みっしー、くだを巻く
「だいたい祐ちゃんはあたしんこと何だって思ってんだべ? ヒック…」
あたしこと沢渡真琴は今、猛烈に困っていた。何で? と言われるとちょっとあれなんだけどさ……。
「ちょっと!! 真琴!! あたしの言うことちゃんと聞いてるべや? ヒック…」
「はいはい、聞いてる。聞いてるってば!! …もぅ、何なのよぅ〜。全く〜」
今日は保育園はお休みで美汐が水瀬家に遊びに来ている。でもあいにく祐一たちは出掛けていて留守。あたしは予定がないから留守番だ。
ちなみに美汐も祐一もお休みらしい。なんでも敬ろ…って、ひはひ、ひはひはほぅ(痛い、痛いわよぅ)。無言であたしの頬を抓ってくる美汐。って、これは地の文なんだから美汐は分からないはずなのに…。
「どうせ真琴も祐ちゃんと同じであたしんこと、“おばあちゃんくさいなぁ〜”とか、“敬老の日=あたしの日”とか思ってるんだべや?……。…え〜え〜、言わんでも分かるべ…。目がそう言ってるべや…」
祐一に普段からさんざん年寄り扱いされている美汐は、もう完全に拗ねてしまっている。最近では、自分の方から“美汐ばあちゃんが通るべやぁ〜”って、わざとらしく祐一のそばを通ったり、ババシャツを(祐一の前でだけ)見えるように着てきたりと、祐一に見えるところでそんな意地悪なことばかりやってる。
最初は、“祐一が悪いのよぅ〜”って言ってたあたしだったけど、最近は何だか可哀想になってきた。ちなみに祐一は北海道弁が苦手だ。すご〜く苦手だ。何でって? 詳しくは知らないけど、祐一の好きな漫画で北海道を扱った漫画があって、そのヒロインがものすごく好きらしい。美汐にちょっと雰囲気が似てる子なんだって。って、祐一が言ってた。
「さっきからぶつぶつぶつぶつ、なに言ってるんだべさ? 真琴? あっ、もしかして祐ちゃんとあたしの馴れ初めを話してたんだべな? そったらこと…、なんかはんかくさいべやぁ〜…。真琴〜。うふふふふふぅ〜」
「あぅ…。そ、そう言いながらあたしの背中をばしばし叩かないでよぅ!!」
はぁ〜、とあたしは大きなため息をつく。…美汐の顔は真っ赤っか。というのも美汐が水瀬家に遊びに来て(もちろん祐一の愚痴を言いに)、ちょうどお菓子がなかったもんだから、秋子さんがこの前おいしそうに食べていたチョコレートのことを思い出し、拝借したのが運のつき。
「あ〜あ、面白くねーべやぁ〜!! 祐ちゃんはおらんし、真琴はあたしんことぜ〜んぜん無視するし…。ぱくっ」
そう言いながらまたチョコレートを口に入れる美汐。あっ、これで5個目だ…。み、美汐〜。そのチョコあまり食べないで〜。秋子さん、そのチョコ食べるのすご〜く楽しみにしてるんだから〜。あぅ〜。
「真琴は…、真琴はいったいどっちの味方なんだべかっ?! 祐ちゃんか、あたしか…。……どっちなんだべなぁ〜♪ さあ、言うべやっ!!」
目をらんらんと光らせて迫ってくる美汐。その表情は、いつになく怖かった。あたしはじりじり後退する。美汐はどんどん寄ってくる。って、何だか美汐、お酒臭いわよ? 何で? と一瞬思ったけど、菓子箱の表面を見てみてなるほどと思った。そこに書かれていたもの…。それは…。
“ウイスキーボンボン”
やっぱり……。お酒の入ったチョコだ。って!! そう思ってる間にもどんどん壁際のほうへ追い詰められるあたし。当の美汐は? と見るともう目がとろ〜んとなりながら怪しく笑ってた…。お酒がよほど利いたんだろう。壁際数十センチ、あたしの鼻先に美汐の顔がって辺りで…、
「何だか……眠くなってきたべや…」
いきなりガクッと崩れ落ちる美汐。って、わぁ〜っ!! そんなところで寝ないでよぅ〜。あたしの肉まんがぺしゃんこだぁ。ちょうど美汐が倒れ込んだところに、あたしの全財産100円で買ったコンビニの肉まんが置いてあったの。後でお茶でも飲みながらおいしく食べよっかなって思ってたのにぃ〜っ。あぅ〜。
美汐を慌ててどかすと袋の中を覗き込んでみる。案の定……。
「あぅ〜。やっぱり中身が飛び出してるぅ〜…。美、美、美汐のばかぁ〜。う、ううう、うわあぁぁ〜ん」
美汐の頬を思いっきり抓りたかったけど、後が怖くて出来ないあたしはその場で泣いてしまった。それもこれもぜ〜んぶ祐一が悪いのよぅ〜。祐一に対する新たな復讐心(逆恨み?)を胸に秘めて、涙ながらにその肉まんを食べるけど……。
「あぅ…。涙の味しかしない……。ぐすん」
気持ちよさそうにすかぴ〜って寝てる美汐の隣で、涙やら鼻水やらを流しながらぺしゃんこの肉まんを食べているあたし……。美汐なんか、美汐なんか大嫌いだぁ〜っと思った今日9月19日、敬老の日だった。
おわり
おまけ
「祐一ぃ〜、覚悟ぉ〜!!」
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待てっ! 真琴?! お、俺が何をした? って、わっ、わわわわぁ〜。何でだ〜っ?!」
「問答無用!!」
ちょうど帰ってきた祐一に“必殺真琴パンチ!”をお見舞いするあたし。唸る右が祐一の頬にクリーンヒット。ギャグ漫画でよくあるように吹っ飛ばされる祐一…。ぴくぴくとお尻を突き出しながら痙攣する。近くまで行くと、まるでタコのような唇をして口から泡を吹き、祐一は倒れてる……。
って、も、ももも、もしかして復讐成功? 信じられないんだけど? でも、復讐出来たんだよね? や、やっとだぁ〜。あぅ〜っ!! 嬉し涙がちょちょ切れるぅ〜っ!!
「ぶきゅ……」
口から泡を吹いて倒れてる祐一を踏ん付けると、祐一の口から何かが飛び出した。美汐は? とキッチンのほうを見てみると……。
「祐ちゃ〜ん。さあこっち着て服さ脱ぐべ〜…。うふふふふぅ〜」
涎を垂らして怪しく笑いながら眠ってた……。その顔は悪魔が微笑んだようでとっても怖かった……。って!! この後更なる恐怖が?…。ぷるぷるぷるっ…。あ、アークデーモン? じゃなかった、秋子さんが帰ってきたら何て言い訳をしようかな?…。これから起こる悪夢にあたしは足が縮こまる思いがした。
あたしこと沢渡真琴は今日も不幸だ…。あぅ〜っ!!……。
ほんとにおわり