サンタさんは実在する!
子供の頃は親父や母さんから、“サンタさんにプレゼントもらえるよ?” と言われて真に受けていた頃もあったが、母さんが亡くなった年のクリスマスプレゼントに書いた、“母さんを返して下さい” と言う願いはおもちゃに変わっていて、“サンタなんてこの世になんかいないんだな?” と言うことをまざまざと見せつけられた。まあ実際サンタクロースのモデルとなった人物がいたことは歴史の授業やどこぞのテレビで見て知っているのだが、今の小学生でさえ薄々ながらサンタは親だと言うことを知っているものは少なくないだろう。しかしながら未だにサンタクロースの実在を信じてやまないやつがいるのも事実なわけだ。
その1人が、俺の彼女の渚なわけで…。まあ初めて出会った今年…。クリスマスの前にオッサンから“渚の欲しいものを聞いてこい” との命令(と言うより脅しだな? ありゃ…)を受けて、それとなく聞いてみた。一体そんなことを聞いて何をするつもりだ? サンタなんて言うものは歴史上の人物に伝説が加わってできた一種の偶像でしかないのに…。とは思ったが、オッサンの俺を見る目が真剣すぎたので言われるがまま、彼女に聞いてみることにした。
「えっ? 今年ですか? 今年は積もった雪が見てみたいですっ!」
と目をキラキラさせて言う彼女にちょっとばかり引いてしまう俺。雪国だったらいざ知らず、ここは都会で雪があまり降らない地域。と言うより乾いた空っ風がビュービュー吹くような地域で雪が降るのは2月末か3月初めくらいの時期。しかも数年に1度の割合だ。空を見ると雲1つない快晴。明日もこんな天気らしい。遠回しにその願いは無理なんじゃないか? と言うと、ふるふるとどこぞのお嬢様のように首を横に振って、“信じていれば願いは叶うんですっ! …現に去年お願いしたことは叶いましたし…” と言って憚らない。って最後のほうはごにょごにょ言って聞き取れなかったが、まあオッサンがこの無理な願いをどうするのかを見てみたくなった俺はオッサンに渚の言っていたことを一言一句正確に伝える。オッサン、しばし熟考。まあ人工降雪機でも持ってこなけりゃ積もるくらいの雪を降らせるなんて到底無理ってもんだ。と思ってるとどこかに電話を掛けている。10分くらい話し込んでいたが不意に受話器を置くと、“人工降雪機を借りに行く。てめぇも手伝え!” と言ってきた時には正直驚いた。
とにもかくにも強制的に無理矢理オッサン所有の軽トラに押し込められて、オッサンに拉致られてしまう俺。3時間は走っただろう、景色は一面銀世界に変わっていた。着いた先はとあるスキー場。オッサンと2人降りて進むとオッサン張りな、いかつい顔の知らんオッサンが機械を台車に乗せて立っていた。“おう、久しぶり。早苗ちゃんとはうまくやってっか?”、“うるせぇ!!” とオッサン2人の話し声が聞こえる。その横で佇む俺。一応オッサンから借りた防寒着に身を包んでいるんだが、やはり寒い。とぶるぶる震えながらオッサンたちの話が終わるのを待ってると、オッサンの1人が俺に気付いたのか、“ああ、わりぃわりぃ。これ、例のやつ。起動方法とかは別の紙に入ってるからな。まあ分からんことがあったら電話でもして聞いてくれや” と言ってその機械を渡す。“サンキューな? またこっちに来たら一緒に飲もうぜ?” と言って機械を受け取ると、俺に運べとばかりにすたすた歩きだした。“ああ、待ってくれ” とオッサンの後を追いかけて台車に乗せた機械も気にしつつ追いかける。慣れてない雪道をどうにかこうにか押してオッサンの軽トラまで持ってくると、“遅ぇ〜ぞ、小僧” と頭を軽く小突かれた。機械を台車ごと軽トラに乗せて一路帰路につく俺たち。しかし、なぜにこんな赤の他人の俺を連れてきたのかが分からん。そんなことをのつそつと考えてるとふいにオッサンが、“何でてめぇを連れてきたのか気になったんだろ?” と言った。俺は単簡に“ああ…” と言う。オッサンはハンドルを持ちながらこう語り始めた。
