お母さんのお星さま


 今日5月13日は私の誕生日なの。いつもこの日はお父さんとお母さんにお誕生日プレゼントにご本をもらってた。でも…。それは10年も前の話。思い出したくない思い出。当時の私はまだ幼くて…。いっぱい知らない人が入ってきて、お父さんたちのお部屋を荒らしていって…。それでも独りぼっちでお父さんたちを待ってたの。ず〜っとず〜っと待ってたの。待ってたら帰ってきてくれる。私がいい子にしてたら帰ってきてくれる。そう信じて…。でも帰ってきてはくれなかった。亡くなったっていうことが理解できなかった昔の私。毎日毎日記者さんがいっぱいいっぱい来て、インターホン越しに何か言ってる。夜は独りぼっちのお食事。怖くて、寂しくてたまらなかった。ただあの男の子が来てくれることだけを待ってたの…。
「ことみ、ことみ」
 う、ん? 目を開ける。優しそうな微笑みを浮かべて、あの男の子が私の顔を見つめてる。私もその顔を見てにっこり…。ず〜っと待ってた男の子。何年も待ってた男の子。微笑んだ表情はあのときのままだった。もっともあの時はよくお庭で遊んだりしたけど、今、そんなことをしようって言っても“そ、そんなこっ恥ずかしいこと出来るかよっ!” って断られちゃうから…。でも私はお砂遊びは好きなの…。山を作って崩れないようにトンネルを掘っていくの。にっこり微笑みながらお砂遊びをする私。男の子ははぁ〜ってため息をつきながら私の顔を見てるの…。
「ことみ、楽しいか?」
「うん、とってもととっても楽しいの…。朋也くんもしたくなったの?」
 そう尋ねる私の男の子・朋也くんは、またはぁ〜ってため息をついてる。不思議なの。見つめる私に気づいたのか朋也くんは何かイタズラっぽく微笑むとこっちにやってくると、“怪獣・トモヤーンが現れたぞ〜っ。トンネルなんかこうだっ! えいえいえいっ!” って私の作ったトンネルを崩しちゃう。ひ、酷いの朋也くん。一生懸命作ったトンネルだったのに…。いつもそんなことをしては私のことをいじめてくる朋也くん。涙を溜めて朋也くんの顔を見つめる私。途端に朋也くんはぺこぺこって頭を下げてくるの。
「ちょっと悪ふざけが過ぎた…。ごめん。ことみ」
 って謝る朋也くん。“もうしない?” って言うと、“俺が覚えてる間はな?” そう言って私の頭を撫でてくれる。撫でる手を上目遣いに見つめる。お父さんみたいな大きな手…。私の大好きな手……。夕暮れが迫るそんな時間だったの…。


「今日は母の日だから、こんなものを作ってみたの…」
「へぇ〜、なかなかうまく出来てるじゃないか…。早速よばれてもいいか?」
 うん! って頷く私。食用のカーネーションで作ったスープにサボテンのステーキ、菜の花の和え物に…、食用バラのゼリー。どれもお花ばかりなの…。うふふって微笑むと私も席に座る。パクパク食べる朋也くん。特にサボテンのステーキがお気に入りみたいで、“もうないのか?” って聞いてくる。“いっぱい食べるかと思ったから、予め用意してたの。焼いてくるからちょっと待っててなの…” そう言うと台所へ向かう私。ふっと空を見る。今日は雨上がりだからお空がきれいなの…。
 北東のお空にはこと座のベガって言うお星様が出ていたの。お母さんがとってもとっても好きだったお星様。私もとってもとっても大好き。じ〜っとお星様を見つめる私。と、朋也くんが心配そうにこっちを伺って、
「どうした? ことみ…」
 って聞いてくれる。私はこう言ったの…。
「朋也くん。お星様がとってもとってもきれいなの…」
 って…。東京ではあまりお星様は見えないけど今日はきれいに見えてるの。私はにっこり微笑んで朋也くんの顔を見つめる。朋也くんは“ほんとか?”って言うとこっちに来る。私は窓を開けて表へ出る。裸足のままだったから少し冷たい。でも私と同じ名前の星座のお星様が見られるなんて思っても見なかったから嬉しくてたまらなかった。朋也くんはどの星がこと座が分からないみたい。足が寒かったからお外で履くいつもの草履を履いて、ついでに星座早見盤も持ってきて、詳しく教えてあげたの…。
「そっか。あれがこと座なんだな? でもこんな都会で星が見られるなんて何か得した気分だな? …ことみの母さんがことみの誕生日を祝ってるのかも知れないぜ?
 そう言う朋也くん。最後のほうが聞き取りにくかったけどなんて言ったの? そう聞くけど…。“秘密だっ! 秘密!!” って言いながら戻ってっちっゃった…。もう一度夜空を仰ぐ。空にはいっぱいのお星様。そのどのお星様もきれいに輝いていたの。
 “お母さん。私を産んでくれてどうもありがとう…。もうお母さんたちの声は聞こえない、姿も見えないけど、私の心の中にはちゃんと残ってるから…。だから心配しないでね?” そう、こと座のアルファ星・ベガに向かって心の中で言う私。今日は母の日・5月13日…。そんな私のお誕生日だったの……。

END