不老の妙薬?
今日11月3日は俺の居候先の主人であり、俺の彼女の観鈴の母親でもある神尾晴子の誕生日だ。と言っても俺は晴子の年齢は知らんわけだ。何度も聞こうと思ってさり気な〜く聞き出そうとはしているのだが、相手は百戦錬磨で泣く子も黙る晴子だから、聞くに聞けず。よしんば聞けたところで、あの凶悪な真鍮入りのハリセンで叩き殺されかねん。観鈴に聞いてみると…、
「お母さん、自分のこと“永遠の23歳”って言ってるし…。ほんとのこと言うとボカチンってげんこつされるから…。でも往人さん、何でお母さんの年齢のことが気になるの?」
と、不思議そうに聞いてくる。“いやな? 常々気になってたんだが、あのバイタリティーはどこからくるんだろうかと思ってだな…。平常の日も休みの日もほとんど変わらず元気そうに動き回ってるじゃないか? だからちょっと気になってだな?” と答える俺。この町に帰ってきて数年が経つ。観鈴は元通り元気になって今は晴子と同じ保母の仕事に就いている。かく言う俺もこの間(と言ってももう半年以上も前になるのだが)、保父試験のほうに合格し、今は保父として観鈴や晴子と同じ保育園で働いているのだが…。もっともこの職業を斡旋してくれたのは晴子なんだがな? しかし元来ガキどもの相手はあまり好きじゃない(と言うか嫌いな)俺。特に初めてこの町に降り立った日の屈辱は忘れもしない。夢にまで出て来る始末だったたのだが、ここの保育園は何と言うか、観鈴や佳乃や遠野みたいな子が多いのでなんだか楽に捌けるわけだ。
と話が脱線したので元に戻そう。バイタリティー溢れる晴子。俺が見るに30代半ば? なわけなのだが皺一つないわけだ。しかしこれと言って化粧をするわけでもないほとんどすっぴんのままだ。遠野の母親でさえ薄化粧はしてるって言うのになぁ〜。まあもっとも頭の中はガキと同じか…、とこんなことを本人の前で言おうものなら俺は明日の朝には名前が立派になっているので言わんほうがいいだろうな? そう思った。
昼になる。保育園は年少から年長までいろいろな子供がいるわけだ。だから食事も別々と思いきや、ここの保育園はみんなまとめて一緒に食事を取るのさそうだ。もちろん俺たち職員も一緒なわけだが…。といつも俺と一緒にいる年長の生意気そうなガキが、“そろそろ観鈴先生にプロポーズしろよ〜” とかうるさいわけで…。ため息をつきつつ“そのうちな?” とうんざりしながらそう言って年中の女の子の食事の手伝いなどをやっているわけだ。実のところもうプロポーズと言うかそう言うことはやったことのある俺ではあるのだが、相手が相手だけにどうも歯車のほうがおかしな方向に回ってしまい、収拾のつかない方向に行ってしまったので今は成り行き任せにしてあるんだけどな…。と、いつものにはは笑いを浮かべながら、俺のほうを見ている“お相手” を前にはぁ〜っとため息をつく俺がいるのだった。晴子はそんな俺たちを見てにかっといつものように笑っていた。
で夕方になる。プレゼントの方はこの間の日曜日に一応観鈴に頼んで買ってきてもらったわけだ。後はこれを渡せばいいだけなのだが…。観鈴1人だとろくでもないものを買ってしまいそうな気がするので友達の佳乃と遠野に無理を言ってついて行ってもらった。観鈴は少々不満そうにぷぅ〜っと頬を膨らませていたが、こいつが買うものといえば、“がおがおTシャツ” とかになってしまうわけなので…。もっともその日の俺の夕飯が茶漬けだったことは言うまでもない事実だった。3人を送り出す俺。助っ人2人、まあ佳乃は観鈴と同じくらいな感じがするわけだが…。“遠野、お前だけが頼りだ! しっかり頼んだぞ?” と目でそう言うと何を勘違いしたのかぽっと頬を赤らめて、“私っていけない女?” なんて言うボケをかましてくる。正直相手をするだけで相当の体力を使う。買い物に送り出した後でぐた〜っとなってしまい昼頃起きてきた晴子に、“休みやからって一日中そないな格好でおられるとかなわんわぁ〜” などと皮肉をたっぷり言われたことは言うまでもない。で、買ってきたプレゼントの方は家に仕舞ってあるのだが、俺も中身を見ていないので正直分からん。ただ遠野の言を借りれば、“必需品です。えっへん” と言うことらしいので、化粧品か何かだろうと思っていたのだが……。
「ヒック…。居候ちゃ〜ん。こないにお腹突っ張りだして、どないしたんや〜? ヒック…」
床の間においてある信楽焼きのタヌキに向かいそう言ってはお腹をさすりさすりしている晴子。やっぱりボケボケ遠野に頼んだ俺が馬鹿だったと改めて気付かされる。特に何も言わなかった俺にも責任の一端はあるだろう。だけどな? いくら必需品だからと言って…、と言うか必需品と言うかいらんものだろ? これは…。ワインはどうかと思うぞ? と今は家で微笑ましそうに母親に今日あった出来事を話してるんだろう遠野に向かって届かんテレパシーを送る俺。しかし、晴子…。ワインはそんなにぐびぐびやるものじゃないと思うんだがな? と片手にワインの瓶、もう一方にビールのジョッキを持って嬉しそうに飲んでいる晴子に向かいそう心の中で突っ込みを入れる。まあ酒は百薬の長とは言うが、ここまできたらむしろ害ではないのか? とも思うわけだ。観鈴も一応は酒の飲める年齢になったので缶チューハイをぐびぐびやっているのだが、“往人さ〜ん、チューして〜?” と俺が初めて贈ったプレゼントのがおがおのぬいぐるみに迫っている。似た者同士とは言うが、全くその通りだなと思う。うん。23歳って言うのも頷けるよな。まああくまで自称だが……。などと思う今日11月3日、幸か不幸か分からんが俺の義母となるであろう、自称23歳の神尾晴子の誕生日だ。
END