「何をため息なんてついてるんですかぁ〜? 朋也くん!」
 間延びした声で、でもどことのなしか怒気を含んだ声でそう言うと俺の顔を頬が割れんばかりに睨んでくる目一対。いや、十対。十対の目が俺の顔をギロリと睨んでいた。どれもこれも見れば石にでもなりそうなくらい恐ろしい。今にも襲いかからんくらいの勢いで俺の顔を睨んでいる。正直何で? とは思うのだが…。そっと顔を見るとぷぅっと頬を膨らませたお子ちゃま顔と、実におぞましい雰囲気を醸し出してる顔も見える。その顔に猛毒を吐いてきそうな感じがするのは俺の気のせいだろうか?…。ああ、神か仏か知らないけど、願わくば俺に明日と言う日をください…。


計画はしっかりと…


「岡崎さんっ! 風子たちがどうして岡崎さんの顔を睨んでいるか…。分かってますよね?」
「さ、さあ…。俺にはちっとも分からないんだけどな…」
 う〜っと俺の顔を睨んでいたちびっこい体の少女はこう言う。訳も判らず首を横に振る俺。どうでもいいが、俺の周りを取り囲むのはやめてくれねーかな? これじゃ公開リンチと同じだぞ? す、春原は? ってそうだ…。もう6年も前にあいつは田舎に帰ったんだった。今ごろどうしてるんだろうなぁ〜。あいつ…。またバカなことやって、芽衣ちゃんに迷惑かけてなけりゃいいけど…。と一人感慨深げに回想していると…。
「何を回想なんてしてるのかなぁ〜。朋也〜…」
 地獄の底から聞こえるような声色で左端から手が伸びてくる。がしっと俺の首を掴むとスイーパーホールドで固める他称喧嘩屋・藤林杏。でも本人はこう呼ばれるのは実に心外なんだそうだ。全く己を知らんやつだと俺は思う。いや、俺だけじゃあないだろうな…。って! し、締まる締まる! ぺしぺしと決めた腕を叩くと“ちぇっ”と舌打ちしてようやくその手から逃れた。
「思い出した? 朋也。あたしたちとの約束…」
「思い出したもなにも、約束なんてした覚えはないんだけどな…」
「うっ…」
 そう言ってばつが悪そうにこっちを見つめる杏。あまりのしおらしさに、“高校時代のお前とは想像もつかんぞ?” と俺は心の中で言う。と、相手は読心術でも身につけたのか、高校時代春原にやっていたように目を光らせて“あ゛あ゛っ?” と言う声を上げていた。心の声が聞こえてるのか? っていつからそんな能力を身につけたんだ? そう思っているといつの間にか俺のもとへ来たことみが言う。
「朋也くん、いっつも口に出してるの…。だから何でも分かっちゃうの…」
「ああ、朋也はいつもそうだもんな?」
 そう言うと胸を張って少々偉そうに言うことみ女史と、これまたどことなしか偉そうな智代先生。どこか浮世離れしていることみ女史だが、何でも今は大学で宇宙理論を教える教授になっているらしい。でも、こんなやつに教えられる生徒はみんな浮世離れしてしまうんじゃないだろうか? と正直そう思った。智代は俺たちが通っていた高校の体育教師になっていた。美佐枝さん曰く、“あの時の生徒会長さんがねぇ〜…”ってな感じだ。って、俺ってそんなに声に出るものなのか? 俺の膝の上にちょこんと座っている汐に聞いてみると?
