彼女の思い出とともに


 今日12月24日はわたしと秋生さんの愛の結晶、渚の誕生日です。渚は体が弱くて子供の頃は入退院を繰り返していました。それは今も同じなのですが、一つ違うところは強くなったところでしょうか。それは何も渚自身も頑張ったのでしょうけど、一番はやっぱり彼が出来たせいじゃないのかな? と私は思っています。渚自身もすごく毎日を楽しそうに過ごしているので、わたしとしては嬉しい限りです。渚の彼・岡崎さんを初めて紹介されたのは今年の春のことですが、わたしは昔、彼に会ったことがあります。もう15年も前のことだから彼は覚えていないでしょうけど…。


 その日も渚は熱を出していました。この子は生まれつき体の免疫が少なくて、お医者様からよく生きて10代後半から20代前半くらいだろうと言われていました。わたしの家系がそうでわたし自身もちょっと体が弱かったのですが、大人になっていくうちに治ってきて今では普通の暮らしが出来るようになったのですが、渚はわたしの家系の血を色濃く受け継いでいるのかよく熱を出しては病院をと家の往復でした。そんなわけですから当然お友達なんて出来なくて…。いつも一人ぽつんと寂しく絵本を読んでいる姿を思うと今でも涙が流れてきそうです。
 そんなある日、そう、ちょうど渚が4歳の誕生日を迎えた日。今日も渚と一緒に絵本を読んでいると、“お母さんの病室ってここかな?” と言う幼ない声が聞こえてきてガチャっと扉を開ける音が聞こえてきます。見ると3歳くらいの男の子がこちらを窺うように立っていました。わたしの顔をまじまじと見るとはっと気づいたようにバタンと閉める音。多分お母さんの病室と間違えたんでしょうね? そう思いつつまた絵本に目を通すわたし。と、しばらくして今度はコンコンッと扉をノックする音が聞こえてきます。“どちら様ですか?” そう言って早速扉をそ〜っと開けると、さっきの男の子とその子のお母さんだろう女の人が、ぺこっとお辞儀をしながら立っていました。
「先ほどはこの子がご迷惑をお掛けしたみたいで…。申し訳ございません…」
「いえいえ、間違いは誰にでもあることですから…。それよりお体のほうは?」
 その子のお母さんは顔色が悪くて、点滴をしたまま立っていました。今にも倒れそうだったのでわたしは部屋の中へと通しました。最初は遠慮していたその子のお母さんでしたが、わたしの勧めとその子の勧めもあってか、お部屋の中に入ってきます。もう一つの使われていない寝台に腰掛けると、わたしの娘・渚の顔を微笑ましそうに見つめています。わたしはその子に向かいこう言いました。
「お母さんのお世話をしてるんだ。偉いね?」
 わたしがこう言うとちょっと恥ずかしそうにしながら俯く男の子。お母さんはうふふっと微笑んで“いつまでも甘えん坊で困ってるんですよ…” と言っています。と渚がわたしの服をくいくいっとやります。ああ、多分次の絵本を取ってと言うことなんだろうと思い“なあに?” と聞くと、わたしに抱きつくように手を伸ばして来ます。“あらあら…” 苦笑気味にそう言ってわたしも座り直しました。それからお互いの自己紹介や各々の家庭のことなどを話しました。彼女・岡崎さんもうちの娘と同じように体が弱いそうで入退院を繰り返しているんだとか。その間旦那さんが男の子・朋也くんの面倒を見てくれていることも話してくれました。わたしも同じように話します。“まあ、幼ないのに大変ですね?” と岡崎さん。わたしはううんと首を横に振るとこう言います。
「この子はこう言う宿命の下に生まれてきたのでしょう…。ですからわたしは“大変だ”なんて思ったことは一度もありませんよ?」
 って…。岡崎さんは“すみません。余計な添削をしてしまって…” と頭を下げます。多分自分のことに置き換えて言ったんでしょうね? そう思ったわたしは、“でもこの子にとっては大変なことなのは間違いないでしょうね? 熱が出れば入退院を繰り返しているのですから…” そう言って渚の頭を優しく撫でるわたし。岡崎さんはそんな渚を優しそうな眼差しで見つめていました。それからちょくちょく世間話などをするようになり、彼もうちの娘とやや打ち解けたらしく、よく部屋に遊びにくるようになりましたけれど、幸か不幸か渚は退院することになって…。それきり彼女とは出会うことはありませんでした。しばらく経って同じ病院に風邪をこじらせた渚が入院することになって初めて、彼女が退院後すぐ不慮の事故で亡くなったことを知りました。最期はどんな顔だったのか…。お医者様のお話では安らかだったと言うことらしいですが、わたしにはそうは思えません。誰だって生きていたいはずですもの…。そう思うと残された彼女の旦那さんと最愛の息子さん・朋也くんが可哀想でならなかったこと…、そんなことを思い出します。


 そして今、彼はわたしの娘と付き合っています。昔のことはあまり覚えていないらしく(と言うより思い出したくいないのでしょうね?)、わたしのことも初対面のようでしたけど…。秋生さんなんかは、“さっさと別れちまえよ…。ちっ!” なんて言っていますがわたしは正直別れてほしくはありません。もっとも秋生さんも彼のことを本気で嫌っているわけもなくて、彼と一緒に遊びたいんだと思います。でなければ、あんなに楽しそうに笑ったりしないですもの…。そんな彼ですが家のほうには帰らず、うちで寝泊りしています。どう言うことか彼に教えてもらったのですが、旦那さんはあの後も厳格に厳しく躾けて来られたようですが、彼が中学3年の時にふとしたことからケンカになって彼の肩を壊させてしまって以来、彼のことを赤の他人のように接するようになってしまったと言うことらしいです。ふと優しい微笑みをうちの娘に向ける彼。そんな彼ですから、心の中では“もとの親父に戻ってくれ!” と思っているに違いないのだと思います。でなければ、家の様子を見に行くなんて絶対にしないでしょうから。ですから彼はしばらくうちで居候です。わたしも秋生さんも、とやかく言わずに静かに見守っていこうと話しています。いつか彼が彼のお父さんを許す…。その時まで…。と、いつもの賑やかしい声が玄関口から聞こえてきます。
「おおっ、愛しい俺の娘よ。お帰り。…と、何だ。てめぇらも一緒かよ。ちっ!」
「何だ? オッサン。今日は渚の誕生日なんだからみんなも呼べって言ってたじゃないかよ?」
 そう今日はクリスマスイブで、わたしの娘・渚のお誕生日。だからではないですが秋生さんは部屋の飾りつけとかを楽しそうにやってくれていました。わたしもお料理とか頑張っちゃいました。秋生さんが念入りに用意していたツリーに電飾を灯すとピカピカと光って宝石箱の宝石のようです。その宝石のような電飾を見ながら、“渚…。生まれてきてくれてありがとう” って心の中、何度も言う今日12月24日は、愛しいわたしの娘・渚のお誕生日です。

END