お従姉ちゃんがやって来た!


「あっ、賢くん? うち。従姉の裕香やけど、春休みの時間が取れたからそっちに行くわ〜。しばらくそっちに厄介になるかぁ思うねんけどよろしゅう頼むわねぇ〜」
 3月の下旬のとある日、俺の家の留守電にこんな事柄が記録されていた。まあいつもの通りマセガキとお局様との苛烈を極めた争いを繰り広げている中で、ふと留守電に気付いてボタンをピッと押したわけだが、まさかあの従姉が来るなんてことは夢にも思わなかったもんで顔面蒼白になってしまう。いや普通ならそこは喜ぶべきところなんだろうが、うちの従姉はとにかく甘えん坊な性格で俺を一種の盲愛の対象としている部分がある。郷里から離れる前はそれこそ毎日のように俺が風呂に入っているのを見計らって強引に入ってきたり〜の寝ているといつの間にか布団に潜り込んできて、朝気がつくと抱き枕状態にされていたりしていたわけで…。こっちに引っ越すと言った時にはそれこそ大泣きに泣いて、“何でなん? うちのこと嫌いになってもうたん?” だの、“うちも一緒に連れってって〜なぁ〜” だのと散々駄々をこねられたもんだ。最後には、“賢くんのウソつき〜っ!!” と泣き腫らした目で言われてしまい非常に往生した経験がある。出立の朝にも、“何も関東くんだりまで行かんでもこっちで就職したらええやんか…” だの、“そんなにうちと一緒にいるのが嫌やったん?”、だのとぶつぶつ文句のオンパレードで、最後にべーっと舌を出して、“賢くんなんか大っ嫌いや〜っ!!” とケンカ別れしたまま、5年が経った。従姉とは2歳違う。住んでいたところも隣同士って言うこともあって昔からべったりだったなぁ〜。なんて昔の余韻に浸っていると、“まっ! 賢くんだなんて名前で呼んじゃって…。いやらしい仲だこと…” といつの間にかグラマラスなワガママボディーをひけらかすように裸族になったお局様が怪しい目つきでこっちを見ているし、マセガキはマセガキでお局様に対抗するようなボンキュッボンな大人な体になって、“また女の人なの? お兄ちゃん!” とやや怖い目?(と言うか本人は怖い目だと思っているんだろうが俺からすると遊んでくれなくて駄々をこねてるいつもの目にしか見えん!)をしてこっちを睨んでいる。まあ従姉と言っても近しい仲なもんで俺の姉代わりや何かにつけて忙しい俺の親代わりを引き受けてくれた恩人であるので来るのには申し分はないのだが…。こんな状況をどう説明すりゃいいんだ? と思う。
 一万歩譲ってお局様は俺の彼女と言う感じで説明は出来るが、マセガキは説明がつかん。しかもこいつの場合、ちょっとでも俺が他の女に目を遣ろうものなら今のようにボンキュッボンな体になりやがる。今からでも遅くはないからお断りの電話を掛けるべきだとは思うのだが、如何せんこう言うことに掛けてはものすご〜く頑固な従姉のこと、絶対、“何があっても行くかんな〜?” と言われるに違いない。出張だと言うと、“じゃあ出張先教えて〜。そこで待っとるから〜” と言われるのは確実だ。本格的に困った状態になるが、一応電話を掛けてみる。って言うか何でうちの電話が分かった? と考えてお袋だと思うわけだ。一応今も隣同士だし従姉が何やかんや言ってお袋から電話番号を聞き出したって言うことは十分あり得る。…のだがケンカ別れしてもう5年も経って俺はもう思うこともないって言うのに今更だな? おい! と心の中でツッコミを入れる俺。とお局様が、
「はぁ〜。これだからあんたは…。いい? 女って言うものはいつまで経っても好きな相手のことは覚えてるもんなのよ? まああんたのことが好きだ〜なんて言う物好きがこの世の中にいたって言うことは珍しい限りなんだけど…」
