栞ちゃん、ウソをつく?


 今日4月1日はエイプリルフール、いわゆる4月バカです。1年前、長患いの病気に勝った私は今憧れのお姉ちゃんと同じ制服を着て、同じ学校へ通っています。学年は2つ下になっちゃいましたけど、でもそれが嬉しいわけです。ですけど、実のところもう1つ、2つかな? 嬉しいことがありました。まず1つめはお姉ちゃんに彼氏が出来たことです。お姉ちゃんの彼氏、北川さんはユーモアがいっぱいでとても優しいお兄さんみたいな人です。2つめは私にも彼氏が出来たことです。私の彼…、名前は相沢祐一さん。私より1つ年上でお姉ちゃんのクラスメイトで…、私に奇跡を与えてくれた人です。ですけど今はちょっとイジワルなんですよ? この間も“ジャンボミックスパフェデラックス、奢ってやる” って言っておきながら奢ってくれないし、昼食時私が嫌いなカレーを美味しそうに食べてたり、それに加えて“からさが足りないなぁ〜” とか何とか言って、人類の敵であるタバスコをカレーに振って食べたり…、回転寿司屋に行ったときにも私の前でわざとにワサビ有りの寿司を取って食べてたりと、まあこんなイジワルと言うかイタズラばっかりやってくるんです。
 それで私がぷぅ〜って頬を膨らませるとあの優しい笑顔で見つめてくるんだから、こっちは何も言えなくなるわけで…。“卑怯だなぁ〜” と常日頃から思ってるわけで…。ですから今日、このエイプリルフールを使って何か祐一さんに仕返し? みたいなことは出来ないかと朝、ハチミツのいっぱいかかったトーストを食べつつ考えています。お姉ちゃんは北川さんとデートの約束なのか私が起きて眠い目をこすりこすりぼ〜っと新聞のテレビ欄のドラマをチェックしている途中で出掛けていきました。多分今頃は北川さんとの待ち合わせ場所できょろきょろ北川さんの姿を探してるんだろうなぁ〜っと思いつつ、そういう行動を起こしているお姉ちゃんの姿が容易に想像できてちょっと、ぷっ! て吹き出しちゃいましたけど…。ごめんね? お姉ちゃん…。
 あれこれ悩んでいるうちに時間もいい時間になってきたので出かける準備をします。そう、私も実のところデートの約束なんかをしています。遅れると祐一さんに何を言われるか分かったものではありませんから、ぱぱっと用意をして〜…って! お気に入りのお姉ちゃんとお揃いで買ってもらったワンピースが見当たりません。確か昨日ここに出しておいたはず…、と探して回っているうちに時間のほうもいい時間になってきました。しようがないのでお姉ちゃんの服を拝借して出かけることにしました。服のほうは色違いで大きさも同じくらいのものだったからお姉ちゃんが私のものと間違えて着て行ったんでしょうね? そう思って服を着替える私。胸のところが何だかぶかぶかしますけど、そのうちに私もお姉ちゃんみたいにボンキュッボンになるんだ!! って心の中で涙を流しつつ着替えました。着替え終わり鏡でチェック。うん、変なところはないよね。そう思って鏡の前、にっこり微笑むと出かけます。
 確か駅前の大時計の前でしたよね? 待ち合わせの場所って…。と1人考えながら歩く私。春休みと言うこともあってか普段の倍以上の人で駅前は混雑しています。さて今日はどうしようかな〜なんて考えながらふっと顔を上げて辺りをきょろきょろ見渡していると大好きな人の姿が見えました。声をかけようと思って横を見ると…。って! な、なんで舞お姉さんがいるんですか? 舞お姉さん。以前私と祐一さんの取り合いをしたお姉さん。確かその時は祐一さんが私たち2人のお願いを聞いてくれたんでしたっけ? でもあの後文句をぶつぶつ言われて大変だったんですからね? そう思って舞お姉さんのほうを見る私。一瞬“えっ?” ってなっちゃいました。だって舞お姉さんってば私の祐一さんの腕に自分の胸なんかを押し付けちゃってるんですよ? 酷いです祐一さん。私と言う彼女がありながら舞お姉さんとあんないい雰囲気になっちゃって…。普段私がお願いしても“ちょっとだけだからな?” とか何とか言ってちょっとしかやってくれないのに! 名雪さんやお姉ちゃんもそうですが胸の大きな人にはあんな風になる祐一さんなんて嫌いです! うううっ…、と涙をいっぱい溜めて祐一さんのほうを見つめていると、何だか無性に腹が立ってきました。あの照れくさそうに、でもまんざらでもないような顔の祐一さんが許せません! たとえ神が許しても私は許せません!! そう思って二人の後をついていきます。仲良く買い物なんかを楽しむ二人を見ては唇をぐぐぐっと噛む私。目には涙…ってこれは汗なんですっ!! 誰が何と言おうと!! なんかを流しつつこそこそついていく私。と、“おーい、栞〜。いるんだろ〜?” と言う祐一さんの声。一瞬逃げちゃおうかとも思いましたが、ここで逃げちゃうとお姉さんに祐一さんを取られちゃう…。そう思ってぷぅ〜っと頬を膨らましつつ祐一さんの前に出る私。祐一さんも舞お姉さんもにっこり微笑んでます。“何をにこにこ微笑んでるんです? こっちはすごくすごくすご〜く怒ってるっていうのに!” そう心の中で思いつつじ〜っと上目遣いに祐一さんたちの顔を見る私に…。


