アパート建て替えで家なき子?


 突然だが、えらいことになった。まあ毎回えらいことにはなっているので少々のことには驚かんし、それにどちらかと言うといいことではあるんだが、少しばかり大変でもあるわけで、今は家なき子状態であっちこっちと宿を転々とする毎日を送っている。と言うのも長年と言うか上京してきて不動産屋のオッサンに格安物件で紹介されたおんぼろアパートにとうとうがたが来たらしく、建て替えをすると言う旨の張り紙が3ヶ月前の寒い日の朝、マセガキに手を引っ張られながら会社に向かう途中アパートの掲示板に張り出されていたわけだ。まあ築50年くらい経っているかのような感じなもんだからこう言う日がいつかは来るんだろうとは思っていたのだが、何で今頃? と言うことになる。
 で、今は一回更地にして建て直し中なわけだ。今日も実は会社に行く途中で見て来たんだが、おおよそ外観はほぼ完成に近い。ボロっちい感じの家も建て替えてみると立派になるもんだ…。と心から思う。これで家賃が据え置きだったらどんなに幸せだったことだろうかとも思うんだが、約1万ほど上がるらしい。まあ男の独り暮らしで1万ほど上がったところでどうって言うことはない。むしろ家が新築同様になると言うことで嬉しい気分になるわけで…。
 昨今巷では変なウイルスが流行の兆しを見せていてどこもかしこも自粛自粛な感じで、それは俺の勤めるボロっちい旅行代理店にまで及んでいて旅行を企画しようにもどこにも行けないと言う一種の八方塞がりな感じになってしまっているわけで。この分だといつ倒産するかもわかったもんじゃねぇ〜とは思うんだが、なかなかしぶとく生き残っている。じゃあ何で生き残っているのかと言うことなんだが、それは去年新入社員として入ってきたお局様の妹ちゃんの発案が主だったわけで。“遠くに行こうとするからダメなんです。こう言う時はなるべく近場近場で攻めなくては…” と言うことでなるべく近場で行ける日帰り旅行と言う企画を持ってきたわけだが、これが思いの外盛況で狸顔の社長も、“さすがは恵ちゃんの妹さんだぁ〜。おかげでこの間の売り上げはほかのところと比べて大分いいよ? どこかの誰かさんも見習ってほしいよねぇ〜?” と称賛の声を出しつつ、俺のほうをちらっと見るわけで…。
 まま妹ちゃんが入って来てからやっと俺も後輩が出来たか〜っと喜んでいたわけだが、この後輩がすごく出来る子で俺よかいっぱい仕事を任せられる存在になってしまって俺は自然と窓際族っぽくなってしまった。まあそんな俺の唯一の味方と言うのは毎夜毎夜お騒がせな感じの社長の孫娘であるマセガキであることは言うまでもなく。と言うかもうすぐ小学校入学の時期だって言うのに妙に慌ててないよな? ってマセガキはお受験だったか? なんて思いつつ社長のほうを見ていると隣りの席からついついっと肘が当たる。当てた相手は当然、ぐるぐる牛乳瓶眼鏡のお局様。顔を見ると、“遊んでないでちゃんと仕事をしなさいよ…” と言う感じだ。“へいへい、分っかりましたよ〜” と事務書類に目を通していく。
 ここでいつもならお局様のほうをぐぐぐっと怖い目? をして睨みながら俺の膝に尻をめり込ませるように座って手伝っているのか邪魔をしているのか分からん行動に出るマセガキは前述にも述べた通り社長の息子夫婦とお受験に出かけていてここにはいない。まああれだけマセていて勉強もしっかり出来たらどこでも合格間違いなしだろうぜ…と思いながらいつもの賑やかしさがウソのようにし〜んとなっている社屋を見る。今まで相手してたやつがいなくなると寂しいもんだよな? と思ってると、でん! とでかい尻が俺の膝にのしかかる。な、何だぁ〜? と思ってPCの画面からいったん目を離して見てみると、桃のような尻が膝の上にあった。って言うか、妹ちゃん? これは何? と聞くところが、
「いっつも美羽ちゃんばっかり乗っかって甘やかしてるのに、ボクには全然甘やかしてくれないんですもん。先輩は〜…。だから今日くらいはいいですよね〜?」