 と裸族のままにそんなことをのたまいやがる。じゃあ去年のあの不意打ちのキスは何なんだ? と小一時間正座をさせて説教してやりたいところなんだが逆に小一時間あの裸族の格好のまま説教をされかねんわけだし、マセガキに知られたらそれこそジ・エンドになっちまう気がしたのでその言葉は飲み込んだ。マセガキはマセガキで、“お兄ちゃん、まさかとは思うけど、その従姉さんと一緒に体を流し合いっこなんてしたりしてないよねぇ〜?” といつの間にか擦り寄って来てぎゅ〜っと大きなメロン級なモノを押し付けながら実に疑わしいような目で言っている。流し合いは俺が幼かった頃だけはしていたのだが、ある程度大きくなってからはしてはいない。と言うか向こうが無理矢理風呂に乱入してこようとしたことは日常茶飯事であったわけで…。自分ちの風呂が非常に落ち着かなかったことは今となってはいい思い出だなぁ〜っとか考えてると、いつの間にか服を脱がされかけていて、ちょっとした戦闘状態に突入したことは言う間でもなかった。まあ何とかパンツだけは死守できたわけだが…、女の力侮り難しと思うこと、ここ2年と言う感じだ。ちなみに翌朝いつも通りマセガキを連れて出かけようとしていると例の奥さん連中に、“昨日はいつもより激しかったわねぇ〜。階下まで聞こえてきてたわよ?” だの、“ムフフなことをするのはいいけどあんなに激しくやってたら、美羽ちゃん起きちゃわない?” だのと好き勝手なことを言われて弁明にあれやこれやと費す俺がいて…、結局今日も遅刻してしまい社長から嫌味なお小言を聞かされる羽目になってしまったことは言う間でもない。


 仕事中、マセガキはいつもの如く俺の膝に座って手伝いと言うか邪魔と言うか、そんなことをやっている。隣りのお局様はと言うと、今は一心不乱にPCの画面と睨めっこ状態なわけだ。そんなことをしてる中、俺は手を動かしながらも、あの従姉のことを考えていた。ケンカ別れみたいな別れ方をして、それから5年間音沙汰がなかったのになぜに今になって連絡を寄越した? などと頭の中はそんなことがぐるぐるぐるぐる堂々巡りみたいに回っている。あ〜、ダメだ。俺の貧弱な思考能力では考えつかん。とか考えてると、ついついっと軽く腹を突かれる。突かれた先を見るといつもの如くお局様が、“だらけてないでちゃんと仕事をしなさいよ…” と言う顔でこっちを見ていた。あ〜、はいはい。ちゃんとしますよ〜。と言うことで仕事に集中する俺。顧客の整理から今度の旅行のプラン作成までやっているといつの間にか帰る時間になっていた。
 ふぅ〜、今日も終わったか〜っと肩をコキコキ言わせながら帰り支度なんぞを始める俺。マセガキはいつものように手を引っ張って、“早く帰ろうよ〜” などと言っている。一応お前の家はおじいちゃんである社長の家なんだぞ? と言ってはいるのだが、こいつの中ではもう俺の家=自分の家と言う構図が出来上がってしまっているのか家に帰ると言うと俺のおんぼろアパートと言う感じだ。社長も社長でこのワガママ孫娘の言いなりになってしまっているし、それに輪をかけて息子夫妻は放任主義と来たもんだ。そのしわ寄せは全部俺に来るんだが、前にも言ったかも知れんが養育費としていくらか色を付けてもらっている以上文句は言えんわけで…。はぁ〜っと深いため息をつきつつマセガキの手を引いて家路につく俺がいた。途中、スーパーに寄ってビールとおつまみとマセガキ用のお菓子を買う。この時点でもう男寡の親子にしか見られなくなったことが非常に悲しくなるわけだが、他人目線で見ると絶対奥さんに愛想をつかされた男にしか見えんよなぁ〜などと考えてまたはぁ〜っと盛大なため息をついてしまう。これであの甘えん坊の従姉が来たらそれこそ地獄だ。今日でも帰ったらお袋に電話を掛けて何とか来させないようにしないとな? などと考えながらレジに並ぶ。レジを打ってもらい金を支払う。袋に今日買ったものを詰めて…って? 何だ? このエロ本の山は? と見ると隣りでえへ〜っと笑うマセガキ。またお前かっ! とデコピンを1発食らわしてレジのところに持って行き、払い戻しを要求してみるものの、“一旦購入されたものの払い戻しは出来ません” などとレジ掛かりのおばちゃんに実に不機嫌そうに言われてしまい泣く泣くそのまま購入する羽目になってしまった。と言うかいつの間に入れやがったんだ? と帰りしな荷物を片手にマセガキに訊く。“お兄ちゃんがおつまみ選んでるときだよ?” と無邪気な顔でマセガキはそう言う。一旦そのことに夢中になるとそのことだけに夢中になって辺りが見えなくなる俺。