美人外国人さんがやってきた その3

実家に帰る男とそれに同伴する乙女たち、そしてその乙女たちに翻弄させられる男の叫び


 ♪ 恋人はサンタクロース背の高いサンタクロース ♪ と言う歌の歌詞にもあるようにイルミネーションがきれいに飾られてどこもかしこもクリスマスソングが流されているような感じな季節も終わり、落ち着いてきた今日この頃。と言うかもう年末の時期なんだけどな? 木枯らしもぴゅーぴゅー吹いていて寒くて朝はなかなか布団から出られず、マセガキや楓佳やアンナのボディープレスを毎日のように食らってようやくお目覚めな日々がここのところ続いている。まあ俺の家ではいつもの通り、風呂上がりの裸族の女どもが暖房のついた部屋であっちをうろうろ、こっちをうろうろと半ば俺を蛇の生殺し状態にしてくれやがる日々が日常だ。今年でエレメンタリースクール3年生になったマセガキ(アメリカさんの学校では9月が新学期なんだそうで…ってこれは俺も知ってたんだが)に、“そろそろ若夫婦のところに戻ったらどうだ?” と言うと、首をぶんぶん横に振って、“ここがあたしの家なんだから今更あんな知らない家に戻ってもどうしようもない” 的なことを言われた。そういやこいつを預かって、かれこれもう6年以上も経つんだなぁ〜っと感慨深げに思う。諺にもある、“遠くの親戚より近くの他人” のように親戚(と言うか肉親なんだが…)より赤の他人の俺のほうがしっくりくるんだろう。まあ、その辺は俺には分からんわけだが…。と言うかこいつの場合俺の将来の伴侶になることに執着しているのか、“帰れ” と言ったところで駄々をこねて帰ろうとしないし、縦しんば帰っても1日で戻ってくるわけで…。しかもこいつの体には秘密と言うか現代科学からするとおおよそ受け入れられないオカルティックな部分があるわけだ。所謂“魔法”と言う超自然的なものを見せてくる。まあ見せてくるのは百歩譲っていいのだが、こいつも俺の体に自分の体をむぎゅっと抱きしめてくるわけで…。当然女の子の柔らかい部分も腕にのしかかってくるので、はぁ〜っとため息を吐きつつひっぺ返そうと躍起になる俺とそうはさせまいとますますぐいぐい抱きついてくるマセガキ(大)との攻防が激しくなった。
 アンナの故郷ウクライナも9月に大攻勢をかけてロシア軍を押し戻すという大戦果を挙げて、ニュースなどで見ていて気持ちのいい気分にさせてくれるわけだが当のアンナは浮かない顔をする。まあロシアも兵隊の人数が足りなくなって大動員をかけたりしているようだが、その7〜8割くらいが貧しい農村のほうから半強制的に連れてきてるみたいなことをやっていて、欧米各国も日本も非人道的だと避難している。もちろん俺もロシアの蛮行には許せない人間だがアンナは、それがどうしようもなくつらいみたいで、毎日の八端十字架への祈りは欠かせない。宗教には疎いんだが十字架にもいろいろ種類があるらしくアンナの国のキリスト教(ウクライナ正教と言うらしい)ではこの八端十字架が十字架なんだとか。ちなみに言うと東欧(と言うかギリシャ正教系の伝統を守るロシア正教会)ではこの形が一般的だということをアンナに聞かされて、俺の知らないことが世の中にはいっぱいあるんだなぁ〜っと思った次第だ。まあアンナがいなかったらキリスト教のことなんててんで分からなかった俺たちなことだからアンナにはその辺に関しては感謝もするし感動も覚える。ちなみに、アンナの故郷ウクライナにはクリスマスが2回あって1つは一般的な12月25日なんだがもう1つのクリスマスは1月7日辺りに行なうらしい。なぜに1月7日? と言うことなんだが、ウクライナ(正確にはウクライナ正教なんだが)は、ユリウス暦と言う暦を使っていてその暦に従っているんだとか…。ああ、そう言えばそういう暦があったなぁ〜なんて高校時代の世界史か地理かの授業で習ったような気はするんだがもう忘れてしまった。その当のアンナなんだが、それが日常の一コマのようにごくごく当たり前のようにやっている。で慈善活動にも積極的に参加をするので、碧い目で可愛い顔が相まってか最近はもっぱら評判なわけだ。かつあのマーキュリー級のモノをゆっさゆっさ揺らしてくるので近所のガキどもの間では超有名人になっている。
