コンビ名はトモトモ


 突然だが漫才をやることになってしまった。この学校の生徒会長であり、喧嘩番長であり、ついでに俺の彼女である坂上智代と…。文化祭での出し物なんだそうだが、実際に漫才師でも呼んでやったほうがいいんじゃないかと俺は思うんだが…。
「生徒の自主性を育てるためだ!! 朋也もまじめになったんだからもう少し社会性というものを身につけなくてはな?」
 とか何とか言ってこっちの話も聞かずにどんどん話を盛り上げていく。ちなみに春原は杏とコンビを組むんだそうだ。まあ、あいつらはあれでいてなかなか意気が合ってるっていうか、そう言う感じなので問題はないだろう。毎日が漫才みたいなものだからな…。しかしよりにもよって俺が? とは思うんだが…。智代の必死の頼み(拳を握り締めてぷるぷる言わしている格好)には首を横に振ることなど到底出来るはずもなく…。
「しかしまだ1ヶ月弱あるんだぞ? もう少し先でも…、いいんじゃないのかな〜って思うんですけどねぇ?」
 涙目でぷるぷる肩を震わせている智代の前、急に敬語になる俺。ちなみに俺は不良みたいな生活は止めた。今は親父と一緒に暮らしている。人並みだか何だか分からないが話も出来るようになった。それもこれも全部智代のおかげだ。俺はそう思っている。余談だか春原も今はまじめに授業に出ている。まあ彼女が出来れば変わるもんだな〜っとつくづく思った。俺もあいつも…。バイトも始めた。といっても古河パンのパン焼きのバイトなんだが…。渚は、
「朋也くんがバイトに来てくれてお父さんも何だか張り切ってます。それにわたしも嬉しいです。えへへ…」
 とにこにこ顔で言っている。まあオッサンとはいいライバルって言うかそんなもんみたいな感じだし、早苗さんのボケと渚の大ボケとオッサンのツッコミだか何だか良く分からんものを見られて毎日が充実してるように感じられて嬉しい。ああ、これが生きてるって言うことなんだろうな。そう思った。
 で、現在…。どういうわけか生徒会室に引っ張って来さされた俺は、生徒会長・坂上智代から漫才をしようと言われている。“お前がまじめになった記念に漫才でもしよう…” と言うのが事の発端…。でいつの間にか生徒会での出し物となってしまった。元不良と生徒会長と言う突拍子もない組み合わせだ。客が驚く様がありありと見える。断ろうかとも考えたが智代の残念そうな顔を見ることは俺には出来ないので仕方なくすることにした。で、今にこにこ顔の俺の彼女は、どう言うスタンスでするのかとか、ボケとツッコミの分担だとか、後ネタはどうするのかだとか…。事細かく話してくる。しかも俺にしか見せない極上の笑みで……。
「漫才のネタは、時事ネタ・季節ネタ・人物ネタと言う、主に3つに集約されるんだ…。でだ…。朋也はどれがいいと思う?」
「お、俺に聞かれてもなぁ〜…。第一漫才なんてやったことがないしな…」
「その点に関しては安心しろ。私も初めてだからな?」
 おいおい…。と、思わずツッコミそうになる俺。初めて同士でうまくいくのか? とも思う。文化祭はまだ先なので練習すれば何とかなるとは思うんだが…。でもなぁ〜。元々笑いのセンスも微塵もない俺なんかとコンビを組むってどう かしてると思うぞ? どうせ組むんだったら風子かことみか、もしくは3人でやったほうがいいんじゃないのか? そう考えてふと前を見るとぶわっと涙を浮かべた智代がいた。しまった! いつもの癖で声に出してたのか…。
「朋也は私と漫才をするのがそんなに嫌なんだな? 私のことを愛してないんだな?」
「ち、違うって! 俺が言いたいのはそもそも…っていうかなんで漫才とお前を愛してないことに繋がる!!」
「と、と、朋也のバカーっ!! わ、わ、私がどんな気持ちで誘ったか分かってるのか? 朋也のことが大好きだから、大好きだから一緒にいい思い出を作ろうって誘ったんだぞ? それなのに…。もう、もういい。こうなったら朋也道連れにして心中してやるーっ!!」
 急にテンパる智代。荒い息をふーふー吐きながら、こっちを涙目で見つめて、いや、睨んでくる。しかも上目遣いで…。その顔に思わず、うっ! となる俺。い、いかん。最悪の状況が目に浮かぶ。せっかくこの後、オッサン家で智代のバースデイパーティーをしようと思って用意もしてるのに…。って言うのが遅れたが今日10月14日は智代の誕生日だ。で、俺も早苗さんから貰った少ないバイト代をこつこつ貯めて指輪なんかを用意してるって言うのに…。
 やばい。本格的にやばい。智代は俺の顔を涙目でじ〜っと見つめて(と言うより睨んでか?)動こうともせず、仁王立ちで立ってるし…。俺が逃げればすぐに捕まるのは必至だ。そうにでもなれば…。い、いかん。変な想像をしていたら脂汗が流れてきた。かと言って逃げなければここでやられることも必至だ。最良の選択肢は…。はあ、やっぱりこれか…。逃げ道を断たれて相変わらずふーふー荒い息を吐きながら、迫ってくる智代。その顔には鬼気迫るものがあった。
「わ、わ、分かった。漫才するから…。ネタも考えるから、だ、だ、だから、殺さないでくれーっ!!」
「あっ、そうか? それなら別にいいんだ」
 すってんころりんと、すっ転ぶ俺。い、今までのあの鬼気迫るものは何だったんだと思い智代の顔を見ると…。何事もなかったかのように笑っていた。あまりに呆気ない幕切れに俺はしばらく放心状態となる。ふと気がつくと、部屋の外ががやがやうるさい。何なんだ? そう思い扉に手を掛け一気に引くと、
「智代もなかなかやるわね〜? ボケかツッコミかがよく分からなかったけど、いい線いってるわ…。あたしたちも負けてられないわね? 陽平…」
「うん、そうだね? でも僕は岡崎はボケよりツッコミのほうがあってると思うんだけどね〜?」
 い、いやお前ら? 何でこんなところのいるの? 杏と春原を前に一瞬アホな顔になる俺。そんな俺を尻目に…。
「風子ちゃん…、私たちも負けてられないの…。朋也くんと智代ちゃんはとってもとっても強敵なの…」
「岡崎さんは自分で言って自滅するようなタイプですから大丈夫ですよっ!! ことみさん。この勝負風子たちが頂きましたっ!!」
 お前は究極の天然だろうが! しかも自分のことは棚に上げて俺を“自分で言って自滅するようなタイプ”たぁ〜どう言うことだ? ええっ? ギロリと風子の顔を睨む俺。って言うかお前らも出るのか? そう聞くと“当たり前ですっ! 優勝してヒトデ用の水槽を買いますっ!!”と風子。風子…。お前まだ諦めてなかったのな…。夏にみんなで海水浴に行ったんだが、こいつはヒトデを捕るのが目的だったらしい。が、公子さんに“ダメでしょ?” って言われてしゅんとなってたっけか?
「こりゃ手強そうだな…。おい早苗。小僧になんか負けてられねー。俺たちも帰って特訓だ!!」
「ええ、そうですね? 秋生さん。究極のボケを特訓しなくては…」
 い、いや、早苗さん。早苗さんはもうボケはマスターしてますから大丈夫…。それにその…、天然だし…。と心の中でそう思って、ふと早苗さんの顔を見ると、 いつものようにぶわっと涙が溢れてきていた。
「わ、わたしのボケは…、わたしのボケは…。天然だったんですねーっ?!」
「さ、早苗? て、てめぇ!! せっかく早苗を説得して父兄代表戦で優勝して本線で優勝して、早苗のパンを売りさばくチャンスだったってのに…。くっそぉ〜!! 俺は早苗のボケとパンが大好きだ〜っ!!」
 い、いけね! 心で思ってたのに思わず口に出してしまってたのか? オッサンはギロリと俺の顔に一瞥をくれると早苗さんを追って行ってしまった。渚もちょっと怖い目を俺に向けてオッサンたちの後を追って出て行った。まあ、あの家族はしばらくすれば機嫌よく手を繋いで帰ってくるからそんなに気にはしてないが…。って言うか古河パンでは日常茶飯事のことだしな? オッサンの向かった先を見てそう思う俺。振り返ると、智代が一人感心したようにオッサンたちの消えていった方向を見ていた。みんなは? と辺りを見回すと、いつの間にか部屋から出て行ったのか、俺と智代の二人だけになっていた。
「いいな…。ああいうのも…。そうは思わないか? 朋也…」
「ああ、悪くはないと思う。でも俺は追い掛け回すのは疲れるから嫌だけどな? ハハハ…。……なあ、智代。いいコンビ名、浮かんだぜ?」
 智代は俺にしか見せない優しい顔を俺に向けている。俺も優しい顔を智代に向けた。“トモトモってどうだ?” そう言うとふぅ〜っとため息を吐きつつ、“前に春原が言ってた言葉じゃないのか? ……まあいいか。私も実を言うとその言葉が気に入ってるんだ…” と優しい笑みを俺に見せる智代……。やっぱり俺たちって気が合うんだなと、そんなことを思った今日10月14日、俺の彼女・坂上智代の誕生日だ。

