まこぴーの肉まん騒動


「祐一でしょ! 真琴の肉まん食べたのは?!」
「俺が食べたんじゃない!! 大体俺にはお前の肉まんがどこにあるのかさえ分からないじゃないか?!」
 あたしこと、沢渡真琴は今、怒っていた。ここにいる男に…。あたしが楽しみに取っておいた肉まんがなくなっていたからだ。誰かがあたしに隠れて食べたに違いないわっ!
 でも誰が食べたっていうことは分かってる…。そう…、相沢祐一…。こいつが食べたに違いないわっ!! あぅ〜っ!! あたしはそう思った…。
 ここは水瀬家。あたしは祐一とあゆと3人で秋子さんの厄介になってる。言わば“居候”と言うわけだ。でも秋子さんはお母さんみたいで優しい。名雪さんはお姉ちゃんみたいであゆは妹みたい…。そして、今、目の前にいる男、祐一は敵…。しかも仇敵だ。
 今はここにいるのはあたしと祐一とピロだけ。あゆはいつものタイヤキ屋さんに行って留守だし、名雪さんは部活…。秋子さんは昨日の朝から出張で大阪の方に出かけてる。状況から考えて祐一しか考えられない。そう思ったあたしはこう言ったの…。
「祐一が食べなきゃ誰が食べるっていうのよぅ!」
「だから俺は知らないんだって…。大体俺が食べたって言う証拠はあるのか? えぇ〜? …ピロか名雪が食べたんじゃないのか?」
「名雪さんがそんなことする訳ないでしょ?! それにピロはあたしと一緒だったのよ?」
 祐一はそういってあたしの顔をぐぐぐっと睨む。あたしも負けずに睨み返してやった。絶対こいつが食べたに違いないんだからっ!! そう思いながら…。しばらくお互いに睨めっこをしていると玄関の扉が開く音が聞こえた。多分あゆが帰ってきたんだ……。そう思った。
「ただいまぁ〜。うぐぅ〜。今日はタイヤキ、売り切れだったよ〜。はぁ〜あ…」
 案の定、あゆがうぐうぐ言いながら部屋の中に入ってきた。あっ、ちょうどいいわっ!! あゆにも協力してもらおっと…。リビングルームに入って来たあゆにあたしは今までの顛末を話す。話し終わるとあゆは祐一の顔をギロリっと睨んで……。
「うぐぅ…。この前ボクが残しておいたタイヤキ食べて怒られたばかりなのに、また真琴ちゃんの肉まん取ったの? 祐一君……。酷いんだよ〜っ! うぐぅ〜!!」
「そうよそうよ! 郵便ポストが赤いのも、作者のSSが下手なのも、ぜ〜んぶ祐一が悪いのよぅ!!」
「作者はともかく郵便ポストは関係ないじゃないかっ?! え〜っ? ……だから俺は知らないんだって〜。信じてくれよ〜……」
 祐一はそう言うとあたしたちの顔を哀れみを請うようなそういう目で見る。一瞬、可哀想な気もしたけどふるふると頭の中で首を振る。あたしは言ってやったわ…。
「ふんっ! この間だって、あたしの肉まん食べちゃったじゃないのよぅ!! そうだったじゃないの?! え〜っ?! ……絶対祐一が食べたに違いないんだから〜っ!! ぐぐぐっ……。祐一が犯人だっていう証拠を見つけ出してやるんだからねっ!!」
 そう言うとあたしは再び、祐一の顔をぐぐぐっと睨む。半分困った顔になる祐一。あゆも睨む。睨むこと5分…。祐一を見ると困りきった顔になってたわ…。
「ま〜こ〜と〜…。俺は食べてないといったら食べてないんだぁ〜。信じてくれ〜!!」
 無実だぁ〜! 濡れ衣だぁ〜! とでも言わんばかりな顔で懇願する祐一。あたしは祐一にこう聞いたの…。
「…じゃあ、誰が食べたって言うのよぅ〜!!」
「あ、秋子さんが食べたんじゃないのか? 疑いたくはないけど……」
 嘘ばっかりつく祐一…。そのうち天罰が下るわよっ!! しかも秋子さんのせいにしてっ!! 秋子さんが帰って来たらた〜っぷり怒ってもらうんだから!! あたしは祐一の顔を睨んでこう言ったわ!!
「秋子さんがそんなことする訳ないでしょ〜。ぐぐぐっ…。やっぱり祐一が犯人なのよぅ!!」
「だーかーらー!! 俺は知らないって!!」
 う〜っ! と祐一の顔を更に睨みつける。怖くなったのか祐一は…。
「…わ、分かった…。買って…、買ってやるから!! だから睨まないでくれ〜っ!!」
 結局、祐一に肉まんを買って来てもらった。あゆはあゆでちゃっかり新しいタイヤキ屋さんでタイヤキを買って来てもらったみたい。祐一はぶつぶつ文句を言ってたけど…。そんな事は気にしないわっ!! ふんっ!! 祐一が買ってきた肉まんをおいしそうに食べた。ふと、横を見ると…。
「うぐぅ〜。やっぱりタイヤキは焼きたてが一番だよね〜。ぱくっ! もぐもぐ……」
 あゆが焼きたてのタイヤキをおいしそうに食べてた…。食べ終わって人心地つくと、お茶を飲む。祐一を見るとよっぽど悔しかったのか、まだあたしたちの方を見てた。別にいいじゃないのよぅ〜。もう終わったことなんだからぁ…。