 お局様は相変わらすだ。俺の部屋にやってきては裸族になってうろうろと徘徊したり、マセガキと風呂に入ってると裕香姉と楓佳と薫ちゃんとアンナを伴なって強襲をかけてきたりする。それでマセガキが巨大化して…と言うのがここ4、5年の俺の身の回りに起こる出来事だと思う。つくづく女運があるのかないのか分からんがこう言う構図が出来上がっているわけだ。はぁ〜っとため息が出る。何で俺の周りにゃこうも一癖も二癖もある女が集まるんだ? と…。薫ちゃんに訊いてみたんだが、“先輩、頼りがいがあるがらでねんだが? 現さボクも先輩頼ってしまってらげどね?” とちょっと頬を赤らめて上目遣いに見遣りながら、郷里の秋田弁でそんなことを言う。まま悪い気はしないんだが、まあこんなむさ苦しい俺の周りに女が集まるなんてなぁ〜っと思う。まあそもそもの発端であるのが今俺の膝の上におしりをめり込ませるように座ってお局様を上目遣いに怖い顔(と言うかお兄ちゃんに遊んでもらえなくて拗ねてるようにしか見えん!)をしながら睨んでいるマセガキであることは紛れもない事実だろう。そう思う。まあ本人からしてみると、“何のこと? と言うかお兄ちゃんはてんちゃんばっかり見てあたしのことは放ったらかしなんだからねっ!” と普段お局様に仕事内容とかを訊いたりしてるのが気に食わないのか俺の顔をちらっと見たかと思えばフンッとそっぽを向いて後ろからでも分かるくらい頬をぷぅ〜っと膨らませて拗ねるマセガキを宥めるのがここ最近の俺の習慣になりつつある。はぁ〜…。


 アンナの母国、ウクライナのほうは前述の通り9月にウクライナが大攻勢をかけてロシアを押し戻し、南部東部の村々を奪還して要衝と言える街まで奪還している。ロシアも相当焦っているのか、部分的動員と言う名の徴兵を9月の末くらいにしているのだが、素人の俺からしてみても明らかに兵士が足りていないんだなと言うことを露呈した形だ。まあそれだけロシアが参っている証拠なのかもしれない。アンナは毎日のお祈りを欠かさなくやっている。最近じゃあ作法とかも分かってきてみんなで一緒に祈ることが多くなった。もちろん俺はいつも失敗するんだがな? まあ日本人なんて大概がそんなものだろう。俺の周りにいる女どもを除いてなんだが…。お局様曰く、“あんな毎日やっていて覚えられないってどうかしてるわよ? 全く…” とお小言をぶつぶつ言っているのだが、覚える気なんてこちとらさらさらないんだし、しょーがねえだろ? とは思うんだが、こんなことを言うと裕香姉とお局様からお説教を食らい、かつ、お仕置きと称する介護だか何だかが待っているので迂闊なことは言えん。まあ一回何かのはずみでそんなことを言ってしまってすぐに撤回したんだが、アンナに泣かれてしまったわけで。
 楓佳みたいに、“あんちゃんのアホ〜ッ!” とでも言ってくれりゃあまだ楽なほうなんだが、ただただ涙を流して捨てられた子犬のような目をして上目遣いに見遣ってくるものだからこっちもただただ謝ることしか出来ないわけで…。と後ろを見ると、いつもの面々がちょっと怒った顔で俺の間抜け面を見遣っている。“賢くん! 何やの? その言い草は! そう言うことを考える子に育てた覚えなんてあらへんのに。お姉ちゃんは悲しいわ…。ほんまに、もう!” と裕香姉。顔を見ると本気で怒った顔だ。こりゃ…。忙しい俺の親代わりに育ててくれてたもんで俺の頭の上がらない人トップ3に入るのだが、目を見て分かった。こりゃ相当怒っているぞ…、と言うことに。そこから必死こいて謝って何とか許してもらったわけだが、とある罰を与えられる。どんな罰かは一目瞭然なんだが、いわゆる裕香姉が怒ったときにやらされるあの地獄の介護…。これをアンナに対してやらされたわけで…。まあ想像に任せるがあれは男にとっては一見天国のようだが実際は地獄だ。特に風呂なんかは…。裕香姉で経験済みだからいいだろうと思ってたら大間違い。ロード級は楓佳のモノで九州に行ったときに週に1、2回はそこそこにあるんだが、マーキュリー級のモノを手に取って洗うことはまずないのでどこをどう洗えばいいのか皆目見当がつかん。“おっぱいの下の辺りば痒いけん掻いて” と俺の前にどでかいモノを持ってくる。とりあえず後ろから回り込んで抱え込むようにモノを持ち上げて洗うんだが、“前から!” とマセガキ(大)を彷彿とさせる物言いでおまけにぷぅ〜っと頬を膨らませているんだから堪ったもんじゃない。“ケンイチロウばうちんこと泣かせた罰なんやけんね?” と流暢な博多弁を使ってぐぐぐと怒った目をして言うアンナに最初に出会った悲壮感はもうない。それだけは素直に嬉しいわけだ。
 とそんなこんなで風呂に入れてパンツを穿かせて服を着せて楓佳の部屋までお姫様抱っこで運び布団に寝かせて毛布を掛けてようやく風呂からのルーティンから解放される…と思いきや、“アンナさんばっかり! あたしたちにもやって!!” といつの間にでかくなったマセガキ(大)から迫られる。うんうんと後ろで頷く妹軍団。顔を見るとぷんぷんと怒った顔やらぷぅ〜っと頬を膨らませて上目遣いに睨んでくる顔やら、何を考えてるのか分からんくらいなほくそ笑んでる顔が見えるわけで。と言うか薫ちゃんは何を考えてるのかさっぱり分からんな? と改めて思う俺がいた。で、這う這うの体で何とか済ませて部屋に戻ると?