END

おまけ

 余談だが、今年の文化祭はいつになく大盛況だったらしい。特に講堂で行なわれた漫才大会は笑いの坩堝と化していた。優勝したのは以外や以外風子とことみだ。ボケをボケで返し会場の客がツッコむと言うのがウケたらしい。俺と智代はと言うと…、登場した組の中、最下位だった。ボケとツッコミを間違えたのが原因だ。智代をツッコミにさせるんじゃなかったと今更ながら思う。ちなみにここは保健室。気がつくと俺はベッドに寝かされていた。漫才は途中までは覚えてはいるんだがな…。多分智代がツッコミで裏拳でも繰り出して気絶でもしたんだろう。今、あばらが息をするたびぎしぎし言ってるしな? こりゃ骨にひびが入ってるか、もしくは折れてるかも…。ハハハ…。はぁ〜っとため息。
 ちなみに智代は生徒会の仕事がまだ残ってるため、校舎の後片付けの方に行っている。あいつ、保健室でしきりに謝ってたっけか? 最後はぽろぽろ涙を流して“ごめん…。朋也…” て言ってたっけ…。まあ、痛いけど別にいいんだけどな? 高校生活も残り少ない今年の秋はとてもいい思い出が出来たしさ…。でも、これからは智代と漫才はしないでおこうと心に誓った高校最後の文化祭だった。

TRUE END?