ほっと一息ついたなら
「何であたしと椋が陽平たちの勉強を見なくちゃいけないわけ?」
と僕の目の前で彼女はぷく〜っと頬を膨らませる。今日9月9日は目の前の双子姉妹・藤林杏と藤林椋の誕生日なわけだ。で、僕の隣り、今年もクラス委員長になった委員長で今日の双子の妹・椋が柊ちゃんに優しく問題の解き方を教えている。にしても幸村のよぼじじいのやつめ! 何か僕たちに恨みでもあるのかと言うくらい課題を出してきやがった。“頑張って解け…” そう言ってよぼじいは教室を出ていく。岡崎は? と見ると、彼女の渚ちゃんと帰るところだった。って! 何で課題、岡崎は出てないの? と不思議そうに岡崎を見る僕に気付いたのか、“悪いなぁ〜。春原…。俺、もうその課題授業中に終わらせたんだわ。まあ杏にみっちり教えてもらえよ〜” そう言って渚ちゃんと一緒に何か目配せをして帰っていった。そんな2人を早く帰れていいなぁ〜なんて思う僕に、
「あのねぇ〜? こっちはわざわざ時間まで作ってやって勉強を見てやるって言ってるのに、なに? その言い草は…」
とギロリとした目を僕のほうに向けて言う杏。委員長もちょっと非難の目をしてこっちを上目遣いに見つめてるし。はぁ〜、やるしかないのか…。そう思い柊ちゃんと2人課題をすることになったわけだけど…。って言うか、柊ちゃんってうちの高校だったっけ? とか何とか思ってると、“嫌だなぁ〜、秋原クン、9月に編入してきたじゃない。もう忘れちゃったの?” なんて上目遣いの口を少し尖らせて言う。顔が女の子っぽいからかそんな表情で拗ねたように言われると内心ドキッとなってしまう僕がいるわけで…。そこを目ざといと言うか何と言うか一応僕の彼女である杏が見逃すはずもなく。
「うっわっ! 両刀使い…」
なんて言う。当然僕にはそんな気は毛頭ない…と言えばウソになるけど今はない。“両刀使いってなんなのさ!!” っていつになくすごい剣幕で言うところが、“ま、まあいいじゃない。冗談で言ったんだから。冗談で…” とうまく話をごまかそうとしている杏。そんな杏に、“春原くんはそう言う気があるかも知れないですけど、勝平さんは全くありませんっ!!” といつになく強く抗議の声を上げる委員長…って一番可哀想な存在が僕になってない? ねぇ? と杏の顔を見る僕に、“わ、悪かったわよ。ごめんなさい。でも陽平も陽平なんだからねっ! あたしがいるにも関わらずに…” とちょっとぷぅ〜っと膨れた顔でこう言う杏。嫉妬深いと言われるとそうなのかも知れない。例えば街中でちょっと可愛い女の子がいて、僕が少しでも見ようものなら大変なわけで…。まあ一般的には“何見てるのよ?!” とか何とか言って拗ねられるのが極々一般的な形なんだけど、杏に限っては、むぎゅ〜っと胸を僕の腕に押し付けてやけに怖い目をしながら笑ってくるわけで…。恥ずかしいやら怖いやらでとんでもなく恐ろしいことになる。と言うかそれを昨日の夕方やられたんだけどさ。と言うか、いざ彼女が出来ると男は浮気心が出てどうもダメだねぇ〜っと思うわけで。そうこうしてるうちに勉強にも身が入ってくる。知らない間に1、2時間が過ぎていた。
ふっと杏が気になって顔を上げる。普段見ることがないような穏やかな笑顔って言うのかな? そんな顔をして僕のほうを見てる。委員長も杏と同じような顔で僕の横で頑張る柊ちゃんの顔を見てる。ふっと顔を上げた柊ちゃんと目が合った。“うん…” と暗黙の了解みたいに目配せをする僕たち。また問題に目を戻す。なぜかは分からないけど、必死で頑張る僕たちがいた。
「やっと終わった〜。これで帰れるよ〜。ふぅ〜。と、その前に…」
そう言ってわざとらしく、大きなため息をつく春原クン。ボクも“そうだねぇ〜” と一伸びする。鞄の中をゴソゴソしだすのでそろそろ渡すのかな? そう思ってボクも同じようにゴソゴソしだす。椋さんたちは一瞬何を始めたのか分からない様子だったんだけど、取り出したものを見て、にっこり微笑んでいる。この前椋さんたちには内緒で春原クンと朋也クンと朋也クンの彼女の渚さんとでプレゼントを買いに行った。まあ男2人で選んでもなぁ〜ってことで女の子の意見も参考にしたかったんで朋也クンの彼女の渚さんの言うことを参考にしようと言うことになったんだけど…。“大きな声じゃあ言えんが渚はだんご大家族しか分からんぞ?” と朋也クンが耳打ちして教えてくれる。って、ええ〜っ!! と素っ頓狂な声を上げるボク。
それは向こうで丸い球みたいなものを見ていた渚さんのほうにも届いたみたいで、“わっ、わ〜っ。大きな声を出すな!!” と言う朋也クンのほうに駆け寄ってくる渚さんは何だかとっても怒ってそうな顔をしていた。“朋也くん、またわたしがだんご大家族くらいしか知らないだろうとか勝平さんに言ってたのではないですか?” とぷく〜っと頬を膨らませて言う渚さん。対する朋也クンは、“そ、そそそ、そんなこと、あ、あ、あるわけないだろ?” と言いながら汗がダラダラ流れてる。おもむろに口を噤む渚さん。そうして目をかっと見開いたかと思うと、“嘘だっ!!” とこの間テレビで見た殺人事件物のドラマのヒロインのような口ぶりでこう言う。朋也クンは案外こう言うものには弱いのか、“ひぃぃぃぃぃぃ〜っ!!” って言う情けない声を上げていた。普段の朋也クンを見ているボクには何か新鮮だ。横で見ていた春原クンは、“柊ちゃん、岡崎は時間がかかりそうだから、どこか違うところ探そうか…” そう言ってボクの手を引いて遠ざかっていく。あとで春原クンに聞いたところあの丸いものこそが、“だんご大家族” なんだって…。でもあの渚さんの変わりよう、怖かったなぁ〜なんてつくづく思いつつ、ふと目の前の棚を見ると…。
「やっと出てきたか。それじゃあそろそろ行くぞ〜。風子やことみや智代も待たせてるしな?」
と校門前で俺は言う。当然ではあるが横にいる俺の彼女も今日の主役たちを待っていた。勝平は先日のデパートの一件から何だか渚が怖いらしくあまり俺にベタベタしなくなった。まあ他人のことは言えたものじゃない俺も渚の、“嘘だっ!!” には恐怖を覚えてしまうわけで…。そんなこんなでいつも通りの宴会場と化している古河パンのほうに向かって歩き出す。“待ってたの?” と杏が聞いてくるので、いったん家に帰って荷物やら置いて出てきたんだと言うと、なぜか安心したように、“そっか。じゃあ行きましょ” そう言って春原の手を引いて歩き出す。“おい、どこに行くのか分かってるのか?” と聞くところが、“いつもの会場でしょ?” とウインクしながら言う。委員長と勝平も終始ニコニコ顔で俺や春原たちの後に続いいた。まあこんな学生の溜まり場みたいな会場と言えばあそこしかないだろうしな。そう考えてそれぞれに恋人の手を取り歩き出す今日9月9日は俺の女友達とクラスの委員長の双子姉妹、藤林杏と藤林椋の18歳の誕生日だ。
END