「あら、遅かったじゃない。お楽しみだったのかしらねぇ〜? エロエロ大魔王な真柴くん♪」
 と俺の天敵であるお局様に漫画かアニメの悪役令嬢が主人公のヒロインをいじめるときのように意地悪っぽくそんなことを言われる。俺が今までどれだけ苦労したと思ってるんだ! と文句の1つでも言ってやろうかと思ってる矢先に、“まあまあ、恵さんも。賢くんやって疲れてるんやからしばらくはゆっくりさせてあげような。その後はうちらが頑張った賢くんのお世話したるから…。なっ、賢くん♪” といつも見せる優しい微笑みで見つめてくる裕香姉。実のところこの従姉の姉ちゃんのせいで毎日天国のような地獄を味あわされているわけで…。と言うか裕香姉本人は全く悪意はなくそれが俺を癒す方法だと思い込んでるので余計にややこしい。でその癒しと言うのが、俺を真ん中に両サイドをがっちり占められて寝かされるというこれまた誤解されるようなことをしてくるわけだ。おまけに両方ともが寝相が悪いのか態とにやってるのかぎゅ〜っと俺の体に自分の体を引っ付けてくるわけで…。当然両の腕に半端ないぽにゅぽにゅ感が当たってくるので寝られない。結局この日も朝まで寝られず、目の下に大きな隈を付けて起きる始末になったことは言うまでもなかった。でぼ〜っとしているところを妹軍団に見つかって尋問させられるのが最近の俺である。


 で、一般のクリスマスが過ぎて年末の慌ただしさが増してくるような時期になる12月28日の今日。巷ではここ3年くらい行なわれなかった忘年会なんかが復活して街はわいわい喧騒に包まれているわけだが、多聞に漏れず俺の会社も忘年会があった。まあ、俺の会社が特殊なのかどうかは知らんが、身近な人もウェルカムな感じなので裕香姉と楓佳、それにアンナも誘って行ったわけだが、アンナを見た社長が目を真ん丸にして驚いていたのが印象的だったわけだ。ウクライナの避難民を保護したって言うことは話しているので社長のほうも知っているんだが実際に会うのは初めてな感じだからか、少々どぎまぎしている社長の顔を見るのは新鮮味があって面白い。パートのおばちゃんたちもびっくりしたような顔をしていたわけだが、俺が事情を話すと、“まあ、そんなことだったらもっと早く言ってくれればいいのにさぁ〜?” なんて言われて、後はいつも通りのおばちゃんパワーで、“大変だったわねぇ〜?” だの、“日本の生活には慣れた?” だのと訊いてくる。“ケンイチロウがいろいろ教えてくれるから何とか生活できてます” とにっこり笑顔で注いでもらったジュースを飲みながらそんなことを言うアンナ。日本人は気質として無闇矢鱈と親しくはしないが、いったん心を許すととことんまで世話をすると言う特性をアンナから訊いたことがあるんだが、その典型みたいなものだろう。おばちゃんたちにあれやこれや言われて少しばかりたじたじになってるアンナを見てそう思った。
 さて、年末はどうするかなぁ〜。なんて裕香姉たちが作ってくれたいつもの美味い晩飯を食べながら考えてると、“なぁ〜あ? 賢くん。今年は家に帰らへんの? たまには顔見せて〜て叔母ちゃん言うとったで?” と裕香姉が言ってくる。ここ何年かは件の感染症もあったりして実家のほうはてんでご無沙汰なもんで電話だけで近況報告はしているんだが、たまには実家でゆっくり…もいいかもしれないな? と思う。まあ楓佳は九州まで新幹線があるからそれに乗って帰ればいいし(途中までは俺たちも一緒)、お局様姉妹は秋田新幹線で2年くらい前に行った通り帰ればいい。アンナは祖国がまだ戦争状態なものだから帰るに帰られないのは分かってるから一緒に連れて行くとして、問題なのは美羽だ。親である社長の息子夫婦は何か新規の旅行プラン作成のためにカナダのほうに行ってしまっていていないし、社長も年末年始は挨拶回りとかで忙しくしているのを間近で見ているので知っている。社長の奥さんにでも預かってもらうか…。とのつそつとそんなことを考えてると、“あたしもお兄ちゃんの家に行きたい!” と言ってくる美羽。顔を見るとむむむむむぅ〜っとどこぞの深夜アニメで見た乳神様が主人公に駄々をこねてるようにべそを掻きながら恨めしそうに見遣っていた。これは一筋縄ではいきそうにないな? とそんな風に考えてると、その横から楓佳が、“あんちゃんなうちがおらんって言うんばよかことに裕香姉ちゃんともっと仲良うなろうって思うとーっちゃけん! 魂胆が見え見えなんやけんね? 全く〜っ!! やけんうちもついて行くっちゃけんね? 叔母ちゃんにも会いたかし…” とこう言うと美羽と同じ顔をしてくる。お局様姉妹はと見ると、俄然興味があるようにこっちを見てくる始末で…。“関西のほうには修学旅行で一回と、この間の旅行プランの下見くらいだげであんまり行ったっきりでおべねのよね? だんて一回ゆっくり回ってみでゃなぁ〜って思ってで…。