ケチん坊往人君
「わぁ〜!! 泣くな泣くな! 聖もメスを持つな!!」
佳乃がこの町でやっているアニメの再放送のぽん○つな主人公のようにうわーんと声を上げて泣いている。“だってだって〜、往人君ってばあたしのお誕生日忘れてるんだぁ〜って思ってたんだも〜ん! うわーん!!” と俺が渡したプレゼントを大事そうに持ってひっくひっくと肩を震わせていた。その横では、凶悪女医師が妹の頭を優しく撫でつつこっちをギロリと睨んでいる。まあそれはいい。こうなることは目に見えて分かっていたことだからな? しかし普段は笑顔がトレードマークみたいな佳乃が何でこうも泣きじゃくっているのか、それを説明しなければなるまい…。そう、あれは1ヶ月前に遡る…。
1ヶ月前、そろそろ佳乃の誕生日も近いということで、せっせせっせと金を貯めていた俺。普段ならば、昔の大道芸人だったころの癖が抜け切れんのか金が入るとまず飯と言う具合になる俺なのだが我慢していたわけだ。当然、佳乃からのお誘いと言うか俺を小銭替わりに駄菓子屋(まあ言わずもがな駄菓子屋と言えば俺の最初の屈辱の場所、武田商店なわけだが…)へ行って、駄菓子を買うわけだが、俺が行かないと言うとぷぅ〜っと膨れて拗ねた顔になる。聖には一応その前に今回のことを言っておいたので、その辺は少しは心配だがまあ大丈夫だろう。そう思い観鈴に紹介してもらったバイトやら遠野に紹介してもらった近海マグロの一本釣り漁などをこなして、せっせこせっせこ金を貯めていた。というのも誕生石で指輪を作って贈ると幸せになるということをどこかのテレビか雑誌で知ったわけで。確か佳乃のお気に入りのテレビか雑誌だったように思うんだが、詳しいことはもう忘れてしまった。
「往人君、最近お付き合いが悪くなったんだよぉ〜…」
と言いながらぷぅ〜っと頬を膨らませる佳乃の顔を横目に見遣りつつ、“そんなことはない! ただ最近は少しばかり忙しいだけだ” と言って明日に備えて眠りにつく俺。明日は明日でリサイクルのほうで重い荷物を運ばなければならんわけで。うううっと涙交じりに睨んでくる佳乃には申し訳ないが毎日毎日働き詰めな体なので少しは休ませてくれと思う。そんな俺の態度に業を煮やしたのか、何か書き物を書いてバンッと机に叩きつけるように置くと部屋を出ていく。書かれたものを眠い目を擦りながら見てみると、“往人君のケチん坊!!” と大きく書かれた紙とあかんべーをしている顔が描かれている。まあその辺は佳乃らしいと言えば佳乃らしいので、思わず笑ってしまう。と部屋を出て行ったかのように思われた佳乃がこっちを恨めしそうに上目遣いに睨んで、
「往人君!! 何を笑ってるんだよぉ〜っ!! あたしはこんなに怒ってるのにぃ〜っ!!」
「だってこの書いてある文章と言い、絵と言い…。小さい子が遊んでくれないって言って駄々をこねてるようにしか見えんぞ?」
正直、よく言えば天真爛漫、悪く言えば…、何だろう? まあ子供っぽい部分がかなりある佳乃なのではあるのだが、この文章はあまりに子供っぽい。だいたい18歳にもなって“ケチん坊!!”はないだろうとは思ったが、目の前の半泣き状態の彼女には十分まかり通りそうな感じもするわけで…。はぁ〜っとため息を一つつくと、ある条件を出すことにした。まあ守れたら一日どんなことでも付き合うという感じで。条件と言うのはある意味無茶苦茶に難しくまた無茶苦茶に簡単なものだ。この“難しく”と言うのは、おおよそ見当はついているだろうが、佳乃本人に言えることだった。まあ俺が予想するに3日と持たんだろうとは思うが、持ってくれんと困るわけで。と言うより内緒でしていることが全部バレてしまう。そう思ってなるべく怖い顔をして言ってやった。相当ビビッてたからこれでしばらくは安心だろう。そう思った。
キーコキーコとブランコに乗るあたし。今日6月12日はあたしのお誕生日…。それなのに、往人君は全然お祝いの言葉を言ってくれないし、と言うより最近遊んでもくれない。それに加えて観鈴ちんやなぎーまであたしと遊んでくれなくなった。何か悪い事でもしたのかなぁ〜って思うけどこれと言って思いつかないし…。お姉ちゃんまで何だか隠し事をしてるみたいに感じる。さてはあたしに内緒でみんなでどこか旅行にでも行くつもりなのかなぁ〜って思っちゃう。何だかあたしだけのけものなんだぁ〜って思って思わず涙が零れそうになるのをすんでのところで堪える。いいもんいいもん。みんなお祝いしてくれなきゃ一人でお祝いしちゃうんだからね?! って思ってるとポテトが“ぴこぴこぴこ” ってあたしを呼んでる。何だろう? そう思いながらポテトの後をついていくあたし。てくてくてく。歩く歩く歩く。で着いたところがあたしのおうち。ポテトを抱き上げる。“やっぱりキミだけだよぉ〜。あたしのお誕生日を覚えててくれたのは…。今日は一緒にお祝いしてね?” って涙交じりにそう言うあたし。キィ〜ッといつもの重い扉を上げると中へと入る。今日は患者さんはいないのか待合室はがらんとしていた。奥からいつものようにお姉ちゃんが鼻歌交じりに晩御飯の準備に取り掛かっているんだろう。美味しそうな匂いが漂っていた。“ただいま” と一言言うと逃げるように自分の部屋に行くあたし。どうせ誰もあたしのお誕生日なんて…、って思って2階に上がる階段のところまで来る。上がろうと思って階段を下を向いたまま一気に上がろうと思った刹那、壁みたいなものに行く手を阻まれる。何だろう? そう思って見てみるとそこには…。
「うわ〜ん、絶対忘れられたんだ〜って思ってたんだも〜ん。うわ〜ん」
「だぁ〜っ!! 分かった、分かったから早く泣き止んでくれ〜っ。凶悪女医師が俺の顔を殺意の眼差しで見つめてる〜っ!!」
妹を泣かせた張本人の顔をギロリと睨む私。そんな私の前、土下座をしながら妹に謝っている張本人である彼・国崎君。しかし相変わらず失礼な物言いと言うか何と言うかだが、彼の言い分も分からなくもない。護身用にメスを携帯している医者なんぞ私ぐらいなものだろうからな? しかし今回は少しやりすぎだとも思うわけで…。まあ案に乗って一役を買って出た私が言うのはおこがましいのかも知れないが…。思春期によく見られる“好きな子に対してイジワルをしてしまう”行動なのかもしれないが、もう思春期は遥かに通り越した青年にはただの嫌がらせにしか見えないわけで…。でも、それに加担していた私もそう言うことを言えた義理ではないのかも知れないな? 向こうでは相変わらず泣きべそをかいてご機嫌ナナメな妹と謝ってる彼と、その光景を微笑ましそうに見つめている妹の親友が見える。妹の指をふと見ては、“佳乃ももうその辺で許してやればいいのに…” とぷぅ〜っと頬を膨らませた妹の顔を見つつそう思う私。6月の誕生石、真珠の指輪がなお一層輝いて見える、そんな今日6月12日は私の最愛の妹・佳乃の18歳の誕生日だ。
END