風子、ヒトデを食す?


 今日7月20日は俺の高校時代の知り合いで、何だかんだと言いながら俺と渚の愛の結晶である汐を連れて帰ろうとする厄介な友達、伊吹風子の誕生日だ。高校時代、不良として通っていた俺ではあったのだが、今では仕事も覚え、毎日忙しく働いている。それは、春原や今は春原の嫁さんの杏や、委員長や智代、ことみや風子、それに俺の最愛の嫁・渚のおかげだと思う。俺が不良になる原因を作った親父も今は祖母の家の横に家を立てて野菜を作りながら生計を立てている。この間汐と渚を連れて行くと、大いに喜んでたっけ。その微笑んだ顔を見ながら“良かったな? 親父…” と心の中でいつもそう言っているわけだ。
 で昨日、仕事から帰ってみると何やら宅急便らしい段ボール箱が置いてあった。“親父からか?” そう思ってあて先のところを見ると案の定親父からだ。また野菜でも作ったから送ったんだろうな? そう思って渚に“何時くらいに届いたんだ?” と聞くと、
「朋也くんが帰ってくる少し前ですよ〜?」
 といつものにこにこ顔でこう言ってくる。帰ってくるときにすれ違ったあの宅急便の車がそうなんだろう。そう思い汐を呼んで一緒に開ける。最近すっかりお姉さんぶってきた汐はよく渚の手伝いなんぞを率先してやることが多くなった。まあ汐の通う保育所の先生が高校時代の悪友である杏の影響も多分にあるんだろう。だからか、時々俺が言うこと聞かなかったりすると、非常に恐ろしい目でギロリと睨むことがあるんだが…。“いちいちそんなことまで教えるんじゃねえ!!” と言いたいわけだが、相手が相手だけに言うことも出来ず、“不幸だ…” とどこぞのウニ頭の少年のように呟く俺がいるのだが…。
 春原も随分と苦労してるんだろうな? とは思うがあいつは意外や意外に亭主関白なのか、へーこらしているところを見たことがないぞ? まああいつの家は双子の男の子だし、結構子煩悩のところもあるから、“父ちゃん” って言って離れないらしい。その辺は俺も変わりはないのだが…。しかしながら女の子はある一線を越えると、男親は惨めなものだと言うことを聞いたりしているので、俺もいつそうなるのかと思うと今から不安なんだけどな? 渚に言うと、“しおちゃんは朋也くんのこと大好きですからそんなことをは絶対ないと思います!” とやや真剣な顔で言ってくる。まあ休みのときはなるべく遊んでやろう。そう思った。
 開けた中を覗く。いつもながらに野菜なんかがどっさり入っていたのだが、星型の野菜やら果物やら訳の分からないものが入っていた。何だこれ? と渚に聞くところも渚も知らないらしく首をぶんぶん横に振っていた。早速親父のところに電話をして聞くところによると、その訳の分からん星型の物体は、“スターフルーツ” と言うれっきとした果物らしい。親父も初めて作ったんだそうだが上手く出来たらしく一緒に送ってきたらしい。やや黄色身を帯びているがこれが食べごろなんだとか。一つ切って食べてみるかと思い色の良さそうなのを取り出そうとすると、汐が言う。
「ねぇ、パパ。明日風子お姉ちゃんのお誕生日会するでしょ? その時にしようよ」