まあ昔からの癖みたいなもので郷里にいるときから今に至るまでこの癖が抜けきれんわけで…。一体どんなもんを買ったんだ? と辺りを気にしつつ、取り出したエロ本のページをぺらぺらめくる俺。巨乳物でしかも下の毛は剃ってあると言う感じなちょうどでかくなったマセガキとお局様のような感じの肢体がゴロゴロ出てきやがる。いつも俺の家に来ると裸族になるお局様に聞いてみたところが、“かゆくなくていいのよ。特にこれからの季節は…” などと言いながら剃った部分を見せつけるように言う。もっともこんな恥じらいも何もないおっさんみたいな女には何を言っても無駄だとは思うが、“隠す努力は見せてくださいッス!” と言わざるを得ない。ははははははっ、これはもうお局様行き決定だな? とがっくり肩を落として家路に向かう俺がいた。


 家に着く。とは言えおんぼろアパートなんだが…。階段は少々勾配が急なためマセガキは負ぶって上る。肩をコキコキならしながらいざ中へ入ろうとして違和感に気付いた。戸、開いてるよな? いやいや朝ちゃんと閉めて出たはず! と鞄の中をまさぐって鍵があることを確認。もしかしてピッキングか? とも考えたがこんなおんぼろアパートにピッキングに来るような間抜けはいないはずだ。じゃあ何だろう。とにかく俺だけ入って状況を確かめてみるかと思い、マセガキを降ろして、“怖いお化けかとかが出てくるかもしれんから隣りのおばちゃんのところでも行っとけ…” と手を幽霊の形にして舌をべろんべろん振って言う。やっぱりお化けにまだ耐性がついていないんだろうマセガキ。うんと大きく頷くと涙目で隣りの家のチャイムを連打している。さて入るかと戸を開けて中に入る俺。玄関先には女物のスニーカーが一足でんと置いてある。まさかとは思うが、と辺りを見渡す俺。小洒落た旅行鞄に見覚えのある菓子箱。で、この風呂場から聞こえる妙に間延びした呑気そうな声。もしかせんでもうちの従姉だなぁ〜。と思い、“おい、裕香姉。来るんなら来るで電話でも掛けてくれ。って言うか今日来たのかよ?! 鍵は大家のばあさんか?” と風呂場のほうに向かって言う俺。“け、賢くん?” そう言うが早いかざばっと湯船から立ち上がる音と、がちゃっと風呂場の戸を開ける音が聞こえてくる。脱衣所と台所を繋ぐアコーディオンカーテンもガラガラ開けるとあの5年前の顔のまま、体のほうは5年前よりも出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ5年前よりより一層のグラマラス体型になった従姉が俺のほうに飛び込んでくるわけで…。
「やっぱり賢くんやぁ〜。久しぶりやねぇ〜。元気しとった?」
 などと言いつつ抱きついてくる。細かくは見ていないが下はお局様同様剃ってあるのかつるんとしたのが一瞬見えた。流行ってるのか? そう言うもんが…。と言うか抱きついてくるなぁ〜。ベタベタじゃねーかなどと考えて、“と、とと取りあえず下と上とは何か隠してくれ!!” と言うと、“せっかくの再会やのに…。お姉ちゃん悲しいわぁ〜” などと言いつつ生まれた姿のまま俺の胸とかをつんつんしてくる始末。相変わらずの甘えん坊っぷりに少々苦笑いを浮かべつつ、“だぁ〜、もう! 話は後や! とりあえず何か身につけてーな?!” と田舎の方言が出てしまう。ちょっとの間を置いて、着替えて出てくる裕香姉。その表情は昔のままの垂れ目で童顔なあの頃の顔そのままだった。とマセガキのことを思い出して、ちょっと…と事情を説明すると、さすがは従姉、分かってましたとでも言わんばかりに、“叔母ちゃんちの電話口から叔母ちゃんと賢くんの話が漏れてるの聞こえてたし、あとで叔母ちゃんから話聞かしてもろてるからええよ。ついでに賢くんの会社の女の人とも話がしたいわぁ〜” などと言ってくる。まあこんなダダ甘な、甘えん坊ではあるが保育士の免許もある従姉だから子供の扱い方のほうは慣れてるだろうと思い、マセガキを呼びに行く。隣の奥さんから、“まあ従姉さんですってね。可愛らしい感じの子じゃないの?” と何か分かったようにふふふっと含み笑いをしながらマセガキを呼ぶ。マセガキはちょっとむぅ〜っとむくれた表情で出てくる。“もう、お兄ちゃんは〜っ! 美羽にも言ってくれればいのに〜っ!” と隣りの奥さんから今日のことを聞かされたのかそんなことを言ってはぷぅ〜っと頬を膨らませるマセガキに、“お前に言ったら絶対巨大化して後で大変なことになるだろうがよっ?!” と心の中でツッコミを入れつつ、“あ、後でお菓子でも買ってやるからそれで許してくれ…” などと言いつつ連れ出して自分の部屋に戻る。
