お歌を歌おう?


 今日5月13日は俺の女友達の1人、一ノ瀬ことみの誕生日だ。7年前の偶然の出会いから俺はことみの真実を知り、またかつて俺が親に隠れて遊びに行っていた大きな家の女の子だったと言うことは正直驚いた。それから紆余曲折いろいろあったんだが今はこうやって笑顔を見せてくれるようになった。それが俺には嬉しかったし渚や杏や春原たちも、ほっとした顔になっている。でも俺が一番良かったと思うことは、やっぱり友達が出来たことだろう。そう思う。ことみの友達、まあ俺や渚たちは当然なんだが、一番の友達はやっぱり風子だろう。俺はそう思う。両方共が1人でいることが多かったし、性格も風子はともかくことみはすごく内向的だったので1人図書室で本を読むことが多かったわけだが。最初こそおどおどしているみたいだったけどだんだんと慣れてきて最後は2人して俺のことについていろいろ転削してくる有様でさすがに参った。まあそんな感じでいつも一緒にいるわけだからか、ことみと風子はもう10数年来付き合っている親友と言う間柄のように見えるわけだ。でも7年経っても相変わらず親友関係を変わらず続けているので会わせてよかったと思う。まあ相手が汐とどっこいどっこいな風子だけに、中身は子供な感じのすることみにすれば一番気が合うんだろうけどな?
 で、今年…。今年はことみの誕生日とみんなの顔も見たいと言うことも兼ねてみんなでカラオケにやってきたわけだ。仕事もそこそこに切り上げ新婚ホヤホヤの春原と杏、それに勝平と椋、オッサン夫婦に芳野さんちと言う豪華メンバーでやってきた。代金はそれぞれの家庭で持ち寄り、独身の者は一人で支払うようにする。唯一今日の主役のことみは、言い出しっぺの俺が支払うことになった。大人数でも使える部屋を取っておいたのだが正直広くてびっくりした。俺たちの住むアパートの総面積より広いんじゃないのか? ここ。と辺りをきょろきょろしながら適当な席に座る俺。早速何か入れてやろう、と思いリモコンを見るが、ない。オッサンがもう入れている最中だった。相変わらず早いのな? オッサン…。と俺が思ってると聞こえてくるのは某・ロボットアニメの曲。やっぱりそれでこそオッサンだな? と思わざるを得なかった。
 渚と一緒にその光景に苦笑しつつ、俺たちも自分の歌を選ぶ。歌詞一覧表? と言うかそう言うものを見ながらふとことみのほうを見ると、風子と何か選んでいる。その光景をちょっと微笑ましく見つめながら目を戻す。と、芳野さんがすくっと立ち上がった。聞こえてきた曲はおおよそ見当はつくがロックな曲だ。元ロックシンガーな芳野さんの魂を揺さぶる歌声に俺初めみんなが酔いしれる。盛り上がってきてほぼライブ会場と化したカラオケボックスの一室ではあったものの、芳野さんが歌い終わると急に静かになった。それは夏の花火会場の花火が終わった時のように静かになる。まあそんな感じで一人一曲ずつ歌ったわけなのだが、ことみは未だにう〜んと歌詞ノートを見つめたままだ。歌はことみ以外ほぼ全員歌った。風子も汐と一緒にアニメの曲を歌っていたのだが、汐はともかく風子…、お前まだそんな歌知ってるのか? と呟くと、“風子、若いですから知ってますっ!! 岡崎さんがただオジサン化しただけですっ!!” と言ってどーんとない胸を突き出して偉そうに言う。さすがは25歳児と言われる? ことはあるな…。うんうん。と1人合点がいくように頷いていると、横に座ったことみと渚がぎゅっと胸を俺の腕に絡めてきた。顔を見れば両方ともがむぅ〜っとした顔になっていて前を向くとこれまた俺の娘が嫁と同じ顔でむぅ〜っと見つめている。“朋也くん! 風子ちゃんに謝ってなの!!” いつになく強い口調でそう言うことみ。まあ親友の悪口を言われたんだから当たり前と言っては当たり前か…。そう思い風子に謝る俺。帰りにヒトデ型のキーホルダーを買うことで何とか収まった。俺の財布がさらに軽くなったように思えたのは言うまでもない。とほほ…。