夏さ一回近畿には行ったげど詳しくはおべねし、どうせ家さ帰っても食っちゃ寝するだげだべ? だったらおいたぢ案内してけれ? 京都どが奈良どが…。おめの家から近ぇって裕香さんから聞いだわよ” とお局様が地元の方言である秋田弁でこう言ってくる。薫ちゃんも薫ちゃんで、“わぁ〜。今度は先輩の家さ行げるんだね〜。楽しみだなやぁ〜” とキラキラした目の秋田弁でこう言ってくる。また厄介なことに巻き込まれるのは嫌だ! とは思うんだが、薫ちゃんのキラキラした目には勝てる気がしない。まあこのメンツでいつも休みの日にはぶらついてるから別に行くのはいいんだが…。おふくろが勘違いせんか? と一抹の不安もあったりするんだ。その点だけが不安要素だが、親父がしっかりしてるのでまあまあ何とかなるだろう。それに隣りに伯父さん夫婦も住んでるからな? そう思い渋々ながら承諾することにする俺。結局その日は盛り上がったテンションのまま、深夜2時くらいまで裸族集団とどんちゃん騒ぎする羽目になったことは言うまでもない。


 30日、いよいよ出発の朝になる。昨日は一日女どもの用意に突き合わされてひぃひぃ言わされて大変だった。そんな中でももはや恒例となりつつある下着選びにはほとほと参ってしまった。楓佳やアンナは売られている下着(特にブラジャー)がほとんどないか特注品な状態なので、特注品の可愛いデザインもない機械的な物を買って薫ちゃんやお局様や裕香姉までのクラスまであるデザインの付いたブラジャーを恨めしそうに見つめていたが…。まあ世間一般から見るとそんなワガママボディーのほうが羨ましがられるんだから何も問題ないと思うんだけどな? 現にない人からの羨望と嫉妬の目が渦巻いているんだし…。と思ってその人たちのほうを見てると、両の腕にギュムッと柔らかいマシュマロのようなモノが当てられる。目が一斉に俺のほうに向けられて愛想笑いを一つすると脱兎の如くその場から退散したわけだ。まあ楓佳の弁を借りると、“あんちゃんなこげんあいらしか娘が2人もおるとによそん女ん人んほうばっかり見よーっちゃけんねっ!!” と言うことらしい。アンナも、“そうたいそうたい!” と加勢する。ははは、何だか従妹が2人に増えた感じがしてならないのは俺の気のせいだろうか? はぁ〜っ…。
 とそんなこんなでみんなで俺(と裕香姉)の家に帰省することになったのだが、荷物がものすごいことになっていて行く前にもう一回点検して減らせた。と言うかアンナ…、枕は向こうにもいっぱいあるんだから持っていかなくてもいいの! と言うと、“やって枕が変わると寝られんって日本の諺にもあるし…、初めてこげん遠出するもんやけん心配なんやし…” と上目遣いに見つめてくる。と、そこではたと気づく。そうだ、こいつはもとは外国人だったんだな? と言うことに。今まで博多弁を流暢に使ってるもんで気が付かんかったが、こいつはウクライナからの避難民だったんだ。そりゃあ使い慣れてないものがないと不安になるよなぁ〜っとは思うんだが、枕はないだろう。枕は…。
「そんなに心配だったら俺が寝るとき腕枕してやるから、だからその枕はやめにしろ、なっ?」
 と俺は言う。自分で言った言葉がこれほど危ない言葉だったとは露知らずに出任せで言ってしまったわけだから、“口は禍の元” だと思う。訊いてた妹軍団が、“あたしも(うちも)” とぞろぞろ自分の枕を持ってきてアンナの後についてくる。“ちょ、ちょちょちょちょっと待て! 何で美羽や楓佳が一緒に来る? 大体お前らはそんな神経もか細くないだろうがよ?” と言う俺に、“アンナさんばっかり見てるお兄ちゃんにお仕置きするために一緒に寝るんだからねっ!!” そう口をへの字に曲げてぷく〜っと頬を膨らませた美羽がそんなことを言う。“あんちゃんがいっつもアンナちゃんばっかり気にかけとーことが一番の原因なんやけんっ! そりゃウクライナんことは心配やし分かるばってんしゃ…。それにしたっちゃ贔屓目が激しすぎるっちゃけんね。こん前だって…” と半年以上前のことから最近のことまで持ち出してぶつぶつ俺に対する文句を言う楓佳。要は俺が構ってくれないと言っているわけだな。はぁ〜、あのな、幼稚園児じゃあるまいし、もうそろそろ従兄離れしてくれよ…。と俺は思う。そこへ来ると薫ちゃんはさすがお局様の妹だな、と思うくらい落ち着いているよな? と感心する。もっともこの感心はものの見事に裏切られることになるのだがこの時は知る由もなし。
「美羽ちゃん、楓佳ちゃん、アンナちゃんも、ちょっとこっちさ来てけれ…」
