ことみちゃん、ツンツンしちゃう?


 今日5月13日は鬼? じゃなかった、俺の彼女で同居人な一ノ瀬ことみの誕生日なわけだ。が、ことみは今俺の顔を上目遣いに見遣りながらぷぅ〜っと頬を膨らませている。高校を卒業して早5年。ことみは大学で超弦理論とか言う俺にしてみれば何じゃそりゃ? なことを教える講師な感じになっていて、俺はそのボディーガード兼世話係みたいなことをやらされている。まあ大学への送迎とかだけなので普段は町工場でひーこら言いながら働いているわけだが…。で、今ことみは何だか分からないが頬を膨らませているわけで。別段これと言って気に障ると言うことはしていないはずなんだが…。俺は野球にはそんなに明るくないのだがことみの応援しているチームは今年も最下位に沈んでしまっているのでそれを怒って拗ねているのかと思うわけだが…。
「なあ、ことみ。そんな野球のことで怒ったってチームが強くなるわけじゃないんだし、もうちょっと建設的に考えようや…」
 とご機嫌ナナメなことみにそう言う俺。だが、ぷいっと横を向いて“朋也くんなんて知らないの…” なんていつものウィスパー声で言ってくる。って言うか俺が原因なのか? 今回も…。いや、ちょっと待て? 今回はちゃんと誕生日プレゼントは贈っているし、ちょっと早いがバースデーパーティーも主催した。ことみも嬉しそうに微笑んでいたはずだ。だとしたら何が今のことみをこんなツンツンした状態に追いやったんだ? う〜ん、分からん。と何分間か考え込んでいたのだが今回は元の原因が分からないわけで、本人に直接聞いてみるのだが、別段これと言って俺が悪いことをしたとか、いじめたとかそう言う文言も出ては来ず、ただ、“朋也くんなんて知らないの…” ということだけしか言ってこない。と、そこでピーンと頭の中で何かが閃いた。先々週くらいだったかに一回ことみと“ツンデレ喫茶” と言う何が楽しいんだか分からん喫茶店に入ったのだが…。いや本当はメイド喫茶に入りたかったのだが時はGWの真っ最中なわけでどこもかしこもいっぱいだったんで仕方なくそこに入った。まあことみの社会勉強もかねてのことだったんだが、微妙におどおどしてたっけか。かく言う俺もこんなところに入るのは初めてだったんで、ことみ同様におどおどしてたように思う。と可愛らしい女子高生のアルバイトらしいウェイトレス? がやって来て、
「何飲むの? 早く決めなさいよね? 全く…」
 と普通客にそんなことを言えば即刻クビになりそうな文言を言ってぽいっとメニューを放り投げて厨房のほうに消えていく。何なんだ? あれは。と思いながら、ことみのほうを見てみると涙顔になっていて、前にオッサンが早苗さんに言っていた歯が浮きそうな恥ずかしい文言を言って宥めていると、例の子がやって来て、“で? 何飲むか決まったの?” と聞いてくるので、無難にコーヒーと紅茶を頼んだ。“じゃあ大人しく待ってなさいよ?” と言ってまた奥へと消える。10分くらいしてその子がコーヒーと紅茶を持ってくる。と別に頼んでなかったケーキまでついてくるではないか? 何でだ? なんて一瞬アホな顔になってると、その子曰く…。
「べ、別にお腹空かしてそうだなぁ〜っとか考えて持ってきたわけじゃないんだからねっ? 勘違いしないでよねっ?」
 そう言ってだ〜っと走ってまたまた奥へと消えてしまった。一部のコアなファンからはやんややんやと騒がれてちょっと恥ずかしかったわけだがことみは、“えっ? えっ? 今の何だったの?” と辺りをきょろきょろ見渡しながら言っていた。コアなファンの一人が話しかけてきていろいろ聞いていたっけか? とここでようやく俺にも分かってきた。今回はどうもこの前に行ったそのツンデレ喫茶の“ツンデレ” になろうとしているのではないか? と…。まあこんなお子ちゃまなツンデレは逆にイジワルしたくなるんだが、今日はせっかくの誕生日なんだからと付き合ったのが悪かったのか、いつものウィスパー声でツンツンしてくるのにギャップと言うか似合わないと言うか、もう普通でいいだろ? って思って逆にこっちがツンツンしてみたんだが…。


「朋也くん、冷たいの…。今日は私のお誕生日なのに何でそんなイジワルなことばっかり言ってくるの? うううっ…」
 と、小動物な感じでこっちを涙目の上目遣いに見つめてくることみ。やっぱりことみはこう言う雰囲気が一番合ってるように思う。そう思って、“ことみはことみのままでいいんだ。あんなツンツンしたことみなんて俺は見たくない” まるで親が子供をあやすかのように頭を優しく撫でながらこう言ってやった。涙顔になっていた顔が急にぱぁ〜っと花が咲いたようになる。やっぱりこの顔だな? そう思った。と何を思ったのか、“仲直りに一緒にお風呂に入って?” とお願いされてしまう。なんでな仲直りが“風呂” なんだ?
 全く天才の考えることは凡人には理解不能だ。そう思って丁重にお断りを入れる俺。そんな俺に急に涙をぽろぽろ零して、“朋也くんがイジワル大王になっちゃったの〜っ!” とぐすぐす泣き出してしまう。あわあわとなってしまう俺に、いつの間にか涙目の上目遣いにウィスパー声で、“朋也くん、お願いしますなの…。今日は私のお誕生日なの。お願い、聞いてほしいな…” と言うある意味女の子の三大武器を持ってこられて否が応にも言うことを聞かないといけないような状況に追い込まれてしまい、結局…。


 嬉しそうに俺の横で肩まで湯に浸かってぷにゅぷにゅと柔らかいものが俺の体に当たるのも全く気にせずに、“気持ちがいいの…。これから毎日こんなふうに一緒に入ろうね?” とか言うことみの横で、猛烈な鉄の匂いと汗と体の底から沸き上がってくる何か得体のしれないものを必死で抑え込もうとする俺がいたのだった。断わることは可能だった。だったんだが、そうなってしまうとさっぱりしているようで実は執念深いことみにぶつぶつウィスパー声で文句を延々と言われそうだし、あと、女番長2人組と最終兵器に言いつけられて痛い目を見るのは明らかだったので、言うことを聞くしか方法がなかったわけで。このぷにゅぷにゅ感と俺の理性との勝負となってしまう。まあ当のことみはと言うと、本当に嬉しそうに天使のような笑顔で見つめていたが、その天使のような笑顔が俺にとっては悪魔の微笑みにしか見えなくなってしまった今日5月13日は俺の可愛い彼女・一ノ瀬ことみの誕生日だ。ぐふっ…。

END