 部屋に戻るとパペットマ○ットみたいなウシの指人形を装備した従姉が待っていて裏声で、“美羽ちゃん、こんにちは。ボク、ウシくんって言うんだ。これからしばらくお世話になるよ〜。よろしくね?” と言う。子供の心を掴むことに掛けては実に上手いのがうちの従姉だ。だからマセガキも、“ウシくん、よろしくね?” とウシの指人形のほうに向かって言っているわけで。“ついでにお姉ちゃんもよろしくね?” と裕香姉本人も挨拶をする。ウシの指人形もわさわさ動かしながら言う。“うん、よろしくね。裕香お姉ちゃん” とマセガキはにっこり微笑んでこう言う。お局様だったら絶対対抗意識を燃やしていつものように巨大化してくるのに従姉に関して言うとそれはない。これはラッキーだ。このままここにいる間は裕香姉にマセガキの面倒を見てもらうかな? とか考える俺。マセガキ(大)は相当腹が立っているだろうが出て来られん状態なもんだからどうしようもない。まあ少しは可哀想な気もするが三つ巴になるよりはましだと思った。と、裕香姉が、
「なぁ〜、賢くん。そう言えば叔母ちゃんの家の電話口から叔母ちゃんと賢くんの話し聞いとったんやけど賢くんの会社の女の人と、もう1人可愛い女の子の声せえへんかった?」
 ときょろきょろ辺りを見渡しながらこんなことを言う。い、い、いい〜っ? と吉○新喜劇のギャグみたくなってしまいそうになるが、“い、いやぁ〜。それは多分テレビの音か何かだろ?” とごまかす俺。もっともこんなごまかし方は俺の従姉の場合通じるわけはない。“賢くん! ちゃんとうちに説明して!” とむぅ〜っとした顔を見せる。その顔は田舎にいたときに何度も見て、何度も恐怖した顔だ。この後どう言うお仕置きが待っているのかもフラッシュバックのように蘇ってくる。お仕置きと言う名の介護だったなぁ〜。とにかく甘えん坊なうちの従姉は怒ると俺に身の回りのお世話をさせてくるわけで…。トイレも風呂も着替えも食事も全部俺にやらせるわけだ。それに加えて片道5キロの通学路も負ぶって帰らされるわけで…。じゃあ放っとけばいいじゃないかと言うことになるのだが、放っとくと余計に甘えん坊になってくるので結局こっちのほうが精根尽き果ててしまいやつれた顔を見せにゃならんわけで…。学生時代から上京してくる前までずっとこんな調子だったのでダチとかには、“お〜お〜、何や賢坊。また従姉ちゃんの尻に敷かれとるんか?” などとからかわれたもんだ。とまあこんな感じな従姉であるため、ウソは吐けん。吐くと俺の職場まで乗り込んできそうな感じがする。とは言え、あんな非常識極まりない事象を話して信じてもらえるのか? となるがまあ話しておくべき事柄だろうな? と思いマセガキの巨大化について詳細事項(前にお局様に書き出してもらった巨大化のメカニズム?)も加えて話す俺。俄かには信じられんだろう。俺は未だに信じられんわけだが、聞いていた裕香姉は、
「そうなんや〜。そやから美羽ちゃんの大きくなったときの声が聞こえてたんやねぇ〜?」
 と俺の言ったことを鵜呑みにしてしまった。いや間違ってはいないんだが、何でもかんでも信じ込むのもおかしな話だな? おい。と思って、“今の話、信じるんか?” と訊いてしまう俺。うんと大きく首を縦に振る裕香姉。“やって賢くんの言うたことやもん” と垂れ目な目をもっと垂れ目にしてそう言う。はぁ〜、これだからうちの従姉は…。と思ってるとぐぅ〜っと盛大に腹の虫が鳴った。そういや晩飯がまだだったんだっけ? と思い何か作るかぁ〜っと遊んでいるマセガキと従姉を見遣りつつ男料理を作る俺がいた。…にしても今日はお局様の来訪が遅いな? いつもならこの時刻には来て俺が買っておいたビールなんかをぐびぐびやりながら裸族になるころだって言うのに……。ちょっと心配になってきたぞ? そう思って従姉に料理とマセガキを見てもらって探しに行こうと玄関の戸を開けると同時にゴンッと鈍い衝撃が…。な、何だぁ〜? っと表を見るとあの特徴的なぐるぐる牛乳瓶眼鏡のちんちくりんな姿のお局様が頭を押さえて座り込んでいた。