 と言う妹ちゃん。“いっ?、いや、妹ちゃん? ここ会社だよ? もう少ししっかりしてくれなきゃ” と言うと、“はぁ〜い。お姉ちゃんが怖い顔して睨んでますんでボクは失礼しますね? でも先輩! そろそろ“薫”って名前で呼んでくださいよ…” と、からかい半分拗ねた顔半分と言う感じにそんなことを言うと自分の席へ戻る。“まったく…、3年前に卒業したって言うのに大学生気分がまだまだ抜けきれてないんだから…” とはお局様の談だが、俺も入社1年目の頃はあんなだったよなぁ〜っと妙に懐かしく感じることが多くなった。まあそれだけここに馴染んできている証拠と言うとそうなのかも知れないが。


 さて、今日も仕事は終わったか〜っと、う〜んと伸びを一つ。肩をコキコキ言わせながら今日の住む宿を探さないといけない。いつもうるさい奥さん連中は旦那さんの実家とか自分の実家に帰省しているので、唯一ここで独身である俺だけがこうして宿探しをしている。もっとも、従姉の裕香姉がすぐ近くのアパートに住んでいるため、そこを利用させてもらうことが多いわけだが、今日は何やら幼稚園のほうの会議があるらしく、夜遅くなるとのことらしい。まあ例のウイルス以降こうやって会議とかが多くあって教育関係は特に大変だよなぁ〜っと思う。と2年前だったかどうだったかその辺は忘れてしまったが、一応裕香姉も俺の会社に入社してきたんだが…、やっぱり畠が違いすぎたもんですぐに辞めて今の幼稚園の教諭職に就いた。まあそっちのほうが俺からしてもいいもんだと思うし、本人も、“得手不得手はあるもんやねぇ〜” と当時を振り返ってそんなことを言っている。社長は残念そうだった記憶があるんだがな? それも去年で払拭できた格好になるのか?…。と思った。
「どうせやったら天乃原さんとこに泊めてもろたら? 美羽ちゃんもおらんのやからチャンスやん?」
 と今朝ぽやや〜んとしたいつもの顔の裕香姉に朝飯を食いながらそんなことを言われたんだが、そんなもんはこっちから願い下げだ! と思う。って言うか何がチャンスなんだ? とも考える。そもそもだ。何が悲しゅうてあんな親父クサい女の世話にならにゃならんのか? …まあ身体のほうは背だけ高ければドストライクだし、料理は上手いし性格も嫌味なお小言を言う以外は結構好みなほうなんだがなぁ〜っと思う。ともかくあんな親父みたいな女は…と思って去年のことを思い出す。そう去年、初めてお局様の実家に行って妹ちゃんに聞かされた話は衝撃的だった。まああんな過去があってこんな飄々とした雰囲気になったのかと思うと正直いたたまれない気分になったのは事実なんだが、当の本人はあっけらかんとした感じに日々を過ごしているわけで…。まあ過去は過去だしな。そう思って今日の寝床のカプセルホテルの空き状況をスマホで調べていると…。
「ほらほらあんた、何やってるの? 飲みに行くわよ。ついてらっしゃい!」
 とお局様の声と、“わぁ〜、先輩と飲みに行けるんですねぇ〜? ボク、夢だったんです。こうやって男の先輩と飲みに行くの…” と妹ちゃんの華やいだ声が聞こえるんだが…、“俺、これからホテルの予約しないといけないんス。だから飲みには…” と手を横に振って言うと、妹ちゃんの顔が急に暗くなる。“え〜っ? そんなの後でいいじゃないですか〜” と言って俺の腕を引っ張る妹ちゃん。まるでマセガキがもう1人いるようだな? そう思って、“そうは言ってもだな?” と言うと、途端に悲しそうな顔になると秋田弁でこう言う。
「東京さ出で来て先輩に飲みに誘ってもらえるのすごく楽しみにしでたのにな…」
 方言で言うな方言で! 訛りが強いせいかてんで分かりゃしねぇし…。それに、秋田弁には何か親近感と言うか愛着と言うか可愛らしさみたいなものを感じてしまっているものなので、反論も出来なくなっちまう。去年のお局様如何こっち純朴な感じがしてならんわけだが、こんなことを毎回毎回聞かされる地元の人間はそりゃ堪ったもんではないだろう。まあ向こうの人間が京言葉に憧れるのと同じ感覚なんだろうけども…。
