオンブオンと今日も快調や。観鈴はいつものにはは笑いで見送ってくれる。居候は昨日の酔いが覚めてへんのんか、うんうん唸とった。さてと、今日も頑張ろかいなぁ〜。そない思てエンジン音も快調に海の見える道。ウチの勤める保育園はもうすぐや。


 夜。往人さんに手伝ってもらって作ったケーキも机の真ん中ににこにこ顔のお母さんはもっとにこにこ顔。この間は怒ってむす〜ってなってたのになぁ〜。でもそんなお母さんだからわたしは大好きなわけで…。ってこれじゃあ説明にならないか…。にはは…。でも往人さんのプレゼントって何だろう…。何か大きな機械みたいだったけどわたしは機械とかそう言うなのは苦手…。だから技術が1なんだね? って思ってると頭をボカチンって叩かれる。当然叩いたのは往人さん。
「何も言ってないのに叩かれるなんて不公平…」
「いや、お前の心が変な妄想に侵されていたんでな?」
 何回そんなことを言われたんだろう。数えたらキリがないから数えたくないけど…。叩かれた頭を撫でながらそう思う。でも往人さんはほんとはとってもいい人…。わたしの最初のお友達だし、恋人さんだし、オタマジャクシさんだし…。でんと部屋の隅っこに置いてある往人さんの荷物。この中には今日買ってきたお母さんへのプレゼントもおいてある。一体どんなものなんだろう。リヤカーで押してくるくらいだから相当大きいものなんだとは思う。でも往人さんは怪しそうな微笑みを浮かべながら、何事かぶつぶつ呟いていたけど…。それがわたしには異様に怖かったことを思い出す。ふとその横を見るともう役目を終えたリュックサックがある。当然荷物のリュックの中には入っていない。と、今日買ってきた大きな荷物が気になったのかお母さんは言う。
「居候? あの荷物は何や? なんかバカでっかいもんみたいやねんけど?」
「ああ、あれか? あれは晴子がいつまでも若々しくいられるようにと思う俺の心を具現化したものだ」
 そう言うと往人さんは今日買ってきた大きな荷物のところまで行く。これ運ぶとき何か往人さんから怖いオーラが出てたような気がしたんだけど…。どうだろうね? “パンパカパーン” と言う効果音も出そうな勢いでバッと置いていた荷物の外装を解く往人さん。途端にお母さんの顔色が変わったことは言うまでもない事実…。見ると怒スジが何本も出てた。
「居候ちゃん? こ・れ・は・な・ん・や?」
「い、いや。見ての通りの物なんだが…」
 お母さんのこめかみがぴくぴく動いてるよ〜。身振り手振りで往人さんにサインを送ろうとしてお母さんに見つかってまたボカチンってげんこつされた。が、がお…。げんこつされた頭を擦りながらお母さんの顔を伺うわたし。笑っているお母さんが実はすごく怒っているって言うことは誰にでも分かる。ただ一人、目の前にいるわたしの好きな人以外は…。
「ん〜っ? 何だ晴子? 俺のプレゼントがそんなにお気に召したか? まあ気にしないでじゃんじゃん使ってくれ…。今からでもいいぞ?」
「ほんまプレゼントおおきにな? 早速今から使わせてもらうわ〜…。居候ちゃん……。あんたをつるし上げてお仕置きするためになぁ〜?」
 その後、どうなったのかわたしは知らない…。だってわたしは怖くなって自分のお部屋に逃げちゃったから…。布団に包まってぶるぶる震えているわたし。そんなわたしの耳に、ビシバシってハリセンで叩く音と、“やめろ〜っ!! やめてくれ〜っ!!” って言う往人さんの悲鳴が向こうの部屋から聞こえていた。眠れる虎を起こしちゃった往人さん。自業自得とは言うけど、でも大丈夫かなぁ〜っと思う。朝起きたら往人さん、ちゃんと手当てしてあげなくっちゃね?…。とも思いながら静かに瞼を閉じるわたし。いつものように賑やかしく今日が昨日に変わった昨日11月3日。わたしの大好きなお母さんのお誕生日。あっ、でも歳のことは秘密だよ? にはは…。

END