 そうだった。明日は風子の誕生日だったなとスターフルーツを元の箱へ戻しながら俺はそう思う。そういやこの間風子の誕生日プレゼントを汐と渚とで作ってたっけか? 大きな星型のクッションに可愛い目がついていてそれが非常に可愛いらしい。普段可愛らしいものを見ても何も感想も出ない俺が言うくらいだから相当なものだ。汐は“もう一つ作って〜” と駄々をこねていたっけか。でもこの星型クッションでさえ風子に言わせるところの“ヒトデ” なんだそうだ。かく言う俺も嫌々ながら星型のペンダントなんぞを買っておいたわけだが…。しかしながらこんなことをしたところで俺に対しては、“変な岡崎さんですから絶対変なプレゼントに違いないですっ! 最悪ですっ!!” と言ってくるに違いないのだが…。現に昨年そんなことを言われて非常に悔しかったことを覚えている。今年は何もしてやらねぇ〜っ! とは思ったわけだが、時々俺も渚も忙しいときとかには汐の世話なんかを頼んだりしているので、俺自身はすごく嫌なわけだが世間体と言うことで購入しておいてやった。
 で、次の日。風子の誕生日当日となる。一応誕生日会は午後の6時くらいからとなっているので、昼間は風子のお姉さんであり渚の恩師でもある公子さんの旦那さんで俺の直属の上司でもある芳野さんと電気工事の作業をする。この人は元ロッカーと言うこともあってか時々アツい台詞を言う癖がある。今日もいつもの愛妻弁当を食べているときのこと、芳野さんと見比べて“やっぱり何年も夫婦をやってきてる人とは違うなぁ〜” と思ってると俺の心を読んでいたのか、“夫婦は時間じゃない。愛の深さだ…” と言ういつもながらにアツい言葉を言ってくれる。まあ俺も愛の深さでは負けてはいないと思うし、汐と言う愛の結晶にも巡り合えたわけだから言うことはない。ちなみに芳野さんのところにも昨年の12月にやっと愛の結晶が誕生した。春原一家と一緒にお祝いの品を入院している病院に持っていくと、早速病室で公子さんの子供を嬉しそうに眺めていた風子が、“わっ! 変な岡崎さんとお友達の人がやって来ました! ってしおちゃんに翔平ちゃんに純平ちゃんも一緒ですか? うふふふふ〜、風子、それだけでご飯何杯でもおかわりできますっ!!” そう言って汐や春原の子供のところに行くとぷにぷにした頬を触ったりなんかして楽しそうに遊んでいたっけか。あれからそろそろ7ヶ月経つんだなぁ〜っと思ってふと芳野さんのテーブルを見ると俺と同じように子供の写真が飾ってあった。どこの親も同じだな? と思うと妙に嬉しくなってくるわけで。自分の机の写真立ての家族写真を眺めて改めて俺はこの家族を守っていかなくてはと思った。
 仕事のほうも一段落ついて、仕舞いとなる。芳野さんにとっては義妹にあたる風子の誕生日と言うこともあってか、何だか嬉しそうな芳野さんがいるわけで。その光景を見ながら帰り支度をする俺もいるわけだ。一緒に会社を出て歩くこと10分少々。多分今頃古河家ではひっちゃかめっちゃかの大騒動になっていることだろう。宴会場所は高校時代からいつも古河家だ。これに関してはちょっと気が引けるのだが、早苗さんもオッサンもその辺は分かってくれる人なので俺としては非常にありがたく思うわけで。昨日電話をかけたら智代も来るって言っていたからその辺は杏と2人で何とかやってくれるだろう。ことみにはまあ汐たちの相手をしてもらって、と…。今日の主役の風子には午後6時くらいにオッサン宅へ来いと連絡をしておいた。付け加えで“約束を破って早めに来たら二度と汐には会わせねーぞー…” と脅迫めいた言葉を言って脅しをかけておいた。まあ実際会わせないわけでもないしそれにあの風子のことだ。俺の言うことなんて全然聞かないんだろうな。しかしながら俺のことや如何、汐のことになると素直に言うことを聞く風子に“何で汐のことになると言うことを聞くんだ? と言うより俺の言うことも少しは聞いてくれ〜!!” と心の中で滂沱の涙を流しながらそう叫ぶ俺がいたんだけどな?
