別れと、再会と…
〜続・真琴の家族〜
エピローグ
四年後……。
俺は急いでいた。空港へと車を走らせていた。渋滞だ…。怒ってるだろうな…、あいつ…。俺は思った。
大学を無事卒業した俺は、地元の企業に就職した。
今はアパートで一人暮らしをしている。秋子さんや名雪は残念そうにしていたが、元々俺は居候だ。いつまでも秋子さんの脛を齧るようなことは出来ない。
そう思って水瀬家を出た…。水瀬家を出てみて、初めて今までの秋子さんの苦労が身に染みて分かったような気がする。俺はそんな叔母に、ありがとうと言いたい。
あゆは、病院に就職して今では立派な? 看護士だ。あいつは病院の寮で暮らしている。
栞は保育士に、香里は小学校の教師になった。香里は学校での評価が高い。それはそうだろう。北海道大学の教育学部を主席で卒業したのだから…。
栞も優しい、いい保育士になった。営業であいつの職場を尋ねたのだが、一生懸命になって小さい子達に教えている彼女を見ると……、
「うまくやってるじゃないか…」
いつもそう思う。名雪は秋子さんと同じ職場に就職した。実年齢よりずっと若く見られる秋子さん。
とても子供がいるとは思われないらしい…。名雪は妹に見られるんだそうだ。名雪が、秋子さんは自分の母だと言っても、誰にも信用してもらえないみたいだった…。
この間、名雪と久しぶりに会って話したんだが…。
「祐一ぃ〜。大変なんだお〜。わたしの方が年上に見られたんだお〜! うううっ…」
そう言いながらイチゴサンデーをやけ食いしていた…。
秋子さん。あなたは一体何歳なんですか? そう思わざるには得なかった。北川は俺と同じ企業に就職して、今では何でも話せられるマブダチとなった。
雄大な自然がまだ数多く残っている北海道。俺の住んでいる町も例外じゃない。
夜ともなるとキタキツネが出てくる。この前も、俺の部屋の裏庭まで来て眠っていた…。真琴かとも思えるくらいの図々しさだ。
そんな時だ。あいつから電話が掛かってきたのは……。
で…、今現在。俺は空港へと急いでいる…。
空港には一時間遅れで到着した。
怒ってるだろうな…。そんなことを思いながらロビーを走る。やがて…、目的地が見えてくる。ふぅふぅと息をつきながら、目的地に着くと…、
「ぶぅ〜〜〜。遅いべさ…。せっかく北海道に帰ってきたって言うのに…。あたしが帰ってくるの、嫌だったんかい? わやな人だべや…。あたし、あたし…。楽しみに待ってたんだべ? 会えるの…。またいっぱい会えるんだって…。また一緒に暮らせるんだって…。あの町で暮らせるんだって…。それなのに…。こったら、こったらわやなこたぁねえっしょや!!」
案の定、頬を子供のように膨らまし、俺を睨んでそんなことを言ってくる女性が一人いた…。俺は謝る。
「悪かった。悪かったよ…、このとおり謝るから…。なっ? 許してくれよ〜」
俺がそう言って謝ると、彼女はさらにぷぅ〜っと頬を膨らます。
「許すも許さんもねえべや…。だいたいあたしんこと、何だって思ってんだべ? あたし、彼女じゃなかったんだべか? それとも何かい? あたしがおらん間に、他の子とへっぺして…。あたしに会わす顔がねえもんだから、言い訳考えようってしたんでないかい? ああでもねえ、こうでもねえって…。で、一時間も遅刻したんでないんかい? ええっ? こったら…、こったらわやな話、あるわけねえっしょや!!」
「そんなことあるわけないだろ? たまたま道路が込んでただけなんだってば……。信じてくれよ〜」
彼女はさらに頬を膨らませる。
俺の顔をギロリと睨んでいた。俺は彼女の顔を見つめる。懐かしい…。四年間見てなかったせいか、膨れた顔も可愛く見えてくる。そんなことを考えていた俺に…、
「…あたしんこと、ちゃんと名前で呼んで?」
上目遣いで見つめてくる。恥ずかしい。
帰って来たんだから、これから毎日嫌と言うほど呼べるじゃないか…。そのことを彼女に言うと、途端に涙目になった。そして、俺にその目を向けてこう言う…。
「やっぱり恋人には、好きな人には、名前で呼んで欲しいもんなんだべさ…。それなのに…。……やっぱりあたしがおらん間に、他の子とへっぺしてたんでないかい? そったらこと…。さあ、呼ぶべやっ!! 他の子とへっぺしとらんかったら、あたしの名前、ちゃんと呼んでくれるはずだべ……」
涙目になりながら、ついにはこんな脅迫まがいなことを言ってくる……。
「……あたしんこと、ちゃんと名前で呼んでくれんと、わんわん泣いちまうべ? それでもいいんだべな? そったらことになると、ここいらの人の笑いもんになるべ? それでもいいんだべな?」
「うっ!! それはかなり嫌だな……」
俺はそう言うと彼女の顔を見る。北海道の澄んだ夏空のように可愛く微笑んでいた……。
「じゃあ、ちゃんと名前で呼ぶべさ……」
彼女は言う…。飛行機が飛び立っていく。それとは逆に帰ってくる飛行機もある。
その飛行機に乗って、彼女は再びこの地に帰って来た。また彼女が微笑む。言う覚悟を決める…。
「……じゃあ、言うぞ?…」
「……うん、いつでもいいべ……」
彼女が頷く……。勢いをつけて…、今までの思いを込めて…、俺は言った。
「お帰り……、美汐……」
「ただいま……。祐ちゃん……」
〜 Fin 〜