映画を見よう

章之十 水瀬秋子


 そこは不思議な映画館。一人の老人がやっている映画館。お客は滅多にこないが趣味でやっているので問題はない。流す映画もお客好み。ホラーもあればギャグもある。ラブロマンスもあればシリアスも…。
“今日はあいつの誕生日か…。早いものだな…” 老人は老人らしからぬ声でそう呟きながら、深々と映写室の椅子にもたれて館内の大きなスクリーンをじっと見つめていた。


 今日9月23日は俺の叔母であり居候先の家主さんでもある水瀬秋子さんの誕生日だ。いつもお世話になっているので何かお返しをしようと思い1週間前、名雪やあゆや真琴と話をしたんだが…。
「真琴は遊園地!! 秋子さんもたまには遊びたいと思うのよぅ〜」
「そりゃお前だけだっ! 大体秋子さんが、“わあ、あのジェットコースター楽しそう” とか、“お化け屋敷怖いよぉ〜” とかなんて言うと思うか? あの落ち着きのある大人なあの人に限って…。なあ、名雪?」
「う〜ん、わたしお母さんの怖いものって知らないし…。でも、お母さんって家では楽しそうにしてるけどあまり賑やかなところは苦手なんじゃないかな〜?…。分からないけどそんな気がするんだよ? あっ、わたしは好きだけどね?」
 何もお前に聞いてない…。と言おうと思って、ふと同じ居候仲間であるあゆのほうを見ると、何やら難しい顔をしていつものように“うぐぅ”と唸り声を上げていた。おやつに食べたたい焼きが腐ってたのか? まあいいや…。
「うぐぅ〜、良くないよ。祐一君!! ボクは今、考え事してる途中なんだからね?」
「考え事? お前〜、また手作りたい焼きのプレゼント、とか考えてるんじゃないだろうな? やめておけ。去年か一昨年かの二の舞になるだけだろ…。って言うか、たいやき屋の親父がまた泣くぞ?」
 一昨年か去年か、あゆが秋子さんに手作りのたい焼きをプレゼントするとか言って、いつも食い逃げしていたたいやき屋(まあ今はちゃんと払ってるんだけどな? っていうか時々手伝ったりもしてるらしいんだが…)の親父のところに行き、たいやきを焼かせてもらったんだが…。……ぷっ。思わず笑ってしまった。
「ぷっ、て何なんだよっ! ぷっ、て! 祐一君!! ボクもお料理うまくなったんだからもうあんな風にはならないよっ!! …もう! イジワルだよ〜。祐一君!」
 ぷぅ〜っと頬を膨らませてぷいっと横を向くあゆ。一気に俺は悪者だ。まあ今は秋子さんの指導のもと、大分まともに食えるようにはなってきてるんだが、昔が昔なだけになぁ…。などとそんなことを考えてると、半眼でじぃ〜っと睨む目複数…。ふっと顔を上げると、水瀬家シスターズが半眼でギロリと俺の顔を睨んでいた。余談だがその後俺の財布が軽くなったことは言うまでもない周知の事実だ…。とほほ…。


