星のTシャツと海水浴と…
「風子、誕生日おめでとう」
今日7月20日は風子の18回目の誕生日ですっ! 風子はもう18歳。大人の魅力ぷんぷんですっ! それなのにこの人と来たら…。
「お前、ちびっこいからな。プレゼントはこんなものにしてみた…」
「失礼ですっ!! 風子、ちびっこくなんてありませんっ! 岡崎さんがただ大きいだけですっ! 最悪ですっ!!」
そう言って風子の目の前、風子のことをちびっ子扱いしてくるこの人は風子の大好きになってしまった人・岡崎さんですっ! ぷぅ〜っと頬を膨らました風子の非難の目をよそに、岡崎さんはガサゴソと持っていた袋を開けて風子にプレゼントを手渡します。ヒトデ型の可愛い包装紙に包まれたものを手渡す岡崎さん。薄いので服か何かでしょう。そう思って受け取りました。
「開けていいですか? いいですね? これはもう風子のものですし…」
「はあ。お前なぁ〜…。彼氏からの誕生日プレゼントなんだからもっと嬉しそうにしてくれてもいいだろ?」
そう言うと深いため息をつく岡崎さん。でも風子にはどうしても喜べないことがあるわけですっ! それは…。
風子の誕生日、夏休みの第一日目、普通だったら梅雨明けして真っ青な空が広がってるって言うのに今年に限ってどんよりとした雲が空一面広がってますっ。最悪ですっ!! 誰かが風子の幸せを妬んでこんな呪いをかけてるんじゃないでしょうか? ああっ、絶対にそうに違いないですっ! 朝、9時半くらいに起きた風子は何気なく空を見上げます。何だか曇ってますっ! 向こうの家の方を見てみると糸のようなものが…。雨でした…。“今日は風子の誕生日なんですから、神様ももう少し何とかしてくれてもいいって言うもんですっ! 風子が何か悪いことしましたか? いいえ、風子、とってもいい子にしてましたっ!! それなのに…。神様、最悪ですっ!!” そう思いながら恨めしそうに雨空を睨んでると、お姉ちゃんが台所から出てきました。
「おはよう、ふぅちゃん。今日は早いんだね?」
風子のお姉ちゃんは今年の4月に結婚しました。相手は祐介さんと言ってとても優しい方です。岡崎さんとは大違いですね? 祐介さんは朝早くに出かけていくので、お姉ちゃんも早起きしたのでしょう。…にしても、お姉ちゃん? 今、何か風子に対して聞き捨てならないことを言ったような気がするんですけど? そう言うと?
「ふぅちゃん、いっつも夏休みにはお昼頃まで寝てるじゃない? だからね? ちょっと不思議だな〜って…。って、あっ、そうか…。今日はふぅちゃんの誕生日だったね? 岡崎さんとお出かけするんだったっけ…」
お姉ちゃん! 一人で納得したようにうんうん頷かないでくださいっ! もう最悪ですっ! これじゃ風子が食べて寝る子みたいですっ! 風子は大人ですっ! お姉ちゃんは失礼ですっ! 風子はぷぅ〜っと頬を膨らませて上目遣いにお姉ちゃんの顔を見ます。でもそんな風子の視線には全く気付かないのかお姉ちゃんはテレビをつけます。
“東京地方はまだ梅雨が明けません。今日もときどき雨の降るぐずついた生憎の天気になるでしょう”
さ、さ、最悪ですっ!! 今日は岡崎さんと海に行くつもりだったのにっ! 外を見ると曇り空からざあざあと音を立てて雨が降ってました。せっかくこの前お姉ちゃんと水着を買いに行ったのに! …でもこんな日に海に行こうなどとは言いません。言ったらそれこそ岡崎さんから、“お前ってやっぱりお子ちゃまなのな…” って言われてしまいそうですっ。最悪ですっ!! 風子より子供っぽい岡崎さんにそんなことを言われるなんて、風子のプライドはズタズタですっ!! そんなことを思いつつもお姉ちゃんが作ってくれた遅めの朝ご飯を美味しく食べました。
食事中、お姉ちゃんの後ろを見ると窓が開いていました。何気なく窓の方を見てみるとやっぱり雨空ですっ! これじゃあやっぱり海になんて行けませんっ。海って言うものはもっと夏らしいガンガン日の照った日に行くべきだと風子は思いますっ! 室内プールでもいいか…。などと言う人もいるかも知れませんが、風子、そんな人は嫌いですっ! お日様の下で、しょっぱい味覚、ひりひりとした感覚とともに泳ぐことこそ、夏の風物詩ですっ!! 風子、語ってしまいました…。