「うん、いっつも言ってるよ。パパ。この前だって風子お姉ちゃんのこと、風子おばさんって言ってたし…。ことみお姉ちゃんは、お子ちゃまっていつも言ってるし、智代お姉ちゃんは凶悪蹴り女だって言って、春原のおじちゃんとの話をいっつも汐に聞かせてくれてるし、それにこの前杏先生のことをヤンキー杏って言ってたよ?……。それにそれにママのことどんくさいなぁ〜っていっつも汐がパパのお膝に座ってるときに小さなお声で言ってるし…」
 し、汐? そこまで正直に言うもんでもないんだぞ? ある程度は嘘もついてだな?……。俺がそう言うと、“だって杏先生が嘘ついちゃダメよ〜? って…” そう言うとちょっと涙目になる汐。はぁ〜っと今日何回目か分からないため息をつきつつ泣きべそをかいている汐の頭を撫でてやる。さっきの泣きべそ顔はどこへやら、汐は俺の膝の上で目を細めていた。
「酷いですぅ、朋也くん。わたし、そんなどんくさくなんてないですぅ〜。あっ…」
 そう言う隙から蹴躓く俺の嫁。智代と杏がとっさに手を差し伸べてくれたおかげで何とかこけずに済んだようだ。我が嫁ながらどんくさいなぁ〜と思うんだが…。まあ最も今は見慣れているのでさしてどうのこうのとは言わないけどな…。って! そんなことを言ってる場合じゃなかったんだ。このギロリと睨む目を何とかしないと……。でも、どうしてこんなことになったのか…。それを話さなくてはいけないだろう。そう、あれは4月の中旬……。


「汐、パパと福引きしに行こうか?」
 この前、渚のくれた福引き券を取り出して俺はそう言う。麗らかな春の日の日曜日の午後、こんな日に表に行かないやつはどうかしていると俺は思う。ちょうど手には渚がくれた福引き券がある。商店街で買い物している時にもらったやつなんだそうだ。最近はどこの商店街も大変らしいということをテレビのニュースで聞いたことがある。現にこの町にも郊外に大型店舗が出来てそこへお客が流れて行ってるようだ。どこもお客の取り合いなんだなぁ〜。そう思った。でもまあ俺は行ってはいないが…。って言うか行く気もない。渚も、
「昔ながらのほうが何かと便利でいいですっ!!」
 って、手をぶんぶん振りながらそう言ってたしな? と言うか俺もそう思う訳であり…。便利になることはいいが人との付き合いが希薄になりがちな昨今の情勢を見ながら、商店街の寂れ具合などを見ると思わずはぁ〜っとため息をついてしまうわけで……。昔はそんなことは一度も考えたことのなかった俺ではあったが、渚と付き合い、結婚して、汐を授かり…。その汐ももう5歳になろうかとしている。すべてはあの桜の木の下から始まったんだ…。そう思いながら汐を連れて家を出る。肝心の渚なんだがオッサンに呼ばれてパン屋の手伝いに出かけて行って今はいない。まあ散歩がてら福引きした帰りにでも古河家に寄ってくか……。そう思い汐に言うと、
「アッキーと遊ぶ〜っ!」
 大喜びな汐はぴょんぴょん飛び跳ねていた。そんな汐を見て“オッサン、あんたすげーよ…。やっぱり”と思ってしまう。更正し損ねたガキ大将という感じのオッサン。よく子供たちを集めて草野球などをしている。って言うか今じゃ俺もその中に入れられてるわけで…。もっとも俺はほとんど球が飛んでこないライトだけどな? と言っても極たまに飛んでくる場合もあるがなんなく処理してるんでオッサンも何も言わないが…。って言うか、“てめぇ〜、もしポカでもしてみやがれ……。渚と離婚だ! 離婚!” ってガキのケンカじゃねーんだからよ……。オッサン。
 そうこうしてるうちに商店街に到着する。ちょうど渚に頼まれた買い物もあったんだっけか? そう思ってポケットをまさぐるといい具合に渚の書いた紙が出てきた。読みやすく大きな字で書かれてある。さすがは俺の嫁。え〜っと最初は? 八百屋か……。汐を連れててくてくと八百屋の前にやってきた。と、後ろから…。
「あっ、怪しげな人が汐ちゃんを誘拐しようとしてますっ!!」
「おい! どこが怪しげな人だ。俺だ、俺!!」
「ああ、そこはかとなく間が抜けてる岡崎さんでしたか…。てっきり可愛い汐ちゃんを誘拐する極悪非道の人かと思いましたっ!」
 ちびっこい体には合わない毒舌で有名(俺の中では)な伊吹風子があらわれた。どうする? コマンド。逃げる。だだだだっ!!
