秘密基地へようこそ


 今日7月20日はパパやママのお友達で汐と一緒によく遊んでくれる風子お姉ちゃんのお誕生日です。だから今日はお誕生日会をするんだって言ってパパもママも大忙し。ついでにアッキーや早苗さんも来てひっちゃかめっちゃかです。と、パパが何だか汐のことを呼んでる…。“なあに?” って言ってパパのところに行く汐にパパが汐と同じ高さになってこう言ったの。
「汐、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど…。いいか?」
 って。うんって頷くとにっこり微笑んだパパが、“風子の相手をしてやってくれないか。あいつ自分の誕生日とかにはすぐにやってきていっつも失敗してるから今年こそ成功させようと思ってな? 汐も風子の驚いた顔とか見たいだろ? あっ、それから公子さんにもこのこと言っておいてくれるか?” と言ってきます。そう言えば風子お姉ちゃんの驚いた顔なんて見てないなぁ〜。って言うよりいっつも驚いた顔をしてるから、あまり気づかないのかも…。って思って、ほんとに驚いたらどうなっちゃうんだろ? って考えて汐は言ったの。
「うん、いいよ? パパ」
 って。パパは優しい顔をもっと優しくして、“じゃあ、頼むな? 汐…” って言ってほっぺにチュッてしてくれる。にっこり微笑むとパパはママに何か言ってママが帽子とか服とか用意してくれたの。うんしょうんしょって着替えて、準備は終わる。ママが、“しおちゃん、風子ちゃんのおうちの行き方は分かりますか?” って聞いてきます。いつもパパやママに連れて行ってもらってるから分かるよ? って言うとお財布から500円玉を出して、“お小遣いですよ?” って汐のお財布に入れてくれたの。玄関を開けると青いお空にむくむくって雷さまのいる雲が見える。汐は雷さまは嫌い。だっておへそを取りに来ちゃうんだもん。杏先生に教えてもらったんだけど雷さまってすっごく怖いお顔をしてるんだって。来てほしくないなぁ〜って思って、風子お姉ちゃんのおうちに向かって歩き始めたの。
 てくてく歩く。途中でおばちゃんがやってるお店に立ち寄って風子お姉ちゃんの好きそうなお菓子と汐の好きなお菓子を買ってまた歩く。大きな通りへ出る。ん〜っと確かこの道を左に曲がるんだよね? そう思って左に曲がってまたてくてく歩いているといつもパパと来ているときに見ているおうちが見えてきた。家の前までやってくるとピンポーンってチャイムを押す。はいは〜いと言って出てきたのは風子お姉ちゃんのお姉ちゃんでママの高校生のころの先生だった公子さん。ついでに公子さんのおムコさんはパパの会社の上司さんなの。
「あら、しおちゃん、今日は一人?」
 そう言いながら公子さんはしゃがんで汐のお顔を優しそうなお顔で見つめてくる。うんって頷くと、パパがお話したことを話します。公子さんは優しそうなお顔をもっと優しくして、“それじゃあしおちゃんにお願いしちゃおうかな?” って言ってにっこり。風子お姉ちゃんのおうちに入るのって初めてだからちょっとドキドキ。玄関口で靴を脱いで公子さんに案内されて(階段は急だったから公子さんにちょっとおててを繋いでもらって)2階の一番奥の部屋まで来る。公子さんがお部屋の戸をコンコンってノックして、“ふぅちゃん、ちょっと開けてもいい?” と言うと、お部屋の中から“風子、今はとても忙しいんですっ! 後にしてくださいっ!” と言う声。“でも、しおちゃんが来てるんだけど…” って少しパパがママにイジワルするときにするようなお顔でそう言うと、急にダダダダって言う足音が聞こえてきました。勢いよくバーンって開けられた向こうには、パパがよく言う“旅立ち状態” の風子お姉ちゃんのはわわわ〜ってなったお顔があったの。


