観鈴ちん、拗ねる


「居候もアホやなぁ〜。何でウチの可愛い観鈴ちんの誕生日忘れんねん…」
「それを言うならあんたもじゃないか? 娘の誕生日を忘れる親がどこにいる?」
 今日7月23日は俺の居候先の家主の娘、観鈴の誕生日だ。だが当の観鈴はぷぅ〜っと頬を膨らませて部屋の隅っこで体育座りをしながら恨めしそうにこっちを睨んでいた。というのも晴子も俺もすっかり観鈴の誕生日を覚えていなかったことが原因なんだけどな? いや、昨日の夜までは覚えていたんだ。昨日の夜…、あんな無茶な酒の飲み合いをしなければ…。やった本人も少し飲みすぎたみたいで、今朝は青い顔をして、“ウチも年取ったんかいなぁ〜?” などと呟いていた。今朝早くに目が覚めてみると、やけにルンルンな観鈴が“がーお、がーお”と訳の分からん歌を歌っていたっけか? “今日はえらくご機嫌だな?” と開口一番そう言ってやった。まあその後は例の如くなんだが…。で、現在午前10時20分過ぎ…、観鈴は部屋の隅っこで俺たちを恨めしそうに睨んでいる。が、元が可愛いだけにそんな顔をしても無理があるって言うもんだと俺は思う訳で…。
「グスッ、グスッ…。可愛くても忘れたものは忘れたんだもん。……往人さんもお母さんも明日から梅干一個…」
 そう呟きながら涙に濡れた目を服の袖で拭うとまた俺たちの顔を上目遣い睨んでくる観鈴。ってまた口に出てたのか? はぁ〜っとため息を一つ。まあ原因は忘れた俺たちにあるんだし、その辺は言えない立場にはあるんだが、“梅干一個”はどうかと思う。弁当箱の中に飯も何もなくただ梅干が一個あるだけ…。考えただけでも恐ろしい。と晴子が俺の脇腹を肘で突く。何だ? と思って見ると、口パクでなにやら言っている。
“あんた、あのつまらん人形劇し〜な…”
“お、俺にはもうそんな力はないっ!! あんただって分かってるはずだろ?”
 そう口パクで返してやった。“役に立たんやっちゃな〜。まあ元から役に立たんやつや思っとったけど……” 口パクでそう言うと晴子はぶつくさ何がしら呟きながら俺の顔をギロリと睨んでくる。余計なお世話だっ! って言うか何で睨まれにゃならん!! 大体俺にはもうそんな力はない。法術…。母さんから受け継いだ力。観鈴の呪いを解くために全部注ぎ込んでしまって今じゃ箸の一本も動かせなくなっている。しかし探し求めていた存在が今俺の元にいるなんてな……。何だか不思議な気分だ。と観鈴のほうを見てみるとまだぷぅ〜っと頬を膨らませている。どこまで膨らむか試してみたいとは思ったが、やってしまうと俺は明日から野宿生活に逆戻りとなってしまうので止めにした。
「とにかくだ! この通り謝るから許してくれ〜!!」
 そう言って晴子の頭を押さえつつ平謝りに謝る俺。晴子は“いきなり何すんねん、居候” って言う顔でこちらを睨んでいたが当然無視だ。こうでもして謝っておかんと俺の死活問題に及んでくる。
「じゃあ、観鈴ちんの言うこと、なんでも聞いてくれる? 手を繋ぎたいなって言ったら繋いでくれる?」
 涙目をごしごし擦りながら観鈴は俺にそう尋ねてくる。晴子は標的が俺のほうに行ったことをいいことにニヤニヤ笑ってこっちを見遣っていた。
「で、出来るだけ善処する…」
「出来るだけじゃダメ! これは命令…」
 う〜っと俺の顔を睨みつつこう言う観鈴。その顔には何故か逆らおうにも逆らえないものがあった。…で、結局その日一日手を繋いで過ごすことになった今日7月23日は、観鈴の誕生日だ。

END

おまけ

 と、晴子のことを言うのを忘れていた。あの後観鈴にニヤニヤ笑ってるところを見つかった晴子は、観鈴にしこたま怒られて、“お母さんなんて嫌い!!” と言われてその日一日、しくしく部屋の隅っこで観鈴と同じように泣いていた。俺はこんな光景を見たのは初めてだったし、一生に一度あるかないか分からない光景だったんで是非とも写真に撮っておきたかったのだが、
「正気に戻ってお母さんがこれ見たとき、往人さん、身ぐるみ剥がされて埋められちゃうから…」
 と観鈴がいつになく真面目な顔で言うのでこれは本気だ! と思い写真に撮るのは止めにした。でもこれは使えそうだなと思ったのは俺だけの秘密だ……。フフフッ…。

TRUE END?