くもりのち雨のち晴れ
今日12月24日はわたしのお誕生日です。昔から体が弱くて長期欠席をしていたせいで高校生活ももう4年が経ってしまいました。お友達だった人たちは全員卒業して独りぼっちになってしまったわたしではあるのですけど、今年はちょっとだけ、ううん、いっぱい幸せなことがあります。それはわたしにも好きな人が出来たことです。もちろんお父さんやお母さんも好きですけど、お父さんやお母さんとはまた違う“好き” な気持ちがあります。それはどんどんわたしの中で膨らんでいくみたいで、この間もその人・朋也くんのことでお父さんとちょっと言い争いになっちゃいましたけど…。
でもお父さんもお父さんだとわたしは思います。だってわたしの好きな朋也くんの悪口ばかり言うんですよ? 何かにつけて“別れちまえ” って言うものだからこっちも腹が立って“じゃあわたしが出ていきますっ!” って言ったらお父さん、顔を真っ青にして泣きながらお母さんに、“渚が、渚が反抗期に入った〜っ!!” って言ってましたけど。お母さんがわたしの顔をちょっと嬉しそうに見つめながら、“秋生さんがいつまでも‘渚は俺のものだ〜’なんて言うからですよ?” と言って慰めてました。お父さんやお母さんには感謝しきれないほど感謝しています。現にお父さんは演劇役者さんでわたしが生まれたせいで役者の道を断ったと聞いているし、お母さんはわたしが倒れてから教師の仕事を辞めたって聞いてます。ですがわたしだって好きな人くらい出来ます。恋もしたいです。ぷぅ〜っと頬を膨らませながら涙目でお父さんのほうを見るとお父さん、お母さんの胸にすがって、“渚に…、渚に嫌われたーっ” って言いながら泣きじゃくってて、それがいつものお父さんらしからぬ光景だったんで膨らませた頬もいつの間にか萎んで代わりにお父さんを慰めるわたしがいたんですけど…。
で今日です。今日で19歳になったわたし。昨年まではお父さんとお母さんとわたしだけのお誕生日会だったわけですが今年は朋也くんを介して知り合ったお友達も多く来てくれるみたいなので家の中はてんてこまいです。でもお祝いしてくれる人が多いと何だか嬉しさもどんどん増してきて思わずにこにこ顔になっちゃうんですから不思議です。お母さんと台所に立っているとガラガラガラと表の戸を開ける音。誰でしょう? そう思ってお料理をお母さんにお任せして行ってみることにしました。ちなみにお父さんはお部屋の飾りつけで忙しいみたいです。とそこには、
「やほー、手伝いに来たわよ〜?」
と杏さんたち、わたしが朋也くんを介して知り合ったお友達が来てくれていました。何だかわたしは一人じゃないんだと思うと心がぽかぽか温かくなってきました。早速中に入ってもらいお父さんに言うと、“おう! よく来たな。わりぃが今手が離せねぇんだ。要件だったら早苗にでも聞いてくれ…。っとと、誰だ〜、こんなところにS字の針金ぶら下げてるやつぁ〜よ〜?” そう言ってお部屋の装飾に没頭中です。ついでを言うと言っていたS字の針金ですがあれはお父さんが梅雨時のとある朝に、“野球の練習ができねぇ〜!!” って言ってゴムボールを吊り下げて打つために取り付けた機械です。あれが本当に役に立ったのかわたしには分かりませんけど、お父さん曰く、“結構いい感じに振れたぜ!” と言っていましたからあの機械もまんざら悪くはなかったのでしょうね? お母さんのところに行きます。あれやこれやてんてこ舞いになっているお母さんに言うとにっこり微笑んで“じゃあお願いしちゃおうかしら?” って言います。その後みんなでお料理のお手伝いをしました。だけど、肝心の朋也くんたちはまだ来ていません。少し心配になって杏さんに言うところが、“ああ〜、まあ別にいいんじゃない?” なんて他人事のように言いました。杏さんには関係なくてもわたしには関係があるんです〜っ!! と手をぶんぶん振って抗議するわたし。その様子を見ていた智代さんが、“大丈夫。岡崎たちには用意してもらってるだけだから” と言って微笑みます。用意ですか…。何の用意でしょう? 不思議です。そう思いながらまだ来ない大好きな人を待つわたしがいました。