 そう考えつつ妹ちゃんの顔を見ると、ぷく〜っと頬を膨らませて上目遣いにこっちを見つめている。その顔がマセガキのいつもの顔にそっくりで思わずぷっと失笑してしまった。と、“何どご笑ってるんだス? おら、今ひでぐ怒ってるんだべ?” とこう言うと更にむむむむむむ〜っと頬をこれでもかって言うくらい膨らませる妹ちゃん。そんな俺たちの問答を聞いていたお局様ははぁ〜っとため息をつくと、“薫、あんたもこいつの扱い方ちゃんと覚えておくこと!” と言って俺の腕に自分の体を密着させてくるわけで…。当然柔らかい部分も相当に押し付けられるので、思わずびくんとなってしまう。“そうなんだ〜。じぁあおらも” と妹ちゃんまでもお局様の真似をしてぎゅむっとお局様に勝るとも劣らない胸をあいた腕に引っ付けてくるわけで…。うひっ! となってしまう。とにもかくにも何だかロズウェル事件の捕まった宇宙人のような感じにいつもの飲み屋に連れて行かれてしまう俺がいたのだった。


「おっ、今日はてんちゃんと彼氏さんも一緒かい? で? そっちの女の子は誰だい? って言うか、いつものてんちゃんと彼氏さんの子供は今日は一緒じゃないのかい?」
 と場末の行きつけの飲み屋のおやっさんに冗談めいたことを言われる。“何言ったら分かるんですか? あたしは独身ですっ! こっちはあたしの妹です。去年上京してきたんですよ。美羽ちゃんは小学校の受験です。…そ、それに何でこんなおっぱいバカなんかと結び付けたがるんです? 全く…。ぶつぶつ…”  と不機嫌そうにぶつぶつ文句を言うと絡めた腕もそのままにペしっと俺の頭を軽く叩いてくる。着ていたコートを脱いでカウンターに座るお局様。俺たちうもそうする。“姉がお世話になってます。ボク、…い、いや、私、妹の薫です。昨年からこっちに来ました。よろしくお願いします。でもいい感じのお店ですね? ここ” とおやっさんに少々恥じらいながらも自己紹介をする妹ちゃん。
 おやっさんを見る。“て、てんちゃんの妹さんかい? ご丁寧にありがとよ。しっかし姉妹揃って似てるもんだねぇ〜。まあ上京祝いだ。今日はこっちのおごりってこってじゃんじゃん注文してくんな” と言いながらお局様と妹ちゃんの顔を見比べるおやっさん。ぐるぐる牛乳瓶眼鏡がなかったらほぼどっちがどっちだと言う感じで似ている。“俺もなんスよね〜” と会話に参加してみる。お局様は、“そ、そりゃあ姉妹なんだから似てるのは当たり前でしょ?” と言う。“まあそりゃそうだ” とおやっさんも豪快に笑いながら熱燗をお猪口に注いで俺たちに勧めた。妹ちゃんは日本酒よりビールのほうがいいということなのでビールをとくとく注ぐ。相変わらず、波のない水面のように静々と飲み食べるお局様に対し、おやっさんと話をしながらモリモリ食べたり飲んだりする妹ちゃん。その対比がものすごく滑稽に思える。俺も会話に加わって、いろいろ話した。東京五輪から始まって、例のコ○ナの話題になったり、芸能の話題になったりして話していて面白い。横ではお局様が聞き流すように1人飲んでいる。あれやこれや話していると、おやっさんが、
「しっかし、てんちゃんに妹さんがいたなんてねぇ〜。さっきも言ったが顔が似てるからパッと見どっちがどっちか分かんねぇや。ははは…」
 それは俺も思った。と妹ちゃんが、“わ、私なんかお姉ちゃんと比べると月とすっぽんですよ〜。またまた〜” とか言ってにっこり微笑む。とお局様が、“そ、そりゃ姉と妹なんだから似てて当たり前でしょ? まったく〜。って言うかおやっさん。おやっさんまで程度がこいつと同じになっちゃったわけ?” とツッコミを入れている。背は少し妹ちゃんのほうが高いが顔も似てるし、あのボンキュッボンな体型はそっくりそのままな感じがする。強いて言うなら性格かな? と思うんだが、俺自身は妹ちゃんの性格はすべて分かっているわけじゃない。ただ言えることはお局様と似たり寄ったりかな…と思う。うん。
