イチゴが先か、ケーキが先か
突然だが、名雪と喧嘩した。はたから見れば実にしょーもないことなんだが、イチゴのショートケーキを食べる時にどこから先に食べるのかと言うことで…。俺は普通にイチゴから食べるのだが、それを見ていた名雪は…。
「イチゴは最後のお楽しみに取っておくものなんだおーっ!」
と言ってくる。まあ名雪は自他も認めるイチゴ大好き少女なので、こう言っても不思議じゃないんだ。でもいくらイチゴが好きだからってなぁ。人の食べ方にまでとやかく言うのはおかしいと思うぞ? 俺がそう言うと…。
「う〜っ…。美味しいものは一番最後に取っておくものなんだお〜。祐一だってイチゴは好きでしょ?」
「そりゃあ、好きだけどな…。でも、何から先に食べるのかなんて個人の自由だろ?」
名雪は最後に取っておく派なんだな。だからか…。イチゴ大福食べる時でも周りの餅と餡子を全部食べた後でイチゴを食べるんだよな。でもあれは一緒に食べるから美味しいんであって、別々に食べてもそれほどは美味しくないと思うんだけどな。
「祐一の好みとわたしの好みとは違うんだよ? その辺を分かってほしいよ…」
しょんぼりして名雪はそう言う。確かに好みと言うものは千差万別で、俺の嫌いなものを名雪が好きだったり、名雪の嫌いなものを俺が好きだったりするのだが…。でも、イチゴを別格のように扱うのはよくないと思うぞ? 何もイチゴがすべてなわけじゃないんだから……。
……で、喧嘩をしてしまった。あゆや真琴はぶす〜っとしている名雪に気を使って話している。秋子さんはと言うと、いつも通りの穏やかな笑顔で俺たちを見ていた。相変わらず、ぶす〜っとした顔の名雪。顔が童顔なので怒った顔は逆に可愛いんだが…。
「祐一! 何とかしなさいよぅ〜!!」
「そうだよそうだよ祐一君!! うぐぅ〜っ!!」
お子ちゃま2人は、名雪の味方をして俺に食ってかかる。一言きつく言いたいのだが、秋子さんの手前もあるし…。ちなみに今日、12月23日は名雪の誕生日だ。一応ではあるが本人には内緒であゆと真琴と選んだプレゼントも用意してある。あることはあるんだがこの状況では…。
「名雪、いつまでも膨れてないで…。さっきから謝ってるでしょう? 祐一さんも…。もう、困った子ね…。ごめんなさいね? 祐一さん」
秋子さんはそう言って名雪をたしなめる。名雪は相変わらず膨れっ面だ。“もう…、仕方ないわね……” と言う心の声が俺の耳に聞こえたような気がした。ケーキの準備をする。料理なら自前で何でも作ってしまう秋子さん。これも作ったんですか? 俺がそう聞くと?
「ええ、そうですよ? でも今回はあゆちゃんと真琴にもお手伝いしてもらいましたけどね?」
そう言うといつものポーズで言う秋子さん。あゆと真琴は自慢げに俺のほうを見て“ふふんっ♪”ってな顔をする。…どおりで昨日の夜、あゆや真琴がわいわいがやがやと階下で声を出しているなと思っていたんだが、ようはこれを作っていたんだな? と俺は思った。名雪を見るとぱぁ〜っと今まで膨れていた顔が緩む。
イチゴを満遍なくトッピングしたケーキ。何やらクリームもピンク色。これは? と秋子さんに聞くと?
「イチゴの果汁を生クリームに加えてみました。あまり甘くしてないので祐一さんでも食べられると思いますよ?」
昔は甘いものが食べられていた俺であったが最近ではあまり甘いのは食べられない。特にケーキなんぞは…。だからか、秋子さんの言葉に俺はほっとため息を吐く。名雪はと見ると、もうさっきの膨れっ面はどこへやら…。満面の笑みに変わっていた。
「「「「名雪(名雪さん)、お誕生日おめでとう!!」」」」
パーン、パパパーン。とクラッカーを鳴らす。同時に立てた18本のキャンドルをふーっと消す名雪。顔を見ればにこにこと嬉しい顔だ。そんな名雪が可愛いと思った。パチパチパチと拍手を送る俺たちのほうを恥ずかしそうに見る名雪。俯いて、
「み、みんな……。ありがとね……」
一言そう言う。秋子さんはいつものポーズでこう言う。
「よかったわね。名雪。18歳、お誕生日おめでとう。……。さ、さあ、ケーキを切りますよ?」
秋子さんは感慨深げに名雪を見つめてこう言った。秋子さんの旦那さん(つまりは俺のおじさんになるのだが)は、秋子さんが名雪を産む直前に事故で亡くしている。それ以来18年間女手一つで育ててきた秋子さんを、俺は尊敬している。
「わーい!! イチゴ〜、イチゴだよ〜。イチゴケーキを切ってみんなで食べるよ〜。うふふっ」
はぁ〜っと大きなため息を一つ。一喜一憂だな…。嬉しそうに切られていくケーキを見つめる名雪を見て、俺はそう思った。
「はい、名雪。あゆちゃん。真琴。祐一さんもどうぞ……」
ショートケーキのように切られたイチゴケーキがお皿に載せられてコトッと俺の前に来る。名雪はもうにこにこ顔だ。あゆや真琴の前にも俺たちと同様にケーキが置かれた。秋子さんが最後に取り、お皿に乗せる。
「じゃあ、いただきましょうか?」
「はい(うん)」
いただきますと言って、ケーキを食べる俺たち。たまには違う食べ方もしてみるか……。そう思いケーキのほうにフォークを持っていくと名雪が不思議そうに俺のほうを見ていた。
「ん? どうした? 名雪?」
「あっ? ううん。なんでもないよ。ただ祐一、いつもと食べ方違うから…。その、びっくりしちゃって…」
「た、たまにはこういう食べ方もいいかもなって思っただけだよ…」
名雪は嬉しそうに俺の顔を見つめる。俺は急に恥ずかしくなって目を逸らした。そんな俺たちをあゆや真琴や秋子さんたちは優しい目で見つめている。ゆったりとした時間が流れていった。…って!! プレゼント渡すの忘れてるじゃないか!! どうしようと少し考えて、いい案が頭に浮かんだ。
夜も更けて…、プレゼントをあゆと真琴と一緒に持って名雪の部屋に行く。ちなみに名雪はもう眠っている。いつも10時には寝てしまう名雪。昨日は頑張ったもんな。ちなみに今の時刻は深夜0時。街はクリスマスイブへと変わっていた。そっと名雪の部屋の戸を開けて中へ入る。
「名雪…、誕生日おめでとう。誕生日に渡せなかったけど、俺たちからのちょっと早いクリスマスプレゼントだ…」
そう言って可愛らしい包装紙に包まれた小さな箱を置く。あゆが小声で、
「名雪さん…。喜んでくれるかな…。ねぇ、祐一君」
「祐一はともかく、あたしが選んだんだから間違いはないわよぅ」
えへんとでも言わんばかりな表情で、真琴は言う。まあ、実際に真琴が選んだんだから文句は言えない。かなり腹は立つが……。部屋を出てそっと部屋の戸を閉めると窓のほうを見る。あゆと真琴は目を擦りながら自室へ戻っていく。俺はその後ろ姿を見送った。見送った後、俺は外を見る。また雪が降ってきたようだ…。窓の外の家々の屋根は雪明かりで白く輝いている。深々と降る雪を見ながらもう一度俺は心の中で言う。
“名雪…、誕生日おめでとう……”
と……。
END