笑顔の連鎖


 今日9月9日は、ボクの愛する妻、椋さんの誕生日だ。結婚して2年、付き合いだしたのを含めると6年になる。椋さんのお姉さんである杏さんは春原くんと3年前に結婚して、今や双子の翔平くんと純平くんのお母さんだ。最近はよく喋るようになってボクのことを“勝平お兄ちゃん” と言って懐いてくれるようになった。椋さんもにこにこ顔で見ていたんだけど…。
「赤ちゃんが出来ました…」
 そんなことを今年の2月に言われる。一瞬、ヘッ? と自分でも呆けた顔になっていたかもしれないけどそう言う顔になっていたのかもしれない。椋さんは何だか分からないけどポッと顔を赤らめて俯き加減になる。突然そんなことを言われると気が動転すると言うかそう言う風になる。“男って言うものはみんなそう言うもんだ…” と朋也クンや、朋也クンの愛する妻である渚さんとその愛の結晶、汐ちゃんたちと一緒に、杏さんの出産現場に立ち会ったとき慌てふためいていた春原くんに朋也クンがこう言っていた。渚さんのお父さんである秋生さんもそう言っていたことを思い出す。と、とりあえず落ち着こう、そう思って、深呼吸を一つつくと、
「ほ、ほほほ、本当に? 本当の本当に?」
「勝平さん、落ち着こうと思って深呼吸したんでしょうけど、全然落ち着いてませんよ?」
 そう言ってくすくすボクのほうを見ながら微笑んでこう言う椋さん。春原くんや朋也クンもそうだったそうだけど、いざ妊娠・出産となると逆に女の人のほうが強くなるもんだなぁ〜っと思う。現にそのときがそうだった訳だしね? 身重な体でも看護師の仕事をしながら頼りないボクを支えてくれる椋さん。ご飯のほうも付き合いだした当時と比べると随分と美味しくなった。多分ボクに隠れて杏さんや渚さんに教えてもらってたんだろうね? そう思った。やがて妊娠も7ヶ月目に入り仕事のほうは休職となる。この頃からか編み物をしだした。何でも冬の季節用の赤ちゃんの帽子とか手袋とかを編んでたっけ。と言っても杏さんや渚さんに教えてもらいつつだったけど…。そうそう、赤ちゃんのものが編み終わったら僕のマフラーも編んでくれるんだって。嬉しいよねぇ〜。頑張る彼女を見て、ボクも頑張らなきゃって思って仕事に精を出す日々。そんな日々が続いているわけなんだけどさ。あっ、もちろん椋さんのお腹の中の赤ちゃんには妊娠が分かったときから2人で毎日語りかけてたわけだけどね?
 それで今日9月9日午後1時過ぎ、急に産気づいたと向こうのお義母さんから電話があって会社を早退して椋さんの入院している病院へと急ぐボク。まあ普通は生まれる1日か2日前に入院するもの? なんだろうけど初産と言うこともあって4日前に一応入院のほうは済ませておいたんだけどね? お義母さんの言うことでは姉の杏さんにも連絡しているみたいなので、安心と言えば安心かな? とは思うんだけど…。途中でタクシーを捕まえて飛び乗るボク。“ボクの子供が生まれそうなんです!” と手短に事情を運転手のおじさんに言うと、“そいつぁ大変だ!! シートベルトしっかり締めときな? 飛ばすぜぇ〜?” って言いながらアクセルをブォンと一吹き吹かすと最短コースで急いでくれたっけ。今まで見たこともない細い路地や車一台がやっと通れるくらいの橋なんかもスピードを出して走ってくれた。運転手さんは昔レーシングカーの選手だったみたいで、スロットルがどうとかアクセルペダルがどうとか、専門用語をしきりに述べていた。まあボクは相槌を打つ程度だったんだけど。と言うか難しすぎて話しについていけなかったというのが本当のところなんだけどね? その運転手さんのおかげもあってか普通なら30分は掛かるだろう道を半分以下の10分少々で目的地である病院へ到着した。って! ここに来るときに焦って財布を会社に忘れちゃったよ〜っ!! 前にも増してあたふた慌てふためいていたんだけど、“そんなこたぁ、どーにでもなるから早く行ってやんな? やや子が無事生まれるように祈ってるぜ!” 運転手さんはそう言う。ボクが“い、いや悪いです! 誰かに借りてでも…” って言ってる間もなく、“バッキャロウ!! 何をちんたらしてるんで〜い! そんなもたもたしてる暇があったら早いとこ行って奥さんについててやんな!” ちょっと怒ったように言う運転手さん。そんな運転手さんの剣幕に圧倒されるかのようにタクシーを降りたボク。ボクを降ろすと、親指をグッと立てながらウインクを1つして“あんたら家族の幸せ、祈ってるぜ…” と言うと、お金も受け取らずにブォ〜ンと行ってしまう。その車が見えなくなるまで一礼をするボクがいたんだ。
「お〜い! 勝平!! こっちだこっち!!」
 産婦人科の前で朋也クンの一際大きな声がボクの耳に届く。朋也クンに連れられて急いで分娩室のほうに行くとみんなもう勢揃いのように椅子に座っていた。もっとも翔平くんと純平くんは今はお昼寝の時間なのか、すやすや寝ていて汐ちゃんはちょっと残念そうだったけどね? “で? 椋さんの具合は?” とボクは朋也クンに聞く。パンパンとボクの肩を叩きながら、“大丈夫だ、今さっき破水したみたいだからもうすぐ産まれるんじゃないのか?” とにっこり微笑みながらそう言う朋也クン。その顔を見てほっと安心する間もなく…。


「頑張っちゃいました…」
 そう言いながら私は勝平さんの顔をチラッと見ます。私の横には産まれたばかりの私と勝平さんの愛の結晶が気持ち良さそうにすやすやと寝息を立てていました。お姉ちゃんは、“よく頑張ったわね〜。椋” と言ってくれますし、渚さんも、“椋さん、昔から頑張り屋さんですから…” といつも見せる素敵な笑顔で言ってくれます。その隣りではかつて私の好きだった人・岡崎くんが渚さんとの愛の結晶・汐ちゃんを抱きかかえて、“またお姉ちゃんになったぞ? 汐” と渚さん同様ににこにこ顔でこう言っていました。春原くんは翔平くんと純平くんの手を引いて産まれたばかりの私たちの愛の結晶をにっこり微笑みながら見ています。その顔には高校時代には絶対見ることの出来なかった余裕があって…。“ああ、お姉ちゃんが春原くんを選んだ理由が分かったよ…” そう思いました。
 笑顔の連鎖。と言う本を高校時代の現代国語の時間に読んだ記憶がありますが、今、実際私を中心に笑顔の連鎖はあるわけで…。何だかとても不思議な気持ちです。もちろんお姉ちゃんのときにもありましたけど、私と私の赤ちゃんを中心に回っている笑顔と言うのは何だか不思議でもあり、またすごく幸せな気分でもあって…。女の子用と男の子用の名前を考えていましたが、男の子用はまた次の機会ですね? そう思って勝平さんの顔を見ると私の考えていたことが分かったのか、うんと頷いて私の頭を撫でてくれました。それがとても気持ちのいい今日9月9日、私とお姉ちゃんと、そして私たち2人の大切な赤ちゃん“萌香” のお誕生日です。うふふっ…。

END