 と3人を呼び寄せると何やらごにょごにょと部屋の隅のほうで話し合いをする薫ちゃん。その姿に少しばかり恐怖を覚えるんだが…、って言うか何を話してるんだ? と聞き耳を立てて聴いてみることにするんだが、生憎とごにょごにょと小声で話しているせいか、聞こえにくかった。少し聞こえた声では、“布団” だの、“風呂” だのとか言っていたので、これは俺が風呂に入っているときか、寝込みとかに押し入ることか? と思う。まあ、意外と常識人な薫ちゃんに限ってそんなことはないとは思うんだが、注意はしておこう。そう思った。大家のばあさんのところに行って実家に帰る旨を伝えると、“まあ、そうかい。気を付けて行っておいでよ? あっ、あと外人さんも一緒に連れてくんだから粗相のないようにね?” と言われる。ままウクライナからの避難民だと言うことは言っているので、その辺は分かっているからか、日本人としての立ち振る舞い方に気を付けるようにと言う忠告だろう。そう思った。


 地元の駅から電車に乗って東京駅へ向かう。まあ金髪碧眼でグラマラスな体の女が乗ってるんだからそれだけで目立つんだが、それ以上にそんな女性を4人も連れて女子児童を引き連れているんだから目立つなと言われるほうが無理な話だ。男どもの羨望と殺意に満ちた目と女性たちの嫉妬と嫌悪の目が非常に痛い。しかもガタゴト揺れるたびに誰かしらが、“キャッ” と言う声を出して俺のほうにもたれてくるので、ほとんど死刑執行台に上がる13階段を上るような心境だったことは言うまでもなく…、と言うか絶対態とだろう、これは?! と楓佳やアンナのほうを見るとちろっと舌を出したり、ウインクしたりしているわけで…。先が思いやられる。これで姉2人組がちょっかいでもかけてきようものならそれこそ人生終了になっちまうんだが、TPOは弁えている2人だからそこまでにはならなかった。まあ、お局様の後でからかってやるぞ〜っと言う目と裕香姉の優しい目の対比が怖くもあり嬉しくもあったのは事実だ。
 30分くらいかけて東京駅に着く。そこから新幹線のチケットを買う。美羽は当然のことながら子供料金で済んだ。まあ本人にしてみるとそれが不服みたいでぷぅ〜っと頬を膨らませていたが…。新幹線用のプラットホームに向かう。アンナは興味津々な物珍しい目をしてあちこち見遣っては持ってきたカメラに収めていた。時間に正確に来る新幹線に、“すごかねぇ〜、日本は…” とアンナは言う。だいたい外国じゃあ20〜30分の遅れはざらで、ひどい場合は4時間くらいになるときもあるんだとか。だから日本の正確な時刻に来る鉄道やバスにいつも感動しているらしい。
 そんなこんなで新幹線に乗る。もっともアンナにとっては憧れでもあったみたいで、“うち、新幹線に乗るん夢やったんよ。大体2〜3時間くらいでケンイチロウん地元ん駅まで付くんやろ? …ウクライナも戦争が終わったらこげん新幹線んごたー乗り物が欲しかね?” そう言いながら見様見真似で荷物を置く。まあこの戦争は早々には終わりそうにないことは言うに容易い。アンナも“どっちかが倒れるまでば終わらんばい” と言ってはぁ〜っと深いため息を吐いている。ままこの戦争は“プーの野郎”が大統領をやめるか人生を終えるかしないと終わらない気もする。それ以前にこの愚かしい戦争の真実を知ったロシア国民によって第3のロシア革命が起こるような気もするんだが…。それがいつになるかは神のみぞ知るといったところだ。結局はずるずると長引きそうな気がしてならないのは俺だけだろうか。とそんな鬱々なことを考えてると、アンナが俺の手を取って、“そげん心配しぇんだっちゃよかよ? だってもう1人やなかやし” と笑顔でそう言う。その笑顔が少々強がっているのは鈍感な俺でさえ分かる。本当なら国で友達や家族と過ごしていたのに、こんな極東の見知らぬ異国で暮らしていること自体大変なはずだ。もっと力になってやらねば…と強く思う。そのためには俺のこの里帰りが楽しい思い出になってくれればと動き出す新幹線の車窓を楽しそうに見つめるアンナを見て思う俺だった。
 まあ近頃は帰省も分散型の傾向にあるのか、それとも件の流行り病のせいなのか30日の午前だというのに乗客は立つほどの混雑は見せてはいない。これが3、4年前だったら大混雑していて自由席は立ったままの乗客もいたくらいだった。現に俺が4年前に帰省するときはそうだった。情報技術の進歩は日進月歩してるよなぁ〜っと思う。今じゃ家にいながら遠隔地での対面会話もごく当たり前に行えるようになってきてるしな。このままあと4、5年したら立体的に全身が写ってさながらそこにいるような感じで見えるようになるんじゃないだろうか? と思う。それもごくごく自然に近いような感じでだ。まあこれは俺の希望も少し入った希望的観測に過ぎないのだが…。とそんなことを考えてると富士山が見えるポイントまで来た。
「やっぱり富士山を見るとテンションが上がるわねぇ〜」
