風子、入道雲を食べる?
今日7月20日は隙あらば俺と嫁の愛の結晶である娘を事あるごとに誘拐していこうとするお騒がせな高校時代からの女友達な伊吹風子の誕生日だ。この間オッサン宅から綿菓子製造機なるものをもらった。まあオッサン曰く、“てめぇにやるんじゃねぇ! 渚と汐にやるんだ!” とギリギリ歯を言わせながら言っていたわけだが、俺自身は甘いものはあまり食べないので、適当に何事かお礼なんぞを言ってもらって帰って来た。嫁が、“朋也くん、何を買ってきたのです?” と言うので、“買ってきたんじゃない。オッサンから貰ったんだ” と言うと目を丸くして、“お父さん、わたしには一言もそんなこと言ってなかったのに…” とやや不満げに何事かぶつぶつ言っていた。娘は娘で珍しそうに綿菓子製造機のほうを見遣っている。
「パパ。これなに? なにするもの?」
と聞くので、“これはお空に浮かんでる雲を作る機械だよ?” と少々嘯いて言ってやる。まあ保育園年長組でもしっかりしてるうちの娘のことだから綿菓子製造機を雲を作る機械だとは思わんだろうし、仮にそうだとしても雨の日なんかにこんなもので雲を作っていたら機械が何個くらいいるんだ? と言う話になる。案の定娘には、“ウソだぁ〜。お空の雲がこんな機械で作られてたら機械がいくつあっても足りないもん” と言われてしまい正直に白状したわけだが…。ぷぅ〜っと頬を膨らませて俺の顔を見遣るその顔が何だか嫁の顔と同じ感じがして思わずぷっと吹き出してしまいそれが元でまた嫁が拗ねてしまったことは言う間でもない。1時間後…、ようやく嫁の機嫌も直ったので、機械を動かしてみることにする。ぐおんぐおんと言う起動音とともに動き始める機械。真ん中の穴の開いた場所に砂糖(この場合はザラメか…)を入れるとしばらくして糸を吐き始めた。割り箸でくるくる円を描くようにすると面白いように取れる。嫁と娘はやりたそうに手をうずうずさせていた。昔、屋台でこんなふうにやっているところを見て、“俺もやってみてーっ!!” と思っていたのだが思いも寄らずこんな感じで実現できるとはなぁ〜っと感慨に浸りながら席を譲ってやると娘と嫁が飛び込んできたのにはびっくりした。“ママは後でパパと出来るんだから汐が先!!”、“汐ちゃんは使い方が分からないんですからママが先に見本を見せるんですぅ〜” と言い合いながら箸をぐるぐるさせている。まあ娘はいいとして嫁は何と言うかこう言うことには我先にと飛び込んでいく。昔はもう少しお淑やかだったのになぁ〜なんて考えつつ、ぐるぐる2つの箸を見つめていた。
で今朝のこと。夏休みに今日から入る娘はいつにも増して元気なわけだが、嫁は嫁で風子の誕生日に出す献立を考えている。うちではもう身内同然な扱いになっている風子。それでいて俺にだけは警戒してくるのが少し…と言うか大変に不満だ。そのことを風子本人に言うと、“岡崎さんは警戒されも不思議ではありません! 風子の汐ちゃんをさらっていこうとするし風子の好きなヒトデのフルーツは食べようとするし…。岡崎さんは最悪人間ですっ!!” いや、ちょっと待て。後者は何となく分からなくもないが、前者は全く訳が分からんぞ? 大体いつもさらっていこうとしているのはそっちじゃないのか? と言うと、“風子は可愛いしおちゃんが岡崎さんに毒されないように保護してあげてるだけですっ!!” と目をぐるぐるさせながら言う風子。これで俺と同い年なんだからやっていられない。いや、正確に言うと俺のほうが3ヶ月と10日ほど生まれは後なんだが…。まあこの際そんなことはどうでもいい。この見た目も中身もおこちゃまな風子を何とか家に誘い出さなければならないわけだ。少々卑怯ではあるが汐をだしに誘い出してやろう。