 さて歌のほうはさらに続く。ことみの曲選びはまだまだらしくその間にもじゃんじゃんエントリーが続いた。途中で参加してきた智代と美佐枝さんと幸村のじいさんも加えてさながら少し早い同窓会のような感じになってきた。まあ厳密に言うと智代とは学年が違うのだが、春原との関係上と言うことで美佐枝さんに連れてこられたのだろう。それぞれみんな成長したんだよなぁ〜っと感慨深げに仲間の顔を見遣る。と同時にトゥルルルルル…とロビーと繋がる電話が鳴った。はいはいと出ると、あと30分で終わりだそうだ。“延長なさいますか?” と言う店員に“ちょっと待ってくれ” と言うと俺はみんなに聞いてみる。智代はうちの高校の教師になって忙しい時期だし、美佐枝さんも相変わらず寮母なわけでここにはちょっと顔を出す程度で来たつもりだったらしいのだが、小1時間以上居座ってしまったんだとか…。他の連中も仕事が入っているので(その中には俺もいたわけなのだが…)、それ以上は時間的に無理だろう。そう思いキャンセルの方向に持っていったわけだがこれが悪かったわけで…。


「朋也くんが何か歌えって言うからお歌を歌ったのに、みんな知らないお顔をして、最後の拍手もしてくれなかったからとってもとっても寂しかったの…」
 こう言うとことみは俺の服の袖をぎゅっと掴むとうるうると目を潤ませながらじ〜っと上目遣いに見つめてくる。まあここまで言っておいて何なんだが、当の今日の主役の歌声を全然聴いてなかったから、何でもいいから選べと言うと何だか知らないジャンルの歌(芳野さんでさえ知らない)を歌いだすものだから、こっちはどう判断していいものか分からず仕舞いだったわけで…。何だったんだ? あの歌は。いや、歌も歌だが、ことみのあの独特の囁きかけるような声が妙に怖かった。風子と汐と手をつないで帰ることみの後ろを俺と渚とオッサンと早苗さんとで帰る。他の連中は仕事の都合上カラオケ屋で解散となった。芳野さんも“岡崎、また明日な?” と言って、帰っていく。公子さんは、“岡崎さん、ふぅちゃんのことよろしくお願いしますね?” と慇懃にお辞儀を1つして芳野さんの後を追って帰っていく。その後ろ姿に俺たちはしばらく見惚れていた。オッサンが“ちっ! かっこつけやがって…” と言いながら芳野さんのほうを見つめていたが、その顔はまんざらでもないような顔だ。さて、今日はオッサンが家に泊めてくれるらしい。まあこれは早苗さんが機転を利かせて言ってくれたんだろう。そう思って渚のほうを見ると嬉しそうに微笑んでいた。ふと前を見る。いつものように風子と汐と…、俺の服の袖を掴んでいたと思っていたことみがいつの間にか風子と汐のところへ行ってことみを真ん中に手を繋いで歩いていた。その後ろ姿はさながら子供同士が仲良く手を繋いで帰っているような感じで、俺は思わず“ぷっ!” と吹き出してしまった。それがいけなかったのかどうかは分からないが、ことみと風子と汐がこっちを“最悪ですっ!!” と言う顔で見つめている。
 横では俺の嫁が“朋也くん、またことみさんたちのことを子供っぽいなぁ〜なんて思ったんじゃないんですか?” と訝しげにじ〜っと見つめているわけで…。“ない、ないない。これっぽっちも思ってない” と俺は言う。実のところそんな考えが前を歩く3人を見ながらふっと頭の中に浮かんできたのは秘密だ。横には少々頬を膨らませた俺の最愛の嫁、前には娘と俺の女友達? が2人。1人は背格好と言い心の中と言いまだまだ子供な女の子で、もう1人は身体はもう立派過ぎるくらいな大人なのに心の中はまだまだ子供っぽい女の子。そして横にはいつの間にかぷぅ〜っと頬を膨らませた可愛らしい顔の女の子。まあ可愛らしい子供が4人一気に出来たような、そういう錯覚を覚える。ぼ〜っとことみたちのほうに見惚れてた俺の頭にがんっ! と激痛が走る。な、何だ〜? と思ってきょろきょろ辺りを見回すとオッサンが怒りの表情を浮かべていた。“渚以外に手ぇ出してみろ。即離婚だからなっ?!” とオッサンはそう言いながら帰っていく。早苗さんは、“何かあったら連絡して下さいねぇ〜?” とオッサンとは対照的ににこにこ微笑みながら帰っていった。早苗さんはともかくオッサンの目はやけに厳しく見えたのでこれは本気だな? と思った。