 次の日、名雪と一緒に大学へと向かう。両親が海外へ出てしまってから約3年、ここ北海道の暮らしにも慣れた。転校ばかりを繰り返していたあの頃と違って、今は毎日が充実している。それが俺にはとても嬉しい。もう北海道という土地からは離れることは出来ないだろうな…。そう思う。あゆと真琴は保育園の保母見習いっていうことでいろいろと勉強中だ。あゆも真琴もあれでいてなかなか要領がいいので保母の試験は合格間違いなしと言うことだ。秋子さんの高校時代からの友人の園長先生が言うにはだが…。俺にしてみればあゆと真琴は子供と同じようなもんだ。だからか…、子供と気が合うんだろう…。最もこんなことは二人の前では言えないが……。もし言えば俺の財布が更に軽くなってしまうからな? ここにいる糸目の少女も一緒になって…。ははははは、はぁ〜。
「うにゅ? 祐一? 今変なこと考えてなかった? ってそうそう、祐一。お母さんの誕生日、本当に何にしようか?」
「ああ、それなんだけどな? 名雪。秋子さんの趣味って何なんだ? 俺よかお前のほうが長年暮らしてきたんだから趣味の一つや二つくらいは分かるだろ?」
 そう言うと俺は横にいる従姉妹の顔を見る。相変わらずの童顔だ。もうすぐ19にもなろうかと言うのに、ぬいぐるみを抱いて寝てるんだから…、お子ちゃまか? でもこれで高校時代は陸上部の部長だったんだから驚きだよな〜。ちなみに大学も陸上部だけどな。そう思っていると…。
「わたしもお母さんの趣味についてはあまり知らないんだよ…。でも昔はよく映画に連れて行ってくれたかなぁ〜? 祐一と三人で行ったこともあったよね〜?
「そうだったっけ?」
「そうだよ〜。忘れん坊さんなんだね? 祐一は…」
 そう言うといつものほわほわ顔でにっこり微笑む名雪。急に気恥ずかしくなった俺は名雪の両頬を摘まんでタコ口にしてやる。“むぅ〜、まままも〜(うぅ〜、まただよ〜)” と言って涙目になる名雪。ふにふにと柔らかい頬をつまんで遊んでいると、はぁ〜っとため息をつきながら香里と北川がこっちを呆れ顔で見ていた。ただ栞だけはぷぅ〜っと頬を膨らませて不機嫌そうにこっちを見てるんだけどな? って! い、いつからいたんだ? そう香里に聞くと、“そうねぇ? 昔、相沢君と名雪と秋子さんとで映画に行ったって言うところからかしら?” そう言う香里先生。“で、また相沢と水瀬のいちゃいちゃか……。好きだなぁ〜。お前らも…” そう言うと北川は呆れ顔でふぅ〜っと盛大なため息をつく。香里も北川と同じようにため息をついていた。ははは、って栞は? 栞のほうを見てみると……。
「私も負けてられません!! って言うか祐一さんは遊び人さん過ぎますっ! 彼女である私を放っておいて名雪さんやあゆさん、真琴さんや天野さん、挙句の果てに舞お姉さんたちなんかともいちゃいちゃいちゃいちゃ…。普通の女の人だったら絶対別れているはずですっ! 私だから我慢できているんですよ?」
「ちょちょちょ、ちょっと待て栞? いつから俺はお前の彼氏になったんだ?」
 そう聞く俺。今まで非難の目を俺に浴びせていた栞は、急に“うううっ”と涙目になる…。はぁ〜、これで1000円は確実に飛んだな…。ははは……。心の中でそろばんを弾きながらそう思った。
「で? 一体何の話をしてたの?」
 お気に入りのバニラアイスを美味しそうに食べる栞を横目に香里がそう尋ねてくる。もちろんそのアイスの代金は俺の財布からだ。俺は一週間後の秋子さんの誕生日のプレゼントのことについて今までの経過を端的に説明した。そしたら香里先生、うふふっと微笑みながら言う。それはある意味俺の予想していた範疇の内容だった。


