似ても似つかぬ、でもそっくり
今日9月9日は、藤林杏と藤林椋、似ても似つかない双子の誕生日だ。双子と言うと似ている双子もいれば似てない双子もいるのだが、杏と椋は似ている双子、つまり一卵性双生児のほうだ。一卵性双生児はよく行動パターンや思考その他のシンクロ率が非常に高いとどこかの雑誌で読んだことがあるのだが…。
「朋也ー!」
「お、岡崎くーん」
呼び方からして違う。うーん…。謎だ。いろいろな意味で謎だ。
「なに真剣な顔してうんうん唸ってるの? あんたらしくないわねー。って何か悩み事? …椋に占ってもらう?」
「お、お姉ちゃん!」
男勝りな性格で誰とでも気軽に話せる姉の杏、引っ込み思案でちょっとおどおどしたところがある妹の椋。ちなみに椋は我がクラスの委員長だ。と言っても無理矢理ならされたのと同じなんだが…。だからかクラス連中は“委員長”と呼んでいる。まあその中の一人に俺もいるわけだが…。顔を見ればそっくりなんだがなぁ〜。そう思ってまじまじと顔を見つめていると、ぽっと頬を赤らめた委員長がこう言ってくる。
「岡崎くん…、わ、私とお姉ちゃんの顔に何かついてますか?」
「んっ? ああ、違う違う。なんでもない…。ただ二人とも顔はそっくりなのに性格は180度違うなぁと思ってな?」
突然悪寒を感じる…。横を見ると目を光らせた杏が“あ゛あ゛っ?” って言う顔で俺の顔を睨みつけていた。恐怖に足が竦む。しばらくギロリッと俺の顔を睨んでいた杏はいつもの顔に戻るとふふんと笑いながらこう言った。
「ところがどっこい、似てるところもあるのよね〜。これが…」
「具体的にはどんなところだ?」
疑問に思った俺はそう聞く。まあ一卵性双生児はシンクロ率が高いらしいし、それに同じ屋根の下で暮らしてるんだから似てないはずもないんだが…。でもなぁ〜。あの辞書攻撃で名高い杏と、トランプ占いでは当たったためしがない(タロットになると的中するんだよな、これがどういうわけだが…)占いの委員長だぞ?……。どう見ても似通ったところがあるなんて思えない。といつの間にか俺の顔をまじまじと見つめながら杏がこう言う。
「朋也〜。何か失礼なこと考えてない? あんたがそんな顔をする時って絶対変なこと考えてる時だわ…。うん」
うっ?! 顔に出てたのか? ぺたぺたと自分の顔に触る。と、“あははははは” と杏の笑う声と、“うふふふふふ” と笑う委員長の声。見ると、けらけら笑う杏と、口元を押さえつつ笑う委員長。同時に笑い出したのには少々驚いた。しばらく経って落ち着いたところで委員長がこう言う。
「岡崎くん、こう見えて私とお姉ちゃんって結構似てるところも多いんですよ? 例えばアクセサリーの好みとか、食事の時に何から先に食べるのだとか、勉強の時に何から先にするのだとか、あ、あと、男の人の、タタ、タイプとか……」
ちょっと最後のほうが聞こえなかったんだけど? と委員長のほうを見るとなぜか赤い顔をして俯いていた。何なんだ? いったい? と、突然杏が俺の手を引くとこう言う。
「それよか、今日はあたしたちの誕生日なんだから、あんた、プレゼントの一つでも買っててくれてもいいんじゃないの?」
「なっ? 何で俺が…」
「だって聞いてきたのはあんたじゃないの? そうでしょ?」
得意満々で俺の顔に人差し指を突きつけてそんなことを言う杏。うううっ……。我ながら墓穴を掘った。でもまあいいか…。最近バイトをし始めたんで金には多少の余裕はある。それにいつも世話になっている委員長と、多少なりと世話になってる杏の今日は誕生日だしな…。
「おっどろいたー!! あんたがほんとにプレゼント買ってくれるなんて…。こりゃ明日は嵐ね? きっと…」
「お、お姉ちゃん…。岡崎くんに失礼だよ? ごめんね? 岡崎くん…」
驚き顔の杏と、どことなしか嬉しそうな委員長と…。そしてむすっとした顔の俺。3人で商店街のアーケードをくぐり家路に着く。二人の手には可愛らしいイラストがプリントされた小さな袋があった。しかし、プレゼントを買ってもらっておいてその言い草はねーだろうがよ? 杏…。“ああ、そうかよ…” 少々腹が立ちながらそう言って俺はそっぽを向く。杏は、“ああ、ごめんごめん。もちろん嬉しいわよ” と言って手を合わせながら謝って、そして取り繕うようににこっと微笑んだ。委員長は、“岡崎くん、お姉ちゃんはああ言ってるけど心の中では嬉しいんですよ?” と言って微笑む。杏は恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべていた。
“ったく…” 溜め口を一つ吐くと二人の顔を見る。夕焼けに映る二つの笑顔。一方は可愛く微笑み、もう一方は照れ笑いを浮かべていた。そんな二つの笑顔が何気なく、“似てるよな…” と感じた、今日9月9日、藤林杏と藤林椋の誕生日だった。
END