岡崎家のクリスマス事情
今日12月24日は世間一般にはクリスマスイブと言うまあ一種のお祭り的な行事の日であるとともに、俺の愛する嫁の誕生日でもある。外国ではキリストの誕生日と言うことで一家で語らう重要な日であるとどこぞの宗教の勧誘に来たおばさんに言われたのだが、日本ではただの恋人の行事的なものと化しているわけで…。まあ俺も汐が生まれるまではそのように考えていたわけだが、ここ最近はやっぱり家族で何かを祝う日と言うかそんな日になってしまったみたいだ。まあうちはキリスト教でもなければ信者でもないので何を祝うのかがよく分からんわけなのだが、殊に嫁の誕生日が今日であるので、うちでは今日を“渚・生誕祭” としているわけだ。本人曰く、“何だかとっても嬉しいような恥ずかしいような、そんな感じがしますっ!” と言っては頬を赤く染めているわけだが…。で今年もその生誕祭を行なう時期がやって来た。汐も小学校高学年になって最近妙に色気が出て来始めたわけだが、本人はまだまだパパ、パパ、と言っている。それが嬉しいのか、親離れ出来ない子なのかはともかく俺としては嬉しいことこの上ない。なのでうちではしょっちゅう嫁と娘の争いに発展するわけで。この前も何かの原因からか抗争になってしまいとんでもなく恐ろしい思いをした。何が恐ろしいかと言って嫁の俺の甘言に対する“嘘だっ!” と言う言葉以上のものはない。娘は娘で風子やことみみたく上目遣いに睨んでくるし、“何でこう〜なるのっ!” と親父やオッサンの若かりし時代に流行ったギャグも出てくる始末なわけで…。
とまあこんな感じで今日も仕事をする。電気工になって早10年を過ぎたわけだが、まだまだだな? と俺自身ではそう考えている。先輩である芳野さんは、“そう思う心があるんなら大丈夫だ” とこの前何気なくそんな話題になったときにそう言ってくれた。公子さんとの間に子供も出来て、より一層アツい言葉を発してくるようになった芳野さんは俺の理想の上司像に相応しい存在であることに間違いはなく。この仕事を誇りに出来るようになったのも実のところ芳野さんのおかげでもある。親父とは汐が出来てから、仲直り(と言うか元の親子関係に戻ったと言うかだが)をし、今は俺の祖母の家で暮らしている。この前も嫁が何やら電話口でぺこぺこお辞儀していたと思ったら、“お義父さんから、お野菜送っておいたって言うお電話でした” と言うことらしい。昨今の野菜の高騰云々で送ってくれることは家計を預かる主婦としては何かと助かるんだろう。にっこりと微笑む顔に俺のほうまで微笑んでしまうんだから不思議だ。まあ親父のところには大晦日辺りから来年の2日辺りまでオッサンや早苗さんも連れて一緒に行こうと言う話になっている。まあオッサンたちの都合は聞いていないが多分(と言うか十中八九)OKと言う返事が返ってくることだろうな?
そう言えば春原たちも一緒に呼んでるんだっけか? そう思い、“芳野さん一家も一緒にどうですか?” と誘いをかける。“迷惑にならないか?” と言うので首を横に振って、“いつものことですし、風子はいの一番に来るって言ってましたよ?” と言う俺。実際風子にこのことを言うと、“変な岡崎さんにしおちゃんが洗脳されてしまっているのでそれを解きに絶対行きますっ! 岡崎さんが来るなと言っても無駄ですからねっ?” と妙にグリグリした目で言われてしまったわけなのだが。やっぱりこの前の日曜日に俺の知り合い(と言うか友達)で忘年会をしたのに呼ばれなかったことを怒ってるのか? と思うわけだが、お前は風邪でダウンしていたじゃないか? と意見すると、“最悪ですっ! 変な岡崎さんに意見されてしまいました。でも次の渚さんのお誕生日会のときには風子万全の態勢で行きますからねっ?” と目を一層グリグリさせて言ってくるわけだ。そんなこんなで呼ばれようが呼ばれまいが絶対参加すると言う風子は、自称・汐の姉、ということらしい。確かに最近の風子を見ていると背のほうも伸びた気もしないでもないのだが、それ以上に汐の背が伸びたせいもあって、最近じゃあ汐のほうがお姉さんに見られることも多いとか、そういうことを嫁から聞いた。とまあそんなこんなで、芳野さんからもOKをもらい、いつもパーティー会場と化している古河パンに電話。
早苗さんが出たのでそのことを告げると、“ことみちゃんや智代さんも参加するってさっき電話がありましたよ? あっ、それと美佐枝さんも今回参加しますって…” と言われた。まあことみと智代には俺が前もって話をしていたわけだ。美佐枝さんにも毎年参加の要請をしていたわけだが、いつもは年末の慌ただしい中での参加は何かとダメだと言うことで断られていたわけだが、今回は冬休みが早く始まるらしく、初めて参加してくれる運びになった。さて、春原と杏がどういう顔になるのかが楽しみだな? そう思いながら夕方の駅前をぶらり。一応、プレゼントは買ってあると言うか、昨日の休みに街のデパートに行った際、欲しそうにしていた服を買ってやったわけだが、あれだけじゃあ何だか足りないかな? とも思うわけで…。汐へのクリスマスプレゼントを買うついでにちょうど通りかかった宝石店で手ごろな値段のネックレスがあったので迷わず購入した。まあ俺の小遣いは半分以上減らされたわけだが、それ以上に嫁や娘の笑顔が見たいと思ったのでこれはこれでいいか…、と納得。さてそろそろ集まってきてる頃だろう。そう思いながらいつもの集会場・古河パンに足を向ける俺がいた。
「みなさん、今日はありがとうございますっ! とってもとっても嬉しいですっ!」
とお辞儀をしてこう言う嫁。そんな嫁に拍手喝采で迎える参加者一同の姿があった。今回初参加な美佐枝さんはもう打ち解けて春原の子供に高校時代の春原の様子を語っていて、“僕の威厳が落ちちゃうからやめてくれませんかねぇっ?!” とどこぞのキレ芸人みたく春原は言っている。春原の嫁である杏はクスクス肩を震わせながらも、翔平と純平には、フォローを入れていた。そんな光景を見て高校時代のあの杏を知っている身としては変われば変わるもんだと思う。勝平と椋はそんな美佐枝さんの話に相槌を打ったりなんかしていた。萌香ちゃんは汐と風子とことみと一緒にケーキをもぐもぐ食べている。途中、“ケーキはみんなで食べるから美味しいんだよね?” と少々ポエマー的なことを言うのは勝平の遺伝じゃないかと思った。
まあそんなこんなでつつがなく誕生日会も終わりみんなも帰っていって、俺は久しぶりに古河パンに泊まることになった。最近は泊まることはあまりなくなったが、高校時分は親父と揉めたときにはよくここで寝泊まりしてたっけ…。そう思うと何だか懐かしい。そう思いながら横を見ると、嫁がすやすやと寝入っていた。よっぽど今日が嬉しかったのか寝ながら笑みを零している。そんな嫁の枕元に可愛らしくラッピングされた箱を置く。娘にも同様に置いた。嫁へは日頃の感謝とこれからもまあよろしく頼むと言う意味合いも含めて、娘には産まれてきてくれてありがとうと言う思いを込めて、プレゼントを置いた。明日の朝、起きたら何て言うだろう。そう思うと自然に笑みが零れる今日12月24日、俺の最愛の嫁・岡崎渚の誕生日だ。
END