「あ、あ、あんたと裕香さんの話を聞いてるとチャイムを押すに押せなかったの! 何よ、このお姉ちゃん好き好きのロ○コン男…
 はぁ〜っとデカいため息を一つ。じゃあ何ですか? 帰るときからず〜っと後をつけてきていたと? そう言うことですか? と訊くとしぶしぶながら首を縦に振るお局様。マセガキはこれ以上ないって言うくらい警戒しながら俺の膝の上に座ってここが定位置だと言わんばかりにお局様のほうをぐぐぐぐぐ〜っと上目遣いに睨みつけている。この間うっかり口を滑らせてキスのことを話してしまったのが運の尽き。会社ではまあ仲良くしろと明言しているので仲良しなふりをしているが、帰ってくるとこの通り。お局様に対して一方的な敵愾心を見せてくるマセガキ。それに対して軽く受け流しているお局様はさすがだなぁ〜っとも感じてしまう。裕香姉はそんなマセガキとお局様の顔を交互に見遣りつつ、“それやったらタイムシェアしたらええんちゃうの?” と妥協案を示してくる。“たいむしぇあってなに?” と小首を傾げて言うマセガキに対してよく咀嚼したような分かりやすい言葉を選んで教える裕香姉。説明を終えると、“美羽はそれでいい!” と諸手を上げて大賛成するマセガキ。お局様はと言うと、“何であたしがこんなおっぱいバカなんかと…” とちょっと頬を染めて言う。“まあまあ天乃原さんも…” となだめる様に言う裕香姉。“てんちゃんってばツンデレさんだね? 本当はお兄ちゃんのことが大好きなのにそれを隠してるんだよ?” と普段からの行ないが災いしたのかマセガキから思わぬ反撃を食らう。これにはさすがのお局様も参ったと言う感じで、“わ、分かったわよ。シェアするわよ。すればいいんでしょ? すればっ!!” とトレードマークの牛乳瓶眼鏡をずらして上目遣いに俺の顔を恨めしそうに見遣りつつこう言った。と言うかどんどん話が進められてるが、肝心の俺の意見はどうしたんだ? と思ってそんなことを言ってみるのだが…。
「別にええやん、賢くんやって嫌いやないんやろ? 昔うちと一緒に寝とるときにおっぱいよう触っとったし…なぁ〜あ?」
 そう言ってニコッと笑いながら俺の顔を見つめてくる裕香姉。マセガキとお局様の俺を見る目が非常に痛い。って言うかそんな昔の話を持ち出してくるんじゃねぇ〜っ!! とは言いたいが言うと俺の過去を全部暴露されてしまいそうで非常に恐ろしい。全くこんな従姉を持ってしまった俺はつくづく不幸だなと思う。まあマセガキの巨大化は抑えられているのでこの点に関してだけはありがたいわけだが…。“なぁ〜あ? 賢くん。美羽ちゃんが大きくなったとこ、うち、まだ見てへんねんけど一回見せて〜やぁ〜” などととんでもないことを言ってきやがる。“だ、だめだめっ! 何するか分からんからだめ〜っ!!” と言う俺に、“ええやんかぁ〜。減るもんやなし。それにおっぱいでかい女の子が増えるの賢くん嬉しいんちゃうん?” とマセガキに見せつけるように自分の体を俺の腕にギュ〜ッと抱き寄せてくる。“天乃原さんも手伝うて?” とお局様にも協力を願う裕香姉。散々今までこのしょうもない騒動に巻き込まれてるんだ。そんなお願いが通用するはずが…、と思いきや? ふふふと悪魔のような微笑みを浮かべながら、“そうねぇ〜、あんたには仕事上でいっつも困らされてるわけだしぃ、これくらいしたって罰は当たらないわよね?” などと言いつつ、ふにょんとした感触を俺の体の前面に押し付けてくる。とマセガキの体がピカっと光る。みるみるでっかくなるマセガキの体。お局様か裕香姉に匹敵するくらいの体つきになると、
「ちょっと! 天乃原さん! お兄ちゃんから離れてよ〜っ! それから裕香さんも! シェアするとは言ったけど本来お兄ちゃんはあたしのものなんだから〜っ!」