 その最たるものが、俺のボロ家に来て裸族になってうろうろうろついたり、秘蔵本を物珍しそうに眺めていたりするわけで…。裕香姉はにっこりして微笑ましそうに見てるし、マセガキはマセガキで、“てんちゃんの妹ちゃん” と言ってどう言うわけか懐いてしまっているわけで…。でかいほうのマセガキに聞いてみると、“天乃原さんは天乃原さんで、薫さんは薫さんだもん。でもお兄ちゃんはあたしのものなんだからそこだけは譲らないんだからね?” と言ってぎゅ〜っとたわわに実った果実を俺の体に押し付けてくる。まあ妹ちゃんにもこの不可思議極まりない現象を見てもらったわけだが、“不思議な現象ですねぇ〜。でも先輩? 恥ずかしいとか言ってる割には逃げたりしませんよね。実のところは嬉しさ半分だったり?” と言って裕香姉が何か良からぬ思案をしているときのようににんまり笑いながら言うわけで。何でこうも俺の周りには一癖も二癖もあるような女ばっかり集まるんだ? と頭を抱えること数千回な今日この頃。あのつまらん日々が妙に懐かしく思えるようにもなって久しいわけだが、今日の宿のことをすっかり忘れていた。とばかりにスマホの宿情報でカプセルホテルを探し始めるんだが、運悪く? ほろ酔い気分な妹ちゃんに見つかってしまうわけで…。
「ああっ! 先輩ってばまた宿探ししてる〜っ!! もう、そんなにボクたちと飲むの嫌なんですか〜?」
 と言って少々上気した頬をぷぅ〜っと膨らませて上目遣いに見つめてくるわけで…。い、嫌じゃない、と言うかむしろ楽しいわけだが、俺にだって都合と言うものがあってだな? と言うと途端に涙目になってくる妹ちゃん。“た、助けてくださいッス〜” と隣りで飲んでるお局様に言うところが、ぷいっと横を向いてお猪口に自分で注いで飲んでいる。“宿探ししてるんだったらお姉ちゃんの家にでも泊めてもらえばいいじゃないですか〜。ボクも一応居候してる身ですし先輩が一緒してくれると何かと心強いですぅ〜” ととんでもないことをさらっと言ってくる妹ちゃん。思わず食べていたカラスミをぶふぅ〜っ! と吹き出しそうになるがすんでのところで堪えた。まあ姉妹揃って言うことは同じだな。とか考えてると今までぷいっと横を向いて飲んでいたお局様が、“これ食べ終わったらそろそろ帰るわよ?” と今食ってるえいヒレの炙りを見せながら言った。“え〜っ、もう少しいいでねが?” と妹ちゃんがちょっと不満そうに秋田弁で言う。
 とお局様が、“薫、ちょっとこっちさ…” と妹ちゃんを呼んで何やら耳打ちしていたが、またどうせ、“あいつは不能だから…” とか下らんことを吹聴してるんだろうと思い1人ちびちびやってると、急に上機嫌になった妹ちゃんに酌をされる。またお局様が何か俺の秘密と言うか性癖と言うかそう言うウソもへったくれもないことをあたかも真実と言うふうに言ったんだろう。はぁ〜、さっきも思ったが何で俺の周りにゃこうも一癖も二癖もあるような女ばかり集まってくるんだ? と思うとやるせなくなってくる。酒でも飲んで忘れちまおう。とお猪口に一献、もう一献と呷った。
 ほろ酔い気分になりそろそろお開きになる。一応おやっさんのおごりとなっていたんだが、それじゃあまりに飲み食いしすぎたと言うわけで結局支払うことにした。おやっさんは、“別にいいんだぜ? 今回はこっちが勝手にやっちまったんだし…” とは言っているが、おやっさんには普段から俺たちの愚痴なんかを聞いてもらってる手前、払わずにはいられない。とは言え給料日前と言うことで割り勘でと言うと、“はぁ〜、これだから女にモテないのね?” とやれやれと言ういつものポーズで言うお局様。ええい、こっちは今宿無しで金欠状態なんだ! と思って一言文句でも言ってやろうかと言おうとした刹那、すっと金が出される。出された先を見るとぐるぐる牛乳瓶眼鏡のお局様。一瞬ほへっとした顔になった俺に対し、“貸しよ、貸し…。とは言ってもすぐに返してもらうんだけど…” とありがたいお言葉が返ってくる。
