映画を見よう
章之一、天野美汐
そこは不思議な映画館。一人の老人がやっている映画館。お客は滅多にこないが趣味でやっているので問題はない。流す映画もお客好み。ホラーもあればギャグもある。ラブロマンスもあればシリアスも…。
“今日はどんな映画にするかの…” 皺の入った顔で優しく微笑むと老人は今日流す1つの映画のフィルムを用意した。
突然だが秋子さんから映画のチケットをもらった。期間は12月いっぱい。どんな映画でも見られるといういわゆるフリーパスチケットのようなものなんだそうだ。
「誰か誘って行かれてはどうですか?」
いつものポーズでにこにこ笑顔で言う秋子さん。“秋子さんはどうなんです?” 冗談交じりにそう言うと、秋子さんも俺の冗談が通じたのか、“まあ、祐一さんったら…。こんなおばさんを誘うよりもっと他にいっぱい若い娘がいるでしょう?” と言って微笑む。いや、秋子さんは十分に若いと思うんだけどな…。そう思った。
でも、肝心の映画館の場所が分からない。秋子さんに聞いてみると、“確かこの辺りでしょうか…” と地図を描いてくれた。地元にはあまりというか皆目分からない俺にはさっぱりだが、秋子さんの地図でようやく分かった。
夕食を頂き、風呂に入る。いつもの光景だ。外を見ると今日も雪。北海道は今年も雪のシーズンを迎える。これから3月まで白い世界が続くのかと思うと、ちょっと鬱になりそうだ。そんなことを思いながら自室に戻ると、漫画本が散乱していた。はぁ〜、真琴か…。“真琴のやつめ。後片付けくらいしていけ! 全く…” ぶつぶつ文句を言いながら後片づけをする俺。
ちなみに真琴は今、天野のところに泊まりに行って留守だ。…帰って来た真琴。一番うれしかったのは天野だったかも知れないな。今さらながらそう思った。…って! そうだ! この映画のチケットの使い道があった! 早速明日言ってみよう…。彼女の喜んだ顔を心に思いつつ床に就いた。
次の日、いつものように名雪を叩き起こし、学校へと向かう。俺たち3年生は来年の春に卒業する。当たり前だが、進路と言うのが問題になってくる。俺は地元・東京へは帰らずに水瀬家の近くにある大学を受験した。ちなみに名雪も同じ大学を受験している。発表はまだだが、まあ人並みには頑張ったんで大丈夫だろう。後は神のみぞ知るっていうやつだ。そう思う。
いつものように授業を受けて、昼休みになる。名雪や香里たちと一緒に食堂へ向かい、いつものように昼飯を食べる。名雪は今日もAランチ。イチゴのムースがお気に入りなんだとさ…。幸せそうな顔をして食べている我が従姉妹の顔に、はぁ〜っとため息をつく俺がいるのだった。って! やるべことがあるじゃないか! 俺!! 名雪に先に戻る旨を伝え、俺は食堂を出た。
2年生の教室までやってくる。ほんの1年前までこの教室にお世話になっていたんだなぁと思うと、何か考えさせられる。っていっても俺が厄介になったのは3学期からなんだけどな? そんなことを考えつつ、教室を覗くと…、いた! 今日もおばさ……いや、アンニュイな表情で頬杖をついている彼女…、天野美汐。確か今日が誕生日だよな? うん。そう思いそこら辺にいた女生徒を捕まえて、呼んできてもらうように頼む。にこにこ微笑みながら、彼女は首を縦に振ると天野のもとへ向かっていった。
「で? 何か御用でしょうか? 相沢さん」
屋上にやってくる。そう言うと上目遣いに俺の顔を見ている天野。言葉遣いは現代一般の若者言葉じゃない言葉遣い(俗に言うおばさん言葉…。でも、興奮すると地の言葉が出てしまうんだけどな?)なんだが、そこも天野らしくて何だかとても可愛い。が、そんなことを言うと拗ねてしまうのでそれは俺の心の奥に止めておいた。いきさつを話して了解を取ると?
「こ、こ、これほど嬉しい誕生日プレゼントは他にないでしょう!! ありがとう、ありがとうございます!! 相沢さん!!」
「そんな感謝されても嬉しいんだか、何だか…」
はは、ははははははははは……、はぁ〜。プレゼント1つでこんなに喜ばれるとはなぁ…。手を取りながら喜ぶ天野。そんな天野の顔を見ながら、困惑しながらも微笑んでしまう俺がいるのだった。
映画館の前に来る。夕方、また雪が降ってきていた。チケットを見るとお好きな映画を見せますとのことだ。天野はどんな映画が好みなんだろう…。そう思って聞いてみる。すると天野は頬を赤らめながらこう言ってきた。
「私ですか? 私も栞ちゃんと同じでラブロマンス物を……」
「じゃあ、それにするか。天野」
はいっ、と元気よくにこやかに答える俺の横の女の子。映画館に入ると、一人の優しそうな顔をしたおじいさんがいた。会釈をすると向こうも会釈をする。会場のほうを見てみると、まばらに人がいる程度だった。席はどこでもいいと言うので、一番見えやすい席に座る。3・2・1…。スクリーンに数字が並ぶ。どことなく幻想的なラブロマンス物。見ている手をぎゅっと肘掛けの腕に手を乗せて頭を俺の肩にちょこんと乗せる天野。そんな天野が可愛くて頭をそっと撫でてやる。途端にぽっと頬を赤らめる天野。そんな彼女・天野美汐の今日は17歳の誕生日だ。
その映画館は不思議な映画館。純粋な心を持つ人の見たいものや、やりたいことが映画になって見られるという、不思議な不思議な映画館…。老人は皺の入った顔を綻ばせると何やら呟いた。それは誰にも聞こえないくらいの小さな声で…。
END