トモトモコンビ再結成


「おい、朋也。今度また文化祭で漫才大会があるらしいぞ?」
「ん〜? どれどれ…」
 10月14日の朝、俺の嫁・智代が新聞受けから朝刊と広告の交じり合った紙の束ともに一枚の紙切れを持ってきた。“何だそりゃ?” と持ってきた紙切れを見る俺。智代はふふんと鼻を鳴らすと回覧版で回ってきたようなボロッちい紙切れを俺の目の前にドドーンと見せる。そこにはこう書かれてあった。
“第24回・光坂高校文化祭イベント・第2回、素人漫才大会!!”
「ま、まさかお前、こ、これに出ようって言うんじゃないだろうな?」
 書いてある紙切れを指差しながらそう聞く俺…。忘れもしない4年前。智代と漫才に出た俺は智代のツッコミで伸されてしまい保健室で寝かされていたことを…。あの後で杏や春原から笑い種にされて非常に悔しい思いをした。今でも時々そのことを言われて“あのときはボケとツッコミを間違えただけだっ!” と反論しているんだが全く効果の程はない。悪友とは言ったもの…。全くどうしようもないヤツらだとは思う。でもそんなヤツらだからこそ今でも仲が良いって言うか友達j関係を続けられているって言うわけなんだけどな? ちなみに杏と春原は俺たちと同じ時期くらいに結婚した。美佐枝さんに言うところの“あんたと春原って似た者同士なんじゃないの?” ということらしい。何が似た者同士なんだ? と聞こうと思っても笑って答えてくれなかったけどな? そうそう、長年他人行儀だった親父とも仲直りが出来た。今は田舎で祖母とともに暮らしている。時々電話をすると、“野菜送っておいたぞ〜!!” と昔の俺を叱り飛ばしていた親父のような声が聞こえてくる。それを聞いて、親父もようやく吹っ切れたんだな? 良かったな…。親父……。そう思ってやまない。今、こうしていられるのは渚たちや、目の前にいる智代のおかげだと思う。俺が距離を置いてもずっと待っていてくれた智代…。あれから4年も経つんだな? そう思った。ちなみに俺たちは1年前に結婚した。智代の弟の鷹文は俺を本当の兄のように慕っている。異母妹のともも、“お兄ちゃんお兄ちゃん” と言う具合だ。でもいきなりそんなことを言われても訳が分からん。
 でも何でだ? こんなことをするよりもプロの漫才師を呼んだほうがいいんじゃないのか? そう思って“唐突にそんなことを言ったって訳が分からんぞ?” と俺は言う。と言ってふと横を見ると、にんまりと笑う目が一対…。
「OBとして何かいい案はないかと学校・生徒会の両方の側から聞かれてだな? それだったら前に私がやった“漫才大会”がいいんじゃないかと話しておいたんだ。そしたらものの見事にその案が採用されてだな?」
 あとごちゃごちゃ何事か話しいている智代を尻目にあの時の恐怖が蘇る俺。こいつにはツッコミは絶対やらせられん。と言うか今でも時々漫才じみた話題になることがあるんだがツッコまれて息がつまって危うく死にそうになったことが何回かあるんだ。というよりか…、毎回だな? そう思った途端にぶるぶる体が震えた。智代はと言うと、何か言いたそうにこっちを見ている。多分“出てみないか?” と言うことだろう。が俺は出ない! そう思っていると案の定、
「なあ、朋也。この大会に出てみないか? 私も久しぶりに“お笑い” をやってみたくなったんだが…。どうだろう?」
「俺は出ないぞ。って言うかほかにもいっぱい仲間がいるだろうが。風子とかことみとかはお前にぴったりだと思うんだけどな…」
 そう言って、智代の顔をそ〜っと見る俺。急に顔色が変わったような気がした。やばい、やばいぞ〜っ!! この顔は…。非常に雲行きが怪しい。いっそのこと高校時代みたく拳をぷるぷる言わせて泣かれるほうが何倍かましだと思う。うん…。 それは、結婚して間無しの頃だ。どういう理由かは忘れたがちょっと言い争いになってしまい、智代は今みたく急に顔色が変わって、押入れの中に入って数日間出てこなかった。鷹文に言うと、“はぁ〜。姉さん、お籠もり状態になったんだ。こうなったら数日は出てこないよ?” ということらしい。家でもこうなのか? と鷹文に聞くところの、“うん” と肯定してくる始末。実際、出てきたのはそれから3日後のことだ。あのときは大変だった。家事一切は智代に任せてあるため、どこに何があるかも分からず…。おまけに智代の異母妹・ともが参観日があるとかで行かなくてはいけなかった。当然智代は押入れにお籠もり状態だったんで家族を代表して俺が行くことになったんだが…。ふぅ〜…。それ以上は言いたくない。ただ一つ言えることは俺にはこんなところは無理だと言うことだ。
 で、今だ。静々と智代はいつものお籠もり場所へ向かい歩き出す。籠もられると厄介な上、あの夜にすすり泣くような声が非常に怖かったりするのでそれだけでも止めさせようと妥協点を図ろうと思いいろいろ言ってはみたんだが、智代の満足するものはなく、結局お籠もり状態になってしまった。やはり漫才をするしかないのか? いや、待て待て、あのツッコミほど恐ろしいものはないぞ? いや、しかし…。と思うこと数時間。依然智代は押入れに籠もったまま出てこない。中からは、“ううっ…うううっ…” と非常に悲しそうな泣き声が聞こえてくる。そのうち、鷹文が帰ってくる。ともも帰ってくる。
「あっちゃ〜、今日もお籠もり状態なの? 姉さん。お腹ぺこぺこなのになぁ〜。まあしようがない、店屋物でも取るか…。とも、おいで?」
 といつものようにともを連れて電話のある部屋へ向かう鷹文。ともはちょっとぷぅ〜っと怒ったような顔を俺に見せて鷹文と一緒に行ってしまった。もうしようがない。このまま籠もられて夜中中あんな悲しそうな声で泣かれたら神経に来てしまう。実際この前も大分やられてしまっている。これ以上は持たん! そう思った俺は、
「わ、分かった。お前と一緒に漫才してやるから! だから出て来てくれ〜!!」
 そう言うと、押入れの中から妙にくぐもった声で、“本当か? もしウソだったらもう一生出てこないぞ?” と子供じみた声が聞こえてくる。その声に内心“ぷぷっ” と笑いがこみ上げてくるものの、こんなところで笑ったりなんかしたらそれこそ厄介事になりそうなのでその笑いはぐっと飲み込んで俺は言う。“本当だ。ウソはつかない” そう言うとギギギッと押入れのドアが開く。涙に濡れた顔も見えた。