 しかし後のほうでごにょごにょ言っていて何を言っているのか上手く聞き取れなかったわけだが、聞き取っておけばと後悔するも遅し…。万年金欠症の俺にとってはまさに天国だ〜っとばかりにおやっさんの店を出る。さあ今日の寝床を…とスマホを取り出そうとしてふにょんと柔らかい感触が腕に当たる。な、何だ〜っと思って当たったほうを見ると、悪いことを考えてるときのような顔をして、うふふと怪しく笑いながらさらにふにふに柔らかいものを押し付けてくるお局様。“な、何やっとるんどすか?” と思わず京言葉が出てしまうわけだが、そんなことはお構いなしでお局様はこう言った。
「あら? さっき“貸し” って言ったでしょ? それを返してもらうのよ。何か悪い?」
 いや貸しとは言ったが…、って! さっきごにょごにょ言ってたのはこれだったのか〜っ!! と思うもののもう時すでに遅し、妹ちゃんも気がついたらしく、また夕方みたくロズウェル事件の捕まった宇宙人のような感じに今度はお局様の家に連れて行かされてしまう俺がいたのだった。


「ちょっと散らかっちゃってるけど、さあ入っちゃって…」
 と鍵を開けて俺を中に通すお局様。妹ちゃんも、“ボクの荷物で汚れちゃってますけど、どうぞ” と後を押す。靴を脱いで中へ入る俺。部屋の中は散らかってると言うと全然そんなことはなくきれいに整理整頓されていてさすがはお局様と呼ぶに相応しい感じがした。って! もう脱いでるのかよっ! と思うくらいの速さで服を脱ぎ始めるこの姉妹。って言うか妹ちゃん! そんなどことも知れない男に生まれたままの姿を見られて恥ずかしくないの? と顔を背けながら訊ねると、
「先輩、何言ってるんですか? 秋田で一回見たでしょ〜。忘れっぽいですねぇ〜」
 とえへへと微笑みながら言う。そう言われればそうだったような? でも何の惜しげもなく生まれたままの姿になるなんざ妹ちゃんは間違いなくお局様の妹だな? と思った。で、完全体になった2人はと言うと、さっきあれだけ飲んだのにまた酒を飲みだすわけで…。ただ違うところはお局様は、酔うとされているビールを、妹ちゃんは日本酒と言うようにおやっさんの店とは真逆なような感じだ。俺にもどっちがいいのか聴いてくるので、取りあえずビールを注文する。妹ちゃんのちょっと恨めしそうに見遣る目が印象的だった。
 …で、結果は見るからに明らかで。と言うより、客の俺が何で気をつかわにゃならんのだ? と思うくらいぐでんぐでんに酔っぱらって絡んでくるわ、ボンキュッボンな体型をフル活用して俺に迫ってきて、あと一歩で童貞を奪われるところまで行ったことはとても他人には言えん。と言うか妹ちゃん、酒の酔い方はお局様と真逆だったんだね? とお局様と同じベッドまで抱いて行き寝かせる。抱くときにあっちこっち柔らかい部分が当たって思わず鼻の奥から鉄錆の味が来てしまい悶絶したが、やっと落ち着ける。とばかりにソファの上に座る俺。酒に酔うどころかあの2人に酔わされた格好だな? と残っていた日本酒でちびちびやってると、
「眠れないんですか? 先輩…」
 と寝室からひょこっと顔を出してこんなことを言ってくる相手は妹ちゃん。俺は“ああ…” とだけ答える。“ちょっと待っててくださいね?” と言うとパジャマを着ているんだろうがさごそと音がする。お局様は基本寝るときは生まれたままの姿なのは何度もうちに泊まりに来て知っているのでここでも構わず生まれたままの姿なのは言うに難い。そうこうしているうちにだぼっとしたパジャマを来た妹ちゃんが出てくる。やっぱり面と向かって見るとお局様に似ていて可愛い顔をしてるよなぁ〜。これで彼氏がいないなんて信じられん。なんて考えてると、
「実はボク、男性恐怖症だったんです…」
 と突然カミングアウトしてくる。“ボクが小学生の頃でした。いつも通り学校から帰って来る途中で知らない男性に襲われたんです。声も出ないくらいの恐怖はあのことを言うんですね? とても恐怖でした。幸い行為に及ぶ前に通りすがりの人が見つけてくれてその男性は御用となったんですけど…” と当時の恐怖を思い出したかのようにぶるぶると妹ちゃんの体は震えだす。“それ以来男の人が怖くて怖くて仕方なかった。‘ボク’ なんて言う男の子みたいな一人称で喋るようになったのもそのときの後遺症みたいなもので…” と言いながら自虐的に微笑む。姉は姉で恋人を失う、妹は妹で知らない男に襲われる。何でこうも世界と言うやつは理不尽なのか…。と思う。“…でも” と妹ちゃんは話しを続けた。