「あっ、待ってください。岡崎さん」
 しかし風子のほうが足が速い。回り込まれてしまった。逃げられない! どうする? コマンド。
「って、何で風子、ド○クエのモンスターみたいになっちゃってるんですかっ? 最悪ですっ!!」
「ちなみにお前、ス○イムベスな?」
「そこはかとなく中途半端なキャラクターですねっ?! どうせ言うならは○れメタルのようなレアキャラにしてくださいっ!」
 いつも通り風子をからかう。まあ風子はこういう性格なのかどこまでもノってきてくれるので俺としては嬉しい。って! は○れメタルかよ? 逃足だけは早いキャラだよな? そう言うと“動作の遅い岡崎さんよりかはましですっ!!” そう言って汐に抱きつく風子。
「汐ちゃんも大変でしょう…。あんなへんちくりんなお父さんをもって…。いっそのこと風子の妹に…」
「パパはへんちくりんじゃないよ? ママや汐にはとっても優しいし…。…あっ、でもちょっとアッキーに似てるかなぁ?
 風子、お前まだ諦めてないのな? 汐に会ってはこう言う風子。で、いつも玉砕している。まあ、こいつにも一応ではあるが忙しい時には世話になってるのであまりきつく言うことも出来ない訳で…。でも汐、パパは、パパはとっても嬉しいぞーっ!! って最後のほうがちょっと聞き取りにくかったんだけどな…。まあいいか。
「岡崎さんがっ、岡崎さんが汐ちゃんを洗脳しちゃいましたっ! で、でもこんなことで諦める風子じゃないですっ!」
 そう言って汐にべったりくっつく風子。もうどうでもしてくれ……。はあ、と深いため息を吐く俺。そうこうしている間に、八百屋に到着。渚からもらったメモを見て八百屋のおやっさんに包んでもらった。汐は風子に野菜の種類について聞いている。…にしても可愛い字だなぁ〜。メモを見ながらそう思った。さすがは俺の嫁だ。とそこまで考えて、だんだんとオッサン化している自分に気がついた。はは、はははははははは…。はぁ〜。


 オッサン化ショックも覚めやらぬまま、福引き会場に到着する。ちなみに風子も福引きをする予定だったんだそうだ。“風子が一等を当ててやりますっ!!” と意気込んではいるが果してどうなることやら…。俺はというと別にどれでもいいわけで……。って言うか汐に引かせてやりたかったんで来たわけだが……。まあ、こんなものは先からやっても後からやっても同じなので風子に先を譲った。係員の人に福引き券を見せて意気揚々とガラガラの前に立つ風子。ガラガラを回す。一瞬緊張が走る。
 ガラガラガラ…、ぽとっ!
「残念! 六等、ティッシュぺ-パー一ヶ月分です〜」
「がっくりです…。でも風子がこんなだったんですっ! 風子より運の悪そうな岡崎さんなんて八等ぐらいが関の山ですっ!」
 福引きの商品のところを見る。一等が地上デジタルテレビか…。書かれてある等数を見てみると二等から八等まで書かれてあり、商品名も書かれてあった。で、肝心の八等を見てみると…。キャンディー手掴み? ……まあなぁ〜。俺一人だったらそれもあり得ることだ。だがな? 今回はちょっと違うんだぜ? ふふふっ、と不敵な笑みを零しながら、汐の体を持ち上げて福引きのガラガラを持たせる。“ゆっくり回すんだぞ?” そう言うと、うん! と大きく頷く汐。風子はと見れば……。さっきの膨れっ面はどこへやら、ぽや〜っとガラガラを回す汐を見つめていた。
 ガラガラガラ…、ぽとっ! カランカランカラーン。
「大当たり〜!! 大当たり〜!! 特等(箱根温泉宿泊券)が当たりました〜っ!!」
 やっぱりうちの娘はすげーや!! 運の良さでは日本一だな? この間も渚と汐と3人で買い物に行ったんだが、そこでもビンゴで最初に当ててたしな。俺なんか、最後の最後まで当たらなかった。まあ渚はブービー賞で何か知らんマスコット人形をもらって、“朋也くん、こんなのもらっちゃいました。えへへ” って言いながら喜んでたっけか…。まあ運のない渚と、更に運のない俺の間に生まれた子供はむちゃくちゃ運があって…。世の中って本当に不思議だ…。
「パパ、特等ってなあに?」
 不思議そうな顔をして汐はそう聞いてくる。一応保育園で杏にいろいろ教えてもらってるだけあってか1から10までの数字の意味は理解しているようだ。俺のガキの頃とは全然違うよな。うん。…いや、男と女とでは違うのか? 帰って渚に聞いてみよう……。そう思って汐と同じ目線にまで下がって詳しく説明してやった。ふ〜んと聞いている汐の横ではぽや〜っとしている影が一つ。気づかれんうちに帰ろう…。気づかれると何かと厄介だしな? うん。そう思い汐の手を取って歩き出す俺。汐は?
