聖さん、お見合いをする?


 1月3日、晴れ時々曇りの予報ではあるが風花が舞っている。天気予報と言うのものは案外あてにはならないものだな? そう思いながら私は普段とは似ても似つかないようなおしゃれな服装を身に纏っていた。まあ昔から佳乃の服を選んで買っているので何のことはないのだが、自分の服となるとてんで要領を得ない。鏡の前、改めて自分の姿を見ると似合わないな…と言うか似合わなさすぎる! と思うわけだ。でもなぜに私がこうして洒落込んだ格好などをしているのかと言うことだが…それは去年の大晦日に由来する。
 去年の大晦日、診療時間も終えてやれやれゆっくりするか〜っとばかりに部屋に上がると、いつものようにだらけモード全開の居候兼雑用係の国崎くんがぼ〜っとテレビを見ていた。佳乃はストーブのところに餅を乗せて焼いている。これがここ数年のうちの大晦日の光景…、なんだが、ふっと国崎くんが私のほうを眺めてこう言ってきた。“せっかくの美貌も持ち腐れだよなぁ〜、もったいねぇもったいねぇ…。っと言うことでこんなものが入ってたんだが…” と1通のDMを私に見せてくる…。何々と読んでいるそばで、“あんたも隅に置けないなぁ〜” などとお世辞にでもないことを言ってくる。“うるさい!” と言い返すと肩を狭めて引き下がった。全く持って失礼極まりない。国崎くんは元・旅芸人であったが今は妹・佳乃の恋人であり、私にとっては私の命よりも大切な妹の恩人でもある。まあいつもはこき使っていて、“人使いの荒い医者め!”、“ただ飯食いのサボり魔めっ!” と憎まれ口をたたき合う仲ではあるのだが、佳乃の彼氏となってゆくゆくは結婚を申し込むのだろうな? そう考えると、そろそろと自分の幸せと言うものを考えないとダメか…とも思うようになった。まあこの件に関しては妹も国崎くんと同じ意見なようなので、行ってみるかと思った。
 で今だ。こうしておしゃれな服と言うものに身を通し、更には高いヒールを履いて化粧なんぞも施されてこうして街中を歩かされている。もっともこの衣装やら化粧やらは神尾さんからの借りものだ。と言うか国崎くんがどう説明したのかは分からんが、神尾さんが大慌てでやって来て、“ウチにまかしとき!” とか何とか言っていろいろととっかえひっかえ服を出してきて何十着も着替えさせられた。もともとオシャレには無頓着な私であるのであんまりこう言う服は似合わないだろうとタカをくくっていたわけだが、鏡の前、見てみると案外見栄えがいい。化粧のほうは今流行りのナチュラルメイクと言うのを施される。“頑張ってきいや!” といつものにかっと笑う神尾さんの激励とともに家を出た私は、今現在街中を歩いていた。まあ街中自体は歩くのはしょっちゅうなのだが、こう言うオシャレをして歩くのは初めてなものだからか緊張してしまう。
「ねえねえ、彼女〜。お茶でもどう?」
 などとまるで国崎くんみたいな輩が言い寄ってくるのを適当にあしらいつつ、会場であろうホテルの前に到着する。さてここからどうするんだっけか? などと考えているとホテルボーイがやって来て、“何かお困りですか?” などと言ってくるので、取りあえず見合いに来た旨のことだけを伝えると、分かったと言うような顔をして、“それでしたらこちらです…” とエレベーターのところまで案内して、後はエレベーターボーイにお願いして持ち場へ戻っていった。エレベーターボーイが早速乗るように催促してくるのでエレベーターに乗って6階の会場まで案内してくれる。降りると見合い会場らしい大部屋が目の前にあった。す〜っ、は〜っ、と息を整えると扉をガチャリと開けた。と、そこにいたのは…。


「まったくもって不愉快だっ! う〜いっく…。なんで私があんなドラ息子と一緒にいなくてはならないんだ? 大体こんな催しのチラシかDMか知らんがこんなものを私に黙ってもってくること自体がおかしいっ!! 一体誰だ? と言うかもう決まったも同然だな? 国崎くん…。ヒック…」
 と散々な目に遭ったんだろう聖がやや上目遣いの怖い目つきで俺のほうを見遣っていた。と言うかあのDMは隣り町の大病院のパーティーのDMだったらしい。俺はただ聖宛に来てるなぁ〜っと思って中身も見ずに渡したんだが、聖の顔がぽっとなっているところを見てしまい、落としたDMを読んだが、そこには、“素敵な夜を。あなたと…” とと言う晴子が見たら思わずぼりぼり背中を掻きむしってしまうような文言とそこまでの地図とが落ちていたわけだ。佳乃は、“わわわ、お姉ちゃん、本気で怒ってるよぉ〜” などと言って向こうで隠れてるしなぁ〜。こりゃ明日は切り傷を何10か所と作ってまた小姑の小言を聞かされにゃならんだろうと覚悟していたわけだが、途中でやけ酒でも引っ掛けたんだろうほろ酔いの女医はガバ〜ッと俺を押し倒してくる。“ちょ、ちょちょちょちょっと! 何を…なされるんでございますでしょうか?” と思わずいつもは出ない丁寧語で話してしまう俺に対し、んっふっふっふ〜っと不気味な笑みを浮かべて女医は言う。“こうなったら国崎くんに責任を取ってもらう。佳乃も…、そしてこの私もだ!” と服を脱ぎ始めるではないか? 佳乃〜、助けてくれ〜っと佳乃のほうを見ると聖の恐ろしく怖い目に身動きが取れないでいるみたいだった。いかん、いかんですよ。と思いながら何とか聖を押しのけて逃げようとするも、今度は、“国崎往人と遊びたい〜っ” と駄々をこね始める。佳乃はぐるる…とこっちのくんずほぐれつの状態を少々涙目で見遣りながら、
「お姉ちゃんに付き合って! もともと往人くんがそんな怪しいDMもらったのが悪いんだからねっ!! でもお姉ちゃんにしたことは明日あたしにもすること! 分かった?」
 そう言って非常に恨めしそうな目をしながら、ふんっとそっぽを向いて出て行ってしまう。うわぁぁぁぁぁ〜ん、佳乃〜、助けてくれ〜っと言う俺の声も虚しく聖がだんだん寄ってくる。じりじりと後退する俺に対し、じりじりと前進してくる聖の顔はもう目が座っていた。やがて壁際まで追い詰められて、もうダメだ〜っ! とか何とか思っていると、去年だったかいつぞやかみたいにぐーすかぴゅ〜っと眠っていた。全く、人を何だと思ってやがる! と思いつつ、寝床に引っ張っていく今日1月3日は俺のうるさ型の小姑であり町の医者であり彼女の姉であり、また今日は今日で危うくおもちゃにされかけた霧島聖の誕生日だ。

END