 大体、男がそんな一つのことでうじうじするなんて未練がましいわよぅ!! あたしは心の中でそう言ったの…。そうこうしてるうちに玄関が開く音が聞こえた。と同時に……。
「ただいまぁ」
 という秋子さんの声も…。多分出張から帰ってきたんだわ! ふふっ、いい機会…。肉まんは買ってきてもらったけど…、これはこれよねっ!! 人のものを勝手に取って食べることはいけないことだもん…。祐一、秋子さんにた〜っぷり怒られるといいわっ! あたしは祐一の顔をまた睨んだ。
 と、そう思っていると、ぷ〜んといい匂いがしてくる。こ、この匂いはっ! 肉まんっ?! 何で肉まんの匂いがするのかしら…。匂いのもとを辿っていく。すると…。
「あっ、そうそう…。これ、関西で有名な肉まんなんだそうです…。5○1の蓬莱とか言う名前なんだそうですよ? わたしは食べたことがないので、買って来ました…」
 ええっ? そ、そ、そんなにおいしいの? あたしは思いっきりつばを飲む。秋子さんが買ってきてくれたんだから間違いはないわっ! って…。
 祐一に怖い顔をしながら心の中で“やったぁ!!”と喜んだ。そうこうしてるうちに秋子さんがいつもの服に着替えてリビングルームに入ってくる。祐一はギロリッとあたしの顔を睨む。あたしもギロリッと祐一の顔を睨み返してやった。あゆはあゆでおろおろするばかり…。
「さあ、みんなで食べましょう? って、どうしたんですか? 祐一さん…」
 首をこくりと傾げて尋ねる秋子さんに祐一が今までの経緯を説明しようとする…。
 が、祐一に任せておくと、まるであたしたちが悪いかのように言われてしまうので、あたしが説明することにした。祐一はかなり嫌そうな顔だったけど…。さあ、祐一!! 秋子さんにたっぷり怒られるといいわっ!!
 と…、ふと秋子さんの顔を見るとなぜだか分からないけど、すまなそうな顔をしていた…。あれっ? なんか違うぞ……。祐一を怒るどころかますますすまなそうになる。あたしの顔も見る。すまなそうに…。
「……あの肉まん…、真琴のだったの? ごめんなさいね…。わたしが昨日の朝、食べちゃったんです…。だって朝早かったものだから、朝ご飯、準備する暇がなかったもので…。で、ちょうどいいところに肉まんが置いてあったものだから…。お手紙でも書いておけばよかったですね…。ごめんなさい…」
 頭を下げて謝る秋子さん。そして上目遣いでチラッとあたしたちの顔を伺っている。そんな秋子さんにあたしは何も言えなかった…。対する向こう側からは怒りの波動…。怒りの波動の先を見てみると、案の定祐一だった。
「ま〜こ〜と〜!! 待てやこらぁ〜!! お前の頭、グリグリしちゃる〜!! あゆも逃げるなぁ〜!!」
 だっ。と、あたしたちは逃げ出した…。祐一は目を血走らせながら、追いかけてくる。あたしは言う…。
「わぁ〜!! 謝る、謝るから許してよぅ〜……」
「うぐぅ〜!! ボクはただ真琴ちゃんが羨ましかっただけなんだよ〜!! うぐぅ〜!!」
「羨ましかっただけで済むかぁ〜!! 待てぇ〜!! お前の頭もグリグリしちゃる〜!!」
 逃げるあたしたちと追いかける祐一。これって、あゆとタイヤキ屋のおじさんに似てないかな?…。逃げてる途中でふとあたしはそう思った。祐一はあたしより走るのが早い。だからすぐに捕まる。つかさずゲンコツでグリグリされた。痛かったよぅ〜。あうぅ〜!!
 ちなみにあゆは持ち前の逃げ根性? で、うまく祐一から逃げ出せたみたいだ…。う、う、裏切り者ぉ〜!!


「さあ、どうぞ…。たっぷり買ってきましたから、遠慮なく食べてくださいね? んんっ? 真琴にあゆちゃん? 二人はそれでいいの? って、あっ……」
「いいんですっ!! こいつら、昼間にた〜っぷり食べましたからね…。……俺の金で……」
 祐一が憮然とした表情でそう言う。秋子さんも名雪さんも何も言えないみたいだった。秋子さんと祐一と名雪さんはおいしそうに5○1の蓬莱の肉まんを食べてる…。祐一なんか、ほかほかの肉まんの断面を見せびらかせながら、おいしそうに食べてる。その横で…、
「うぐぅ…。何でボクまで…。濡れ衣だよ〜。祐一く〜ん……」
「あぅ〜。ぜんぜんよくないよぅ…。秋子さ〜ん、助けてよぅ〜…」
 く、悔しい〜っ!! そう思って秋子さんに懇願するように頼み込むけど、祐一に睨まれて何も言えないみたい…。名雪さんも祐一の迫力に押されているみたいだった。香辛料のいっぱい入ったカレーは、涙が出るくらい辛かった…。祐一ぃ〜!! 覚えてなさいよぅ〜!! あぅ〜!!

END