紅茶とケーキと誕生日
今日、12月6日は、私こと天野美汐の誕生日です。例年ですと、両親がささやかながらケーキなどを買ってくれて、お祝いなどをしてくれます。…前年は密かに恋心を抱いている相沢さんに、見事なまでに忘れ去られて悲しい思いをしましたが、今年は覚えていてくれたみたいで、居候先の水瀬さんのおうちでパーティーなどをしてくれるみたいです。
何分、パーティーなどというのは生まれてこの方、3、4回くらいしか体験していない私は、かなり緊張しています。どれくらい緊張しているのかというと、かの日露戦争で連合艦隊に敗れ去ったバルチック艦隊の水兵の行進のときと同じくらい緊張してます。
えっ? 意味が古すぎて分からない? 失礼ですね…。どうせまたおばさんくさいなぁ〜とか思っているんでしょう? ふん! 私はまだ17歳なんですよ? 花も恥らうお年頃なんです。でも、今日で18歳になるんですけど…。
まあ、いつものことでしょうからね?…。仕方ないです。と、大人の判断をして、今現在、彼の居候先である水瀬家に向かっているところです。ここ北海道は今日も雪です。今夜は冷えると天気予報で言っていたので、今夜も降るのでしょう。
そう思いながら、おしゃれなどをして出掛けました。でも、雪道は非常に歩きにくいですね。おしゃれな格好をすると。家にいるときは大概はもんぺなのですが、今回は思い切ってしゃれたスカートとお母さんが貸してくれたゴージャスな毛皮のコートという少しセレブな女性を目指してみたんですけど…。
やはり寒いです。とてもじゃありませんがこんな格好などをせず普通の格好、すなわち防寒ズボンにコートという普通の格好でもよかったのではないかと…。そうは思いましたが、もうすぐ水瀬さんのおうちに着いてしまいます。……仕方ありません。早く行って暖房器具に当たらせていただきましょう…。そう思い急ぎ足で水瀬さんのおうちへ向かいました。
ピンポーンと呼び鈴を鳴らす私…。しばらくするとガチャっとドアの開く音。そして…。
「ああ? ああ、天野か…。って?! わっ、な、何? その格好は……。と、とりあえず家の中に…」
そう言って私を招き入れてくれた人は、私の大好きな人、相沢祐一さんです。相沢さんは、私の姿を見て少々驚いた声を出しました。失礼です。何度も言うようですけど、こう見えてもれっきとした女子高生なんですよ? 分かってますか? …また、この前みたいに真琴や水瀬さんたちに言って、怒ってもらいますからね! むぅ〜! …って、さっきから何やら家の中が静かなんですけど?…。
「秋子さんとあゆは急な仕事が入ったんで、留守だよ。名雪は部活のミーティングがずれ込んで今夜は遅くなるって。真琴は真琴で保育園のお泊り会なんかでいないんだよな…。だから…、今日は俺一人か? …って! ええ〜っ?!」
相沢さん…。自分で言って驚かないで下さい。でも…、ふ、二人きり?! 突然のことですので私は気が動転してしまいます。相沢さんのほうを見ると…、相沢さんは私にも増してわたわた慌てながら、
「ち、ちちちち違うんだ天野。い、意図的にそうなったわけじゃなくてだな。…その、こ、これは偶然の産物なんだ!!」
慌てまくる相沢さん。そんな彼の行動に一瞬ぷっと吹き出してしまう私…。まあ、夢が一つ叶ったのでこれはこれでいいですね。ふふっ…。さっきのことは水に流しましょう…。そう思って…、
「相沢さん。あの、出来れば家の中に入れて頂きたいんですけど…。このかっこうじゃあ寒くって……」
「あっ? ああ、そ、そうだな…。まあ上がんなよ…」
靴を脱ぐとスリッパが用意されて、それを履いてリビンングルームへと通されます。リビングルームに入ると水瀬さんのお母さんの豪華な料理が並んでいました。中央にはケーキまで…。
「秋子さんたち、残念そうだったよ…。でも、一番残念そうだったのは真琴だな。あいつ、行くが行くまでぶつぶつ文句言ってたし……」
そう言って紅茶を用意する相沢さん。私はちょこんと借りてきた猫状態です。やがて、紅茶を淹れて彼がリビングルームへと入ってきます。二人だけの誕生パーティー。彼がケーキのろうそくに火を灯します。部屋の電気を暗くして、ろうそくを見つめます。大好きな彼と二人きり…。素敵な、生まれてこの方味わったことのないくらい甘美で素敵な誕生日になりそうです。
“神さま…。どうもありがとうございます”
そう何度も何度も心の中で思いながら、大好きな彼の見つめる中、私はふっ…、とケーキの18本のろうそくを消しました。これからもこの幸せが…、真琴がいて水瀬さんたちがいて、美坂さんたちがいて、ほかの大勢の私の知っている人たちがいて、そして、大好きな相沢さんがいる。こんな幸せがこれからも続きますように…。と言う願いを込めて…。
END