「前にも言ったかと思うがな? “これからお前にも苦しいこと悲しいことが待っているはずだ。お前達なら、俺達なら、乗り越えていけるはずだ…”ってな。今思うに簡単に乗り越えられると強く思うぜ。でも長い人生は楽じゃねぇ。必ず苦しくなる時が来るはずだ。昔はあいつにゃ泣かされっぱななしだった。でもよ。あいつと共に俺たちも成長できたんじゃねーのかな? って最近よく思うんだ。な? 小僧。…よく、“親は無くとも子は育つ” って言うがありゃ間違いだ。親が愛情を込めて育てねぇとどこかでひん曲がっちまう。どんなに苦しくても悲しくても子供の前でにゃ明るく振る舞う。これが俺の子育ての理論だ。もちろん困ったときは助け合う。てめぇは1人じゃねぇ。俺たちがいるし、仲間だっているじゃねーか。何かあったら頼ってくれていいんだからよ…」
と煙草をぷかりと吹かしながらオッサンは言う。“頼ってもいい” か…。今までの俺なら反発もしていたんだろうが、半年くらいこの家でお世話になって、昔の、母さんの生きていたころを思い出すきかっかけを与えてくれた。そう考えるとオッサンや早苗さん、渚には感謝してもしつくせない。オッサンの横顔を見る。シケモクを咥えながら運転している。俺もしっかりしないとな? そう強く思った。帰り道は雪も止んでいた。
「わあ、雪ですよ〜。朋也くん。サンタさんはやっぱりいるんですねぇ〜」
と無邪気にはしゃぎながら雪の感触を確かめている彼女を前に、俺自身も考える。オッサンが言っていたことを考える。親父には正直恨みしかない俺だが、それでも母さんが生きていたころはしっかりとした人だった。母さんが亡くなって俺がバスケの出来ない体になるまではしっかりと育ててくれたはずだ。今は魂の抜けたようなそんな存在となってしまっているけど、いつかは元に戻てくれるだろう。…今日はちょっと帰ってみるか。そう思い早苗さんに言うと、“まあ! それはいいですね” と微笑みながらそう言ってくれる。渚も早苗さんと同じように、“帰ってあげたらお父さん喜びますっ!” と言ってくれた。訳1ヶ月ぶりの帰宅。玄関を開けると、無造作に置かれたゴミの山が目についた。
まあ男所帯だからか、こう言うこともよくあるもんだ。明日の早朝にでも出しておこう。そう思いつつt親父のいるだろう居間に向かうと案の定親父は酒に入り浸って眠っていた。少々やせこけた頬と、酒の瓶が転がっている様を見るとなぜか悲しい気持ちになった。泣きたい気持ちをこらえながら酒瓶を片付けていく。とふとテレビ台の上を見る。いつかの家族の集合写真が置いてあることに気が付いた。懐かしさと同時に今のこの散々たる光景とのギャップを見て、“ちくしょう!” と思いながら片付けていく。親父は目を覚まさなかった。
自室に戻る。必要なものを持ってきていたカバンに詰め込んだ。少し横になる。今更ながら親父をあんな腑抜けにしたのは俺なのかもな? とも考える。が、やっぱりこの家にはいたくない。と言うよりこの町自体が嫌いだ。と思った。目を瞑ると自然に涙が流れてくる。軽く嗚咽していた…。
気が付くと朝の日の光が頬に当たっていた。時計を見ると8時を指している。終業式だ。そう思い替え様に置いてある制服に袖を通し階下に降りてくると親父はもういなかった。ただ、テーブルの上にメモらしい紙に一言こう書かれていた。“メリークリスマス” と…。この町は嫌いだ。しかし、この町に住んでいる。そしてこれからも住むことになるんだろう。そう思いながら家を出る。鍵をかけて表へ出るとうんと背伸びをして渚を迎えに行く俺。まだ親父とはあやふやな関係だが、何年か、若しくは何十年か先になるかも知れないが、絶対に和解できる日が来る…と信じたい。そう思いながら古河家のほうに足を向けて歩き出す俺がいる。そんな今日12月25日、彼女の誕生日から1日経った朝のこと。メリークリスマス…。
END