 とくいっといつものぐるぐる牛乳瓶眼鏡を手にかけてお局様がそう言う。アンナは初めて実際に見たんだろう。声が出ないくらいに真剣に見つめている。そんなアンナを見て今度は富士山でも見に行くか…、と思った。“きれかね〜。他ん山が低かけん余計にばり見えるとかな〜?” と流暢な博多弁でこう言うと通り過ぎていく富士山を名残惜しそうに見つめていた。そんなこんなでいろいろと景色を見ては感想を言ってくるアンナに対して美羽があれこれ説明してそれを裕香姉が補足している光景を微笑ましく思いながら見ている俺。楓佳と薫ちゃんは最近のファッションについて互いのセンスを激論している。岐阜を過ぎたあたりからそろそろ降りる準備をする。そう俺の田舎は歴史的文化遺産があちこちにある京都なわけだ。とは言えほとんど大阪よりのところなので徒歩で5分もいけば大阪府、車で10分走らせば兵庫県と言うまあ県境の山間の集落なのだが…。まあそんな辺鄙なところだが自然はいっぱいある。俺が子供の頃はよく裕香姉に引き連れられて野原で泥んこになるまで遊んだもんだ。ははは、懐かしい。そう感慨深げに思案してると、“賢くんがケガして泣いとるのをウチがおんぶして帰ったこともあったねぇ〜? 懐かしいわぁ〜…” と裕香姉が俺の心でも読んだのかそう言ってにこにこ顔になる。対する楓佳は悔しそうに裕香姉のほうを見てたかと思うと、“う、うちだってあんちゃんにおんぶして帰ってもろうたことあるっちゃけんねっ!!” そう言ってグイっと俺の腕を自分の胸の谷間に引き寄せて態とに食い込ませる楓佳。昔、夏休みに行ったときに俺が裕香姉のことを話したら急にむぅ〜っとした顔になって勝手によじ登ってきただけじゃねーかよ。あれは…。裕香姉に負ぶってもらった俺の話を聞いたお前が対抗意識かどうかは知らんが勝手によじ登って下ろそうとしてもなかなか下りないから仕方なく負ぶって帰ったんじゃねーか。はぁ〜、こいつといい美羽といい、何で妹的なヤツはこう独占欲が強いのか…。そこへ来ると薫ちゃんはいいよな? と思う。楓佳や美羽みたく独占欲が強いわけでもなく、常に控えめだ。それはアンナにもみられる傾向なのだが…。とにかく楓佳と美羽は2人を見習ってほしいもんだ…、といつもの怖い目? をして睨んでくるお子ちゃまな2人を見ながらそう思う俺がいたわけだ…。ふぅ〜…。


 まあそこから車内販売の弁当を食べたり、持ってきていたお菓子なんかをつまんだりアンナに日本のことを話したりして過ごす。アンナはさすが向こうの大学で日本語専攻と言うだけあって日本のことをいろいろ知っているなぁ〜っと感心する。特に俺も記憶があやふやな昔話なんかもよく知っていて、こいつは本当に外国人か? と疑いたくなるくらいだった。そんな感じで過ごしていたわけだが、“なぁ〜、賢くん。こっち帰って来てんから久しぶりに温泉でも行かへん? 恵さんも薫ちゃんもアンナちゃんも美羽ちゃんもゆっくりしたいやろうし…。もちろん楓佳もやけど…。うちも久しぶりにゆっくり温泉浸かりたいわぁ〜思て…” と裕香姉が提案してくる。まあ温泉に浸かって日頃の疲れを取ってから実家に帰るのもいいだろう。それに親父やお袋はまだ俺が帰るなんて知らないだろうしな? 裕香姉もここ数日で決まったことだから伯父さん夫婦には言っていないことは分かっている。俺たち従姉妹間では、サプライズで物事を行なうことが割と多い。現に裕香姉や楓佳の引っ越しがいい例だ。あれには心底驚かされた。まま、そんなわけで今夜は一泊するか若しくは遅くに帰るかするかで話はまとまる。それにアンナに日本の温泉情緒と言うやつを味わってほしいと思うしな?
 そんなこんなで京都駅に到着した。ここから在来線でしばらく行ってバスに乗り換えての10分ほど歩いた先が我が生家と言うことになるのだが…。ほとんど大阪と奈良と京都の境目でどこに行くにも車やバイクがないと不便な場所なわけだが、今回は少々遠出をする。そう、有馬に向かうのだ。まああそこなら遅くなっても2時間弱くらいで帰ってこれるだろうし、縦しんば泊まることになったとしても何とかなる(気もする)。じゃあ行くかと言うことになって京都駅から東海道本線で尼崎まで行ってそこから福知山線に乗り換えて三田まで行き、またそこから神戸電鉄で有馬口まで行く。そこから有馬温泉用の電車に乗り換えて硫黄の匂いが漂う温泉までたどり着いた。冬の景色はそれほど良くはないがアンナや美羽や薫ちゃんは嬉しそうに見ていて、アンナはまた写真を撮りまくっていた。まあ楓佳は俺と裕香姉と俺の家に来た時に着たことがあるので、“どげん? よかところやろ?” とでも言わんばかりに得意げにロード級の胸を張っていたが…。
