イチゴケーキと誕生日(番茶付き)
今日12月23日は天皇誕生日…、じゃなかった、名雪の誕生日だ。
名雪には、迷惑かけてると言えば、まあ…かけてるので、今現在、あゆと真琴と一緒にプレゼントを買いに来ている。ちなみに名雪は部活で朝早くに出掛けていった。
「うぐぅ〜。名雪さん、どんなプレゼントがいいのかなぁ〜?」
「さあなぁ〜。まあ、あいつは基本的にけろぴーとイチゴが好きだからな…。ほら、あの辺のぬいぐるみでいいんじゃないか? ちょうどイチゴとカエルのぬいぐるみもあるし…」
ここは駅前にあるファンシーショップ。店頭にあるぬいぐるみを指差しながら俺は言う。女の子の店に入るには少し(というかかなり)抵抗を感じた俺は、あゆと真琴にお願いすることにした。もちろん報酬はたいやきと肉まんだ。
「じゃあ、真琴たちが適当に選んで買ってくるから、祐一は大人しく待ってなさいよぅ!」
「お前じゃないんだし、どこにも行かないって……」
真琴は俺の顔をぐぐっと睨む。何で睨まれにゃならんのだ! とは思ったが、このお子ちゃま二人組にそんなことを言うと余計にややこしくなるので、それは言わないことにした。あゆは真琴の手を引いて店内へと消えていく。俺はその後姿を見送った。
あゆと真琴は今、俺と一緒に居候している。今は同じ居候仲間というわけだ。こんなこともあってか、最近は共に行動する事が多くなった。
かといって相手は女の子二人だ。世間の目(俺と同い年)は非常に冷たい。特に男どもは…。北川のヤツなんかあからさまに敵視してきやがる。何で俺が敵視されにゃならんのだ! 大体、お前は香里と付き合ってるじゃないかっ!!
はぁ〜。と俺は大きなため息をつく。ここ、北海道はもう冬本番だ。だから今も少しではあるが雪が降っている。家の中は暖房が効いているので温かいが、外はめちゃくちゃに寒い。
こんなに寒いんだ。今夜はどかっと降るんだろうなぁと真琴たちのほうにぼんやり目をやっていると、後ろから声を掛けられた。
「あ・い・ざ・わ・さん(はぁと)」
一瞬ビクッとなって振り向くと天野が立っていた。いつも思うんだがその登場の仕方はやめて欲しい。ノミの心臓の俺には耐えられない。って、最後の“はぁと”ってなんだ?
「誰がノミの心臓ですか?……。それに、最後の“はぁと”は私の気持ちです…」
ジト目で俺を睨む天野。知らず知らずのうちに声に出していたか……。くそっ!! って…、いつからそこにいたんだ? というか、何でいるの?
「あ、あ、天野…。その、な、な、何でここにいるの?」
「いえ、ちょうどこの辺を通りかかったら、相沢さんの姿が見えたので…。運命…、ですね?……」
天野は流し目を俺のほうに向ける。何が運命なんだかよくは分からんが、背筋がゾッとした。俺は言う。
「何か、お前に見られると背筋がゾッとするんだが…。ひょっとして前世は雪女か?」
「失礼ですね…。私の前世は雪女なんかじゃありません! れっきとした人間です…。……それに、……あなたのことが好きな一介の女の子なんですよ?…。私は……。…で? そう言う相沢さんは? 何でこんな男の子の似合わない場所にいるのですか?」
天野は首をかしげながら、そう尋ねる。途中、艶かしくこっちを見ながら小さな声で何か言っていたが、空恐ろしい気がするので気にしないことにしよう…。俺は言った。
「いやな…、今日は名雪の誕生日だからな……。その……、プレゼントでも…。と、思ってだな……。それで真琴たちにお願いして買ってきてもらってるところ…。……って、いいっ?!」
そう言って、天野の方に目をやると天野は下を向いていた。何か小さな声でぶつぶつと言っている。何を言ってるんだ? 耳を澄ませてみる……。
「……あたしの…。あたしの誕生日は? なあ、祐ちゃん……。あたしの誕生日は? ……酷いべさ…。祐ちゃん……」
いいっ? な、な、泣きべそかいてるじゃないかぁ? しかも俺の苦手な北海道弁で喋ってるし!!