 今日10月14日は私の誕生日だ。鷹文とともを起こし、朋也を起こしてもらう。新聞受けにはいつもの新聞や広告…、とともに懐かしい高校の文化祭の案内みたいなものが入っていた。懐かしい。もう2年前か…。私が卒業して…。と新聞受けからごそっと抜き取る。どれどれと読んでみると面白い企画があった。ってこれは私が企画したものをそっくりそのまま写したものなんじゃないのか? 現生徒会の連中め…。楽をしたかったわけだな? と怒っていても仕方がない。もう私には過去のことなんだからな。そう思い直し、朋也と一緒に出たあの“素人漫才大会”を思い出す私。あのときは私がツッコミで朋也がボケで…。と思い出してると朋也が、“何だ? それ” と珍しそうな物を見つけたような顔で尋ねてくる。夫婦漫才か…。ふふっ、悪くないな? そう思って言ったところが…。


「早速練習だ! 朋也!!」
「分かってるとは思うが今回はお前がボケだからな? 上手くボケてくれたら俺がツッコむから…。頼むぞ?」
「分かっている。任せておけ…」
 夜、いつもの仕事場から帰ってきて漫才の練習をする俺たち。客は鷹文とともの二人。この二人を笑わせることが出来れば、まあまずまずの出来なのではないだろうか。そう思い自信たっぷりに言う智代に念を押すようにそう言う俺。智代は何事かがあるとすぐにツッコミを入れてくる。そのせいで俺が何度となくお花畑の中を歩いたか気が知れん。だから今回は前回の反省点も組み込んで間違いのないようボケとツッコミの役割を変えてみた。で、初練習とばかりに早速やってみたんだが…、客は一つも笑わず(まあ鷹文は愛想笑いで最初のほうは笑ってはいたんだが、あれは本気の笑いではなくどちらかというと哀れみの笑いではなかったかと思う…。うん…)、欠伸なんぞをかましていた。挙句の果てにはともが点けたテレビのお笑い番組を二人して“やっぱりこっちのほうが面白いよね〜?” と訳の分からん格好の芸人がやってるコントを見て笑っている訳で…。俺はまあ最初だからと諦めてはいたんだが、俺の嫁はどうにも納得できないという感じで、“どうした? とも? お姉ちゃんたちの漫才は面白くないか?” と声も震え震えにそう聞く。すると…、それはある意味残酷な一言だったのかもしれない。でも、ともは智代に向かってこう言い放った。
「お姉ちゃんはボケよりツッコむほうがいいと思うよ? …あっ! でも最近はツッコミもあんまり面白くなくなったねぇ〜?」
 智代が凍った。それはもうバナナで釘が打てるくらいに凍った。子供は時として残酷なことを言うもんだと俺は思う。元々ツッコミ型の人間にボケをやらかすことなんて無理だったわけで…。かつ、ツッコミ型人間の尊厳を傷付けられた訳で…。でも目の澄んだいたいけな少女にそんなことを言われると怒るに怒れないもんだと、今更ながら気づいた訳なのだが…。で、結局…。
「どうせ…、どうせ私はツッコむことしか出来ない女なんだ…。ボケを出来ない女なんだ…。しかもそのツッコミでさえ面白くない女なんだ…。ううっ…うううっ……」
「だぁ〜っ!! もう悪かった!! 俺が全部悪かった!! だから頼むから出てきてくれ〜っ!!」
 といつもの押入れの前、頭を掻き毟りながら土下座をして謝る俺がいた。そんな今日10月14日は俺の最愛の嫁、岡崎智代の21回目の誕生日だ。

END