 さて、温泉を満喫してやろうじゃないかと言うことでシュタッと手を挙げて、“じゃあ俺はこれで” と言おうとした刹那、ギュムッと両腕にものすごい柔らかいモノを押し付けられる。ふっと押し付けられた方向を見ると捨てられた子犬のような目で見つめてくるアンナとぷく〜っと頬を極限状態まで膨らませた楓佳が俺の両腕をガチッとガードしていた。“あんちゃんなすぐそげんして逃げようとするっちゃけん〜っ!!” と楓佳がブリブリ文句を言う。アンナもアンナでどこぞのエロゲのお嬢様のように首を横に高速回転していた。“ここら辺に家族で入れるお風呂ってあった? 裕香さん”、“う〜ん、うちも長いこと来てへんからよう分らんねんけど…” と息の合った掛け合いを見せるお局様と裕香姉はもう20年来の友人のようでちょっぴり嬉しい。きょろきょろと辺りを歩きながら見回してみること30分弱、混浴露天風呂と言う俺にとっては地獄のような看板が見えてくる。早速薫ちゃんと美羽が行って従業員らしいおっさんと話をしている。件の感染症のせいで中止になっててくれ〜と天にも祈るように話をしているのを見ていたのだが、俺の所詮にわか仕込みの天の祈りなんぞは聞き届けられるわけもなく。OKのサインのように手で大きな丸を作っている美羽。その横で意味深に微笑んでいる薫ちゃんの顔が異様に怖かったことは言うまでもない。そういや美羽のでかくなったとき用の服は用意してあったっけ? と思って裕香姉に訊いてみると至極当然のような顔で、“うん、心配せんでもあるで。そやから賢くんも早うお風呂入りに行こうやぁ〜” と言いつつ背中を押してくるわけで。両腕と背中をガードされ身動きが取れないのをいいことに、“そこのおっぱいバカを早く連れてきて” とすたすた歩いて旅館の中に消えていくお局様に、“鬼! 悪魔!!” と心の中で言う俺。とお局様が急に振り返ると、“何か言った? 、‘鬼’とか‘悪魔’とか…、どこからかそんな言葉が聞こえてきたんですけど?” と不敵な笑みを浮かべてこう言う。いつもの癖か…、ともうドナドナ状態で連れていかれる俺がいたのだった。


 連れていかれた温泉旅館は、昼間は一般客にも開放されていて、温泉客でごった返していた。そんな中で、家族風呂を選ぶのは物凄く違和感もあったり、またAVの撮影かと勘違いされて誤解を解くのに1時間は悠にかかったわけだが…。何とか上手くいった。俺としてはこのままAVの撮影と言う口述を使って断られることに一分の期待をかけたんだが、口八丁手八丁なお局様にかかっては旅館の人も言うことを聞かざるを得ずという状態で…。はぁ〜っと今日何回目か分からないため息を吐く俺がいる。幸い更衣室は別々にある。そこだけは助かったわけだが出来ればここから立ち去りたいとは思うものの、あとで何をされるか分かったもんじゃない。この前こんな状態になってこっそり逃げたんだが、玄関前に楓佳とアンナが仁王立ちで立っていて、“あんちゃん、どこしゃぃ行くと? もしかして逃げごたーなんて思うとったんやなかやろうね?” とぐるぐるした目で言われてしまい、“寒かっちゃけん早う戻って! ケンイチロウ!” と元の更衣室に戻らされたんだっけか。今日も俺が逃げ出さないように見張ってるんだろうなぁ〜っと思って玄関のほうをそっと見ると案の定腕組みしながら男用の更衣室を睨みつけるように見る楓佳とアンナの姿が見える。もう逃げ出すことは不可能だ。そう思いしぶしぶ更衣室に戻る俺がいた。
 ガラガラっと浴室の戸を開ける。“あら? 以外と早かったわね。てっきり逃げ出そうとしてるんじゃないかと思ったわ” と形のいい桃をゆさゆさ揺らしながら俺の手を取るお局様。とマセガキの体がウ○トラマンのカラータイマーのように光り出したかと思うとボンキュッボンな体になって、“天ノ原さん!! お兄ちゃんはあたしと入るの!!” とこれまた大きなお餅をぷるんぷるん揺らして俺の手を取ってギュッと引き寄せるマセガキ(大)。裕香姉たちはと見るとジップロックに入った携帯で楓佳と話しているんだろう。“楓佳もアンナちゃんももうええよ〜。賢くん入ってきたから〜” と言う話声が聞こえるや否や1分もしないうちにガラガラと浴室の戸を開ける音が聞こえたかと思うとウォーターメロン級なモノをゆっさゆっさと揺らして入ってくる2人組。この女性陣の中で一番大きなものをお持ちなアンナはちょっと恥ずかしそうにしていたがフルフルと首を振ると、堂々と見せつけるようにこっちにやって来て俺の右斜め前にちゃぽんと入ってくる。楓佳は裕香姉のほうを見てぷぅ〜っと頬を膨らませるとアンナと同じように見せつけるようにしながらアンナとは逆の左斜め前に入ってきた。ちょうど俺を取り囲むように6人の女が入っている格好となる。湯はちょうどいい塩梅なんだが必要とあらば6人が6人とも抱き着いてきてくんずほぐれつな状態になってたりするもんで動くに動けん。ちょっとでも動こうとするとつるんとした女の子の一番大切な場所に当たりそうな感じだ。と言うか何でみんな同じところに入ってるんだ? 湯船はもう1つあるんだからそっちに入ればいいだろう…とは思ったがじろ〜っと横目に俺の顔を見遣る目やら純粋に俺の顔を嬉しそうに見遣る目やら、また何かを企んでそうな目やらが俺の一挙手一投足を注目しているためなかなか動けん。動くと、“ああんっ!” なんて嬌声が誰とはなしに出るに決まってる。
「あ、あの…、逆上せそうなのでそろそろ出たいんですけど…」