 とぽにゅっとした関取の丼茶碗みたいな胸を上下左右に揺らしながらぷく〜っと頬をこれでもかと言うくらいに膨らませて俺とお局様の間に割り込んでくるマセガキ(大)。“これが大きくなった美羽ちゃんなんやねぇ〜。何や賢くんの高校時代の好みのタイプそっくりやわ〜” そう言って感嘆のため息を漏らす従姉。“あ、あたしが?” とマセガキ(大)。“そうやよ。賢くんいっつもそない言うとったから…” と微笑みながら俺の高校時代の女の子の好みを話す裕香姉。もちろんこれは正直言って本当のことだ。と言うかどこでそんな情報を仕入れやがった? あいつか、こいつかと思うと思い当たる節が多すぎる。とか考えてると、“何だぁ〜。お兄ちゃんってばあたしのことが好きだったんだぁ〜。それならそうって言ってくれればいいのに〜” っと俺の体に身を預けて指を軽くつんつんしてくるマセガキ(大)。“でもなぁ〜、賢くん、お姉さんタイプも好きや〜言うとったなぁ〜” とお局様と自分にもフォローを入れる。“そやかし、3人で仲良くシェアしたらええやん” とある意味俺の存在を無視して話は進められるわけで…。“ちょちょちょ、ちょっと待て〜っ! 当事者の俺は放ったらかしか〜っ!” と暴れようにもある意味最強で最恐のトリオが誕生してしまったわけで…。逆らうとどんな目に遭わされるか堪ったもんじゃねぇ〜っと思う。とにかく1週間くらいは我慢だ! と思う俺がいた。


 で、あっと言う間に1週間が過ぎて裕香姉がようやく帰る最後の日がやってくる。この1週間は休まる日が1つもなかった。裕香姉が来た翌日などは、あの奥さん連中から、“従姉さんだってねぇ〜。スタイルもよくってまあ真柴くんはいつも来る女の人と従姉さん、どっちが好みなのかしら?” だの、“二股交際って言うのはあまり推奨しないわよ? 決めるんならどちらかにしなきゃ…” だのと好き勝手な妄想を立てて言って来るわけで…。“会社があるんで…” と言って離れようとしても、“あっ、ちょっと! まだ話は終わってないわよ?” と言って放してはもらえず話の中心になってしまって結局遅刻と相成ってまた社長から嫌味なお小言を聞かされる羽目になった。まあ従弟の俺が言うのもおかしな話だが裕香姉は顔は可愛くて性格も甘えん坊と言うことを除いてはほぼ完璧。でスタイルはあんなワガママグラマラスボディーと来たわけだ。もっとも裕香姉の言を借りると、“従弟(俺)が結婚するまで自分は結婚はしない” とのことらしい。そのことで親から、“早う相手見つけて結婚せえ!” なんてプレッシャーを掛けられてるわけだが…。俺が言ってみてもいいんだが、あの性格だから絶対首を縦には振らんことは分かりきっている。
 会社にも突然現れる。俺の働きぶりを見るためだとか何とか言ってるが、俺の親から、“あいつが真面目にしとるかどうか見てきてくれ。真面目にしてへんかったら一発どついてもええから…” なんてことを言われてきたんだろう。真剣そうに見つめてきたり、他の従業員のおばちゃんや社長から根掘り葉掘り俺の勤務態度を聞き出していたりなんかしていた。“まあ頑張ってはくれてるのですけど、遅刻が多いですねぇ〜?” と社長が言う。もっともそうさせているのはあんたの孫娘が原因なんだけどな? と俺は思う。その孫娘であるマセガキはいつものように俺の膝の上に座って手伝っているのか邪魔をしているのか分からんが(まあ手伝ってくれていると思おう)書類を並べ替えたりしているわけで…。
 もっともそれは昼間の話で夜は毎夜毎夜、あれやこれやと命令されたり駄々をこねられたり甘えられたりしてもうボロ雑巾のようにズタボロ状態なわけだが、それも今日で終わるわけでどことなしかほっとした気分になる。とにかくあの3人は混ぜたらダメだと思う。タイムシェアと言うものも実のところ、曖昧だったなぁ〜なんて思う。特に寝るときは…。って言うかお局様は自分の家があるって言うのに毎夜毎夜俺の家にやって来て、裸族でうろうろされるのでこっちは毎日鼻の奥から沸いてくる鉄錆の匂いとの戦いが続いた。その自由度に感化されたのか裕香姉まで裸族になって、それがマセガキ(大)にまで移って…とまあ一種異様な光景が広がっていたわけだが、それも今日終わりを迎える。昨夜はせっかくの従姉との積もる話もあるだろうと言うことで、お局様が気を利かしてくれたんだろう、マセガキをパフェ食べ放題と言う案件で連れ出してくれた。まあ対価はフランス料理のフルコースと言う実にお局様らしい対価だとは思うわけだが…。