「そんなボクを変えてくれた人がいたんです。その人こそ、お姉ちゃんの彼氏さんでした。とにかく明るくて優しい人でした。お葬式の時、お姉ちゃんが彼氏さんの棺に縋りついて泣いていたあの時、本当はボクもそうしたかった。今思うんですけど、ボクも彼氏さんのことが好きだったのかも知れません。その人にどことなしか先輩、似てるんですよね? も、もちろん顔とか仕草とかが似てるわけじゃないですよ? …でもそこにいるって言う存在感と言うか雰囲気と言うか安心感と言うか、そう言うものはそっくりなんですよね…」
 話し終えると寂しそうに微笑む妹ちゃん。“先輩には何の関係もないことですけど、ボクたち姉妹が彼氏さんにどれだけお世話になってまた依存していたのか…、先輩にはちゃんと話しておきたくて…” と言う妹ちゃんの顔には涙がぽろりと落ちていた。俺にはどうすることも出来ないが、敢えて出来るとするならば、と手をいっぱいに広げて見せる。と妹ちゃんが俺の胸に飛び込んできた。姉妹揃って同じ感じになってしまってデジャヴ感がものすごくあるんだが、まあ俺は男だしな? と思い泣いてるマセガキにいつもするみたいにぽんぽんと妹ちゃんの背中を軽く叩いてやる。妹ちゃんは声に出さず静かに泣いた。今までの恐怖や悲しみを乗り越えるかの如く…。
 何分間くらいそうしていただろうか、気がつくとすぅすぅと規則正しい寝息が聞こえてくる。見れば寝入っている妹ちゃんの顔があった。そっとお姫様抱っこのように抱くと寝室まで運ぶ俺。よっとベッドに寝かせると、横で寝ていたはずのお局様に、“ありがと…” と優しそうな笑顔で言われる。“お、起きてたんスか?” と言うと、し〜っと人差し指を口の前に持ってきてウインクを1つされた。ま、まあ何もやましいことはしていない…はず、と言い聞かせてソファに横になる俺。最前の疲れからか目を瞑るとそのまま夢の中だった。


 明くる朝、やけに寒くて目が覚める。と同時にパンツ一丁にされていてその牙城でさえ奪われかねない状況に陥っていた。って言うか寝込みを襲うな寝込みを!! と言うといつもの飄々とした顔で、“別にいいじゃないのよ〜。あたしたちの裸を毎日見てるんだし…” とこう言ってくる人はやっぱりお局様。にしても家にいるときは…、その…、やっぱり裸族なんだな? とちらっと見てばっと目を逸らす俺。と妹ちゃんはと見ると昨夜のパジャマ姿の妹ちゃんが朝飯を作っている最中だった。“あっ、先輩。おはようございますぅ〜。ご飯でよかったですか?” と茶碗にご飯をよそいながらにこっと笑ってこういう。まあ俺は朝は忙しくないときはご飯派なわけだから別に問題はない。マセガキにも朝は栄養のあるもんを食べさせようとご飯にしてるわけだし。
 まあマセガキは好き嫌いはないのだがテレビを見たがる癖がある。なのでうちじゃあ朝はテレビがよくついているんだが、お局様の家はそう言うことはないんだな? と思いつつ出された朝食に箸をつけた。姉妹揃って料理は完璧だな? と思うくらい美味い。これならばいつ嫁に出しても恥ずかしくはない! とか考えてると、“そ、ンだが? じぁあ先輩のお嫁さんにでもなれるかな? えへへっ” とエプロン姿の妹ちゃんが照れ臭そうに笑う。と、いつの間に着替えて来たのか、いつもの仕事着のスーツ姿のお局様が、“ちょっと薫! それ本気で言ってるの? こんた甲斐性無しのおっぱいバカなんかと? お姉ちゃん認めませんよ!” と俺の頭をぺしっと叩くと牛乳瓶眼鏡上からでも分かるくらいに俺の顔を睨んでいるわけで。
…あ、あたしや美羽ちゃんや裕香さんだけじゃなくって薫にまで要らない気を持たせちゃうなんて、何て罪作りな男なのかしらこの男は…。もう!