 さてさて、自称・ヒトデ博士(他称・家事手伝い)な風子と、本当に博士号を取得して大学で准教授として働いていることみ。オッサンの家、すなわち古河パンはもう目と鼻の先に見えている。のだが、何がどうしたことやらことみが俺のアパートに泊まりたいなどと言いだしてきたわけで。狭いからダメだ! と言っても聞く耳持たず。あの変な歌? を歌いながら俺の顔をぷぅ〜っと頬を膨らませた顔で見つめている。しばらく宥めすかしたり、また怒ったりしてみたのだが意地でも信念を曲げず、“いやなの、お泊りするの…” と言ってくることみに俺のほうが折れてしまい、結局俺のアパートへと向かうことになってしまった。オッサンの怒ったようなそれでいて何となく羨ましそうな顔は夢にまで出てきそうで怖かった。トコトコと方向転換をして俺のアパートに向かい歩く。まあたまに風子が泊まりに来るので、それを聞いたのだろうか…。などと考えつつも、別段何もない普通のアパートだぞ? と勝手ながらにそう思う。しかし、せせこましいアパートに4人も女性を入れるとはどういうつもりだと自分自身でもそう思うわけだ(まあ2人は俺の家族なわけだから実質2人なわけだが…)。だが、こうでもしないとことみはぐすぐす泣いて、あの苦手なウィスパーボイスで会うとぶつぶつ文句を言いそうだし、風子は風子でいつも以上に屁理屈をこねてきそうだし、それに何より友達を大切にする嫁の怒ったような拗ねたような顔をしばらく見ないといけないわけだからな?…。ははは、はぁ〜っ。とでかい溜息を一つつく。
 と言うか今日、俺はどこで寝ればいいんだ? などと考えていると目的地である俺のアパートが見えてくる。風子はいつも通り汐の部屋で寝かせるとして、問題はことみだな? と言うより俺か…。まあどこでも寝られるたちだからそれはそれで問題はないだろう。そんなことを思いながらふっと疑問が浮かんでくる。なんで寄りにも寄ってうちなんだ? と前で風子と汐の手を繋ぎながらニコニコ顔のことみに聞くと?
「風子ちゃんがいっつも朋也くんのおうちに泊まったって言ってとってもとっても嬉しそうだったの…。それがとってもとっても羨ましくて…。わたしも朋也くんのおうちにお泊りしたいの…。一晩でいいの。お泊りさせてほしいの。朋也くん、お願いしますなの…」
 やっぱりお前か! とばかりに風子のほうを睨む俺。そんな俺に、“風子、何も悪くないですっ! そもそも何でことみさんが泊まりたいって言って風子が怒られなくっちゃいけないんですかっ? 最悪ですっ!!” そう言いながら風子は睨み返してくる。そんな俺を汐が一喝するように言う。
「パパ! ことみお姉ちゃんと風子お姉ちゃんはママと汐の大切なお友達なんだよ〜っ!!」
 と…。嫁は嫁で“朋也くんの負けですね?” とか何とか言ってうふふと微笑んでいた。…女と言う生き物は何が何だかよく分からんな? そう言うことを身近に感じた今日5月13日、俺の女友達の一人、一ノ瀬ことみの誕生日だ。ちなみにその夜は俺1人、“ああ、東京の空にもこんなに星があったんだな?” などとどうでもいいことを考え、また遅くまでカーテンの向こう側からきゃっきゃうふふと楽しそうな笑い声などを聞きながら、ベランダで寝袋を引っ被って寝たことは言うまでもない…。ぐふっ…。

END