「パパ。風子お姉ちゃんは?」
 不思議そうに聞いてくる。う〜んと一瞬考えて俺は言う。“娘よ。世の中にはどうにもならぬことのもあるのだ…。今は風子という犠牲を盾に逃げ落ちるしかないのだ。残念だが諦めてくれ…” とオッサンばりな屁理屈をこねる俺。ここで風子に知られる訳には行かない。風子に知られる→ことみに知られる→智代・杏に知れ渡る…。どうせ連休中は暇暇な連中だ。絶対“連れてってー”って言うに決まっている。“貧乏な我らにはそこまでの余裕はない。だから逃げるのだ。分かったな? 娘よ…” とオッサン張りな無茶苦茶な論理で汐を言いくるめる俺。しかし、俺の論理は純粋無垢な娘には通用しなかった。
「パパ!! 独り占めはいけないんだよ〜っ?!」
 ちょっと怒ったようにぷぅ〜っと頬を膨らませながらそんなことを言う我が娘。その顔が妙に渚に似ていることは内緒だ…。俺の手を振りほどき風子のところへと向かうと風子を連れて来る。連れて来るときに風子に言ったのか、ぷぅ〜っと頬を膨らませながら俺の顔を怪訝そうに睨んでくる風子。
「岡崎さんはいつもながらに悪どいですっ!! 福引券が当たったのは風子のおかげですっ! その風子を置いてけぼりにして逃げようとするってどういうことですかっ?! 相変わらず岡崎さんは卑怯極まりないですねっ!」
 汐と同じような顔をしてこっちを睨むお子ちゃま。俺の心を読む術でも身につけたのか、“風子、お子ちゃまじゃないですっ! 岡崎さんよりかは風子、大人びてますっ!! 最悪ですっ!!” こう言うとますます頬を膨らませる風子。
「パパっ! 風子お姉ちゃんに謝ってくださいっ!」
 風子と一緒に上目遣いにこっちを睨む我が娘。その顔は怒ってぷぅ〜っと膨れている渚と同じような顔で、って言うか渚そのものだった。はぁ〜っとため息をつきつつしぶしぶ風子に謝る。もし謝らなかったらと思うと空恐ろしい気がするからな…。
「分かればいいんですっ…。でも汐ちゃんは可愛いですねっ。やっぱり風子の妹にはもってこいですっ!!」
 そう言って汐を抱きしめる風子。どっちが妹か分からんぞ? って言うか風子のほうが妹のように見える…。手を繋いで歩く汐と風子を後ろから見ながら、そう思うのは俺の間違いだろうか…。“どこをどう見たら風子が妹に見えるのですかっ?! 相変わらず失礼魔王ですっ!!” 俺の心の声が聞こえたのかそう言うと、うううっ…、と涙目になる風子。その後でまた俺は汐に怒られたことは言うまでもない。とほほ…。その夜、風子に口止めをと思い、風子を我が家に呼んでささやかながらパーティーなんぞを開いた。渚は、案の定何のことか分からずぽや〜っとしてたけどな? それが今のこの険悪な雰囲気になろうとは考えることもなく…。


 で、俺は今女性陣に八方から、ジロリと睨まれている。もっとも膝にいる汐には優しそうな顔なんだがな? 旅行には俺たち家族だけでと思ってたんだがどこでどう間違ったのか俺の女友達まで来ている訳で…。誰だ? 極秘情報を流したやつは? って! そこで気がつく。バーティーの時に来てたんだ。ちびっこいのが…。
「風子、ちびっこくなんてありません。岡崎さんがただ木偶の棒みたいに大きいだけですっ!! 失礼しちゃいますっ。もうっ……」