「ふう、映画…、か…」
 夜、風呂に入りつつそう一人ゴチる。去年の冬から何度となく映画館へ行っているので今回は違うことをしたかったんだが…。天野も舞も北川も、名雪も栞も佐祐理さんも、挙句の果てにあゆや真琴までもが“映画がいい”って言ってしまうんだからなぁ〜。肝心の秋子さんの意見を聞かずに…。って言ってもあの秋子さんのことだから……。目に見えてるか…。そう思って湯船から顔をもたげる俺。と、ガチャっと扉が開く音とともに。
「祐一さーん。タオル、ここに置いておきますね〜?」
「あ、は、はいー。ありがとうございますー」
 やっぱりいい人だよな。秋子さんって。母さんとは顔は似てるけど性格は180度違うし…。言い忘れていたが俺の母さんの妹が秋子さんであって俺は秋子さんからみれば甥っ子と言うことになる。ちなみにおじさん、つまり秋子さんの旦那さんは名雪が生まれる少し前にガンで他界している。俺もおじさんの顔は写真程度でしか見たことがない。秋子さんもあまり話したがらないのでそのことは不問だ。
 物心つく頃から9年前までは毎回のように俺と俺の親と秋子さんと名雪とで墓参りに行ったことがあった。だけど…。いや、思い出すのは止めよう。ただ、秋子さんは毎回寂しそうな顔をしていた気がするな…。そう考えながら風呂から出る。“風呂、頂きましたー” と言うと、いつもの優しい顔で、“はい。温まりましたか?” とわざわざ部屋から出てきてこう言う秋子さん。突然腹の虫が、“ぐぅ〜” と鳴る。
「あらあら…、お夕飯足りなかったかしら? 何かお作りしますね?」
 そう言うと台所へ向かう。断ろうかと思ったんだが断ろうにももう秋子さんは台所に消えた後だったんで、仕方なく台所へ入った。茶漬けを頂く。夜も11時を過ぎてそろそろ夢の中に旅立つ人も多いことだろう。現に名雪はもう夢の中だ。あゆと真琴もさっき瞼を擦りながら部屋を出て行った。茶碗にはちょうどいいくらいのご飯がのっている。横には塩昆布と、お茶が置いてあった。さすがだな〜っと思いつつ“頂きます”と手を合わせた。早速お茶漬けをよばれる。この塩昆布も秋子さんお手製なんだそうだ。さすがは秋子さん、俺は思った。一人食べていると“わたしも頂こうかしら?” と言って茶碗にご飯をよそう秋子さん。二人でもぐもぐと夜食を食べる。と不意に、
あの人が生きていたらこんなことも出来ていたのかしらね?…
 俺の耳に聞こえるか聞こえないか分からないような小さな声で秋子さんがそう呟いたような気がした。“おかわりしますか? 祐一さん?” 何事もなかったかのようにそう言うとにっこり微笑む秋子さん。でも…、その笑顔の裏には図り知れない寂しさが見え隠れしているように俺には見えた。


