戦乙女の誕生日
今日、3月1日はあたしの誕生日。
今年は何か、劇をするとかでみんな張りきって練習とかしてるみたいなの…。もちろん言い出しっぺはあたしの妹の栞…。ドラマばかり見ている栞は劇にもうるさいのよね。姉としては…、
“そんなどうでもいいことばかり覚えないでもうちょっと勉強しなさい!!”
って言ってやりたいんだけど…。あの子ってば泣き虫なのか、すぐに涙を溜めて上目遣いであたしの顔を見つめてくるのよ…。あたしがその顔に弱いって知っててそんな顔をして来るんだから、なお悪いわ…。で、言うことを聞いてしまうあたしもあたしなんだけど…。
劇は名雪の家のリビングで行なうって言うから、昼頃家を出て名雪の家に向かったの。途中おいしそうなアイスクリームがあったからそれを買って名雪の家に向かったわ。まだ春は遠い北海道だけど、だんだんと温かくなってきてるのが分かる。
雪を踏む音も何だか軽やかにスキップでもしながら名雪の家に向かったの。やがて名雪の家が見えてくる。ちょっと恥ずかしいのでスキップはやめて普通に歩くことにした。なぜって? そ、そりゃあこんなところをあの二人組に見つかってみなさいな。
あとで何て言われるか…。あたしのことを最終兵器彼女だの、マッスルボンバーだの、失礼なことばっかり言ってくる二人、相沢君と北川君…。だいたい最終兵器彼女って何よ? 最終兵器彼女って…。それを言うんだったら天野さんのほうがいいんじゃない?
だって彼女ってばここの言葉も出やすいんだしさ…。それに何て言うか、あの漫画のヒロインに似てない? 雰囲気とかさ…。そんなどうでもいいことを考えながら歩くこと約1分、名雪の家の前に着く。
ピンポーンと玄関のチャイムを押すと秋子さんが出てくる。
「あら、香里さんいらっしゃい。栞ちゃんならもう来てますよ?」
「あっ、そうですか…。じゃあお邪魔しまーす」
秋子さんは嬉しそうに部屋の中へと案内してくれる。リビングに通される。リビングには暗幕が張ってあったりスポットライトやフットライトもあったりとさながら小劇場のようだ。ってこれ、秋子さんが準備したんですか? 疑問に思ったあたしはにこにこしている秋子さんに聞いてみる。が…、
「企業秘密です……」
そう言って微笑む秋子さん。はぁ、やっぱりこの人は謎な人だわ…。あたしはそう思った。一つある椅子へと通される。部屋の電気が消える。劇が始まったようだ……。
「うっ、ううっ、ううううううっ……」
劇が終わって、あたしは全泣き状態だった。最初は、何? このつまらない劇は? と思って見てたんだけど……、クライマックスにはハンカチを持って涙をふきふき見る羽目になってしまった。特に栞の演技力は凄かった。あそこであんな風に言われたら男はイチコロだろう…。
伊達にドラマばかり見ていないとあたしは我が妹ながら感心した。栞が言う。
「お姉ちゃん、お誕生日おめでとう…。劇は悲しい結末で終わっちゃったけど、私はいつまでもお姉ちゃんと一緒からね……」
「うん、うん…。あたしもいつまでも栞と一緒よ?」
ハンカチで涙を拭き、うんうんと頷くあたしとあたしの頭を撫でながら優しく微笑んでいる栞。春の日差しはまだ遠いあたしの誕生日だったわ……。
おわり
おまけ
「おい、北川…、ちょっとこれ見てみろよ」
「何だ? 相沢…。なんかおもしろいもんか?」
次の日、学校に行くとこそこそと相沢君が北川君に何かを見せていた。怪しいわ。ものすご〜く怪しいわ…。あたしは気配を消して二人に近づく。ふっ、と北川君の机を見たあたし……。顔から火が出た。だって北川君の机にあったもの…。それは……。
それは涙とか鼻水とかいろんなものを流しながらうんうん頷いているあたしの写真だったから…。恥ずかしさと同時に怒りがこみ上げてくる。こみ上げてくる怒りを押さえつつあたしは、あたしの存在に気がついていない二人にこう優しく聞いたの…。
「こ・れ・は・な・あ・に?」
途端に顔を見合わせる二人…。ぎぎぎっと、後ろを見る二人の顔を極上の微笑みと絶対零度の瞳で睨み付けるあたし…。相沢君は何も言えないみたいであわあわ言ってるし、北川君はもう命乞いをしていた。
「…み、美坂ぁ〜!! 俺はこいつに騙されたんだぁ〜。だ、だから命だけは、命だけは……」
「……き、汚いぞ、北川!! そもそもこの計画はお前が発端だったじゃないか!!」
「……ふぅ〜ん、そう……」
そう言いながら、愛用のメリケンサックを右手にはめる。シュッ、シュッとシャドウボクシングの真似なんかをして二人を見るが、もうそこには二人の姿はなかった。“逃げたわね” そう思うとあたしは二人を追いかける。
「こらぁ〜!! 相沢ぁ〜、北川ぁ〜。待てぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
逃げていく二人を追いかけるあたしの怒声とともに、今日という日がまた始まる……。
ほんとにおわり