「勉強もちゃんとしなくちゃね〜? ふぅちゃん…。小学校の時はいっつも8月31日になって慌ててしてたしね? あれは大変だったんだよ? 家族総出でふぅちゃんの宿題をやったんだから…。うふふっ」
お、お姉ちゃん卑怯ですっ!! 風子が、大好きなお姉ちゃんに何も言えないことを分かって言うんだから…。これを卑怯と言わずして何を卑怯と言うんでしょうか…。うううっ。これがもし岡崎さんだったら何か言い返してますけどね? でも、お姉ちゃんは卑怯極まりないですっ!! 最悪ですっ!! そんなことを思うとさっきにも増してお姉ちゃんの顔を上目遣いにじ〜っと見つめます。頬も膨らまして見つめます。でもお姉ちゃんは、
「ふぅちゃんがそんな顔をしても返って逆効果だと思うんだけどな…」
岡崎さんみたいなことを言わないでくださいっ!! お姉ちゃんっ! もう! お姉ちゃんは岡崎さんに汚染されちゃってますっ! 激最悪ですっ!! 前にも増してぷぅ〜っと頬を膨らましてお姉ちゃんの顔を見つめていました。すると…。
“ピンポーン”
玄関のチャイムが鳴ります。お姉ちゃんが出て行きました。岡崎さんでしょうか? と一瞬思いましたが、あのお寝坊さんの岡崎さんのことですっ! 絶対昼過ぎにならないと来ませんっ! そう思って優雅に朝食などを取っていると? 玄関から聞き慣れた声が聞こえてくるではありませんか?
「あの子ったら休みになるといつもこうで…。ごめんなさいね?」
「いえ…。俺のほうこそ早く着すぎたって言うか…。ご迷惑じゃなかったですか?」
こ、この声はやっぱり岡崎さんですっ! 慌てふためきながら時計を見ると、もうお昼近くになってました。ああ、風子は悪い夢でも見ているのでしょうか…。って! こんなことをしている場合ではありませんっ! お洋服に着替えないと…。そう思いこそっと自分の部屋に戻ってお洋服に着替えて何事もなかったように応接室のほうを見ると…。
「よっ! 風子」
イジワルそうな顔をした岡崎さんが、お姉ちゃんと一緒に微笑ましそうに風子の顔を見つめていましたっ! 最悪ですっ!!
「そう膨れるなよ…。天気には逆らえないって。もう梅雨明けも間近なんだからな? 泳ぎに行くのは梅雨が明けてからにしようや…。プールとかは邪道なんだろ? 風子は…」
「もちろんですっ! プールなんかは風子のポリシーに反しますっ! 梅雨明けしたら絶対海に行きますっ! というか連れて行ってくださいっ!!」
風子がそう言うと、はぁ〜っとため息を吐く岡崎さん。とてもとても失礼ですっ! …でも、今日は許してあげましょう。ああっ、風子は何て寛大なんでしょうか…。きっと岡崎さんは寛大な風子のことをもっともっと好きになるでしょう…。そう思って大きなヒトデのプリントされたTシャツを手に取りますっ。大好きになってしまった人からの初めてのプレゼント。手に取ってぎゅ〜っと抱きしめます。そうだ! これを着て海に行きましょう…。浜辺の皆さんが風子に釘付けですよ〜。きっと…。うふふふふふふぅ〜。
そんなことを考えていると……。は、鼻が、鼻が何だかむずむずします。はっ、と我に帰って横を見てみると、イジワルそうな顔をした岡崎さんがお客様用のコップにストローをさして、風子の鼻からオレンジジュースを飲ませようとしてました。
「風子マスターとしてはこんな絶好の機会を逃さずにはいられない訳だ…」
「最悪ですっ! っていうかいつも鼻にストローを入れないでくださいっ!! 鼻がむずむずして…、ちんっ、ちんっ。もう! 岡崎さんは究極の失礼ですっ!!」
そう言いながらまたぷぅ〜っと頬を膨らませてティッシュペーパーを手にとって鼻をかみます。そんな風子に向かって屈託のない微笑みを向けてくれる、風子の大好きになってしまった人・岡崎さん。その横からうふふと優しく微笑むお姉ちゃん。その2つの笑顔を見ていると、いつもこっちまで笑顔になってしまいます。卑怯ですっ!! でも、それはそれでいいかも知れませんね? そう思える今日7月20日、風子の誕生日でした……。
END