「5年前、賢くんが1人で上京するって聞いたときはうち、ごっつい寂しかったんよ? やっぱり家が隣同士ってこともあるんやろな? 朝出掛けるときにも、“もう賢くんおらんねや…” なんて思うと何や寂しなってきて…。うちがどんだけ寂しかったか、分かっとる? 別れる際に言うたこと覚えとる? “賢くんなんか大っ嫌いや〜っ!!” って…。離れてみて分かってんけど、うち、本当は賢くんのこと大好きなんやで。でも賢くんは天乃原さんとか美羽ちゃんとかこっちで基盤築きよるしな…。うちの入る余地はもうなさそうやなぁ〜なんて思たんよ…」
 そう言って俺の体をぎゅっと抱きしめる裕香姉。“まあ明日はもうないから今日だけ面倒見たってや…” と体をぶるぶる言わせながら震える声でこう言う。つくづく俺って言う人間は…。と思う。薄々ながら裕香姉の気持ちは分かっていたはずなのに、一緒になるとその微妙な関係が壊れてしまうと思ったのは事実だ。だから敢えて郷里を離れて関東くんだりまで来たのに、ここでもまた気持ちに答えてやれない。やるせない気持ちが溢れてくる。かと言ってマセガキやお局様のことも気にはなるし、それにもう生活基盤はこっちになってしまっているのも事実だ。だから、“ごめんな?” と言うくらいしかなかった。“何で謝るんよ。賢くん。賢くん1つも悪ないやん。おかしな賢くん。うふ、うふふふふふっ” と俺の胸の中でそう言って笑う裕香姉。不意に裕香姉が顔を上げる。泣き笑いな顔が何故か寂しく見えた。


「たまにはこっちにも顔見せてや? 叔母さん心配しとるからな。それからあんまり天乃原さんや美羽ちゃんに迷惑かけさせんこと! 聞いたんやけど、朝はいっつも美羽ちゃんに起こしてもろとる言うやんか? 仕事中は天乃原さんに訊いてばっかりやったし。とにかく男の子なんやからもうちょっとしっかりせなあかんで? それから…、う、うちがおらんから言うて羽目伸ばしてたらあかんで? あと、これからちょくちょく見に来るからな?」
 と親が子供に言い諭すように大の大人の俺に従姉が言う。このやり取りを聞いてる人はなんて思うだろうか。姉の尻に敷かれている弟に見えるんだろうか。まあ見えるんだろうな? 実際姉と言っても過言ではないんだから。“じゃあ美羽ちゃん、お兄ちゃんのことこれからも頼むわねぇ〜” とマセガキの目線にまで下がって頭をなでながら言う従姉。マセガキは、“任せて〜。お兄ちゃんのことはちゃんと美羽が見ててあげるから!” とぽんと胸を叩く。それからお局様のほうに向き直り、“天乃原さんも賢くんのことよろしゅう頼むわ。賢くん、普段はああやけど実のところものすごい甘えん坊さんやから、多分甘える対象が出来たら甘えてくる〜思うし…” そう言って微笑みかける。そんな裕香姉に、“まあ分かったわ。だけど甘えられるのはどうかと思うわよ? あたしは三十路前の独身女だしね? どうせなら貴女がこっちに引っ越して来たら万事解決するんじゃないかしら?” と俺のほうをちらっと上目遣いで見てこう言う。“ああ、そっか…。そう言う選択枝もあるんやねぇ〜。まあ考えとくわね?” とにっこり微笑んでこう言う。と出発の合図が鳴る。新幹線に乗り込む裕香姉。“じゃあ賢くん、美羽ちゃんや天乃原さんの言うことちゃんと聞いとかなあかんよ?” と微笑む。ドアが閉まるとゆっくりゆっくり新幹線は動き出す。最後何やら言いたげだったが、まあ何かあったらまた電話でもかけてくるだろ…。あの甘えん坊の従姉は…。そう思ってもう行ってしまった新幹線を見ながら思う4月の桜が満開に咲く道をいつも通りマセガキに引っ張られて、お局様からは嫌味なお小言を聞かされつつアパートへと帰る今日である。

END

おまけ