「そうですぅ〜。ふぅちゃんに失礼ですよ? 朋也くん!」
 ますます険悪な雰囲気だ。膨れっ面でこんなことを言う風子と渚。目を光らせて今にも襲い掛からん勢いな杏と智代、それから今にも泣き出しそうなことみ。そ、そういや椋と勝平が見えんけど…。どうしたんだ? 杏に聞くと? “ああ、あの二人なら九州のほうに旅行に行ったわよ?” と至極当たり前のように言う。お前も一緒に行けばよかったのに…。と言うとまた、“あ゛あ゛っ?” と目を光らせて睨んでくる杏。あまりに恐ろしいのでこれ以上は何も言えない。ははははは…。もう笑うしかなかった……。
「「とにかく、何もかも朋也が悪いのよっ?(悪いんだぞっ?)」」
「パパっ! 風子お姉ちゃんに謝りなさい!!」
 智代と杏の凶悪ロードウォーリアーズならず我が愛娘・汐にまで睨まれる俺…。あああっ、俺には味方がいないのかぁ〜っ! って言うか汐〜っ、パパの味方をしてくれーっ!! とは思うものの…。ぐぐぐぐぐぐっと、俺の膝元から上目遣いに睨みつけてくる可愛い顔には勝てるはずもなく…。完全敗北な俺がいるのだった…。とほほほほほほほ。ぐっすん…。


「あはははははー。楽しいわねぇ〜。春原〜」
「そうだねぇ〜。杏。久しぶりの休みだからねぇ〜。岡崎に感謝感謝……」
「お兄ちゃん! あまりはしゃがないのっ! もう! 他の乗客の皆さんに失礼だよ?」
「みんなでご旅行、修学旅行みたいでとってもとっても楽しいの…」
「最初にこことここを見学してだな…。次はっと……。ここだな?…」
 な、なぜだ? なぜ春原や芽衣ちゃんまでここにいるんだ?…。って言うかお前ら、いつのまに仲良くなってたんだ? ことみはことみでうっとりしてやがるし、智代は引率の先生みたく見学ルートをチェックしてやがる。あまりの不条理さに頭を抱える俺。あのがらがらで当たった家族旅行がいつの間にか団体旅行になってるじゃないかっ! しかも宿泊費は俺のなけなしの小遣い&渚に隠れて貯めておいたへそくりだ…。そう言う俺の小遣いはうちの財政上、当分は無理に等しい。悲しいなぁ〜、悲しいったら悲しいなぁ〜…。しくしくしく……。
「人生っていうのはそう言うものですっ! 岡崎さん!!」
 俺の前、今回の発端となった小悪魔なお子ちゃまはそう言うと俺の肩をパンパンと叩く。こ、こいつは〜っ!! 一体誰のせいだと思ってやがる。悔しそうに前を見ると? “ふ、風子が悪いとでも言うのですかっ! 風子は皆さんにお知らせしただけですっ! だいたい岡崎さんが風子を置いて逃げようとしたのがそもそもの発端ですっ!! それを逆ギレされるなんて……。これを最悪と言わずして何を最悪と言うのですかっ?!”、といつもながらの不条理さに尽きる物言いをしてこっちをギロリと上目遣いに睨む風子。ふぅ〜っと睨む風子にため息をついて、隣を見ると…、
「えへへっ、楽しいですねっ? 朋也くん」
「みんなで旅行、わっほっほ〜い」
 同じようなにっこり笑顔で、俺の家族が微笑んでいた。その笑顔につられて今までのむすっとした顔も…。にっこり微笑んでしまうから不思議だよな。若葉がきれいなそんな5月連休。団体旅行は始まったばかりだ。

END