 今日7月20日は風子のお誕生日ですっ! 今年はと言うか今年も変な岡崎さんが何かイタズラをしようと考えてるに違いありませんから風子は部屋でじっとしているつもりですっ! 外へ出ようものならそれこそ岡崎さんの餌食になってしまうことは必至ですっ。ですから風子は部屋に閉じ籠って可愛いヒトデのお世話をしてます。とピンポーンと家のチャイムが鳴りました。お姉ちゃんが出たみたいです。ってこんなお昼に誰ですか? 不思議に思って風子、耳をそばだてて様子を窺がってみました。すると…。なんと風子の妹のしおちゃんではありませんかっ! ああ、しおちゃんも変な岡崎さんの魔の手から逃れようと必死で逃げてきたに違いありません。そう思って風子いろいろ考えてしまいます。まずしおちゃんのお部屋は風子と同じお部屋にして…って夢にまで見たしおちゃんとの生活ですか? と風子、いろいろ考えてしまいました。軽く30分くらいそうしていたでしょうか。ハッと気づくとしおちゃんの姿がありません。変な岡崎さんがこっそり連れて帰ったのでしょうか。最悪ですっ!!  そう思いつつ階下へ降りる風子。奥のリビングで楽しそうにお話してるお姉ちゃんの声と…、しおちゃん!! そう思いだだだだっとなだれ込むようにお部屋の中へ入る風子。そんな風子にお姉ちゃんは、
「あら、ふぅちゃん。ふぅちゃんも一緒にどう? このお菓子、しおちゃんがふぅちゃんのために買ってきてくれたものなんだって」
 そう言って風子にお菓子の入った瓶を見せます。瓶の中、ラムネ菓子とかキャンディーとか美味しそうなものがいっぱい入っていてしおちゃんがにっこり笑って、“風子お姉ちゃんも一緒に食べよ?” なんて言ってくれてます。こんなに嬉しくて楽しいお誕生日は生まれて初めてかも知れません。そう思うといろいろ考えてしまいます。しおちゃんが風子の妹になって風子といつまでも一緒にいて〜…、うふっ、うふっ、うふふふふぅ〜。


 現在夜の7時半。みんな各々の仕事から帰ってきて最早宴会場と化している古河パンの一室で用意されたパーティー用の料理を見ながら汐と風子の帰りを待つ俺たちではあったのだが、肝心の風子と汐がなかなか帰ってこないのを心配して様子を見に行ったわけだが、案の定風子があっちの世界から帰ってこず公子さんや芳野さんや汐が困り果てていた。で風子マスターである俺に出番が回ってきたわけだが、さてどうするか…。まず汐と風子を引き離さなければならないだろう。そう思い汐に“パパとタッチだ” と言って手をかざす。困っていたんだろうか大急ぎで俺の手にタッチして公子さんの後ろへ隠れる汐。さてここからどうするかだが…。このぽやや〜んとした顔は小1時間たっても戻りそうにもない。今回はヒトデと、汐も一緒だからか?…。うーん、と考えあぐねること10分。公子さんもお手伝いに行かなければならないらしく、俺が来て5分ぐらいして出て行ってしまい、今ここにいるのは今日の主役な? 風子と芳野さん、俺と汐の4人だけとなった。さらに20分経過。時計を見ると誕生日会ももうすぐ始まる時刻だ。とにかく起きろ!! とばかりに肩をゆするものの…、“うふふふふ〜” と風子は夢の世界にトリップしたままでいる。こうなればもう仕方がない。芳野さんに頼んで風子を宴会場である古河パンまで連れて行ってもらうことにした。俺がからって行ってもいいんだが、智代と杏に何を言われるかわかったもんじゃないし、それに輪をかけてオッサンに“浮気だ〜っ”なんて言われて、それを真に受けた俺の嫁にしくしく泣かれるなんてたまったもんじゃないからな? と言うかこの前そんなことがあったばかりなのでそう言う厄介ごとはなるべく避けたかったわけで…。しかし困った。と言ってどうなるわけでもなし、取りあえず風子の手を引き連れて行こうとすると、ふっと芳野さんがこう言う。
「時間がないんだろう? もし時間を破って帰ったらみんなが悲しむ。みんなが悲しめば風子はどうだ? 風子は祝ってほしいんじゃない。みんなの笑顔が見たいだけじゃないのか? 早々一人で抱え込むところはお前の悪いところだ。人に頼めばいい。幸いここには俺がいる。愛する妻の妹だ。これも家族愛って言うものだろう…」
 と芳野さんはそう言う。確かにそうだ。こいつは高校時代の時もそうだったな? それをすっかり忘れていた。“じゃあ芳野さん、お願いできますか?” と言う俺に、“ああ、任せておけ。何と言っても俺は風子の義理とは言え兄だからな?” そう言うと風子を背中に軽々と負ぶる。汐は俺の背中にちょこんと乗ってきた。“じゃあ急いで帰るぞ。岡崎。愛する者の待つところへ” と言うと芳野さんは走り出す。俺も、“はい!” と一言短く言うと走り出した。走り出してから気づく。この幸せそうな顔は汐を自分の妹みたくしようと思っていたんじゃないかと…。まあ姉妹みたくはならなくても十分姉妹っぽいから、何も言うことはない。汐も、“風子お姉ちゃんといるとすごく楽しい!” って言ってるしな? そんなことを思いながら夏の夕暮れの中、走る2つの影とその後ろのきゃっきゃとはしゃいでいる影と、未だにぽやや〜んとしている影とのギャップが面白く思った今日7月20日は俺の娘の遊び相手で俺のまあ頼りになる仲間、伊吹風子の誕生日だ…。

END