 従姉が帰ってから10日ほどが経ってやれやれと思っていつも通りマセガキを連れて会社へと向かって歩いていると引っ越し業者のトラックがおんぼろアパートの近くの最近できたアパートの端に止まっていた。ああ、新学期だから誰かがまた引っ越してきたんだなぁ〜っと思って俺も最初はああだったっけ? などと考えて会社へと向かう。お局様はいつも通りぐるぐる牛乳瓶眼鏡をかけたまま、“あら、今日も遅かったのね?” とお小言を言いながらPCの画面と睨めっこ状態なわけだが、なぜか嬉しそうだった。“何か嬉しいことでもあったんスか?” と聞いても、“まあね?” と何か物の引っかかるような物言いをする。ほかのおばちゃんたちにも聞いてみるんだが一応に微笑んだままだった。社長は何やら面接とかで今日は来ていない。ヤッホーッ!、いつも嫌味なお小言を言ってくる社長がいないと思ってその場は喜んだわけだが後から考えてみると面接は応接室でやればいいんだし、何も社長直々に行かなくてもいいわけで…。その辺も含めてよく考えるべきだったと後悔しているわけだが、この開放的な空気に満たされてそこまで考えが及ばんかったわけで…。
 で、今日も一仕事終えて帰ろうとマセガキの帰り支度を手伝っている頃にぬっと社長が顔を出して、“今日もお疲れさん。ああ、明日から新入社員が入ることになったんで、真柴くん他みんな、よろしくねぇ〜?” と珍しいほどに労いの言葉をかけてくるわけだ。気持ち悪ぃ〜っとは思ったが、“は、はぁ〜” とあいまいな返事しか返すことが出来なかった。ほかのおばちゃん連中もみんな一応に分かったと言う顔をしていた。こう言うことには一番うるさいお局様でさえ何も言わずこくんと頷くと俺の顔を見てにやりと笑っている。何か俺にだけ伝わってないような気がしたがそこは無頓着な性のある俺だから関係ねーならそれでもいいか?  ってな感じでマセガキの手を引いて帰る。今日の飯は〜、と考えて取りあえず家にあるもんで何か作るか…とおんぼろアパートに到着。いつものようにマセガキを負ぶって一歩一歩階段を上がり部屋の前に到着する。何かいい匂いがするなぁ〜なんて思いながら開けたところが…。いいっ? と言う声しか出んかった。だってそこには。
「あっ、賢くんお帰り〜。今ちょうどご飯が炊けたで〜」
 “いいっ? い、いや、帰ったんやないんか?” と地の言葉が出てしまう。何で裕香姉がここにいる? って言うか…、そのフリフリ新婚さんエプロンはどうしたんだ? と突っ込みどころ満載な格好で給仕をしていた。“何やうちがおったらあかんのかいな?” とちょっとぷぅ〜っと頬を膨らませる裕香姉。“おったらあかんことはないんやけど…。って言うか忘れもんでも取りに来たんか?” と聞く俺に、ふっふ〜んってな顔で、“うち、今年からこっちに住むことにしたからな。そう言うわけやからまあよろしゅう頼むわね?” とのたまう。“いや、説明の意味がよう分からんかった。もう一遍言うてみてくれ” と言う俺に対してさっきと同じことを復唱してきやがる。しかも、このことは俺の親父やお袋や伯父・伯母夫妻や会社の人たちには事前に報告済み…、知らぬは俺とマセガキだけだったわけだ。まあマセガキはお姉ちゃんが出来たと喜んではいる。だが、マセガキ(大)のほうは今頃マセガキの中で警戒しまくっていることだろうが…、ってことは何か? お局様も知ってたってことか? と聞くと、“うん。そうやよ〜。最初に相談したん天乃原さんやったからねぇ〜?” と裕香姉。あンのぐるぐる牛乳瓶眼鏡女は〜っ!! あの笑いはそう言う意味だったのかぁ〜っ!! とは思ったがあの人に逆らって勝てた記憶は一切なし。とほほほほ…。とこれから間違いなく起こりえるであろう三つ巴の争いに巻き込まれてあわあわ慌てふためく自分の姿が目に見えてがくりと手をついて絵文字の失意前屈型のようになってしまう俺がいたのだった。ちなみに今朝見かけた引っ越し業者こそが従姉の頼んだ引っ越し業者だったらしく、従姉は部屋であれやこれやと荷解きをしていたらしい。どちらにしてもこれまでの地獄の日々がパワーアップしてくるわけで。寺があったら本気で出家でもしたいと考える桜も満開から散り始めな今日である。

TRUE END?