「どこに連れて行ってくれるの? 名雪」
「今は〜、内緒だよ〜? ねえ、祐一〜?」
 あれから一週間。今日は9月23日、秋子さんの誕生日だ。三手に分かれての行動となる。そう言う風な行動にしたのは我がチーム最強にして最高の頭脳の持ち主・香里先生だ。誕生日大作戦と銘打って、まず俺と名雪で秋子さんをあの映画館へ連れて行き、その隙にあゆと栞と舞と佐祐理さんとで買い出し、家では真琴・天野・香里・北川で部屋の飾り付けを行ない、映画から帰った秋子さんを驚かせようと言うのが今作戦の目標である。つまり俺と名雪は秋子さんの陽動となるわけだ。
 まあ、こんな作戦も秋子さんにとってみれば見え見えだと思うんだけどな。優しい秋子さんのことだ。俺たちの考えも全部見越した上で一緒に行動してくれているんだろう。これは俺の勝手な思い込みかも知れないがそう思う。やがて見慣れた映画館が見えてくる。9ヶ月前からの付き合いだが俺にはもっと昔からの顔馴染みのように思えてしまう。なぜだろう…。分からない。だけど俺はそんな風に感じていた。
「えっ? 映画館? ……まだ残ってたのね? わたしと彼の思い出の映画館……
 ちょっと驚いたような顔の秋子さん。途中から周りの喧騒にかき消されて聞こえなかったが、驚きの中になぜか懐古の情でもあるかのようにその映画館を眺めていた。中へ入るといつものおじいさんが一人映写機の点検を行なっていた。“こんにちは” 名雪が声をかける。振り返るといつものにっこり笑顔で、“おお…、お嬢ちゃんとお嬢ちゃんの彼氏さんかの? …いらっしゃい” そう言う。そして、ふと秋子さんのほうを見ると、おじいさんはなぜか懐かしげに秋子さんの顔を見つめていた。そこには、俺たちでは入ることの出来ない特別な何かがあるような感じがした。
「で、今日はどうしたのかね?」
「あっ、はい。今日も映画を見せてもらおうと思いまして…。いい映画あります?」
 俺はそう聞く。おじいさんは少し考えて…、“いや、ここにはもう映画はないよ…” 静かに言った。“えっ? 映画のフィルムが無くなったとかですか?” そう聞くと、おじいさんは優しい笑顔をもっと優しくしてこう言った。
「いや、フィルムはある…。でももうどれも見てしまったフィルムだから…。だからないんだよ?」
 えっ? 見てしまったフィルム? どういうことだ? 名雪の顔を見る。どことなく不思議そうにおじいさんの顔を見ていた。ふと秋子さんのほうを見た俺。絶句した…。いや、分かってしまったと言うほうがいいだろう。普段は全く見えないものが見える、聞こえないものが聞こえる。あゆのときにまざまざと見せ付けられた事実。ぽろぽろ涙を零して立っている秋子さんを見ながら俺は奇跡を見ていた。“奇跡ってね? そう簡単に起こるものじゃないのよ…” と栞が死の淵を彷徨うような病気のときに言っていた香里の言葉を思い出す。じゃあ、目の前にあるこの光景はなんていうんだ? そんなことを考えて、ふと、秋子さんのほうを見ると…。秋子さんは下を向いたまま動こうとはしなかった。いや、正確には動けなかったんだろう。
「お、お母さん? どうかしたの?」
 俯く秋子さんに心配そうな顔で尋ねようとする名雪。俺は名雪の肩に手をやって無言で首を横に振る。俺の言わんとしていることが分かったんだろう。名雪は…。“…お父さん” 呟くようにそう言った。今更ながら思う。あの優しい微笑みはこの日の、この時のためのものだったんだと……。そして、この人がどれだけ秋子さんのことを思っていたのかも…。すべてこの瞬間に分かったような気がした。そう考えると俺はこんなところにいていいんだろうか? と思った。今、この空間には俺たちが割って入れないくらいの思い…。話したいこともあるだろう。言いたいことだってあるだろう。そう、20年分の思いが、20年分の愛が込められているんだ……。
 そう思い俺は静かに館外へと出ると扉を閉ようとした。名雪が急いでこっちに来る。理由は、言わなくても分かるだろう…。“いいのか? 本当に…” 俺はそう聞く。“うん、わたしにはお母さんがいるから…。それに、お父さんともお話できたしね?” 一瞬寂しそうな顔になる名雪だったがにっこり微笑む。無理しているのがありありと分かる。だけど、俺は名雪の言う通りに扉を閉める。閉まる瞬間、おじいさんの姿が写真でしか見たことのないおじさんの姿に変化したような気がした。