 とか何とか言っていたが、ぶつぶつ小声で言っていたので何を喋っているのかさっぱり分からん。そうこうしてるちに出社時刻に迫る。さっさと準備をさせられて俺だけ先に出された。曰く、“あんたと一緒に行っててもし他の従業員の人たちに見つかりでもしなさいよ? あ、あたしとあんたが、そ、その…、こ、恋人同士に見られるでしょ?” と耳まで真っ赤にしながらそう言う。た、確かに…。それに今はいないが俺にとっては一番の懸案であるマセガキもいるんだ。どこで変な噂を立てられてマセガキに伝わるか堪ったもんじゃねえ…。と思ってこそこそとお局様のマンションを後にする。取り合えず裕香姉のところに戻って着替えをしよう。と思って歩く。建て替え中の自宅を見ると外観は完成してるな? と思うくらいきれいな建物に生まれ変わっていた。あとは内装だけだから1週間ぐらいで出来るだろう。そう考えながら現在の俺の居候先である? 裕香姉のアパートに戻る道。近くの公園の桜は満開から散り始めの様相ないつもの年より早い桜の道を通る3月も終わりな今日この頃である。

END

おまけ

 4月になった。まあどこもかしこも新入生やら新入社員やらで町は活気づくわけだが、今年は例のコ○ナの影響からか閑散としている。そんな中でもやっぱり新入生と言うのは嬉しいのかマセガキは新しくなった家で飛んだり跳ねたりを繰り返している。そういやこいつのお受験についてのことを昨日か、社長に聞かされて愕然となったわけだが、どうやらマセガキは海外の学校(と言うか絶対アメリカさんの学校だろうな?)を受験したらしく見事に合格したらしい。
 まあ最近やけに英語のテレビを見てるなぁ〜っとは思っていたのだが、要はこのお受験のために見てたんだなぁ〜っと思った。それだけならまだいいのだが…、学校は通信制のため授業は家のPCから行なうらしく、当然のことながら四六時中俺と一緒と言うことになってしまうわけで…。な、何じゃこりゃ〜っ!! と某刑事ドラマの殉職刑事のように叫びそうになってしまった。しかもそれを言い出したのは今、俺の膝の上で算数の勉強をしているマセガキだったりするわけだ。何で普通の学校に行かなかったんだ? と問うと、
「お兄ちゃんってばあたしがいないと何も出来ないじゃないのさ〜。それにてんちゃんも最近お兄ちゃんのことを好きそうに見てるし…。あたしが将来のお兄ちゃんのお嫁さんだって決まってるのに〜。むぅ〜っ!」
 と少々むくれながらそんなことを言う。まあお局様が間違ってビールを飲んで酔っ払って家に運んできた時にちょうど胸が俺の手に触れていたんだろう。ウ○トラマンのカラータイマーのようにピコピコ鳴り始めてボンキュッボンな体型にでかくなったマセガキと一悶着あったりしたわけだが、その時にも聞いてみたところが、“元来お兄ちゃんはあたしって言う将来を誓い合った恋人がいるって言うのに天乃原さんなんかに鼻を伸ばしてるんだからっ! もうっ!! って言うかは〜な〜れ〜て〜よ〜っ!!” と頬を極限にまで膨らませて上目遣いのちょっと怒ったような目でこんなことを言いながらぼいんばいんと形のいいモノを揺らしながらひっぺ返しに掛かっていた。
 で、お局様が帰った後、“何でお兄ちゃんはいつもいつもいっつも天乃原さんと一緒にいるわけ? 将来のお嫁さんなこんなに可愛くてえっちな身体をしたあたしがそばにいるって言うのに〜っ!!” とさっきと同じ顔をして見つめてくるんだが、お前がそんな顔をしたって怖くもなんともないわいっ! とばかりに軽くデコピンを一発お見舞いしてやると、デコに手をやりながらもう泣きべそをかいてやがるし。何と言う猪口才なやつなんだ? と思うと同時にこれがこいつなんだよな? とも思う。とにもかくにもだ、いつぞやかの辻占い師に言われた女難の相は当分の間続きそうだな? と思いつつマセガキを寝かしつけて横になる俺。まあそれだけならまだ良かったわけだが…、