 いつもの宴会場所、古河パンの敷居を跨ぐ。奥のほうからわいわいがやがや賑やかしい音が聞こえてくるんだからもう風子以外は全員着てるんだろう。そう思って芳野さんと一緒に勝手に上がって奥の座敷を見るところが……。


 今日7月20日は風子のお誕生日ですっ。ですから風子楽しみで仕方がありません。思わずお部屋の中で小躍りしてしまいました。お姉ちゃんはと言うとこの間から風子に隠れて何やら怪しいことをしています。変な岡崎さんでもないのに…、と思って風子その場で分かってしまいました。これは絶対変な岡崎さんが何かの魔法でもかけて、お姉ちゃんを風子から遠ざけようとしているに違いないと! そう思うと風子何だか勇気が湧いてきてしまいます。早速お姉ちゃんの後をつける風子。そういえば、しおちゃんも最近何だか様子がおかしかったような…。と考えてまたはっ! と気がつく風子。前々から根性がひねくりまくりだとは思っていましたが、どこまでもひねくりまくりなんですね? 風子の妹のしおちゃんにまで手を出すとはどういうつもりですか?! 少々ムカつきながらもお姉ちゃんの後を追っていくと、そこは渚さんの実家の古河パン。こんなところに悪の巣窟があったなんてとは思いましたがそこは正義のヒロイン・風子ですっ!! 臆することなく入りました(まあ少しだけ、ほんの少しだけビクッとはなりましたけど)。
 気づかれないようにそ〜っと中の様子を覗きます。何やら変な岡崎さんの友達(にしてはすごくまともな)、杏さんと智代さんがあれこれ指示を出しているように見えます。風子の友達のことみさんの姿も見えました。この間から、“ちょっとご用事があるの…。だから風子ちゃんごめんなさいなの…” って言ってヒトデの球団の応援も一緒にしてくれなかったんですが、まさか変な岡崎さんの魔法に引っかかるなんて…。風子がそばについていればこんなことにはならなかったのに…。でも相変わらず岡崎さんは卑怯ですねっ!! マスター・オブ・卑怯とでも言うのでしょうか。そう岡崎さんの妙ににやついた顔を思い起こしてぐぬぬと唇を噛み締める風子。こうなれば強行突入でもしてしおちゃんだけでも助け出してやりますっ!! そう思って意を決して風子、バーンと襖を開け放ってやりました。すると…。


「全く岡崎さんはイジワルですねっ?! でも…、わざと風子に内緒にしてこんな素敵な誕生日のパーティーを用意してくれているなんて…。とても嬉しいですっ!」
 ぷんすか怒りながらもにっこり微笑む風子。その顔にどっちが本当の風子なんだとは思うが、そのどっちもが本当の風子なんだろうと俺は思う。隣りの公子も半分呆れ顔で半分は嬉しそうに微笑んでいた。岡崎はと言うとやや疲れたような笑みを浮かべていた。確かみんなで風子を驚かそうと言うことだったらしいのだが、風子が先に来てしまったんだな? そう思って岡崎の肩をぽんぽんと叩きながら、“これも愛がなせる業だ…” そう言う俺に、はははっと少々乾いた笑いを浮かべてガクッと項垂れる岡崎。余程ショックだったんだろうな? そう思ってしばらくそっとしておいてやろうと風子のほうを見ると何やら目をきらきら輝かせていた。何だ? と思って目を輝かせている先を見てみると、なるほどその原因が分かった。俺も“愛”と言う言葉に弱いが、風子は“星型(本人曰くヒトデ型なんだそうだ)”に弱いな…。まあその辺は公子と付き合いだしたときから気づいていたが…。
「こんな、こんな可愛いヒトデがいっぱい…。うふ、うふ、うふふふふぅ〜…」
 そう言うと岡崎曰くところの“旅立ち状態” になってしまう風子。風子の目の前には星型の物体(と言うか果物か、これは…)の乗っかったケーキがでんっ! と置いてある。俺が予想するにこれはあと2時間くらいは“旅立ち状態” から帰ってこないだろうな? そう思いながらまだまだ準備中な誕生日会の中…。岡崎の友達や岡崎の嫁や義理の両親や公子が忙しそうにあっちやこっちやに飾り付けをしている今日7月20日は俺の義妹、伊吹風子の誕生日だ。

END