「懐かしいね? 秋子とこうやってまた話ができるなんてね?」
「……」
 彼がわたしの横の席に座っている。辺りの静寂がとても心地よかった。もうわたしはおばさんになっちゃったけど、彼はまだ20代前半の姿のままで……。何か滑稽ね? そう思うとうふふと笑っていた。
「ねえ、秋子。覚えているかい? 僕とお前が最後に見た映画…」
「ええ、覚えているわ…。レイダース/失われたアークって言う映画。冒険物…、だったわね? 確か…」
 そう言うわたし。彼は何がおかしいのかくすくす笑いながらこう言う。
「あの時の君は何か派手なアクションシーンがあるたびに、キャーって言って僕の腕にしがみつくんだもんなぁ〜…。他の人たちの目も気にせずにさ…。おかげで僕は大変だったんだよ? ははは…」
「だ、だって…。怖かったんですもの…」
 拗ねたようにわたしは言う。彼はそんなわたしの顔を見るとにっこり微笑んで…、
「でも、楽しかったよ? 君と一緒にいられる時間は短かったけど最高に幸せだった。僕の中では一番最高な時間だった。それだけは事実だよ…」
 こう言うとわたしの頭をクシャリと撫でる。昔の、あの幸せだった新婚時代の頃のように……。彼は背が高いからいつもわたしが失敗して泣きべそをかいていたら今のように撫でてくれてたっけ…。とその時、ジリリリリリ…、とチャイムが鳴る。彼は立ち上がるとこう言った。
「あっ、もう時間だ。そろそろ行かなきゃ神様に叱られちゃうんだ…。もう少し話したかったけど…。ごめんね。僕は何も出来なかったけど、君がいてくれたおかげだ。あの子がまっすぐに育ってくれたのは…。感謝してる、秋子。…秋子、僕と結婚してくれてありがとう…。名雪を産んでくれてありがとう…。…最後に、名雪に伝えておいてくれるかな? よくここまで頑張ったねってさ…。…僕はもう行かなくっちゃいけないけど、秋子…。君と出会えて僕は嬉しかったよ…。ありがとう。そして誕生日おめでとう…」
 そう言うと彼の体は光に包まれ…、やがて消えていった。最後に何が言いたかったんだろう。彼の寂しげな瞳が印象的だった。わたしは泣いていた。溢れる涙を止めることも出来ずに…。涙は頬を伝い地面へと落ちていく。彼への愛情が胸を突き破るかのようにわたしの胸を締め付けてくる。いたたまれなくなり腰をおろす。彼がいた足元を見ると…、赤い薔薇の花が一輪置いてあった。“最高のプレゼント……、ありがとう、あなた…” 花を拾い、胸に宛がうと心の中で何度も何度も言う。ふと見渡す。シーンと静まり返った観客席がただあるだけ。前には古ぼけて色褪せたスクリーンがただあるだけだった…。


 映画館から出てくると、もう日暮れ時…。ふと、後ろを振り返る。今まであった映画館はただの空き地に変わっていた。そう…、この映画館。今まで見せてくれたのはあなたの思いだったのね? 祐一さんや名雪たちに見せてくれたあなたの心だったのね? そう思い祐一さんたちのほうを見る。祐一さんも名雪も全て分かったようににっこり微笑みながら、わたしを待っていた。名雪はにこにこ顔をもっとにこにこ顔にさせてこう言う。
「お母さん、お誕生日おめでとう…」
 って…。寂しい思いもいっぱいさせた。悲しい思いもいっぱいさせた。それなのに、この子は…。そう思うと自然に足が進む。気づかぬうちに名雪を、わたしの最愛の娘を抱きしめていた…。
「ありがとう、名雪。ありがとうございます。祐一さん…」
「い、いや。俺は何も…。今日だって成り行きでこうなっちゃった訳ですしね? ははは…」
「でも祐一が最初に映画館、見つけてくれたんだよね? そしたら祐一に感謝だよ。やっぱり……」
 そう言うと名雪はにっこり微笑んで祐一さんを見つめていた。急にそんなことを言われ、恥ずかしくなったのかわたしの甥っ子は頬をぽりぽり掻きながらこう言う。
「バ、バカ! 恥ずかしいから褒めるのはやめろっ!!」
「な、何だよ〜? せっかく褒めてあげたのに〜。もう祐一なんて知らないっ! バカぁ〜」
 ぷぅ〜っと頬を膨らませると、わたしの手からするりと抜けていつの間にかぽかぽかと甥っ子の胸を叩いているわたしの最愛の娘…。いえ、わたしとあなたの最愛の娘なんですよね? ねっ、あなた…。そうわたしは心の中で言う。空は夕暮れからいつしか星空に変わっていた。“あっ! 時間厳守だったんだ。すっかり忘れてたよ…。遅れたら香里に怒られるよ〜。う〜…。と、とにかく祐一もお母さんも走って走って!!” そう言うと、わたしたちの手を掴んで走り出す名雪。わたしの甥っ子は一言、“またか…” と言うと走り出す。わたしはやや足をもたつかせながら、それでも走っていた。走りながら空を見ると、空一面に星が瞬いていた。それは彼が最後にくれたわたしへのプレゼント。そう思いたい。もうすぐ水瀬家。わたしとわたしの愛する家族の家……。

FIN