 あくる日、ちょうど休みと言うこともあってマセガキとゴロゴロと過ごしていたわけだが、右隣りの空き室に誰かが引っ越して来たらしくガタゴトと音がしていた。ちなみに例の奥さん連中は1階を選んだので2階はまだ俺1人だけなんだが、ようやく誰かが入ってくるんだな? そう思う。まあ前の家なら壁が薄いので生活音が聞きたくなくても聞こえてくるわけだが、家が新しくなってプライバシーに配慮したのかそう言う政令が出来たのか知らんが生活音は一切聞こえてこなくなったわけだ。朝、家を出るときにいつもいる奥さん連中はなんだか寂しそうだが、俺にとっちゃあ今まで好き勝手に妄想されていた部分とかがあったので天国この上ない。…だからか油断をしていたのだが、そんな俺の一瞬の油断がデンジャラスな方向に向かって一直線に向かっていく? わけで…。
 夕方、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴る。はいはい出ますよ〜っと思って出てみたところが、“いっ? 妹ちゃん?” と驚いた。そう! そこにはお局様の妹ちゃんがにっこり微笑みながら俺の顔を見つめている。と隣りを見れば…、俺の天敵であり、まあ何かと頼りになるお局様が腕組みしながら立っている。マセガキは俺の背中によじ登ってお局様のほうをぐぐぐぐっと睨んでるんであろう。声に出して“ぐぐぐぐっ…” と言っているわけだ。と言うか何で妹ちゃんが? と俺の頭の中の疑問符に答えるかのように、慇懃にお辞儀をしながら妹ちゃんはこう言った。
「今度隣りに引っ越してきました天乃原薫です。どうぞよろしくお願いしますね〜? お兄さん(はぁと)」
 と…。一瞬ほへっとなってもう一度問い質してみるもやっぱり同じ答えが返ってくる。“そう言うわけだから、あんた! しっかり妹のこと守りなさいよ? でも変なことはやったらダメなんだかんねっ? あと、あたしもこれからちょくちょく泊りに来るからそのつもりで…” と横からいつもの牛乳瓶眼鏡のお局様がこう言ってふふふっと含み笑いをした後、“…ところで〜、今日は朝から結構どたばたやってたのに全然見に来ようとしないってどう言うことなの? 普通は見に来るものでしょ?” と言って問い詰める。“日頃の疲れが溜ってまして…” と口から出任せを言う俺に、“えっ? でもお兄ちゃん、‘朝からうるせぇなぁ〜’ って言ってたじゃないのさ〜” と無邪気がそうしたのかその奥に潜む邪気が言わしめたのかは知らんがそう言って俺を窮地へとさらに追い詰めるような言動をするマセガキ。“ほほう、つまりあんたはこんなか弱い女性2人を無視して1人お気楽に過ごしてたと…。こう言うわけね?” と言うと、ぐるぐる牛乳瓶眼鏡がギラリと光っ高と思ったら…。
「今日はあんたのおごりで寄せ鍋に引っ越しそばにケーキ! もちろん寄せ鍋は豪華な魚、そうねぇ〜、クエとかいいんじゃないかしら? や肉も神戸牛とかブランド牛でいいわよね? そんな感じのオンパレードでぇ〜、引っ越しそばは本場の信州更科そばで、ケーキはもちろんバイキングで。これにするわよ。いいわよね? あっ、不可は言わせないわよ? さあ着替えてらっしゃい!」
 ととんでもねぇ〜要求を出してくる。断ろうにもお局様のとなりで捨てられた子犬のような目でこっちをうううっとうるうるさせて見つめてくる妹ちゃんの顔があってとても断り切れない感じだ。さらにはお局様が呼んだのか裕香姉まで参戦してきて、“ここは男の見せ所やで、賢くん” と真剣な表情でこう言ってくる始末。何でこうも俺の周りにゃまともなやつはいないのか…と悔し涙を心の中でちょちょ切らせながら4人の女(まあ1人はまだガキなわけだが…)に弄ばれる今日この頃、こんなここ数日である。がくり…。

TRUE END?