…って、天野の誕生日は?…いつだったっけ?…。え〜っと…。12月だって言うことだけはここにいる本人に聞いて知ってるが…。日にちは? う〜ん…。健忘症にでもかかったように思い出せない。仕方ないか…。聞いてみることにしよう…。
「なあ、天野…。誕生日…、いつだったっけ?」
「祐ちゃん! 本気であたしの誕生日、忘れたんかい? ええっ?!」
“そんな酷なことはないでしょう…”とでも言わんばかりに、泣きべそをかきながら睨んでくる天野…。そんな天野に俺は……、
「い、いや…。そ、そんなことはないぞ? え〜っと…。あっ、そ、そうだ! 思い出したぞ! 28日だ、28日…」
…と、当てずっぽでそんなことを言ってみる。が…、どうやら俺の言ったことは間違っていたらしく、ついに彼女は泣き出してしまった。
「あたしの…、あたしの誕生日は8日だべさっ!! もう半月も過ぎてるべ? ……祐ちゃんの誕生日、プレゼント渡す時に祐ちゃん、“天野の誕生日は?” って聞いてきたから、あたし、教えたっしょや? 楽しみに待ってたんだべ? 大好きな祐ちゃんからのプレゼント……。ず〜っと待ってたんだべ? なのに…、なのにこったら…、こったらわやなこと…、こったらわやなことあるわけねえっしょや!! う、う、うわぁぁぁ〜〜〜ん!!」
お、おい!! そんな道路の真ん中で泣かれたら、奥様連中の笑い者になっちまう!! 何とか天野を宥めようと必死になる。が…、
「ぐすっ…、ぐすっ…。あたしの誕生日も忘れる人は、そこいらの人の笑いもんになるといいべやっ!! ぐすっ…、ぐすっ…、うわぁぁぁ〜〜ん!!」
「ごめん! ごめんって! 謝る、謝るから…。だから泣き止んでくれ〜っ!!」
四苦八苦して天野を泣きやまそうとしているところへ、真琴とあゆが戻ってくる。天野は俺の足にすがって泣いてるし…。野次馬どもは集まってくるし…。
「なによぅ〜。この騒ぎはぁ〜……」
「また祐一君が何かしたんじゃないのかな? 例えば美汐ちゃんや栞ちゃんを泣かせてるとか…」
人ごみを掻き分けながら入ってくる真琴とあゆ…。見事だ…、あゆ……。さすがはタイヤキ探偵というところだろう。だんだんと近くなる声。ああっ!! また真琴のいたずらの標的にされるのか…。あゆにタイヤキ一ヶ月奢らされるのか…。いや…、でも一番怖いのは……。
「うううっ……」
某、最終兵器彼女のヒロインのように、寂しげに俺を見上げている、天野…。いや、“ちせ”だった……。
「よかったねぇ〜。美汐ちゃん。一緒にお誕生日会が出来て……。わたしも嬉しいべ?」
「うんっ! こんな高価なプレゼントも貰ったし……。うふふっ…。ねぇ〜、祐ちゃん?」
名雪と天野は微笑みながら、天野の誕生日を忘れた俺のお仕置きとして、俺の苦手な北海道弁で話をしていた…。ちなみにプレゼントは指輪にネックレス。全部俺の金だ…。香里と北川と佐祐理さんはいたずらっぽく微笑んでいた。秋子さんも…、
「さあ、ケーキの準備が出来たべ?」
北海道弁丸出しだった……。お仕置きとはいえ、これはあまりに酷いと言うのは俺の間違いだろうか? で、栞とあゆと真琴と舞は、無言の圧力を俺に浴びせている。舞が一言…、
「祐ちゃん…、出来たって…。食べるべさ?…」
「祐ちゃん、なに独り言ぶつぶつ言ってんだべさ? みんな待ってんだべ?」
あゆもそう言うとふぐのように、ぷぅ〜っと頬を膨らましている。そんなみんなを前に……、
“ああっ、やっぱりふぐは下関だよなぁ〜…”
などと妄想できるわけもなく……。
「はい……、えぐ、えぐえぐえぐ……」
素直に言うことを聞くしかないのだった……。……ちなみに、俺の名前はというと?……、
「祐ちゃん!! 早く来るべさ!! もう、なにもたもたしてんだべさっ!! みんな待ってんだべ? そったらのろまな祐ちゃん、嫌いだべっ!!」
「そうだべやぁ!! 美汐の誕生日も忘れる祐ちゃんは、このままずぅ〜っと“祐ちゃん”って呼ばれたらいいんだべっ!!」
“祐ちゃん”になってしまっていた…。とほほ……。
おわり