雨音に歌う傘
今日はあたしのお誕生日。去年は見事に往人君に忘れられてと〜っても悲しい思いをしたあたし。でも思い出してくれた往人君はポテトとあたしを備え付けの自転車に乗せて隣町のラーメン屋まで連れて行ってくれたっけ? そのせいで往人君、“またおけらだっ!!” とか何とか言ってあたしの顔をぐぐぐって睨んでくるんだよぉ〜っ。何であたしが睨まれなくっちゃいけないんだよぉ〜。忘れたのはそっちなのにぃ〜っ! ぷんすかぷんって怒ってると、お姉ちゃんが愛用のメスを持って不気味に微笑みながら立ってたっけ…。後は想像通りに任せるよ〜。
で今年。今年も忘れてるのかなぁ〜って思ってたけど、今年は覚えててくれてたみたい。ちょっと素敵な傘をもらったよ。往人君曰く…。
「まあ、去年は忘れたが、今年は何とか記憶の片隅に残ってたんでな? リサイクル屋でちょうどいいものがあったから買ってきた。結構作りも頑丈に出来てるんで少々のことでは壊れんだろう。お前がむちゃくちゃしなけりゃな?」
そう言うとアハハハハと笑う往人君。し、失礼だよぉ〜! 往人君!! あたしがまるで前に持ってた傘をむちゃくちゃして壊したかのように言ってるよ〜っ!! そ、そりゃあ少し乱暴に扱っててお姉ちゃんからもちょっと怒られたこともあるけど…。それでもって結局壊れちゃったけど…。でもそんなのもう1年も前のことじゃないのさぁ〜っ! ぷぅ〜っと頬を膨らませる。往人君は?
「わあ、悪かったから…。謝るから、だからそんな顔で俺を睨むなぁ〜!」
そう言うと、ぺこぺこ頭を下げてる。この前あたしが楽しみに取っておいたお菓子を一人で食べちゃってお姉ちゃんに危うく殺されそうになってたもんねぇ〜。逃げる往人君と追いかけるお姉ちゃんが、テレビで見た間抜けな警察官さんとさらに間抜けな泥棒君のように見えちゃったけどこれはあたしだけの秘密だよ? だってお姉ちゃんに言っちゃうとショックで寝込んじゃうかもしれないし、往人君に言うと何だか落ち込んじゃいそうな気がするから…。
「と、とにかくだ!! た、誕生日、おめでとうな? 佳乃…」
そう言うと持ってた傘を手渡してくれる。表へ出ると、鉛色の雲から雨がしとしとと降ってた。あたしは傘をパッと広げる。ってわあ! 大きいんだねぇ〜。この傘。二人は悠々入れるよぉ〜。そこでいいこと思いついちゃった! えへへ。でもちょっと恥ずかしいけど…。こう言うんだよぉ〜。
“ねえ、往人君。お散歩しようよ…。相合傘でさ”
って…。往人君は顔を真っ赤にして、“なっ?! 何で俺が散歩なんてしなきゃならん! 観鈴か遠野でも誘って行ってこい!!” って言うんだよぉ…。もう! こんな大きい傘一人で持ってたってみんなから怪しまれるだけなんだよぉ〜。そ、それに…。もう怒ったよぉ〜。ぷぅ〜っと頬を膨らませると、有無を言わさず往人君の手を引いて雨の中を駆け出すあたし。往人君は…。
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待て〜!! 診療所の受付は誰がするんだ〜?」
「ポテトに任せておけば大丈夫なんだよぉ」
ふわふわしたポテトの仕草が何となく可愛くていつもは一緒に連れて行くんだけど…、今日だけはお留守番。“ごめんね? ポテト…” 今頃、ぴこぴこぴこ〜って慌てちゃってるかもしれないけど、許してね? そう思いながら雨の中、二人で歩く道…。
「おい、佳乃。重いだろ? 持ってやるから替われ…」
ふぅふぅ息をついていると往人君は傘を持ってくれる。実を言うとこの傘、すごく重かったんだよぉ。“はい。往人君。交代だよぉ〜” そう言うあたし。往人君はと見ると軽々と傘を持ってる。さすがは男の子だね? そう思った。お散歩は続く。田んぼのカエルも嬉しそうに大合唱だよぉ。往人君もあたしも長靴をはいてるから、ぬかるんだ田んぼのあぜ道を通っても全然平気だもん。ちなみに往人君のはお姉ちゃんのプレゼント…。あの時の往人君の顔…。へっ? てなってた顔は、今思い出しただけでもくすくす笑っちゃうよ?
「なっ? 何がおかしいんだ? 佳乃?」
そう言うと不思議そうにこっちを見つめる往人君。“えへへ、秘密だよぉ〜” そう言うあたし。と突然、傘からぽたぽたぽたっと…。あっ、多分木の上にあった雨粒がこの雨で重なり合って落ちてきたんだねぇ〜。傘も何か言ってるのかな? そう思う今日6月12日はあたしのお誕生日だよ? えへへっ…。
END