 と、もう無理だ〜っと思ってそんなことを言うと、“じゃあ今度は体洗ってあげる〜” とざば〜っと風呂から出ると自分の体にボディーソープを塗りたくって手をワキワキしてくるマセガキ(大)。“先輩にはお世話になってらんでボクも背中流すす” と薫ちゃんも上がってくる。そのうち我も我もと言う感じで入ったときと同じような、またこの間の旅行のような感じになって来て体をAVかエロ漫画みたく洗われてしまう。鼻の奥から鉄さびの臭いがしてくるがすんでのところで耐える俺。しかし相手は俺よりも数段上だったようで…、男の男たる場所まで洗われてしまった。もう婿に行けない体になってしまったのかと思うと悔しいやら情けないやらで汗や涙や変な汗まで垂れ流しに流してしまったわけだが、“まああんたが婿に行けなくなっても薫や美羽ちゃんやアンナさんがいるからいいじゃないの。それでもダメだったらあたしが貰ってあげるから…” とフォローにもなっていないフォローをするお局様に、“あんなに小さかったのにいつの間にか賢くんも立派な男の子になったんやねぇ〜。お姉ちゃん嬉しいわぁ〜” と心底嬉しそうな顔をしている裕香姉がいるわけで…。結局体全部隅々まできれいに洗われてしまい、恥ずかしいやら情けないやらで涙をちょちょぎらせることになる俺がいたのだった。がくり…。

END

おまけ

 温泉から出るともうそこは夜の帳が下りていて、実家に帰るのは明日にしようということになったわけだが、そこからなし崩し的にここの旅館に泊まることになった。まあこのご時世個室は予約しないと入れないので必然的に大部屋になっちまった。まあ間取りはしてあるので大丈夫だろうと思っていたのだが…。夜中にふっと目が覚めた俺は、何気なく間取りの外を見る。とアンナがふらりとベランダのほうに出ていくところだった。何かあったのか? と不安になってそ〜っと後をつける。と外に出ると寒くて思わず、“寒っ!” と言ってしまう。そう言う俺に気付いたのかアンナが振り返る。ブロンドの髪が夜風にさらさらと吹かれて表の街灯とも相まって幻想的に見えた。“起こしてしもうた? ごめんね?” とアンナが寂しく笑う。“何か考え事か?” と俺は聞く。いや、実際には分かっていた。郷里・ウクライナのことだろう。でも俺は敢えて聞く。異国の地で1人でいるんだ。きっと溜め込んでいることは多いはず。とそんな俺の考えが分かったのかアンナが、
「いつんなったらウクライナば平和になるっちゃろうね? もう後2か月で1年になるとに酷うなるばっかりやけん。男ん友達ん何人かはもう会うことが出来んくなってしもうた…。それにロシアん人だって同じかもしれんし。何で戦争なんてあるとかな? そんことばっかり考えとーったい…」
 そう言うアンナの目には涙が溢れている。持っていたタオルを差し出すと涙を拭うアンナ。権力者が変な考えを持ってノーと言える人を1人も置かないとああ言う独裁者が出来上がる。第2次世界大戦のドイツがいい例だ…、なのに今回また同じ過ちを人類は繰り返してしまった。そう考えるとやるせない気持ちになってくる。そんな俺を見越したのかアンナが、“ばってん、よか人もいっぱいおることも分かっとーもん。ケンイチロウがそん最たる人やけん。ありがとうね、ケンイチロウ…” そう言って俺の頬に軽く口をつける。口づけされた頬を触っている俺に、頬を赤らめたアンナが照れ隠しなんだろうかこう言ってくる、“好きばい。ケンイチロウ…。もし戦争が終わって平和になったら一緒にウクライナに来てほしかくらい好き。これがウチん正直な気持ちなんやけんね” 碧眼の瞳はとても透き通って見える。と、“あ〜っ、アンナさんまでお兄ちゃんを誘惑しちゃってる〜っ!!” という声が聞こえてくるわけで。ふっと声がした方向を見ると美羽がギロリとした目でこっちをむむむむむっとどこぞの乳神様が主人公に構ってもらえなくてべそを掻いてるような顔をしている。ははははは、はぁ〜。これで明日の朝はお説教タイム決定だろうなぁ〜。とブリブリ怒る美羽に手をガシッと掴まれて部屋の中にアンナともども連れ返されたことは言うまでもない。とここで終わればよかったのだが…、何を思ったのかマセガキ(大)、みんなを起こして朝まで俺に尋問と称する甘えん坊になって来てウィスパー声で囁いてきたり、でかいモノをぎゅ〜っと俺の手や足にくっつけてきたりとまあ、家でやってるようなことをここでもやられてしまい結局一睡も出来ず、目の下に大きな隈を作っての帰省の朝となったことは言うまでもない。でこの小さな騒動の発端のマセガキはと言うと? 夜も遅かったのかうとうととして来ていつのまにか寝てしまっていた。寝ているうちに満足したのか元のちんちくりんに戻っていて昨日の騒動なんて全く覚えていない様子だったことは言うまでもない。どちらにしてもマセガキは超危険だと再認識した12月31日、今年最後の日だ。がくり…。

TRUE END