30分経過。無事にお料理も出来ました。ケーキはお母さんと杏さん・智代さん・ことみさんの合作です。ふぅちゃんはお父さんのお手伝いに回されました。ふぅちゃん本人は“どうして風子だけお部屋の飾りつけにまわされるんですか? 最悪ですっ!!” って言ってぷぅ〜っと頬を膨らませているので、杏さんの双子の妹の椋さんにお願いしてついて行ってもらうことで何とか納得したみたいです。こうしているうちにも朋也くんたちが来るんじゃないかなぁ〜っと思いつつ時々通る廊下から外を眺めていますが現れる気配は一向にありません。どうしたんだろう? と思って杏さんに聞いてみても…。
「ああ、もう少しかかるんじゃないかしらね〜? って言うか何で連絡役があたしなわけ? 椋にやらせればいいじゃない…。まったく陽平は…。ぶつぶつ…。ってま、まあそのうち来るでしょ? うんうん」
と言ってまともに取り合ってくれません。と言うかわたしにだけ何か隠してるような気がするのですが…。そう思って言ってみるものの、“隠してない隠してない。まあ朋也が忘れてるって言う可能性はあるけど…” とちょっとイジワルそうに言う杏さん。“彼女のわたしのお誕生日を忘れてるって?! 朋也くん酷いです。そんなことする人嫌いです!!” とこの前やっていたドラマの再放送のヒロインみたいな口調になりながらぶつぶつ呟くわたし。うるうるした目でじっと外を睨みました。けれども時間はちょうどいい時間になっていきます。お料理のほうもお部屋の飾りつけのほうも準備万端なのに…。大好きな人だけがいない。もういいですっ! 朋也くんなんか知りませんっ! そう思って席に着くわたし。お誕生日なのにこんなに嬉しくないのは初めてです…。そう思ってぷぅ〜っと頬を膨らましつつろうそくに火が灯されるのを見ていると?…。
「わぁ〜、もう俺が悪かった!! だからそんな目で見つめるのは止めてくれ〜っ!!」
サンタさんの格好をした朋也くんがぺこぺこ頭を下げています。トナカイの格好をした陽平くんが、“あ〜あ、言わんこっちゃない。だから僕は普通にお祝いしたほうがいいって言ったのに…。杏に言いくるめられるんだか…って! 飛び道具は今日はなしにしよ?” と辞書を持って怪しく笑っている杏さんに言っています。そう、朋也くんたちはサンタさんになっていたんです。わたしのお誕生日を忘れた訳じゃなかったんです。わたしを驚かそうと思ってたんですって。そんなこととは知らないでさっきまでぷんぷん怒っていたわたしはちょっぴり恥ずかしいです。そう思いながらもじ〜っと見つめるわたし。そんなわたしにすっと小さな箱が手渡されました。もちろん手渡したのは朋也くん。“気にいるかどうかは分からないが、俺からのクリスマスと誕生日のプレゼントだ…” とちょっぴり恥ずかしそうに頬をポリポリ掻きながらそう言います。“開けてもいいですか?” と聞くと、“ああ、でもあまり期待しないでくれよ。こんなことをするの初めてなわけだし…” そう言って前にも増して頬をポリポリ掻きながらそう言う朋也くん。お父さんが、“小僧のちゃちいプレゼントなんざいらねーわな? お父さんが後ででっかいプレゼントをあげよう” と言ってお母さんに注意されたりしてます。杏さんたちはこっちを微笑ましそうに見つめていました。包装紙を丁寧に破り中の小さな箱を開けるわたし。嬉しすぎて思わず涙が溢れてきそうになるのをじっと堪えると、手に取って左手の薬指にはめました。
「似合ってますか? 朋也くん…」
そう言ってちょっと涙目になりながら訊くわたしにうんと首を縦に振るだけの朋也くん。お父さんやお母さんのプレゼントももちろん嬉しいですが、彼氏さんからのプレゼントはもっと嬉しいですね? そう思いながらまじまじと左手の薬指を見つめるわたし。と向こうのほうでお父さんが、“ちっ、今日は小僧においしいところを全部持っちかれちまったが、まだまだてめぇなんかにゃ渚は渡さねーからな?” と朋也くんに言っています。朋也くんも、“ああ、今はオッサンのほうに分があるからな? でもそのうちに俺のものにしてみせるぜ…” と言って怪しく笑っています。笑い合いながら睨み合ってる2人を尻目に、早速ケーキを切るお母さん。甘い香りが鼻をくすぐります。ふぅちゃんなんかはもう食べてました。今日も賑やかしく過ぎていく日ではありますが、とっても嬉しい日でもある今日12月24日、わたしのお誕生日です。
END