映画を見よう
章之四、川澄舞
そこは不思議な映画館。一人の老人がやっている映画館。お客は滅多にこないが趣味でやっているので問題はない。流す映画もお客好み。ホラーもあればギャグもある。ラブロマンスもあればシリアスも…。
“あの映画のフィルムはどこにやったかの?…” いつもの皺の入った顔…。老人は今日流す映画のフィルムを探していた。
「映画……、見たい……」
昼休み。いつものように佐祐理さんの豪華なお弁当を食べていると舞がぽつりそんなことを言ってきた。今日は1月29日。目の前にいる子供っぽいお姉さん、川澄舞の誕生日だ。いつもぶすっとして無愛想な舞だがあれでいて結構女の子らしい一面も持っている。と言うかあれは少女趣味か…。メルヘン物とか大好きだもんな。この間、三人で遊園地に行った時も一人で楽しんでたしなぁ。閉園時間になって“そろそろ帰ろうか?”と言っても、“もうちょっとだけ乗り物乗りたい…”とか何とか言って一人駄々をこねてたし…。まあ結局は係員のお兄さんに止められてしぶしぶ諦めたんだが…。家に帰るまでぐしゅぐしゅ泣くんだもんなぁ〜…。
「えっ? 映画? どんな映画が見たいの? 舞?」
佐祐理さんがいつものニコニコ笑顔でそう聞く。舞を見ると舞は少し照れながらこう言った。
「動物さんのいっぱい出てくるやつ…、題名…忘れた…」
動物が出てくるやつ? うーん。そんな映画あったっけ? 映画とかそう言うことにはとことん疎い俺。訳も分からず考え込む。佐祐理さんは、あっ! と思い出したように頷くと、“あははー”といつもの可愛く笑うと舞にこう訊いた。
「あっ、あれか〜。前から見たい見たいって言ってたもんねー? でも、あれって入ってた? まだのように思うんだけど……」
「この間映画館の前を通ったら、大きな見出しでポスター貼ってあった。だから大丈夫…」
そう言って舞はにこっと微笑む。舞の微笑んだ顔…。普段無愛想なだけにとても可愛く見える。でもそう言うと決まってずびしっ! と不機嫌そうに俺の顔を睨みながらチョップが飛んでくるんだけどな? そんなことを考えてると…。
ずびしっ! とさっき言ってた通り、舞チョップが俺の頭に振り下ろされる。“痛てーっ!” と頭を抑えながら舞の顔を見ると案の定不機嫌そうに俺の顔を睨んでいた。
「祐一、失礼…。私だって女の子…。可愛く見える時だってある…。それに私だって映画くらい見る…。祐一、罰…。今日は私の誕生日なんだから私を映画に連れて行くこと…。もしダメだったら、みんなの前で泣く…」
ぷぅ〜っと頬を膨らませてそんなことを言う舞。目じりにはもう涙が光っていた。思わず、“わわわわわっ” となる俺。いつも俺が言うことを聞かなかったりするとこうやってくるお姉様。この前なんか実際公衆の面前で泣かれて非常に往生した。
「分かった、分かったから! 連れて行ってやるから! だから泣きべそをかくのはやめてくれーっ!」
いつもの如くぺこぺこ頭を下げる俺に、ちょっぴり偉そうに“ふふっ”と笑う舞、いつものようににこにこ笑顔の佐祐理さん。いつもの昼休みはこうして過ぎていった…。
「祐一、あれ…」
「んっ? ああ、あれだな? じゃあちょっと待ってろ? チケット買ってくるから…。って、んっ? ちょっと待て? 舞」
そう言って映画館の前、嬉しそうに看板を指差すお姉さんの顔を見ながら、可愛い動物のコミカルな感じの看板を見る。2月28日ロードショー。はは、はははは。間違えてるじゃないか?! そう思って後ろを見ると訳が分からないようにきょとんとした顔でこっちを見る舞。手招きして呼ぶ。
「お前…、まだ一ヶ月も先だぞ? この映画…」
一瞬目を丸くする舞。看板をじっくりと睨みつけるように見る。“日にち、間違えてた…。ぐしゅ” あ〜あ、動物大好きな舞のことだ。多分上映開始日を見誤ったんだろう。みるみる目に大粒の涙を浮かべる舞。今にも零れ落ちそうだ…。あああ、どうしよう…。とそこであの映画館のことをも出だす。そうだ! あそこに行けば何とかなるかも知れない。そう思い涙顔の舞の手を引くと例の映画館へと向かった。
映画館の前、未だに涙顔で“動物さん…見たかった…。ぐしゅ”と鼻を鳴らす舞。そんな舞の手を引いて中へと入る。支配人らしい優しそうなおじいさんが、“おやおや、どうしたのかね?” と聞いてくるので、今までのことを話すと“じゃあ今から動物の映画で流すかのぅ”そう言って奥へと消えていく。“わ、悪いですっ! それに他のお客さんにご迷惑では?” そう言うと、
「今日はお前さんたち二人だけじゃて……。じゃから何も気にすることはないんじゃよ?」
「動物さんの映画、ある?」
ぐしゅぐしゅ泣いていた舞はおじいさんに聞く。“古い映画じゃったらあるがのう…。それでもええかの?” そうおじいさんが言うと、舞は今まで涙顔が嘘のようににっこり微笑んでこくんと首を縦に振った。そんな舞の顔を見て“現金なやつだなぁ〜” そう思いつつも笑顔になる俺。二人っきりの映画館。辺りはだんだんと暗くなる。ふと横を見ると舞がこっちを嬉しそうに見つめていた。その顔を見ると何だかこっちまで嬉しくなる、そんな今日1月29日。舞の誕生日だった…。
その映画館は不思議な映画館。純粋な心を持つ人の見たいものや、やりたいことが映画になって見られるという、不思議な不思議な映画館…。老人は皺の入った顔を綻ばせると何やら呟いた。それは誰にも聞こえないくらいの小さな声で…。
END