僕の好きな人


「椋さん、遅いな…」
 僕は今、彼女を待っている。彼女の名前は藤林椋さん。はにかんだ笑顔がとっても素敵な僕の好きな人。そう言えば、朋也くんから椋さんのお姉さんと秋原くんが付き合ってるってて聞いたけど…。本当かなぁ〜って思う。秋原くんはちょっとあれだし…。朋也くんによれば、“あいつも真面目になったんだぜ?” って言ってるけど…。そうそう、この間だっけ…。街で秋原くんを見かけたけど、なんとなく朋也くんの言ってたことが当たってるような気がしたっけ? 椋さんのお姉さんと待ち合わせなのか、僕に気づかずに行っちゃたけどね?
 それにしても、椋さん遅いな…。まあ、女の子は僕たち男と違って、いろいろ準備しなくちゃいけないものがいっぱいあるから…。大変なんだろうなぁ〜。そう思いながら駅前の大時計の下、僕は僕の好きな人を待っている。行き交う人はみんな一応に楽しそうに見える。まるで僕の心のようだね? そう思いなが大時計にもたれかかった。
「勝平く〜ん」
 遠くから僕の名前を呼ぶ声。そうその声こそ正に待っていた人の声だった。僕も手を振って応える。だんだんと僕のほうに寄ってくる姿。これが幸せなんだと思った。薄ての長袖の上着に長いスカートが、どこかの良家のお嬢様のような感じ。こんな彼女と付き合える僕は何て幸せ者なんだろう。いつも彼女と一緒にいるたびに僕はそう思うんだ。
「ふぅ、ふぅ…。ま、待ちました?」
「ううん、僕も今さっき来たところだから。心配しないで?」
 10分は想定内だから別に待ったつもりじゃない。それより何より、待つって言う楽しみもいいんじゃないかな〜って思う。現に今待ってたおかげでこうしてドキドキしてるんだから…。そう思ってると、急に彼女の手が僕の手を掴む。
「さあ、勝平さん。行きましょ? いつまでもこんなところにいたら時間がもったいないですし…」
「えっ? あ、うん。そうだね? じゃあ行こうか…」
 そう言うと手を繋いで歩く。お互いの最近の面白かったことなんかを話しながら歩いた。彼女の顔を見るといつもよりにこにこ顔だ。その顔がたまらなく嬉しかった。そうこうしているうちに夕陽が鮮やかに西の空を赤く染める時間になる。話しながらウィンドウショッピングをしていた椋さんが、“ちょっとあそこに寄っていきませんか?” と喫茶店を指差した。
「うん、そうだね? って、椋さん疲れちゃった? ご、ごめん。僕、そこまで気がつかなくって…」
 そう言うとぺこぺこ頭を下げる僕。あっちゃ〜、大失敗だぁ〜。って思ってると、
「ううん、ただ落ち着いてもっと話したいなぁ〜って思っただけですから…」
 そう言うとまた僕の顔をにっこり微笑みながら椋さんは言う。その顔にますます心があつくなる僕がいた…。


 私の横、彼が屈託のない微笑みをくれる。私もにっこり微笑む。歩くスピードは私に合わせてくれる。それが何よりも嬉しい。手を繋ぎたいな…。でも勇気が出なくてなかなか繋げないでいる。今までだって何度も挑戦したけれど私に勇気がないのか繋げなかった。…今日は繋げるだろうか…。ううん、繋ぎたいな…。そう思いながら歩いていると、突然何かに躓きそうになる。“きゃっ!” と躓いてこけそうになる私を優しく抱きとめてくれる人がいた。
「大丈夫? 椋さん…。怪我はない?」
 突然のことで気が動転して何も言えない私。勝平さんはそう言って擦りむきそうになった私の膝小僧を見てくれる。なんともないことが分かると、ほっとした表情になる。そうして、いつもの優しい微笑みを私に向けてそっと手を差し伸べてくれた。
「ま、また転びそうになるといけないから….、ねっ?」
 顔を真っ赤に染めると、彼は手を差し出してくる。繋ぐと赤い顔をさらに赤くして、まるで完熟トマトのようになる彼。そう言う私の顔も真っ赤だろう。そう思った。だってこんなに火照ってるんですから…。それに何だかふわふわした気持ち。いい気持ち…。手を見ると彼の手が私の手をしっかりと掴んでいた。今、私たちを他の人が見たらなんて言うだろう…。“お似合いのカップル” って言ってくれるだろうか…。こつこつと歩く靴音がアスファルトに2つ、規則正しく聞こえていた。やがて、街角の古びた喫茶店が見えてくる。私と勝平さん、将来二人の思い出となる喫茶店…。足は向いていた……。

END