ふぅちゃんマスターへの道
今日7月20日はわたしの妹、ふぅちゃんのお誕生日です。昔から人見知りが激しくてお友達のなかなか出来なかったふぅちゃんでしたが、ここ4、5年の間に祐くんの会社の後輩で祐くんと同じわたしの教え子だった渚ちゃんや渚ちゃんの旦那様である岡崎さんやその他いっぱいのお友達に囲まれてとても楽しそうに毎日を送っています。だけど、一つ問題があります。何かと言うと…。そう、生活全般。昨今の厳しい状況の中でこの子は果たしてやっていけるのだろうか? と姉としては非常に不安な訳なのですが…。
「♪ヒトデ〜、ヒトデ〜、星型ヒトデ〜♪」
と当の本人は全く気にしていない様子。わたしの父も母も存外のんびり屋なのか“なるようになる”と言うような性格なので、気にしているのは実質わたしだけで…。でも当人も最近は自分でするようにもなってきたのでそれはそれでいいことなのかもしれません…。でも塩と砂糖を間違えたりは当たり前、この間はワサビの代わりに歯磨き粉を出されてびっくりしたと父が言っていました。あっ、そうそう最近また変な遊びを覚えたのか、この間もわたしの家のほうに遊びに来たふぅちゃんでしたが急に何かを思い出したかのようにわたしに向かって、“べ、別にお姉ちゃんのことなんか好きじゃないんですからねっ?!” とツンデレみたく言ってきました。“ツンデレはもう流行をすぎたよ?” と優しく諭すと、寂しそうにわたしの顔を見遣りながら家を出て行こうとしていたものですから慌てて引きとめましたけど…。
と、こんな日が毎日続いていた訳ですが、今日、仕事の都合で祐くんの会社が臨時休業になったのを利用して祐くんとふぅちゃんの3人で買い物に出かけると岡崎さんと渚ちゃんと汐ちゃんに出会いました。昔から体が弱くて休みがちだった彼女でしたが、岡崎さんと出会ったことをきっかけに体のほうも徐々に回復してきたんだとか…。早苗さん曰く、“愛の力” だそうですけど、全くその通りだなって思う訳です。“こんにちは” と挨拶を交わすわたしたち…。でもふぅちゃんはと言うと、
「ん〜!! やっぱり汐ちゃんは可愛いですっ!! 風子の妹にはもってこいですっ!!」
そう言いながら汐ちゃんを抱きしめていました。16、7も歳が違うのに、しかも血の繋がりなんて全然関係なくそんなことを言えるふぅちゃん。多分この子の中では“汐ちゃん=妹”という構図が出来上がっているのでしょう。そう考えると我が妹ながら空恐ろしいです。はわわわ〜っと恍惚状態にはいるふぅちゃん。家でもそう言う状態になることがあるのですが…。と言いますかそう言う状態にはいるとなかなか抜け出せないのでいつも困っているのですけどね?…。と岡崎さんが、“汐、渚とチェンジだ!” と言って未だ恍惚状態に入っているふぅちゃんの手をどけて汐ちゃんを自分のところに寄せると代わりに渚ちゃんをふぅちゃんの前に立たせて、“渚、いつものな?” そう言って離れていきます。わたしと祐くんも岡崎さんの後について行きました。
しばらく離れたところで見ていると、はっ! と我に返るふぅちゃん。汐ちゃんを抱いていたときと微妙に違うのかきょろきょろしています。と渚ちゃんにこう尋ねます。“あの…。汐ちゃんですよね?” と…。渚ちゃんは少しイタズラっぽく微笑むとこう言いました。
「はい。汐ですっ! 時々大きくなりますっ!!」
冷静に考えて人間が一瞬に大きく成長するわけがありません。昨今のアニメでの魔法少女の形態でも珍しいくらいです。ふぅちゃんもそれくらいは分かっているはず…。などと考えているわたしが浅はかでした。妹は半ば呆然としてこう言ってきたのです。
「ええっ? そ、そそそそうなんですかっ? 風子もひょっとして知らない間に大きくなったり小さくなったりしてるんですか…。これは意外な事実ですっ!!」
と…。人の体はいきなりそんなに大きくなったり小さくなったりしません。と言うかなれません。でもふぅちゃんは信じきった顔で、“汐ちゃん、元の大きさに戻ってくださいっ!!” と言っては渚ちゃんの体をぺたぺた触っています。そうしているうちに岡崎さんが“もういい頃かな?” と独り言のように呟いて汐ちゃんを連れて出て行きます。わたしと祐くんはその場で待機して見守ります。岡崎さんから、“風子マスターとしての風子の扱い方をちょっとお見せしますので公子さんと祐介さんは陰から見ていて下さいますか?” と言われたので…。
「風子、それは俺の嫁さんだ。お前、いつもぼ〜っとしてるから、俺が入れ替えた。というか今回はヒトデは関係ないぞ? いや汐関係でもぼ〜っとしてるな? お前って…」
「風子ぼ〜っとしてないですっ!! 岡崎さんよりしっかりしてますっ!! と言うか風子、、また岡崎さんに騙されましたかっ?!」
そんなことを言うと、ガーンという顔になるふぅちゃん。1つのことに熱中すると周りが見えなくなるわたしの妹ですが、まさかここまでとは思っても見ませんでした。でも、その後は気をつけているみたいでしたので、これはこれで良かったのかもしれません。…今日のところは、ですけどね?
「岡崎さんは普段からああなんですよっ? 全くもって失礼ですっ。ぶつぶつ…」
帰りしな、大きなヒトデのクッションを持ちながらわたしの妹はぶつぶつと祐くんの会社の後輩の男の子の文句を言っています。ちなみにヒトデのクッションはその会社の後輩の男の子、岡崎さんとわたしの教え子の渚ちゃんと渚ちゃんの子供で、ふぅちゃんの大好きな汐ちゃんが買ってくれたもの。余程嬉しいのでしょうか…、2、3歩歩くたびに夢の世界へトリップしてしまうのでなかなか家のほうには着きません。取ってしまおうかとも考えたのですがあんなに幸せそうな顔をしているふぅちゃんの顔を見るのも楽しくてとてもそんなことは出来ませんでした。ふぅ〜っとため息を一つ吐くと、こう言うわたし。
「まあまあ、岡崎さんも悪いかもしれないけど、お姉ちゃんが見る限りではふぅちゃんも悪いと思うんだけどなぁ〜…」
そんなことを言うと途端にガ〜ンと先程の汐ちゃんのときと同じような顔になって、“お姉ちゃんは岡崎さんに毒されちゃってますっ!! 祐介さん、助けてあげてください!!” と真剣な表情で言うわたしの妹。言われたほうの祐くんはと言うと、
「それも愛ゆえにか…」
と言っては夕陽に向かって歩いていきます。ちなみに家の方向とは全く正反対の方向です。この場合、どっちを最優先にするべきなんでしょうか…。わたしの妹かわたしの旦那様か…。でもそれが個性なのかも…。そう思います。とりあえず祐くんを呼び止めて、ふぅちゃんの手を握りしめて実家のほうに歩き出しました。今日は母がささやかながらお誕生日パーティーを開いてくれるそうです。ちょっと変わってるけどそれが見ていてとても面白くて、いつも最後には笑顔になってしまうそんな今日、7月20日はわたしの大好きな妹・ふぅちゃんのお誕生日です。あっ、でもふぅちゃんマスターへの道はまだまだ遠そうですけどね? うふふっ。
END