「騙して悪かったって謝ってるだろ? もう機嫌直してくれよ〜? なっ? ってまた頬を膨らます…」
 騙すつもりが騙されました。しかもあの舞お姉さんが祐一さんに手を貸していたなんて…。普段はしっかりしていてとても優しいお姉さんなのに…。そう思って祐一さんのほうを見るとまだぺこぺこと私に頭を下げていました。そう、あれは全部私を騙すウソだったんだって言うことだそうです。でも祐一さん、舞お姉さんに胸を押し付けられてるとき、まんざらでもないような顔をしてましたよね? じゃあ私だったらどういう顔になるのかな? そう思った私は、えいっ! とばかりに舞お姉さんのやっていたのと同じように祐一さんの腕に自分の胸を押し当てます。途端に“ギョッ” と言う顔になると頬を真っ赤にして俯く祐一さん。“これでも少しは体のほうも成長したんですよ〜?” と言うと、“ああ、そうだな? 柔らかいものの感触が気持ちいい…って! そういうことじゃないから! 胸を押し付けてくるのはどうかと思うぞ? 舞もそうだったけど…” と真っ赤な顔をもっと真っ赤にして言う祐一さん。そんな祐一さんにちょっとだけ、ほんのちょっとだけですけど優越感に浸れる今日4月1日、一年に一度だけウソをついてもいい日、エイプリルフールです。

END

おまけ

 夜、お姉ちゃんやお父さんたちと今日あった出来事なんかを話して、お部屋へと戻ります。お姉ちゃんも北川さんと何かいいことがあったのかニコニコ顔で私のほうを見つめてましたけど…。ふと貰ったプレゼントのほうを見ると私はにこっと微笑みました。一つはソウやカバなどの動物がいっぱいプリントされた可愛いハンカチがいっぱい。もう一つは春色の柄に桜の花びらがプリントされた可愛らしいワンピース。ハンカチは舞お姉さんからでワンピースは私の大好きな人からのプレゼント。明日は今日の仕切り直しでデートしてくれるって今日のデートの帰りしな私の大好きな人が言ってくれたので早速着て行こうかな? なんて思いつつお部屋の電気を消しました。目を閉じると自然と眠気が襲ってきます。その中で私はこう思いました。
 “イジワルな祐一さん。でも、大好きです” って…。うふふっと微笑みながら仄暗いお部屋の中、星明りに照らされた枕元の時計をふっと見ます。時計の針は今日が昨日になりつつありました。

TRUE END