伊吹さんちの日常の1コマ
いつもの朝、わたしは横で寝ている祐くんの隣りでう〜んと背伸びをします。今日は7月20日、わたしの妹・ふぅちゃんのお誕生日です。まあお誕生日なのですから嬉しいとは思いますが、逆に言うとそれだけ歳を取ったことにもなるので一概には喜べない節もあるわけですが、ふぅちゃんの場合、“風子、また大人の階段を上りました。アダルティックな魅力もバンバン増しますっ!!” と言って憚りません。まあ最近はちょっとは大人の女性らしくはなってきたかなぁ〜っと思うのは姉の実感ですが、言動は事故前のままなのでそのギャップが激しくて困惑気味な今日この頃です。この間も、わたしの教え子で近所に住んでいる渚ちゃんの家に遊びに行くと言って出掛けて夜になっても帰ってこないものですから心配になって電話をしてみたところが、“ふぅちゃんでしたら今しおちゃんと一緒に寝てますよ?” と言うことでした。まああの子は…。と思って迎えに行ったところが、“可愛いしおちゃんを変な岡崎さんから保護してるだけですっ! 今日はお泊りしてしおちゃんを守るんですっ!!” と寝ているしおちゃんの隣りで渚ちゃんの旦那様の岡崎さんのほうをぐるぐるした目で見つめてました。
「まあそう言うことですので、風子も何やかんや言って忙しい俺たちの代わりに汐を見てくれてるんで…」
と少々ため息交じりにそう言ってくれる岡崎さん。渚ちゃんも、“大丈夫です” とにっこり微笑んで言ってくれます。じゃあお2人には申し訳ないのですけど、妹のことをお願いして帰って来たわけですが、次の日、ぽぴゅ〜っと顔を真っ赤にしてぷく〜っと頬を膨らませて、帰って来るなり私の腰にしがみついて、“岡崎さんは鬼ですっ! 悪魔ですっ!!” と言ってきます。“風子の妹のしおちゃんを風子のおうちに保護しようと思ってたのに岡崎さんってば阻止してくるんですっ!” いえ、その見解からして間違ってる、って言うかいつの間にふぅちゃんの妹がしおちゃんなの? とツッコミどころ満載です。この場合はふぅちゃんとしおちゃんはまったく血の繋がりはないんだよ? と言うことを教えてあげないといけません。そう思って言ってみたところが…、
「前世では姉妹ですっ! 風子、ちゃんと自分のトランプで占いましたっ!」
…もうどう言ったらいいのか分かりません。取りあえず占いって行っても家庭で気軽に出来るトランプ占いであって本格的なタロット占いじゃありませんし、それにプロの占い師なんかじゃなくてふぅちゃんが占ったんでしょ? と言うとしぶしぶながらこくんと首を縦に振るふぅちゃん。はぁ〜っとため息をつきつつ、時計を見てみるといい時間になってました。祐くんを起こして朝ごはんの準備に取り掛かるわたし。ふぅちゃんにもお手伝いを頼みます。にっこり笑顔でお皿を並べていく姿を見ては成長しているんだね、と思いました。もっともお料理のほうはまだまだですけど…。ふぅちゃん曰く、“これから覚えてお姉ちゃんより上手くなってみせますっ!” とのことだそう。祐くんはいつも通りな感じで、“風子も愛を知ればきっと上手くなる…” と言ってご飯をもりもり食べてずずず〜っとお味噌汁を飲んでぱんっと手を合わせて、“今日も美味かった” と言ってわたしのほうを笑顔で見つめてきます。“お粗末様でした” とわたしは返します。これが我が家での朝の日課かな? 土曜日ですがお仕事はあるので祐くんは出掛けていきます。私とふぅちゃんとでお見送りです。“今日は早く帰る” と言って出掛けていく祐くんの後ろ姿を、“いってらっしゃい” と見送ってふぅちゃんと2人、お部屋の中に入りました。今日はふぅちゃんのお誕生日と言うこともあって、午前中から渚ちゃんとしおちゃんを呼んでいたんでしたっけ? と思ってちょっとにっこりしていると、
「お姉ちゃん、何か風子に隠してませんか? さっきからおかしいですっ!」
と私の心の中を見透かしたようにこう言ってぐぐぐっと怖い目? をしているふぅちゃん。“どういう風におかしかったの?” と聞いてみるところが、“風子の嫌いなおかずがあったのに何も言われませんでしたっ! やっぱり何か隠してるんですねっ? 最悪ですっ!!” と言っていつもの顔をするふぅちゃん。“じゃあそのおかずもう一度食べてもらおうかな? ちょうど残してあるし…” と今日はふぅちゃんのお誕生日だから大目に見てあげようと思って後でわたし食べようと取っておいたおかずを冷蔵庫から取り出そうと思って立ち上がると、
「ややや、やっぱり風子の勘違いですっ!! お腹はいっぱいですからこれ以上は入らないですっ!!」
と言って慌て出すふぅちゃん。そう言うやり取りをしていると、玄関からピンポーンとチャイムの音がしました。ああ来たんだね? と思って出ようと玄関口に歩き始めると、“風子が見てきますっ! お姉ちゃんはここで待っていてくださいっ!” と取り繕うようにだだだっと走って行ってしまいました。まあ妹もそういうことを覚え始めたのかな? と思えばちょっと嬉しく思ったり…、とそんなことを考えていると、ふぅちゃんの嬌声が聞こえてきました。
「何で変な岡崎さんまでやって来るんですか? せっかく風子としおちゃんの仲良し姉妹のいいところなのにっ! 猛烈最悪ですっ!!」
と夕方、祐くんと一緒に来た渚ちゃんの旦那様、岡崎さんに向かってこう言うふぅちゃん。“何でってそりゃお前の誕生日だからだろ? ああ〜、そっかそっか〜、せっかく芳野さんと選んだこのヒトデ型のクッションもいらないのか〜。ああ、残念残念…” そう言ってじゃーんと見せつけたクッションを袋の中に仕舞おうとする岡崎さん。“相変わらず岡崎さんは卑怯卑劣最悪大魔王ですっ!” と言って仕舞おうとしていたクッションを取り上げて、いつものようにぽわ〜っとなってるふぅちゃん。その状態で20分くらい…。料理のほうはわたしと渚ちゃんとでやりましたからそれほど苦労はしなかったですけどね。でも、ふぅちゃん。自分の世界に入り込むとなかなかに抜け出せないその癖はちゃんと治しておいたほうがいいよ? と、そんなふぅちゃんの将来が些か不安になる今日7月20日、わたしの可愛い妹、ふぅちゃんの22歳の誕生日です。
END