そう思い昨日の夜、電気工事の今後の日程とかの用事で芳野さんからちょうど呼ばれた際に家にいた風子に、“汐がそう言え風子に会いたがってたなぁ〜” なんて言ってやる。まああ今じゃないがな? とか考えてる俺の前、そう言った途端にどたどた言う音がしたかと思ったらいつものお泊りセットを用意した風子が立っていて今にも家を飛び出そうとしているではないか? ちょっと待てと言うと、“汐ちゃんの助けを呼ぶ声が聞こえますっ!! 岡崎さんが止めたって無駄ですっ! 風子助けに行きますっ!” と言って聞かない。風子マスターの称号も今じゃあ汐に譲っているので俺が言ったって聞くはずもない。しかし、困った。このまま連れて行くと誕生日のサプライズが水の泡になってしまう。それだけならまだいいが、家にはある意味一番厄介な嫁がいるんだ。絶対今連れて行ったら後で何を言われるか分からん。それだけならいいんだが言い訳染みたことを言うと必ず、“嘘だっ!!” とどこぞの鉈女のように言われて、恐怖で身を縮みこませなければならんわけで。何とかごまかす手はないものか…。とは思ったがこれと言ってごまかせるようなものも話術も持っていないわけで…。一か八か公子さんに賭けてみよう、もしかしたら嫁が何か話しているかもしれないし…。と公子さんのほうを見る。俺の視線に気が付いたのか公子さんが、“ふぅちゃん、そんないきなり行ったら迷惑でしょ?” そう言ってウインクしてくれた。さすがは嫁! と思ってそそくさと芳野さんの用事だけを済ませて帰る俺。風子の“最悪大魔王ですっ!!” とぐりぐりした目で俺を睨む顔にちょっとだけ恐怖を感じたことは俺だけの秘密だ。なんとこうにかうまいことを言って風子には遅れて来るようにとだけ言い残いし芳野家を出る俺。しかしワガママさにもますます磨きがかかって俺の言うことなんざ全然聞こうともしなくなったなぁ〜っと思うと何だか悔しく感じたのだが、前にも言ったようにもう風子の扱いは娘のほうが長けているので何とも言えない敗北感を感じながら家へと帰る俺がいたわけだが…。
で、現在、綿飴製造機の前に陣取って箸をぐるぐる動かしている風子がいるわけで…。雲みたいに飴が割り箸に絡めとられていく様は何と言うか心地いい。“風子お姉ちゃん、汐も一緒にしたいなぁ〜” という娘の声にトリップしながら、“じゃあ風子と一緒にしましょう” そう言って一緒にぐるぐる箸をかき回す。嫁も仕込みが終わったのか、一緒にぐるぐる綿あめ作りの仲間に入った。女の子が3人きゃいきゃい言いながら何かを作る(この場合綿あめなのだが)光景は見ていて実に微笑ましい。まあ正式には女の子は1人だけなんだが…。どれ、俺もするかとばかりに箸を機械に持っていこうとするや否や、ぎん! と俺の箸が止められる。止められた先を見ると、案の定我が宿敵な感じの風子が俺の箸を自分の箸で止めていた。なあ、風子さんや。何で俺だけ止められるんだ。そう思い顔を見ると、
「せっかくしおちゃんと渚さんと楽しくやっていたのに、岡崎さんが割り込んでくるなんて最悪ですっ!!」
と俺の考えが分かったのかそうのたまう風子。“それに今日は風子のお誕生日です。風子が主役なんですから脇役な岡崎さんはお部屋の隅っこで大人しく見てるかカメラ係が常ってものですっ!” とない胸を突き出して偉そうに言う風子。こ、この野郎…、とは思ったがここには俺の一番恐ろしい存在がいるんだ。少しでもケンカなんてしようものならぎろりと俺の心臓を居貫くような目が光る。口答えなんぞをしようものならそれこそどこぞのお城の破滅の言葉と同様に恐ろしい言葉が待っているわけで…。ハハ、ハハハハハハハハ…。はぁ〜っともうため息しか出ない今日7月20日、自称・娘の姉で俺にだけ敵愾心を向けてくる厄介すぎる友達? 伊吹風子の28回目のバースデーだ。ぐふっ…。
END